この素晴らしいカズマに祝福を! 作:名もなき駅員
モチベは回復しなかったけど一ヶ月に一回は出したい…
「ふわぁぁ…」
どこからか欠伸の音が聞こえる。この声はおそらくアクアだが、もう起きたのか? 朝食は作っておいたし、大丈夫だろう。俺は再び自分の手元に目を向ける。
「えーっと、ここをこうして…よし」
俺は以前から、前の世界の知識を活用してこの世界にないものを作ろうと思っていた。しかし宿では場所を取るし、何より宿の人に迷惑をかけてしまう。だが、安定した住居を得ることが出来た俺はその問題をクリアし、クエストが終わった後の自由時間を道具作りに割いていた。
「カズマさーん、私朝食のおかわりが欲しいんだけど、どこに…」
「おかわりなら棚に入ってるよ。…どうした?」
俺が振り返ると、そこには仰天した顔のアクアがいた。
えっ俺また何かやらかした? 今回ばかりは何もないはずなんだが…
「か、カズマさん…昨日と同じポーズで止まってたわよ…」
あ、そういう事か。俺が作業を開始したのは昨日の晩御飯の後の話なので、おやすみと挨拶をしに来た仲間は作業中の俺の姿を把握してたんだったな。確かに夜から朝にかけて全くポーズが変化しない人がいたらビビるか。
「あー、ちょっと道具を作っててね」
「そ、そう…でも、しっかり寝ないと倒れちゃうわよ?」
「? うん?」
ーー
「…あの雰囲気、寝るのが大事だって思ってない感じよね」
アクアは静かにそう告げる。重々しいその表情は本気でカズマのことを心配している証だ。対する相手はめぐみんとダクネス。二人もまた最近のカズマの行動を気にかけている。
「そういえば私、一昨日真夜中に目が覚めたんですが…カズマがずっと作業していて、少し気になっていたんです」
「私も、いいだろうか? 最近カズマに火傷が増えている気がしてな…こっそり後をつけてみたんだが、深夜に一人で何かを燃やしていてな…それから部屋に戻って作業をしていた」
二人が言った内容のせいで余計頭がこんがらがるアクア。さすがのめぐみんもこの状況を整理しきることが出来ず、頭を抱える。
「…ちょっと待って下さい。私達が言ったカズマの行動というのは、時間帯がほぼ同じですよね?」
めぐみんがふと思いついたようにそう言った。
「ええ、真夜中だけど…それがどうかしたの?」
対するアクアはまだ分かっていない様子である。
だが、カズマの作業量、朝と夜で変わらぬカズマの姿勢、早朝まで行われた作業。これらを真面目なカズマが適当にランダムな日で行っていたとは考えにくい。毎日そのような事をしていたと仮定するならば、答えは出てくる。
「…そうか! カズマはここ一週間、徹夜作業しかしてないぞ!」
ここに、三人のパーティーメンバーによるパーティーリーダーを休ませるための作戦が開始したのだった。
ーー
三人の連続攻撃によって訳の分からないまま作業机から引きずり降ろされた俺は、ギルドから貰っていた内職をやろうとソファーに座る。
「カズマさん、いくらクエストが出来ない冬だからって、内職までする事ないじゃない。確かに屋敷で結構減ったけど、蓄えはまだそこそこあるんだし…」
「でもなぁ、何かやってないと落ち着かなくて」
「寝るとか…」
「まだ昼間だよ」
「そ…それならゲームでもしましょうよ!」
丁度いいものがあるから、と俺はアクアに手を引かれ、めぐみんの部屋に連れて行かれた。中にはもちろんめぐみんと、何故かダクネス、そして二人が持っているボードゲームがある。
「簡単な戦略ゲームよ。チェスみたいなものね」
チェスと言うと、これがナイトでこれがルークで…ん?
