この素晴らしいカズマに祝福を! 作:名もなき駅員
ストックは結構あるのでこのまま毎日投稿いけるかも…
「アレね。二人じゃ多分無理だわ。仲間を募集した方がいいと思うの」
「…随分と急だな」
朝ご飯であるカエルの唐揚げをもりもりと食べながら、そんな事を言い出すアクア。
ただ、アクアの言わんとしていることも分かる。ジャイアントトード一匹の討伐報酬は5千エリス。このままだと俺達は日銭稼ぎだけで精一杯になってしまう。
「私達のパーティーには火力の高いアタッカーがいないわ!私がいれば大抵の傷は治るし、カズマがいれば敵の弱点なんかを突くことは出来るけど…それじゃ本当の強敵には通用しないと思うの」
そう。俺もアクアも、どちらかと言えばサポート側だ。カエル一体にも苦戦するなんてとんでもない世界だと思っていたが、単純にアタッカー不足と考えれば合点が行く。
「でもなあ…駆け出しでロクな装備もない俺達と、パーティー組んでくれる人なんているのかな?」
「ふぉのわたひがいるんだはら、なかああんて」
「食べながら話さない方がいいぞ、喉に詰まるから。食べ終わるまで待ってやるから、そう急がなくてもいいって」
俺がそう言うと、アクアは数度咀嚼した後口の中の物をゴクリと飲み込んだ。
「この私がいるんだから、仲間なんて募集かければすぐよ。もうスキルだって一通り覚えてるんだから! あらゆる回復魔法が使えるし、補助魔法に毒、麻痺の解除、呪いだって解けるのよ? どこのパーティーだって喉から手が出るぐらい欲しいに決まってるじゃない!」
「それなら、いいんだけど…」
俺は不安そうな顔になる。
「分かったら、唐揚げもう一つ寄越しなさい!」
「はは、よく食べるなアクアは。お腹が空いてるのなら、こっちも食べていいぞ?」
そう言って笑うと、アクアはどこかきょとんとした顔で頬を赤らめ、周りの冒険者は俺の事を苦労人の母を見るような顔で見始めた。
ーー
「…………来ないわね…」
アクアが寂しそうに呟いた。
翌日、求人の張り紙を出した俺達は冒険者ギルドの隅にあるテーブルで半日ほど待ちぼうけていた。
別に張り紙を見る人がいない訳ではない。つい先ほどパーティー契約を結んだ冒険者だっている。
誰も来ない理由は分かっている。
「アクア、やっぱ俺いらないみたいだ。アークプリーストであるアクアとは組みたくても、冒険者とは組みたくない人が多いんだよ」
「カズマと一緒じゃなきゃ冒険してる意味がないじゃない! 本末転倒よ!」
うん、それは本当に正論なんだけど…
「そうは言うけど仲間の募集をするにもレベルが少なすぎるし、ここは一旦募集を取り下げて…」
俺がそう言って立ち上がろうとした時。
「上級職の冒険者募集を見て来たのですが、ここでいいのでしょうか?」
どことなく眠たそうな深紅の瞳。
そして、黒くしっとりした質感の、肩口まで届くか届かないかと言った長さの髪。
俺達に声をかけてきたのは、黒マントにに黒いローブ、黒いブーツに杖を持ち、トンガリ帽子まで被った、典型的な魔法使いの少女だった。
ただし、12~13程度にしか見えない、片目を眼帯で隠した小柄な少女だ。
少女は突然バサッとローブを翻し、大きな声でハキハキと自己紹介を…
「我が名はめぐみん! アークウィザードを生業とし、最強の攻撃魔法、爆裂魔法を操る者…!」
唐突過ぎる。
この世界ではそういう自己紹介があるのだろうか?いやまあ、あろうがなかろうが関係ないか。
相手のペースに合わせるのは礼儀だ。
「…ふふふ…命知らずがやって来たか。いかなる困難にでも立ち向かう勇者か目の前の事態を軽んじる愚者か、この目で見極めさせて貰おう…! 我が名はカズマ! 最弱職、冒険者でありながら、魔王を打ち倒すべく研鑽を積む者! さあ手を取れ、若者よ。共に世界を救うという確かな意思があるのなら……!」
「ほ、ほわああああ…っ! 何ですか今の、も、もう一回! もう一回やってください!」
どうやら今の返しで正解だったみたいだな。
「…その赤い瞳…もしかして紅魔族?」
俺を冷めた目で一瞥し深い溜息を吐いたアクアの問いに、その少女はこくりと頷き、アクアに自分の冒険者カードを渡した。
