この素晴らしいカズマに祝福を! 作:名もなき駅員
次からはしっかり一週間に一回で投稿します…
「お邪魔しまーす」
「いらっしゃ…、あっカズマさん! それと、アクアさん!」
「久しぶりね」
除霊を始める前に装備の在庫がない事に気づいた俺は、アクアを連れてウィズさんの営んでいる魔道具店にやってきていた。あの後俺達はベルディアにウィズさんを紹介し、ここで働いてみないかと誘った。ウィズさんはリッチーだし、一番安全だと考えたのだ。ウィズさんとベルディアは最初少し気まずそうにしていたから心配だったが、杞憂だったみたいだ。
「ベルディアの様子を見に来たんです。というか、ベルディアはどこにいるんですか?」
俺の質問に、ウィズさんはにっこりと答える。
「ベルディアさんなら、今は庭のお手入れをして貰ってます。もうすぐ帰ってくると思いますよ」
同時に、ドアが開く音がした。
俺が振り向くとそこには…黒に近い蒼色の長い髪を静かに揺らす、エプロン姿の店員がいた。
「…どちら様ですか?」
「いや、気持ちは分かるが俺だ! ベルディアだ!」
顔や体の肉付きなんかは完全にベルディアと一致しているが、服が家庭的すぎる。ベルディアって騎士だったはずなんだがなぁ…?
「そこの魔女が気絶したせいで俺が家事を代役する羽目になり、着替えるのも面倒だったから放っておいただけだ。全く、アンデッドのくせに栄養不足でぶっ倒れるなど…」
俺がゆっくりとウィズさんに視線を送ると。
「あはは…不甲斐ないです…」
少し俯いて元気がなさそうに笑っていた。また赤字なのか…見てられないので何か買おう。
「男性物のエプロンが用意されていなかっただけだ、ジロジロと見るなアークプリースト!」
「えー、でも…フフッ、だって…あははっ! 意外と似合ってんじゃないのー?」
「『三日後に死ね』」
「『セイクリッド・ブレイクスペル』ー!」
その後、乱闘状態に入ったアクア達を宥めるのに30分くらい要した。
「…というかウィズ。お前は暫く安静にしていろと何度も忠告したはずだが? 何故当たり前のようにカウンターにいるのだ?」
ベルディアが鋭い目つきをウィズさんに向ける。対するウィズさんは痛いところを突かれたようにうっと唸ると。
「ベルディアさんを少し働かせすぎたかな、と…」
照れ気味に放たれたウィズさんの言葉に、ベルディアが重力に従い膝をついて撃沈する。
「もう何なんだコイツ…! お前アンデッドなのに聖属性なの? 俺の事殺す気なのか!?」
「えぇ!? そ、そりゃあ魔王城にいたときは酷い事されましたけど、それとこれとは話が…」
「あー! あー! 今この状況で一番思い出したくない事思い出した! 頭のおかしい紅魔族とそこのイカれたプリーストのせいで軽く女性恐怖症なんだよ!」
「どうやらアンタにはしっかりと天罰が必要みたいね、歯ぁ食いしばんなさい!」
どうやらベルディアはウィズさんが魔王の城にいた頃、「あーっと! 手が滑ったぁー!」などと叫びながら頭を転がしてスカートの中を覗いていたらしい。
「ベ、ベルディア、お前…」
「ねえ、やっぱりこのデュラハンは今すぐにでも浄化した方が世界のためだと思うの」
言われても庇えないその言葉に、ベルディアが肩を震わせる。やっぱり浄化魔法って、拒むと苦しくなるものなのだろうか。
「まあまあ…そうだ、いつものお願いします」
「いつもの…?」
「あ、ベルディアは知らないんだったな。いつものって言うのは俺がいつも頼んでる商品のセットの事で…」
首を傾げるベルディアに一から教える俺を余所に、アクアは店の商品を物色する。
そして、その中の一つのポーションを浄化しないよう注意しながら手に取った。
「あっ、それは衝撃を与えると爆発しますから気を付けて下さいね」
「あ、危なっかしいわね」
アクアは慌てて瓶を戻す。
ついで、隣の瓶を手に取ると…
