この素晴らしいカズマに祝福を! 作:名もなき駅員
そんでもって投稿結局水曜日になってすいません。
でも、これくらいは誤差…ですよね…?
ゴブリン。
それは俺は愚か、異世界でもかなり有名で、知らない者はいないという超有名モンスター。だが、ゲームに出てくるようなマイルドな強さではなく、民間人にも危険視されている凶悪さを持っていた。
亜人種と言われるモンスターの一つであり、基本的に群れを作って武器を使う。そんなゴブリンを討伐するために、俺達は山道で少し歩いた後にとある事をしていた。
「ん? カズマ、何だその黒いの?」
「あ、これ? これはウィズさんの店で買った魔道具で…まあ見れば分かるよ」
不思議そうに俺の持つ大きめの黒い物体を覗くテイラーに、俺は説明を省いて実践してみることにした。百聞は一見にしかず、って言うし。
「よっ…と、『サイクロンブレス』!」
俺がそう唱え、普段より気合いを入れて魔法を放つ。黒い物体は天高く舞い上がり、やがて眩い閃光を放った。
「「「うっ…!?」」」
事前に情報を聞かされていない三人はその眩しい光に目を眩ませてしまい、頼りなさそうにふらふらと辺りを歩き始める。
「あっ、ごめん…注意するの忘れてた…」
「いや、あたしは大丈夫! それより今の何? 目眩ましの魔道具なら同じ効果の魔法があるからそれで事足りるのに」
「ああいや…今のは欠点的なアレだよ。本命は…」
俺のその語りと同時に、ゴトッと黒い物体が落ちてきた。それは何かを排出したかと思うと、それっきり沈黙してしまう。
「三人とも隠れて隠れて」
「え?」
「何すんの、カズマ?」
茂みに姿を隠すと、俺はようやくこの魔道具の説明を始めるため、三人にカードを見せた。
「うわっ何だこれ!? 森の写真が撮られてるぞ! この豆つぶみたいなのが俺達か!?」
「な、何かここに点がうじゃうじゃあるよ!! これがゴブリン…? か、数多くない…?」
「カズマ、これってもしかしなくとも…」
三人ともこの魔道具の性能に確信を持ったようだ。
「これは空から撮影することで敵がどこにいるのかとか、どんな陣形を組んでいるのかが丸わかりになる魔道具なんだ。デメリットは超眩い閃光で知能の高いモンスターに場所を特定されてしまい、結局位置が分からなくなってしまう事」
「え…」
「そのデメリットを理解した上で、俺達を茂みに隠したって事は…」
三人の顔から生気が失われていく。
「…今、多分後ろにいる」
姿形は、猫科の猛獣。
かなり大きく、全身が真っ黒で、サーベルタイガーのような牙を二本も生やす、一発で強者だと分かるような見た目をしている。
初心者殺しだ。
ゴブリンやコボルトなどの比較的弱いモンスターを囮にし、弱い冒険者を狩る強力なモンスターだ。定期的に居場所を変えて存在がバレないように立ち回る狡猾さも備えた、厄介極まりない習性をしている。
だが、初心者殺しは暫く俺達が元いた場所を嗅ぐと、町の方へ戻っていった。
クリスさんから貰った隠密スキルと俺が開発した消音スキルの組み合わせにより、俺達がいくら騒ごうと初心者殺しはこちらに気付けない。スキルの開発のために何回か死にかけたけど、おかげで良いスキルを作れたものだ。
「…ぶはーっ! こここ、怖かったぁ…! 初心者殺し! 初心者殺しだよっ!」
リーンが涙目で縋りよってきた。
「し、心臓止まるかと思った! 助かった…ゴブリンがこんな町の近くに引っ越してきたのはアイツのせいだったって訳かよ…おい、カズマ! お前がフラッシュ焚いたせいで危うく死ぬとこだったぞ!?」
「いや、すぐに来たという事は元から近い場所にいたという方が辻褄が合う。むしろ、カズマがいなかったら今頃どうなってたか…」
