この素晴らしいカズマに祝福を! 作:名もなき駅員
石造りの町中を、馬車が音を立てながら進んでいく。まるでゲームのような世界観だ。
先程ほぼ強制的に転生されたが、あれはモタモタしていたが故に女神様の機嫌を損ねた自分が悪い。
「…異世界だ。…本気で異世界に来ちゃった。魔法とかも使えるのかな? 冒険も出来る?」
俺は目の前に広がる光景に感動で震えながら、誰にでもなくそう呟いた。そこはレンガの家が建ち並ぶ中世ヨーロッパのような町並み。
車やバイクは走っておらず、電柱や電波塔といった都会ではよく見かけるものもない。
俺は何か変わったものがないかキョロキョロと町を見渡してみる。
「あれは獣人ってやつか? それにあっちはエルフ? す、すごすぎる…こんな世界、本当にあったんだな!」
多少周囲を観察し終えた後、改めて自分の格好を確認した。うむ、ダサい。
というか見た目を抜きにしても無防備すぎるだろう。
「この世界でジャージ一丁は自殺行為だよな…必要最低限の初期装備を整えないと、かぁ…」
そのためにも、まずは情報収集といったところから始めないとだな。こういう時の定番は酒場だ。
「あの、すみませーん。この辺りに酒場ってありますかね?」
俺は近くにいた男の人に場所を聞く。話しかけた男性は屈強で怖かったが、めちゃくちゃ丁寧にギルドの場所を教えてくれた。
人は見かけによらないんだなぁ…とそんな事を考えながらも真っ直ぐ行って右に向かい、冒険者ギルドに入る。ギルドという言葉は聞いたことこそあれど、詳細な情報などは知らない。そこら辺も諸々含め、受付の人に聞くとしよう。
「あ、いらっしゃいませー。お仕事案内なら奥のカウンターへ、お食事なら空いてるお席へどうぞー!」
短髪赤毛の快活なウェイトレスのお姉さんが愛想よく出迎えてくれた。
薄暗い店内は酒場が並列されている。さっきの屈強な男の人がここを教えてくれたのは酒場も併設されているからだったのか。
あちらこちらに鎧を着た人達がいるが、ガラの悪そうな人は見当たらない。
ただ、何か凄い量の視線を感じる。
「今日はどうされましたか?」
「えぇと、冒険者になりに来たんですけど、田舎から来たばかりで何も分からなくて…」
田舎から来たと言えば、相手は恐らく色々と教えてくれるだろう。騙しているような気がして気が引けるが、嘘は言っていないので大丈夫。
「分かりました。では、登録手数料が掛かりますが宜しいでしょうか?」
受付の人の言った言葉で俺は固まる。
…登録手数料?
「え、お金が掛かるんですか?」
「ええ。知りませんか?」
「…出直してきます」
俺は一旦ギルドから出て、どこかいいバイト先がないか探し回っていた。
「あの、ここって…」
「あぁ?」
俺はガタイのいいおじさんに話しかけた。だが、鋭い眼光で睨み返されてしまい、俺はすっかり萎縮してしまった。いや、こんな事をしては無礼だ。できる限り大きな声で…!
「ここで臨時バイトさせてください! お願いします! 給料は少なくてもいいです!」
そう、ここは外壁の拡張工事の最中だった。丁度材料運びをしている最中だったので、何とかバイトとして入れて貰うことにしたのだ。
「ふむ…いいだろう。それじゃ、これから俺のことは親方って呼んでくれよ」
「! ありがとうございます、親方!」
「ただ、ウチは厳しいぞ? 取り敢えずそこの鉄骨を全部運んどいてくれ。なんつって…」
そこにあったのは、鉄骨の山。
常人じゃ持つことさえ不可能な程に巨大なそれは、見たところ支援魔法をかけて二人がかりで運んでいるようだった。
「分かりました! 取り敢えず10本運んでおきますね!」
「は?」
俺はそう言って鉄骨の方へ走ると、鉄骨の下側を持ってひょいと持ち上げた。目を丸くして絶句する親方に目もくれず、俺は現場に向かって歩きだした。
そして十分後。
「終わりました!」
俺は全ての鉄骨を運び終え、親方に報告をした。親方は相変わらず言葉を失っている。
「お前、ステータスどうなってやがんだ…?」
「え? 普通だと思いますが…」
毎日市全体のゴミを大体一人で清掃してるからか、筋力は少しついていると思ってるけど。
「まあ、何にせよ助かった。お前のおかげで二日も早く荷運びが終わったからな。ほれ、給料」
俺が封筒を開けるとそこには…150万エリスもの大金が入っていた。
「ええ!? こ、こんなに貰えないですよ!」
「いやいや! お前一人で鉄骨五十本運んだってのはな、単純計算で300人分の働きなんだよ。だからこれは全うな金額だ」
「…恩ができちゃいましたね。いつか返さないと」
俺ははにかみながらそう言った。
ーー
俺が給料の入った袋を握りしめながら町を歩いていると、上から叫び声が聞こえた。
「ぁぁぁぁぁぁぁあああああああっ!」
「えっ?」
俺は反応しきれず、その人にぶつかってしまった。というか、潰された。
「もう、何だってのよ! エリスめ、今度あったら覚えてなさいっ!!」
俺にのし掛かりながら不満らしき言葉を漏らすその人の声は、ついさっき聞いたような声だった。そして、俺の顔に何か暖かいものが当たっている。これは…下着?