「いかにも! 我は紅魔族随一の魔法の使い手、めぐみん! 我が必殺の魔法は山をも崩し、岩をも砕く…! という訳で、優秀な魔法使いはいりませんか? …そして図々しいとは分かっていますが、もう三日も食べてないのです。できれば何か食べさせてください…」
めぐみんの腹の虫が力ない声で鳴く。
「それくらいは別にいいよ。ところで、その眼帯は大丈夫なのか? 見ていて痛々しいから、できれば治した方がいいぞ。俺の仲間には頼りになるアークプリーストがいるしさ」
俺がそう言って口元を緩ませると、後ろにいたアクアが照れながら胸を張り、高らかに笑った。
「フッ…これは、我が強大なる魔力を抑えるマジックアイテムであり…もしこれが外される事があれば…その時は、この世に大いなる災厄が齎されるだろう」
「へぇ、封印みたいなものか」
「まあ、嘘ですが。単に、オシャレで着けているただの眼帯ですよ」
「そ、そうか」
俺は苦笑する。
「ええと。カズマに説明すると、彼女たち紅魔族は、生まれつき高い知力と強い魔力を持ち、大抵は魔法使いのエキスパートになる素質を秘めているわ。紅魔族は、名前の由来にもなっている特徴的な紅い瞳と…そして、それぞれが変な名前を持っているの」
アクアの説明で俺は合点が行った。
「変な名前とは失礼な。私から言わせれば、街の人達の方がよっぽど変な名前をしていると思うのです」
「因みに両親の名前は?」
「母はゆいゆい、父はひょいざぶろー」
「「…」」
思わず沈黙する俺とアクア。
「おい、私の両親の名前について言いたい事があるなら聞こうじゃないか」
「ごめん、変わってるなって思った。そんなの俺の偏見だよな。人の価値観はそれぞれだし、笑ったりはしないよ」
「…そうですか。ならいいです」
俺はめぐみんにメニューを渡した。
「まあ、何でも好きなものを頼むといいよ。俺はカズマ、この子がアクアだ。よろしく、めぐみん」
めぐみんは不適に笑いながら、無言でメニューを受け取った。
ーー
「爆裂魔法は最強。その分、魔法を使うのに準備時間がかかります。準備が整うまで、カエルの足止めをお願いします」
俺達は満腹になっためぐみんを連れ、ジャイアントトードの元へやってきていた。平原の遠く離れた場所には一匹のカエルが。
更に逆方向にも、別のカエルがいた。
それぞれこちらに気付き、向かってきている。
よし、ここは身軽な俺が囮になるとしよう。
「じゃあ、遠い方のカエルを標的にしてくれ。近い方は俺が倒す。アクアはこの前のもあるし、休んでてくれ」
「う、うん。ごめんねカズマ」
そう言ってしおらしい顔をし、肩を縮込ませるアクア。そもそもアークプリーストは後方支援型だから無理しなくていいんだけど…
「せめて支援魔法だけでも掛けるわね。『パワード』『ラピッド』!」
「ありがとな! …よっ、と!」
俺は足を引き延ばし、地面を蹴るようにして飛び出す。一匹のカエルの腹に突撃し、舌を斬りながらカエルの側を通り過ぎる。腹をかっ捌かれたカエルは為す術無く地面に身を投げ出す。
「ふぅ…」
…と、めぐみんの周りの空気が震えだした。
魔法に縁がない俺でも、めぐみんが使う魔法がヤバそうだという事は分かる。
魔法を唱えるめぐみんの声が大きくなり、めぐみんの額に一筋の汗が流れ落ちる。
「見ていてください。これが、人類が行える中で最も威力のある攻撃手段。…これこそが究極の攻撃魔法です」
めぐみんの杖の先に光が灯る。カッと瞼を開かせ、美しくも禍々しく輝く紅い瞳と杖から放たれる一筋の閃光が俺の視界に映る。
「『エクスプロージョン』ッ!」
平原に一筋の光が駆ける。
そして、目を眩ませる凶悪な光、辺りの空気を振動させる轟音と共に、目の前にいたカエルは跡形もなく散り散りになっていた。
爆炎の跡であろう20mは優に越すクレーターが、爆裂魔法の威力の高さを物語っていた。
「こ、これが…魔法…」
俺がめぐみんの爆裂魔法の威力に感嘆しているその時、カエルが地中から這いだしてきた。
「!? ほっ!」
俺は即座にカエルの脳天に短刀を差し込み、スポッと抜き去った。
「めぐみん、そっちにもカエルがいるから一旦離れてもう一度爆裂魔法を…」
俺はそう言いかけて動きを止めた。
めぐみんは、力なく地面に転がっていた。
「ふ…我が奥義である爆裂魔法は、その絶大な威力故消費魔力もまた絶大…」
「つまり魔力消費が激しすぎて一日一回しか撃てないって事? 過剰に魔力を消費したせいで身動き一つ取れないのか?」