テイラーの言葉に二人は青ざめた。テイラー達のパーティーですらこんなに怯えるとは、やはり初心者殺しというのはかなり強いモンスターなのだろう。
「初心者殺しは山から追いやったからもう大丈夫。冬にクエストを受けにくる冒険者は少ないから安全なはずだし、平原なら逃げ道も多い。恐らく被害はでないよ」
俺の言葉を聞いて、三人は俺のことを尊敬するような目で見始めた。
「カズマ、お前すげぇな! やっぱ竜を倒した奴は格が違うぜ!!」
「ホントホント! ウチのダストも見習ってほしいもんだね~!」
「それに関しては俺も全面的に同意する」
代わりに引き合いに出されたダストさんが可哀想なくらいにボロクソに言われている。うーん、格差社会…
「初心者殺しにあったらカズマのその荷物ヤバくない? パンッパンに詰め込んでるじゃん」
「ん? まあいざという時の備えだよ。見た目より重くないから、安心してくれ」
心配するリーンを窘め、少し位置がズレていることに気付いた俺はリュックを背負い直す。
ーー
「次はこっちの道なんだけど…ゴブリンの一歩手前なんだよな。警戒してこっちに来てたら危ないから一旦下がって」
この写真から見たところ、十匹やそこらではない数のゴブリンが確認できた。この世界でゴブリンがどの程度の強さなのかは分からないが、こんなに大量にいると威圧感が凄い。
「…あの、ゴブリンって普段こんなにいるもの? 少し不安になってくるんだけど…」
「だ、だよね。多いよね…? …ね、ねえ皆、カズマもこう言ってるし、さっき撮った写真をもう一度見ながら対策してさ…」
リーンが表情を不安でいっぱいにしながら先頭を突っ切るテイラーとキースに警告を促す。テイラーはともかくキースは後衛職の筈なのになぜ先頭にいるんだろう…
「大丈夫だって! カズマにばっか活躍されちゃたまんねぇし? テイラー、行くぜ!」
叫ぶと同時にゴブリンがいるであろう道へと飛び出すキース。テイラーもそれに続いて剣を手に飛び出し、二人同時に叫んだ。
「「ちょっ! 多っ!!」」
そんな二人の声を聞き、俺はリーンと共に飛び出した。
そこには二十やそこらはくだらない数のゴブリンがいた。
「言ったじゃん! だから言ったじゃん! カズマの写真から数見ようって言ったじゃん!!」
「と、とりあえず早く片付けないと!」
「ギギャッ! キー、キーッ!」
坂の下に陣取っているゴブリンは、俺達を見るなり、奇声をあげながら剣や弓を構えて襲いかかってくる。
「痛えっ! ちくしょう、矢を食らった! 弓構えてるゴブリンがいるぞ! リーン、風の防御魔法を!」
「どう考えても間に合わねえよおっ! 全員、何とか躱せっ!」
テイラーとキースが苦悶の表情を上げて叫ぶ中。
「『ウインドブレス』ッ!」
俺がとっさに叫んだ初級魔法で、矢のみを吹き散らした。
「カ、カズマっ! 流石だぜ!」
テイラーが盾を構えて俺の前で叫ぶ中、リーンの詠唱が完成した。
「『ウインドカーテン!』」
それと同時に、俺達四人の周りに渦巻く風が吹き出した。
これが支援魔法か…! それに、やはり俺と違って詠唱もかなり早いし、中級魔法らしい利便性だ。そんな事を考えながら、俺も叫ぶ。
「坂道ならこの手が効くはず…! 『クリエイト・ウォーター』!」
テイラーの前に大量の水が流れる。
「カズマ、何やって…」
「『フリーズ』ッ!!」
リーンの疑問も無視して、初級の凍結魔法を放った!
威力が高いと味方も巻き込むし、やはり要所要所で初級魔法にはお世話になるものだ。こんなにも応用が効くのに、めぐみんはともかく何故取らないのだろうか?
