この素晴らしいカズマに祝福を! 作:名もなき駅員
ストック作っておけばよかったです…
「…今なんて言ったのかよく聞こえなかったな。もう一度言ってくれないだろうか」
止めてくれ。
「ええ、私も聞き取れませんでした、もう少しハッキリ言ってもらわないと聞こえないようですね」
本当に止めてくれ。
「だ、だから、上級職の奴らに甘やかされてて、さぞ楽してんだろうなって…」
「「はぁぁぁぁぁ!!?」」
俺とこの人の諍いに、割って入るのは…!
ーー
事の発端は数分前。
俺達はクエストをこなすため、いつものように掲示板の前にいた。先日の除霊によって、俺とアクアはともかくダクネスはかなり疲弊している。それも含めて喜んでいるとは言えあまり重労働をさせるのは宜しくない。
加えて、めぐみんも精神ダメージを残したままだ。なのに、プリースト不足の影響なのか、こんな時に限ってアンデッドのクエストばかり残っている。
そのため比較的楽な荷物運びのクエストを受けようと思ったのだが…
「おいおい、上級職が揃ったパーティーが荷物運びなんかやってるぜ! どうせお前が足引っ張ったからなんだろ、最弱職さんよ?」
その言葉に俺が反応するより早く、めぐみんが詠唱を開始した!
なので、俺はめぐみんの口を慌てて押さえてなんとか中断させる。額の汗を拭おうとしたのも束の間、今度はダクネスが背中の剣に手をかけようとしている。アクアに目配せをし、こちらも何とか押さえさせる。
「うおっ…な、何だよ!」
すみません。少し喧嘩っ早いんです、ウチのパーティー…
「むごもも! むー!」
めぐみんは依然として殺意すらこもった目線をダストに向け、杖をぶんぶん振り回している。
「は、離せアクア! いや、離さなくていい! でも離せ!」
「どっちよー!」
ダクネスとアクアも大変そうだが、少しの間は時間が稼げそうなので今のうちにこの人の話を聞こう。
「い、いきなりどうしたんですか?」
「それはこっちのセリフだけど!?」
ホントにすみません。
そして、何とか落ち着いた二人に安堵しながら席につき、今に至る。目の前に座るのは先程の人だ。どうやら四人でパーティーを組んでいるらしい、戦士風の男だ。
しかし、後ろにいるメンバーの皆はばつが悪そうな顔をしている。
「…しかし…悪く言われてんのはお前なんだぞ? 仲間の奴らは怒ってんのに、当のお前はどこ吹く風かよ。いい女三人も引き連れてハーレムやってるくせして、意気地なしか?」
この人の言葉に毎回反応して獲物を抜こうとする仲間がいるので煽るのは止めていただきたいが、この人は殺気に気づいていないようだ。何というか…凄いなこの人。
ともあれ、挑発に乗って喧嘩になるのは避けたい。平和的に解決できる方法はないものか…
「上級職におんぶにだっこで楽しやがって、苦労知らずで羨ましいぜ! おい、俺と代わってくれよ最弱職さんよ!」
…そうか、これだ!
