この素晴らしいカズマに祝福を! 作:名もなき駅員
「まず自己紹介しとこうか。あたしはクリス。見ての通りの盗賊だよ」
「どうも。俺はカズマです。クリスさん、宜しくお願いします!」
俺のパーティーとクリスさんの計五人で来ている。冒険者は俺だけなので、スキルを取られる心配なんかはない。
「では。まずは《敵感知》と《潜伏》をいってみよう。《罠解除》はまた今度ね。じゃあ…ダクネス、ちょっと向こう向いてて」
「ん…? …分かった」
ダクネスがくるりと回れ右し、反対を見る。
すると、クリスさんは少し離れた所にあるタルの中に入り、上半身だけを出す。そしてダクネスの頭に何を思ったか石を投げつけ、そのまま樽に入って蓋を閉めた。
…まさか、これが《潜伏》スキルとか言わないよね?
「………」
石をぶつけられたダクネスが無言でタルに近づいていく。迷いはない。何故って、タルは広場に一つしか存在していないからだ。
「敵感知…敵感知! ダクネスの怒ってる気配をビリビリ感じるよ! ねえダクネス、分かってるよね? これはスキルを教えるために仕方なくやってる事ああああああああああ!」
タルをごろごろと転がされ、クリスさんが絶叫にも似た悲鳴を上げている。
「だ、ダクネス? もうその辺にしといた方が…」
「クリスさんが可哀想ですよ…」
俺やめぐみんが制止しようとしたが、ダクネスが止まる気配はなかった。
「さ、さて。それじゃあたしの一押しのスキル、《窃盗》をやってみようか。これは対象の持ち物を何でも一つ奪い取るスキルだよ。相手が握ってる武器でも、鞄の中にあるアイテムでも、ランダムで何でも取れちゃう。スキルの成功確率は幸運に依存するけど、相手の武器を奪ったりお宝を奪って逃げたり、使い勝手のいいスキルだよ」
目を回しながらクリスさんがそう説明してくれているが、先に休んだ方がいいと思う。
「じゃあ、キミに使うよ? いってみよー! 『スティール』ッ!」
クリスさんが手を前に突きだし叫ぶと同時に、その手に小さくも重量のある物が握られていた。
それは…
「あっ! それカズマのサイフ!」
俺が言う前に、アクアが叫んだ。
「おっ! 当たりだね! ていうか、ちょっと重くない? いくら入ってんのこれ?」
「えっと、90万と少し…数万ずつ分けておけばよかったかな…くぅ、全財産スられた…」
俺の持ってる額にクリスさんは多少驚いた。
「まあまあ、とにかくこんな感じで使うわけさ。それじゃ、これは返…いや…」
クリスの笑みが少し悪くなる。
「どう、これで勝負してみない?」
「え?」
きょとんとして聞き返す俺に、クリスさんはにまっと笑みを浮かべ、ルールを説明し始めた。
「今から私に《窃盗》スキルを使って、何か盗んでみなよ。大当たりはこのダガー。これ一つで数百万はくだらないよ? どれを取っても、サイフはあたしの物。取り返してもオッケーだよ。どう? やるでしょ?」
成る程、そう言う勝負か。
勝手も負けても恨みっこなしの真剣勝負、俺は正直やりたくないが、クリスさんがこの調子じゃな…
「分かりましたよ」
「ふふっ、そう言うと思っていたよ。あ、因みにハズレはこの大量の石っころね!」
クリスの種明かしにアクア達から怒号が飛ぶ。
「汚いわよ!」
「悪質です、これは詐欺です!」
「皆落ち着いて。こういう対策もあるって事を教えてくれてるだけだろ」
「正解、これは授業料だよ。さ、やってみ」
クリスは両手を広げて無防備になる。
「じゃあ、いきますよ?」
俺はカードから窃盗スキルを習得し、クリスに向けて右手を広げた。そして、クリスと同じ言葉、スキル発動の言葉を放つ。
「ごめんなさい!『スティール』ッ!」
勝負という形ではあるが、窃盗は立派な犯罪なので一応謝っておいた。そして俺の手に収まったのは小さくて重量のある物。形的にこれはサイフだろうか? 俺は目を開けた。すると俺の手の中には…
石があった。
「あら残念、ハズレだったね!」
「…本当にそうですかね?」
「え?」
首を傾げるクリスに、俺は続ける。
「俺はこれでも運には自信があります。今までの俺の経験から考えても、恐らくこれは相当レアなものだと思いますよ」
「またまた、強がっちゃって」
クリスは手を振って否定する。
「よく見てみましょう」
この世界の鉱石の中には見分けが付きやすいものもある。魔力の溢れるマナタイトだったり、硬度の高いアダマンタイト…
そして、石の隙間から赤く光るものが見えた。
火を近づけた結果である。
「…コロナタイト…!」
「「「「えぇぇぇぇ!!?」」」」
俺の言葉に、その場にいた皆が絶叫する。コロナタイトと言えば、たった数グラムでも数千万エリスの価値を持つ伝説級の超レア鉱石だ。それがこんな塊で現れるなんて…
「当たりも当たり、大当たりだぁぁっ!」
「私が拾った石がそんな超レア鉱石だったなんて知らなかったよー! もうこの人何でもアリじゃん、あははははっ!」
俺とクリスははしゃぎだし、笑い始めた。その後話し合った結果、バイト代の90万エリスとコロナタイトは交換する事にした。
この鉱石は何かの役に立ちそうな気がするので、売らずに取っておこうと思う。