「「「おおっ!!」」」
氷の足場では身動きが取れず、足を取られる。大量のモンスターと遭遇したときのためにこういう作戦もきっちり考えておいてよかった…
「この足場じゃ安定して攻撃ができないと思う! テイラー、それでも登ってきた場合は二人で叩こう! 最悪の場合、俺が爆裂魔法を習得すればそれで終わりだから!!」
「でっ、でかしたカズマー! おいお前ら、やっちまえ! この状況ならどれだけ数がいたって関係ないぞ、奥にジャイアントトードもいるが、まとめてやっちまえ!!」
「うひゃひゃひゃ、なんだこれ、楽勝じゃね―か! 蜂の巣にしてやるよ!」
「普段なら溜めが長くて使えないロマン魔法も使い放題じゃん! よーし、ド派手に一発撃ち込むよーっ!!」
何故かやたら高いテンションで、俺達はゴブリンの群れに襲いかかった。
ーー
ゴブリンを討伐した帰り道。
「…くっくっ、あ、あんな魔法の使い方、聞いた事もねえよ! 何で初級魔法が一番活躍してんだよ!」
「ほんとだよー! 魔法学院じゃ取るだけスキルポイントの無駄って教わったのに! ふふっ、ふふふっ、あたしも初級魔法取っちゃおっかなー!」
「うひゃひゃひゃ、や、やべえっ、こんな楽なゴブリン討伐初めてだぜ! あのゴブリンの群れを見た時はマジで一瞬死を覚悟したってのによ!」
口々に先程の戦闘の話題で盛り上がる三人。
俺はそんな三人を微笑ましく見ていた。
「っ…いてて…」
すると、突然痛みだしたテイラーが先ほどゴブリンから受けたままだった矢を肩から引き抜いた。
「だ、大丈夫かテイラー…? とりあえず消毒液と絆創膏を…」
リュックから消毒薬を出し、傷口に垂らす。テイラーの表情は一瞬苦しいものになったが、すぐに元に戻った。絆創膏を貼った後、回復魔法をかけて少しだけ直しておく。
「はい、手当終わり。お疲れ様、テイラー」
「…何かお母さんみたいだなお前」
テイラーの一言にキースが納得したように手を叩いた。俺は気恥ずかしさで拗ねてしまい、リーンは腹を抱えて爆笑。
ああ、いいなあ。
俺は冒険者の良さを再確認したのだった。
…待てよ? 何かすごく大事なことを忘れている気が…
俺はおもむろに写真を取り出す。
「あれ? 何かが、すごい勢いでこっちに来てないか?」
ゴブリンには大きいし、ジャイアントトードにしては小さすぎる。なら、この黒い縦長の粒は一体なんだろうか。
「新手のモンスターかな…返り討ちに…」
ふと、前を見る。
夕暮れの草原地帯。俺達に向かって駆けてくる、黒い獣がいた。
「初心者殺しッ!!」
俺の叫びを合図に、四人で一斉に街に向かって駆け出した。
ーー
「はあっ…はあっ…くそっ、最後の最後でこれかよ!」
「や、やばいよー、追いつかれちゃうよー!」
荒い声で毒づくキースに対し、涙目のリーンが息を切らせて呟いた。
獣と人では移動速度が違う。このままでは追いつかれてしまうだろう。ならば。
「カズマっ!? 何してんだ、戻れ!!」
「このままじゃ街に被害が出る、そうなったら俺のせいだ。俺が草原に誘導したせいでこうなったんだから、これは俺がけじめをつけないと…!」
俺は一人初心者殺しに対峙する。まだ追いつくのには時間がかかるはずだ、何か考えろ、考えろ…!!
「何一人でカッコつけてんだよ、カズマ!」
キースが弓を構えて俺の隣に立った。
「今日一日限りとは言えカズマは俺達のパーティーメンバーだ! 見捨てる訳あるか!!」
「他所のパーティーの人なのに、今日一番頑張ってくれたんだもんね。これくらいは手伝わせて!」
テイラーもリーンも、覚悟は決まっている様子だ。
…繋がった、かも。
一人では確実に無理だったであろう作戦が、今ならできる!