「って、あんた何私の下で寝てんの! ちょっと、ぱんつに顔を埋めないでよ!」
「す、すいません!」
俺はその人をなるべく動かさずにその場からすり抜け、姿勢を正して座った。
「あれ、あんた…カズマじゃないの!」
「め、女神アクア様…?」
アクア様は俺の存在に気付くと同時に、俺の胸倉に掴みかかり、何語とも分からないような謎の言葉を発し、喚いていた。
「落ち着いてください! …いきなり上から落ちてくるなんて、何があったんですか?」
「うるさいわよ! こうなったのも全部あんたのせいなの! 私悪くないもん! キチンと女神の規則に従っただけだもん!」
「お、落ち着いてください! 怒ってるだけじゃ何が何だか分かりませんよっ!」
俺が何とか宥めるとアクア様は怒りながらではあるものの、ポツポツと事情を話し始めた。
ーー
アクアは、カズマを送り出した後スナック菓子を頬張りながらくつろいでいた。
「私の見事な転生捌き…これはもう給料アップしかないわね! ふふん、これで皆もやっと私の才能に気付くはず…」
などと勝手なことを言いながらゆったりとしていたところ、部屋の中に別の女神がやってきた。
「アクア先輩! 今こっちに、佐藤和真さんがやってきませんでしたか!?」
エリスは酷く慌てていた。その様子に首を傾げながらも、アクアは胸を張り。
「どうしたのよ、そんなに慌てて。まあ、来たけど…それで? 私が異世界に送っ…」
「どこに行きました!?」
「え?」
呆然とするアクアに追撃するように、エリスが重大な発言をかます。
「佐藤和真さんは百年に一度の聖人と言われるほど透き通った性格をしていまして、天界で天使として受け入れる準備をしていたんです。でも何の手違いかそっちの方に行ってしまったようで…」
「え、え? ちょっと…」
「アクア先輩も、絶対に異世界転生なんかをさせてはダメだと皆に伝えて置いてください!」
「えぇぇぇっ!?」
アクアはその事を隠し通そうとしたが、案の定即バレし、追放処分を喰らった。
ーー
「あんたがこっちになんか来るから…私がこんな目に…許すもんですかっ!」
「ぅぐっ!? わ、分かりましたよ! 元はと言えば俺が間違えたからなんで…」
女神様は俺のせいで下界に来てしまったみたいだし仕方ない。と思ったのだが、急にやる気をなくしたのか、手をだらんと下げて俺を解放する。
「くっ…! あんた、いい奴過ぎんのよ! 今の言葉で殴る気も失せたわ…もういいわよ…うぅ、天界に帰りたい…」
手を顔に当て、落ち込むアクア様。転生の時は性格に難があったように見えたけど、いざ見ると何だか可哀想だな…何か俺に出来る事はないか…
「…あっ! そうだ、俺が魔王を討伐すれば願いが何でも叶います! それでアクア様を天界に帰すと望めばいいんじゃないすか!?」
「! でかしたわよカズマ! よし、そうと決まれば早速冒険者登録ね! あ、それと私の事は敬称要らず、タメ口でいいから。変に女神だなんだと騒がれても困るし」
「えっ!? わ、分かった、アクア」
俺はアクアと一緒に冒険者ギルドに向かっていった。扉を開け、カウンターに移動する。
「あ、戻ってきたんですね」
「はい。…これで足りますか? あと、ついでにこの子も受けるんですけど…」
「はい、では8000エリスのお返しです」
そしてカウンター越しに受付のお姉さんは話を始めた。冒険者の説明ってところだろうか。
「では。冒険者になりたいと仰るのですから、お二人ともある程度理解しているとは思いますが、改めて簡単な説明を。…まず、冒険者とは街の外に生息するモンスター…人に害を与えるモノの討伐を請け負う人のことです。とはいえ、基本は何でも屋みたいなものです。…冒険者とはそれらの仕事を生業にしている人達の総称。そして、冒険者には各職業というものがございます」
ああ、やっぱりか。
冒険者と言えばこれって風潮はあるよな。
職業だの、ジョブだの、クラスだの…呼び方に多少の差違はあれど、要は戦闘スタイルを選ぶって事。選ぶ職業によって武器や覚える魔法が変わってくるという重要なものだ。
受付のお姉さんが、俺とアクアの前にそれぞれカードのようなものを差し出した。免許証程度の大きさのそれは、身分証のようにも見える。