「何でよ! 売りましょうよー! 私さっきギルドのロバートさんとの賭けで報酬全部使い切っちゃって有り金ゼロなんですけどー! 助けてよカズマさーん!」
「そのコロナタイトを、是非私の杖につけてください! それだけあれば超カッコいい装飾をつけ、『ふっ、このコロナタイトに目が行くか? 笑止! 我が名はめぐみん! コロナタイトよりも熱き爆裂魔法を操りし、絶対不滅のアークウィザード!』なんてセリフが言えます!」
「おお、一説によると燃えるように熱くなると言われているコロナタイトがこんな近くに…ハッ、もしやカズマは私にそれを永遠に持たせ、苦痛を味わい続ける拷問をさせようと…!? はぅぅ! そんな事では決して私は屈しないぞ…!」
俺の後ろで騒いでいる三人には申し訳ないが、この鉱石は皆にはあげられない。
ーー
程なくして、俺達はギルドに戻っていた。
「ダクネスと愉快な仲間達~! 昼ご飯は奢るよ! 私、今日臨時収入来たから!」
「それは元々カズマのでしょ!」
「まあまあ…」
それより、俺は皆に伝えておかなければならない事がある。それは、アクアについてだ。
「皆聞いてくれ。俺とアクアは、本気で魔王討伐を考えている」
仲間になってくれた二人に、魔王討伐への覚悟の是非を問う必要がある。
「俺とアクアはどうあっても魔王を倒したい。俺達はそのために冒険者になったんだ。だから、俺達の冒険は過酷なものになる。ダクネス、お前は一番槍みたいな役所だろ? 酷い目に遭わされることもあるかもしれないんだ」
「ああ、全くその通りだ! 昔から、魔王にあれこれされるのは女騎士の仕事と相場は決まっているからな! むしろやる気が出てくる!」
ダクネスは元より覚悟が出来ていたらしい。どんなに厳しい道でもついてきてくれ…
「…ん?」
「? 私は何か、おかしな事を言ったか?」
…いや! これがダクネスだ。俺も知っていたはずだ。その上でパーティーを組んだ。今更お説教をするのはお門違いだろう。
「めぐみんはどうだ? この世で最強の存在に喧嘩を売ろうって言うんだよ。例え俺達二人だけでも成し遂げてみせるから、無理して着いてこなくてもいいんだぞ?」
その途端、めぐみんがマントを翻し、机を蹴り飛ばして勢いよく立ち上がった。
「我が名はめぐみん! 紅魔族随一の魔法の使い手にして、爆裂魔法を操りし者! 我を差し置いて最強を名乗るような者など、我が爆裂魔法で粉々に消し去って見せよう!」
…ああ、俺って、運がいいんだな。
だって、こんなに仲間に恵まれている。
俺について来てくれると改めて言ってくれた二人を見て感動していると、アクアがクイクイと俺の袖を引いてくる。
「ねえカズマ、私カズマの話聞いてたら腰が引けてきたんですけど。何かこう、もっと楽して討伐できる方法とかないかしら?」
「うーん…まあ、そこら辺も考えてみるよ」
俺のせいで下界に落ちてきてしまったアクアや、俺達のために覚悟を決めてくれた二人に無理をさせる訳にはいかない。
俺が強くならないと。
『緊急クエスト! 緊急クエストです! 街の中にいる冒険者の方々は、至急冒険者ギルドに集まってください!』
町中に響きわたるアナウンス。
魔道具的なものでやってるんだろうが、それ以前に緊急クエストとは何なんだ。
「緊急クエスト? モンスターの襲来とか?」
「恐らくキャベツの収穫だろう。そういえばもうそろそろ収穫の時期だったな」
キャベツ? キャベツって、あのキャベツ? 緑色で丸くてシャキシャキしてて、サラダなんかにすると美味しいあのキャベツ?
「カズマは日本出身だから知らないのね。ええとね、この世界のキャベツは…」
アクアが俺に解説しようとするが、それを遮るようにギルドの職員が俺達に向けて叫ぶ。
「皆さん、突然のお呼び出しすみません! 今年もキャベツの収穫時期がやって参りました!今年のキャベツは例年より出来がいいため一玉の収穫につき一万エリスになりますが、その分危険度も高くなっております! 既に町中の住民は避難されていますので、全力で収穫に取り組んでいただけるかと! では皆さん、キャベツの襲撃に気をつけてくださいね!」
何だ今のカオスな説明。
住民が避難? キャベツの襲撃?
植物にしては随分とアグレッシブな単語が乱発しているが、何がどうなってるんだ?
咄嗟に外に出ると、空に緑色の丸い何かが無数に飛び回っている光景が見えた。
アレって、もしかしなくても…
「この世界のキャベツは飛ぶのよ。キャベツ達の栄養価が高まっていよいよ収穫の時期になると、まるで食べられてたまるかと言わんばかりに空を飛び回り、大陸を渡り海を越え、最後は人間に知られていない秘境の奥で誰にも食べられず、ひっそりと息を引き取ると言い伝えられているわ。それなら、私達は一玉でも多く捕まえて美味しく食べてあげようって話よ」
「うーん分からん」
なぜキャベツが感動ドキュメンタリーを作れるほどの物語を持っているのか、なぜキャベツ相手に屈強な冒険者じゃなきゃ歯が立たないのか、そしてなぜキャベツが飛ぶのか。
…この世界は、本当に異世界なんだな…
キャベツイベント襲来。