「あれ? これルークだよな?」
「何言ってるんですかカズマ、これはクルセイダーです」
隣にいためぐみんが指を指しながら答えてくれた。
…えっ。
「…それじゃこれは?」
「それはアークウィザードだな」
今度はダクネスが答えてくれた…って、これチェスでもなんでもなくないか? 明らかに役職多すぎだし。チェスに魔法使いなんかいないし。
「まさかスキルも使えたりする?」
「使えますよ」
やっぱりこれチェスらしさゼロじゃん。アクアを責めてるわけじゃないけど、これは完全にチェスとは掛け離れた別のゲームだと思う。
「まあ、やってみたら面白いかもしれないしやってみるか」
と、ゲームを開始して二時間。
めぐみんに一向に勝てない。流石はアークウィザードと言うべきか、知力の高さをフルに使った戦法が尋常じゃない強さをしている。
「このコマにテレポートです」
「ぐっ…ならプリーストにラピッドをかけてもらって、クルセイダーを移動させる! よし、これで王手だ!」
「テレポート」
俺とめぐみんがゲームを続けている間、アクアとダクネスは何処かに行っていた。一体どうしたんだろうか? もしかしたら暇になって自室で休んでいるのかもしれないが、今日は朝からなんだか様子が変だったし…
「エクスプロージョンです」
「あ"っ!!」
ーー
「さて、そろそろ完成ね」
「アクアは相変わらず器用だな…さて、そろそろこっちも終わりそうだ」
とある部屋で、アクアとダクネスが作業していた。アクアは細かい作業を、ダクネスは力仕事をサクサクとハイペースに終わらせていた。それはもう間もなく完成のようだが…
「準備は万端ね! ここまでカズマにバレずに来れたんだから後は楽勝よ!」
「そういう旨の発言、前もカズマに注意されていなかったか? ふらぐだとかなんとか…」
ダクネスが怪訝な顔になる。そして、それはある意味的中することになった。
「そろそろウィズさんの店に行かないとだな…」
「えっ!?」
突如部屋の中から聞こえてきたカズマの言葉と、めぐみんの絶叫。それを聞き取ったアクアとダクネスは、かつてないほどに戦慄していた。
「い、急いで片付けるわよ!」
「ああもう、何でこんな事になるんだ…!」
二人は火事場の馬鹿力とも言える速さで何とか作業を終え、完成したものを…
「こうなったら…えいっ!」
消した。
「ア、アクア、一体何をしたんだ!? 芸か!? 芸なのかこれは!?」
「ええ、芸よ」
ーー
「どうしたんだ二人共?」
俺が部屋から出ると、とても疲れた表情でへたり込んでいるアクアとダクネスがいた。
「「な、何でもない…」」
「そ、そっか…」
俺は深くは聞かないことにして、ウィズさんの店に向かう事にした。
「な、何をするつもりなんですか?」
「んー…簡単に言えば、売り込みかな」
「え?」
ぽかんとするめぐみんに、自分の世界にはあったがここにはないものを作って売ろうとしていることを、異世界の事は上手く誤魔化しながら説明した。
「ふむ…それで、その…箱の山ができていると」
「売れる自信があるからね」
数分もしないうちにウィズさんの店につき、ドアを開けて中に入る。
…ウィズさんが薄くなっていた。
「ウィズさん!?」
「あ、いらっしゃいませ…」
ウィズさんは何ともか細い、蚊の鳴くような声で返事をしてくれた。
「な、何があったんですか?」
「これを…見てください」
ウィズさんは鈍く輝く金属製と思しき数本の矢を手に乗せて差し出した。
「これは…アダマンタイトで作られたとっても硬い矢なんです…絶対に壊れたりしません…」
想像以上に高価な品だった。…でも何故矢に使ったんだろう、矢は消耗品のはずなんだが。
「ガラクタじゃないですか」
めぐみんが死にかけのウィズさんに追加ダメージを与えた。
ていうかいよいよウィズさんが消えそうなんだけど!?
「どうかしたか? そこの無能に何か用でもあるのか?」
「あっベルディア!」
相変わらずエプロン姿のベルディアが物騒な大剣を背負いながら、不機嫌そうな表情で倉庫から出てきた。死にかけのウィズさんと言い、商才の有無を巡って壮絶なバトルがあったようだ…
「じ、実は耳寄りな話を持ってきたんだ。いい道具を作ったから売り込「売り込みですか買います買わせてください!このままだと今月固形物が食べられないんです!」分かりましたから焦らないでください」
俺は箱の中から手のひらサイズの筒状の物体を取り出した。
「何ですかこれ? 魔道具ではなさそうですが…」
「ふっふっふ…これはここをカチッとするとだね…」
筒状の物体は、俺の言った通りのカチッという小気味良い音を出すと同時に火花をちらし、中に溜まっているガスに火を灯した。そう、これこそ俺の売り込み品、ライターだ。
「すごいです! これがあればわざわざ初級魔法を覚える手間が省けますね!」
「ふむ、中々売れそうだな。代金は?」
「なるほど、あの徹夜はこれを作るための…」
皆三者三様な発言をしている。
「でも、これどうやって宣伝しましょうか…」
「そうですね…いや、ちょっと待ってください」
俺は一度店を出て家に戻り、アクアとダクネスを連れて戻ってきた。
それにしてもダクネスは何か不機嫌そうな表情してたしアクアも死にそうな顔だったけど、一体大丈夫だろうか…?