「こちらに、レベルという項目がありますね? ご存知の通り、この世のあらゆるモノは、魂を体の内に秘めています。どのような存在も、生き物を食べたり、もしくは殺したり。他の何かの生命活動にとどめを刺す事で、その存在の魂の記憶の一部を吸収できます。通称、経験値と呼ばれるものですね。それらは普通、見る事などはできません。しかし…」
お姉さんがカードの一部を指さした。
「このカードを持っていると、吸収した経験値が表示されます。これが冒険者の強さの目安になり、どれだけの討伐を行ったかもここに記録されます。経験値を貯めていくと、あらゆる生物はある日突然、急激に成長します。俗に、レベルアップだの壁を越えるだの言われていますが…まあ要約すると、このレベルが上がると新スキルを覚えるためのポイントなど、様々な特典が与えられるので、是非頑張ってレベル上げをしてくださいね」
その言葉に、俺は女神様から告げられた一言を思い出す。「ゲームは好きでしょう?」と。
今思えば、この世界はそのままゲームの世界だ。職業に、経験値に、レベルに…
「まずはお二人とも、こちらの書類に身長、体重、年齢身体的特徴等の記入をお願いします」
受付のお姉さんが差し出した書類に目を通し、俺は自分の特徴を書いていく。
身長170センチ、体重55キロ。年は16、茶髪に緑目…っと、こんなとこか。
「はい、結構です。えっと、ではお二人とも、こちらの機械に触れてください。それであなた方のステータスが分かりますので、その数値に応じてなりたい職業を選んでくださいね。経験を積む事により、選んだ職業によって様々な専用スキルを習得できる様になりますので、その辺りも踏まえて職業を選んでください」
おお、ステータス。
ここで俺の能力値が見れるって訳か…でもまあ、どうせ大した事ない数値に違いないだろう。
「…はい、ありがとうございます。サトウカズマさん、ですね。ええと…えっ!? 筋力、敏捷性、器用度がどれも平均値を上回っています! それに知力や幸運が尋常じゃない程高い数値なんですが…あなた何者なんですかっ!?」
「何者って言われても、田舎者ですけど…」
「こ、これはとんでもないですよ! なんせほぼ全ての上級職を最初から扱えるんです! 鉄壁を誇るクルセイダーや、速度と火力の高いソードマスター、一撃に重点を置くアークウィザード…」
ふむ…やっぱり筋力が高いって言ってるしクルセイダーかソードマスターかな? でも、魔法にも少し興味があるし、使ってみたいよな…
ん?
「冒険者…?」
「えっ!? 冒険者を選ぶんですか!? 確かに全スキルを扱えるというメリットもありますが、それは最弱職ですよ!?」
最弱…でも、やりたい事もあるしそれでいいか。
「いえ、それでお願いします」
「わ、分かりました…」
紆余曲折あったが、これでようやく俺も冒険者になった。少し感慨深く俺の名前と共に冒険者と刻まれたカードを受け取ると…
「はっ!? はああああっ!? 何ですかこの数値!? 知能が平均より少し低いのと、幸運が最低レベルな事以外は、残り全てのステータスが大幅に基準を越えてますよ!? 特に魔力がどえらい事になってるんですが…っ!」
アクアの方も計れたようだ。
やはりというか何というか、女神がああいうのを使うとステータスがバグるんだな…何の参考かは知らないが、とても参考になった。
「これならカズマ様と同様、あらゆる上級職を選び放題ですよ! ただ、高い知力を必要とするアークウィザードは無理ですが…」
初手からあらゆる上級職を選べるという理想的な状況での質問にアクアは少し悩み。
「そうね…女神って職業がないのが残念だけど…私の場合はアークプリーストかしら?」
「アークプリーストですね! あらゆる回復魔法と支援魔法を使いこなし、前衛に出ても無類の強さを誇る万能職ですよ! では、アークプリースト…っと。冒険者ギルドにようこそ、カズマ様、アクア様。スタッフ一同、今後の活躍を期待しています!」
お姉さんはにこやかな笑みを浮かべた。
こうして、冒険者ギルドでの手続きは完了した。そしてこれから、俺の異世界での冒険者生活が始まったのだった。
ちなみに主の推しはアクアです。