「いいですね、それ!」
俺は全力で乗っかることにした。
冒険者ギルドの中が静まり返る。振り向けば、絶望した表情や涙目の表情をした仲間達が。もとより説明する気だったが、とてつもない罪悪感が走った。
「いや、一日! 一日だけだから! 他のパーティーの戦い方を観察して、俺達の戦術に何か活かせないかな、ってさ!」
パァァと効果音がつくほど晴れた表情に変化していく三人。よ、よかった…
「お、おいお前さん、マジでいいのかよ? いや、言い出したのは俺だけどさ…」
「いいよいいよ。俺は昔から頼まれたら断れないタチなんだ。…あ、でも皆の許可も取らなきゃいけないか! 一日不在になるけど、いいか?」
俺がそう言うと、三人は顔を見合わせ、口を揃えて言う。
「「「条件を要求(するわ・します・する)」」」
「分かった。何?」
まあ俺のわがままを聞いてもらってる訳なので、当然だよな。
「お高いしゅわしゅわ十本!」
「爆裂散歩を一日五回します!」
「クエストの選択権利をくれ…!」
アクアの条件は全然聞けそうだ。めぐみんは、これまたビッグなお願いをしてきたな…ダクネスの要求は…悪いが不安なので条件をつけさせてもらおう…
「魔力が足りないから爆裂散歩は一日三回までならいいよ。ダクネスの選択権は…うん、十回ならいいかな」
「…分かりました。いつか一日五回になることを願います」
「十回でも問題はない。感謝するぞ」
「わーい! 私は減らなかったわ!」
うん。これで大丈夫そう。
俺は改めて、戦士風の人に向き直る。
「という事なので、大丈夫そうです」
「お、おう…おい、お前らもいいか?」
「俺は別にいいぜ。むしろ安心だし」
「あたしも! でもダスト、いくらそっちのパーティーが居心地いいからって、帰ってこないような事にはならないでよ?」
「俺も構わんぞ。ただ、いい土産話を期待している」
目の前の人の仲間の人達は口々にそう言う。
「俺はカズマです。今日一日のみですが、よろしくおねがいします!」
「「「あ、ど、どうも…」」」
ーー
剣と盾を携えた重い装甲鎧を着た人が、俺の事を興味深く観察しながら口を開いた。
「俺はテイラー。片手剣が得物の《クルセイダー》だ。このパーティーのリーダーみたいなもんさ。戦術の見学のために来たらしいが、リーダーの言う事は聞いてもらうぞ」
「分かりました。俺としても、指示される側の立場になって考えてみるのも大事だと思っていたので、助かります」
「何? まさかとは思ってたが、本当にあのパーティーでリーダーをやってるのか?」
「ガラじゃないんですけどね」
若干遠慮気味にうなずく俺に、テイラーさんは絶句した。
続いて、青いマントを羽織ったどこか幼気な女の子が目に出る。
「あたしはリーン。見ての通りの《ウィザード》よ。魔法は中級までなら使えるわ。実はあたし、デスドラゴンロードを倒したっていうあんたに憧れてるのよね。ゴブリンじゃ物足りないかもだけど、実力見せてよ!」
俺は初級魔法程度しか使ったことがない。使い方的には同じなのだろうが、詠唱に時間がかかるから要所要所では使いづらいのだ。しかし、本職の魔法使いなら詠唱も魔力消費も短いはず。頼りにさせてもらおう。
「俺はキース、《アーチャー》だ。狙撃には自身がある。ま、宜しく頼むぜ?」
弓を背負った軽い口調の人がそう言った。
「じゃあ、えっと改めて。俺はカズマです。…あ、得意な事とか言った方がいいですか?」
俺の言葉に、三人は笑って首を振った。
「それは楽しみにさせてもらう。それに、あまり戦わせるつもりもないしな」
「荷物運びの仕事なんて探してたくらいだしな。怪我とかしてたらあんま戦わせたくないし」
この人達、すごく優しい。だが、不調なのは俺ではなく別の二人なので問題はない。と、ここで掲示板の方から聞き慣れた声が聞こえてきた。
「ゴブリン退治? 何で街の近くにそんなのが湧いてるの? 厄介なモンスターの習性に似てるんですけど。普段からカズマさんに『直感で突き進まず、一度立ち止まって考えろ』って言われてるから、もう少し備えたいの」
「大丈夫だって。アークプリーストに、アークウィザードにクルセイダー。こんだけ揃ってりゃ、どんな相手にだって楽勝に決まってんだろ。今回は無難な方だぜ?」
アクアとそんなやり取りをしているあの人は、今回は無難と言っているが、次回もあるのだろうか。それだと流石に俺も考えるな…
そんな向こうの様子を少し気にしながら、テイラーさんが立ち上がった。
「本来、冬の時期は強いモンスターばかりだから、仕事はしないんだがな。ゴブリンの討伐なんて美味しい依頼が転がってきた。という訳で、今日は山道に住み着いたゴブリンの討伐だ。今から出れば深夜には帰れるだろう。それじゃカズマ、早速行こうか」
「了解です」
デスドラゴンロードのおかげで結構な数の冒険者や王都の人達に注目されているので、冒険者からの当たりは原作ほど強くないです。え? ダストは何で知らないのかって? 刑務所言ってたので外部の情報がシャットアウトされてました。