「何をすればいいのだ?」
そう聞いてくるダクネスに、俺は頼むように手を合わせ。
「叩き売り用の台を作ってくれないかな?」
加えて、俺も手伝うから、と言った。
ダクネス達は叩き売りに関して知らないようなので補足説明をする。
「ふむ、つまり出張店舗のようなものか。いいだろう、喜んで手伝わせてもらう! …しかし、その叩き売りをするのは一体誰になるのだ?」
ダクネスは快く了承してくれたが、未だに疑問が残っているようだ。俺は答えである二人の人物に目を向ける…まあ正確にはどちらも人ではないのだが。
「…まさか、アクアとベルディアか!?」
「…えっ、俺!?」
ダクネスもベルディアも驚いているが、俺としてはこの判断は妥当だと思っている。最近このウィズさんの店にはよく足を運んでいるんだが、ベルディアが外で看板を持ちながら客寄せをやっている。
アクセルの街の冒険者はベルディアの名前は知らなくても声は聞いているため、声を抑えて接客しているのだが、そのせいか巷では、中性的な容姿も相まって「看板娘のベルディアさん」と言われていたりするのだ。
「頼むベルディア、協力してくれ!」
「…まあ、よかろう。因みにそれでどれ程の金が入る?」
「俺達が四、ベルディア達が六の取り分で考えると大体……くらい?」
「…」
ベルディアが無言で看板を持ち上げた。そこには『素晴らしい』の文字が。
「よし、じゃあ俺達は台を作るぞ!」
「任せておけ!」
俺とダクネスは改めて台の作成に取り掛かり、約一時間ほどで完成。叩き売りの台はウィズさんの店から少しだけ離れたところに設置し、俺、ダクネス、めぐみんは台の近くに客を集めるために散らばった。
ーー
「さぁさぁ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい! ここにおわすはカチッとするだけで火がついちゃう、文字通り魔法の一品!」
『魔力もいらない!』
「初級魔法を覚える必要もないのよ! これさえあればティンダーいらず!」
『大特価品!!』
「お値段たったの百エリス! さー買った買った!!」
『数量限定!早いもの勝ち!』
アクアとベルディアの視聴覚両方に語りかけるハイレベルな商法によって、足を運びに来た冒険者たちはこぞってライターを求める。
…毎回思うんだけど、あの看板はどういう仕組みなんだろう?
「おい、アクアのねーちゃん! 一個くれ!」
「こっちは四個だ!」
「ベルディアさん、二個! 二個くれ!!」
「はいはい、待っててねー? ウィズ魔道具店にはもっと在庫があるから、後ろに並んでる人達はそっちに足を運んでみたらどうかしら!」
『売切前に急げ!』
ーー
「ウィズさんライター二個!」
「有難う御座います、有難う御座います!」
「うわっ、もう在庫がないですよ!?」
めぐみんがカウンターの奥から焦りの声を上げた。
「嘘!? 俺二週間かけて数千個は作ったのに…」
「一本百エリスでほぼ全てが売り切れという事は…これはかなり儲かりましたね…」
仰天してぼそりと呟くめぐみん。その隣に、あまりの売れ行きにウィズさんが放心して突っ立っていた。
「じゃあ約束の六割をどうぞ」
「有難う御座います!!! これでしばらく飢えを凌げます!」
…何だか、可哀想を通り越していて掛ける言葉が見つからなかった…
そうだ、アクアとベルディアの所に行ってこよう。二人の所ももう売り切れているはずだ。
「ごめんなさいね、もう売り切れちゃったわ! お詫びにライターで何か芸をしてあげるわね!」
「あ、アクア!? 多分それは芸をするのには向いてな…」
「カズマさんも見なさい! これが冬将軍よ!」
「なにそれすごい…」
すごい。言い表すことは難しいけど、とにかくすごい。
ーー
全てのライターを売り切った俺達は自宅に戻ると、想像以上に疲れた体をソファにうずめて休み始めた。そして、俺以外の全員がハッとした表情になると、めぐみんがダクネスに耳打ちをした。ダクネスのした返答にめぐみんはキレて…えっ。
「何やってるんですかアクア!」
「だぁってぇ! ああするしかなかったんだもの! 隠しても間に合わないから芸で消すしかないって…」
「どこに消えるのか本人もわからんのにか!?」
「ちょ、皆落ち着いて!」
何の話をしているのかはさっぱりだが、とりあえずは喧嘩を仲裁しようと思い、俺は三人の中に割って入った。
「一体どうしたんだよ、皆?」
俺がそう尋ねると、三人はばつが悪そうな表情をする。
「…実はね、最近カズマさんが徹夜ばっかだって思って…」
「休ませるための計画を立てたんだ」
「ゲームや食事や睡眠をさせれば少しは疲れが取れるかと…」
なるほどなぁ。
そうやら俺はまた色々頑張りすぎて三人を心配させていたらしい。こういう所が、俺の短所なんだろうな…
「ごめん…俺今から寝るよ」
「「「!」」」
三人の目の色が変わった。
「待ってください。私も久しぶりに一緒に寝たいです!」
「あ、ズルいわよ! 私も一緒がいいんですけど!」
「それならば、私も…うぅ…」
俺は微笑みながら寝室へ三人と共に移動し、かつての馬小屋のように四人で狭い場所を奪い合いながら寝るのだった。
ベルディアは冒険者の間では無口系美人です。
サキュバスの夢で何度かお世話になってる人もいると思います。
知らんけど。