「あっ、それは蓋を開けると爆発するので…」
アクアはウィズさんの説明を最後まで聞かず、そっと瓶を戻した。そして、更に隣の瓶を指さし。
「これは何かしら?」
「水に触れると爆発します」
「…こ、これは…?」
「温めると爆発を…」
アクアが押し黙る。
俺も最初に見た時は驚いたなぁ。
「この店爆薬ばっかじゃないの!」
「ちちち、違いますよ! そこの棚は爆発シリーズが並んでいるだけですよ!」
その瞬間、アクアはハッと我に返ったような顔をした後、俺に近づいてきた。
「そうよカズマ、あなたは他にも何か用があるんじゃなかったっけ?」
おっと、そうだった。
俺はベッドに横たわりながら口論を続けるウィズさんとカウンターで商品をいそいそと袋に詰めるベルディアに向かい、本題に入る事にした。
「あの、二人とも。何かスキルとか教えてくれませんか? アンデッドならではのスキルとか、あれば知りたいなと思いまして」
「「「!?」」」
俺の言葉に三人が絶句した。
「ちょっと、何考えてんのよカズマっ! アンデッドのスキルなんてロクなものがないのよ! そんな物覚えるなんてとんでもないわ! いい? 基本的にアンデッドって言うのは、薄暗くてジメジメした所が大好きな、言わばなめくじの親戚みたいな連中なの」
「「ひ、酷いっ!」」
アクアのあんまりな決めつけに、二人が叫ぶ。
「でも、こうでもしないと全てのスキルを覚えられる冒険者の利点が活かせないから…モンスターのスキルなんて冒険者でもないと覚えられないし、このチャンスは逃せないしさ」
「むう…女神としては、私の仲間がアンデッドのスキルなんて覚える事を見過ごすわけには行かないけど…まあ、いいわ。ベルディアはともかく、ウィズならきっと役に立つスキルを教えてくれるでしょうしね」
俺の言葉に、アクアはすんなり引き下がってくれた。そしてそんなアクアの言葉を聞き、ウィズさんとベルディアが顔を見合わせた。
「あー、その…少し聞いておきたいんだが、以前浄化魔法を弾く俺の鎧をただの『ターンアンデッド』でいとも容易く貫通したのは…」
「ひょっとして、本物の女神様だったりするのですか?」
あ、まずい…流石にリッチーやデュラハンなどの高位アンデッドにもなれば、アクアの正体も看破されてしまうのか。
「まあね。あなた達は口が堅いと思うから言っておくけど、私はアクア。アクシズ教団で崇められる女神、アクアよ」
「「ヒィッ!?」」
二人は俺の後ろに回り込むも、ウィズさんはパニック状態、ベルディアは背丈が高いせいで隠れられていなかった。
「そ、そんなに怯えなくても…さっきまで話しててアクアが二人に悪い印象を抱いていないって事は理解できたはずです。確かに、アンデッドと女神なんて合わない関係だと思いますけど…」
「い、いえその…アクシズ教団の人は頭のおかしい人が多く、関わり合いにならない方がいいというのが世界の常識なので…」
「そんな奴らの信仰対象と聞くと、な…」
「な、何ですってぇっ!?」
「「ご、ごめんなさいっ!」」
ーー
猛るアクアを宥め、もう一度店の商品を見てくるように言うと、アクアはぶーたれながらポーションコーナーとは別の魔道具の所に言った。
「そういえば、ウィズさんってベルディアと何かと息が合いますよね。やっぱりアンデッド同士だからですか?」
「ああ、言ってませんでしたっけ。私、魔王軍の幹部の一人ですから」
ウィズさんは俺の疑問に対して、にこにこしながらとんでもない返事をした。
「…か、確保ーっ!」
アクアが一瞬天秤に掛けたが、浄化が勝ったのかウィズさんに向かって飛びかかった。
「待ってー! アクア様、お願いします、話を聞いて下さい!」
取り押さえられたウィズさんが、アクアにのしかかられたまま悲鳴を上げる。