「作戦を伝えるぞ、よく聞いてくれ。…」
「…マジで言ってんのか、それ?」
「でも、やるっきゃないか…」
テイラーは盾を構えて臨戦態勢に入る。
俺も初級魔法を唱えて初心者殺しを迎え撃つ準備をする。
「『クリエイト・ウォーター』! からの『フリーズ』!」
初心者殺しが俺が魔法を放った部分の足場を警戒し、別の経路から攻めに入る。そこにはテイラーが盾を構えて待っていた。初心者殺しが飛びかかる。
「おらああああっ! かかってこいよ、この毛玉があっ!」
「今だ、リーン!!」
「皆、目瞑って!」
直後、閃光が走る。そう、俺が最初に使ったあの黒い魔道具である。予備として二つ持っていたのが幸いした。初心者殺しは俺らと違ってマトモに光を目に入れてしまい、何が起きたか分からずに転倒する。
そして、その口の中に何かが入った。
「っし、ヒット!」
それはキースの矢だった。
混乱していた初心者殺しはそれを誤ってゴクリと飲んでしまい、それによって俺達の勝利は確定した。何故なら、その矢についていたのは…
ウィズ特製、水に濡れると爆発するポーションだったのだから。
少しの衝撃で取れるように調整した蓋はのたうち回る初心者殺しによって見事に外れ、中の液体は胃液と混ざり合う。胃液も、水の一つだった。
響く爆裂音。跡形もなく消し飛んだ初心者殺しを見届ける俺達。
「……ふっ…ふふっ……ふへへへっ…」
ふと、キースが笑いだした。
「くっ…くっくっくっ…」
「あはっ…あははっ…あはははははっ!」
つられるように、テイラーとリーンも笑いだした。
俺も不意に笑みが溢れる。
「おい、何だよさっきのあれは! カズマお前何しやがった!」
バシバシと叩いてくるテイラー。
「ポーションだよポーション! 俺は冒険者だから、アイテム使わないとやってられないんだよ、あはははっ!」
「こんな冒険者がいてたまるか! うひゃひゃひゃっ! は、腹いてえっ! 殺しちまったよ、俺達初心者殺しに出会って無傷でブッ殺しちまったよ!」
「有り得ないよー、この人色々と有り得ないよー! あの一瞬で打開策思いつくとか、一体どんな知力してんのさ! ねえカズマ、ちょっと冒険者カード見せてよー!」
俺は言われた通りに冒険者カードを差し出した。
「うぇっ!? この人、ステータスえげつなっ! 知力も筋力も生命力も敏捷性も上級職並…って、高っ!? この人幸運、超高いっ!!」
リーンの言葉に、二人は信じられないと言った表情で覗き込む。
「うおっ、なんじゃこりゃ!?」
「エリス様に好かれてるとしか思えないぞ、こんな数値! おいお前ら、拝んどけ拝んどけ! ご利益があるかもしんね―ぞ!」
幸運は冒険者家業をする上であまり関係ないって受付の人に言われたから、幸運は関係ないと思うんだけどなぁ…まあ、その高い幸運値のおかげで俺は最高の仲間を見つけられているんだけど。
「拝んでも意味ないって。それより、一緒にご飯食べないか? このリュック、実は携帯鍋も入ってるんだ。初級魔法があるから水も出せるし、火だって起こせるぞ?」
俺は三人に笑いかけながら、試作品のドライキャベツ炒めを取り出した。
ーー
冒険者ギルドについた頃には、時刻は既に夜半を回っていた。
初心者殺しをやったのなら討伐の報酬は弾むだろうとテイラーは言う。
「つ、着いたあああああっ! 今日は、なんか大冒険した気分だよ!」
リーンの声を聞き、俺は笑いながらギルドのドアを開け――
「ぐずっ…ひっぐ…っ…あっ…ガ、ガズマあああっ…」
泣きじゃくっているアクアを見て、俺は側にいるダストに軽蔑の目線を向けた。
「おいっ! 気持ちは心底よーく分かるが、そんな目で見ないでくれよ!」
ダストは背中にめぐみんを背負い、アクアは気絶したダクネスを背負っていた。
アクアに関しては頭に大きな歯形がついているし、何だか湿っぽくなっている。俺は抱きついてくるアクアを撫でながらこの惨状の理由をダストから聞くことにした。
だが、それはもう運が悪いを通り越して…
「街を出て、まず各自がどんなスキルを使えるのか聞いたんだよ。で、この子が爆裂魔法を使えるって言うもんだからそりゃすげぇって言ったら、我が力をお見せしようとか言って何もない所に撃って即倒れたんだよ!」
…なんというか…なんというか…
「そしたら初心者殺しが来てさっ! 魔法使いが倒れてるから逃げようって言ったのに、そこのクルセイダーが鎧も着てないのに後先考えずに突っ込んで、挙句の果てには…」
俺は半泣きのダストを手で制する。
「いいよ、分かったから。大変だったな。初心者殺しは俺達で狩っておいたから安心してくれ。めぐみん、立てそうか? ダクネスは…部屋に運んどいてあげるか」
「え…初心者殺しに勝ったって…正気か?」
「今日はお互いお疲れ様! まずはのんびりご飯食べようぜ! 二つのパーティーの親交が深まった事に乾杯しよう! 今日は俺の奢りだから、遠慮なく食べてくれ! ほら、ダストも」
「あ、ありがとうございますっ!!!」
因みにカズマがテイラーたちにタメ語になったのは同じ冒険者として尊敬はいらないと言われたからです。未だにクリスにはさん付けしてますが多分その内お頭呼びになります