俺の問いにめぐみんはコクリと頷いた。
…マジか。
「あっ、近くにカエルが湧き出すとか予想外です。ヤバいです、食われます」
「あっ、今助ける!」
こうして俺は、何とか三日以内にジャイアントトードを三匹倒す事に成功した。
ーー
「結局私何にも出来なかったわ…」
「範囲は広大なのに一匹しか狩れないとは予想外でした。今度は纏まった所に撃ちたいです」
落ち込むアクアとふてぶてしいめぐみんの会話をステレオで聞いたため、何一つ内容が分からなかった俺は考え込む。魔力の限界を超えて魔法を使うと生命力を使う事になるらしい。
魔力がない状態で上級魔法をぶっ放そうもんなら、最悪の場合命に関わるんだとか。
「今後爆裂魔法は緊急時以外禁止にしよう。申し訳ないがこれからは他の魔法を頼んでもいいか?」
俺の言葉に、めぐみんが肩を掴む力を強くした。
「…使えません」
「…あー…やっぱり?」
「えっ、し、知ってたんですか?」
めぐみんは俺の言葉に驚愕し、思わず手の力を緩めてずり落ちそうになる。
「知ってた訳じゃないけど…」
俺とめぐみんが気まずい空気になる中、今までずっと落ち込んでいたアクアが申し訳なさげに会話に参加する。
「爆裂魔法以外使えないって、どういう事? 爆裂魔法を習得できるくらいのスキルポイントがあるなら、他の魔法を習得してない訳がないのに」
…スキルポイント?
そういえばギルドでそんな説明を受けていたな。確かレベルが上がるとスキルを覚えるためのポイントが貰えるって…
「スキルポイントってのは、職業に就いたときに貰えるスキル習得用のポイントよ。優秀な者ほど初期ポイントは多くて、このポイントを振り分けることで様々なスキルを習得するの。例えば超優秀な私なんかは職業に就いた瞬間に宴会芸スキルとプリースト用のスキルを全部覚えられるくらいポイントが多かったわ」
「成る程、つまり爆裂魔法なんて高等魔法を覚えられるくらいなら下位の魔法が使えないわけがないって事か…ん? 宴会芸スキルって何だ?」
俺の質問はアクアに完スルーされた。
まあ、いいか。それよりも…
「ずっと気になってたんだ。爆裂魔法っていう、超強力な効果範囲と威力を併せ持つ魔法を扱えるめぐみんが、どこのパーティーにも入れなかったのか」
めぐみんの表情が暗くなる。俺はその事に少し罪悪感を覚えつつも、話を進めた。
「小回りが利くような他の中級、上級魔法を使う事が出来なかったからだよ」
「…正解です。カズマには敵いませんね…」
めぐみんは悲しい顔をしながら、ぽつぽつと事情を説明し始めた。
「私は爆裂魔法をこよなく愛するアークウィザード。爆発系統の魔法が好きなんじゃありません、爆裂魔法が好きなんです」
ああ、そうか…この子は…
「もちろん他の魔法を覚えれば戦いも有利になります。ですが私は爆裂魔法しか愛せない。だってそのために、爆裂魔法を覚えるために。私はアークウィザードになったんですから!」
この子は自分の夢を決して諦めようとしない…喩えどんなに苦しくても成し遂げようとする、強い心の持ち主なんだ…
それなら、俺のやる事はただ一つだな。
「そっか…多分茨の道だけど頑張れよ。でも、いざという時は仲間を頼る事。動けなくなったら、守る人がいないと駄目だろ? 例えば…俺達とかさ」
いたずらに笑う俺に向かって、めぐみんは鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をして。
「…えっ…?」
俺は放心しためぐみんへ、続けて言う。
「ようこそ、俺達のパーティーへ」
「…いいん…ですか…? 撃ったらただのお荷物なんですよ? 仲間にしても、労力が増えるだけなんですよ…?」
「うーん、まあ確かにそうかもしれない。めぐみんは一日一発しか撃てないし、洞窟の中なんかでは何も出来ないかもしれない。でも…」
俺はまたも笑う。しかしその笑みは決して悪戯な笑みではなく、むしろ逆だった。
「何ていうか、ほっとけないからさ」
「…私も長く爆裂道を歩んできましたが…あなたのように…正面から私の爆裂愛を肯定してくれる人は初めてです。これから、宜しくお願いしますね。カズマ」
めぐみんは泣きそうな表情を何とか歪め、俺に負けないくらいとびっきりの笑顔を作りだした。