「お、おい待て水の女神! ウィズは結界の維持しかしていない、通称なんちゃって幹部だぞ! 討伐しても状況は好転しないし、報酬額もゼロだ!」
ベルディアはアクアに向かってウィズさんの弁護をしながらわたわたしていた。
「えっと、つまりゲームでよくある幹部を全員倒すと魔王への道が開かれる、的な奴ですか? で、ウィズさんは結界の維持だけ請け負っていると」
「はい! げーむとやらは分かりませんが…魔王さんに頼まれたんです、人里でお店を経営しながらのんびり暮らすのは止めないから、幹部として最低限の仕事、つまり結界の維持だけでも頼めないかって! 魔王の幹部が人里でお店を開いてるなんて思わないだろうから、倒されないだけで十分助かるって!」
「つまりウィズが生きてると人類は魔王城に攻め込めないってことかしら? …心苦しいけど、討伐するしかないみたいね」
「い、いや! 俺やウィズを浄化させかけた神聖で膨大なあの魔力量ならば、幹部の二、三人程度で維持する結界なら破れるはずだ! そして俺は便宜上倒された事になっているから、もう結界の維持はしていない!」
ベルディアは、今ここでウィズさんを浄化してもメリットはないという事を伝えようとしているのだろう。ウィズさんがベルディアに向かって助け船を見たような表情を向けた。
「私にはまだやり残したことがあるんです。まだ、死ぬわけには…」
ウィズさんが目尻に涙を溜めながらそう呟くと、アクアも流石にただならぬ雰囲気を感じたのか、素直にウィズさんを離す。
俺はここで一つ不安を感じた。
「って事は、一応二人とも幹部全員と知り合いなんじゃないのか? それは、大丈夫…なの?」
「俺は幹部の中でも多くの連中と馴れ合いはしない方だったし、その点は心配ないな。ウィズも大方同じだろう?」
「ええ。特に仲のいい幹部の人は、ベルディアさんとあと一人だけです。そしてその方は…まあ簡単に死ぬような方でもないですから」
二人はそう言うと、似たもの同士だねとでも言うように拳をぶつけ合った。
「ん? 俺はそんなにウィズと交流がなかったような…」
「セクハラがよくあったじゃないですか。機会があったらまたこの話題振りますね」
「勘弁して」
ーー
「それじゃあ、一通りの魔法を俺が受けるから、好きなものを覚えていってくれ」
ウィズさんがベルディアに向かって手を向け、相対するベルディアも剣を構えて防御の姿勢に入る。
「そ、それ大丈夫なのか?」
「こう見えて防御には自信がある。何回爆裂魔法を喰らったと思ってるんだ」
まるでダクネスが言いそうな台詞を宣った。あれだけ強力な攻撃力を持っておいて実はタンクタイプだったのか!?
「えーっと、じゃあまずはドレインタッチなんかどうでしょう?」
「アンデッドの中でも初歩的なスキルだな。見た方が速いだろう」
ベルディアがウィズさんに近づいた。その手をウィズさんがとり、何か念じるような動作をすると…
「あばばばばば」
「ベルディア!?」
ベルディアがゲームのバグみたいな挙動をして小刻みに動いていた。
「…今のがドレインタッチです。どうですか? 覚えられそうですか?」
「そんな事よりベルディアが大丈夫なのか知りたいんですけど」
余りに衝撃的すぎる現象に思わずアクアみたいな口調になってしまった。
「安心しろ…リッチーと比べて魔力が少ないから、吸われた魔力量に俺の体が保たなかっただけだ…」
安心できる要素が見当たらない。
どうやら魔力を使いすぎた時と同じように、ドレインタッチで吸われる魔力の量が自分の持つ残存魔力量より多かった時も代わりとして生命力を吸われるみたいだ。
「…だけど…こんな事なら最初から生命力の方を吸って欲しかったかな…」
ベルディアが地に伏しながら絞り出すようなか細い声でボソリと呟いた。
ベルディアは男なんで不遇ポジで確定ですね。
原作カズマ然りダスト然り、ゲスな男は制裁を喰らう運命にある…知らんけど。