人狼ゲーム   作:マホ

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第4話

「あなたは狩人になりました。明日以降毎晩誰か一人を護衛することが出来ます」

 その日の夜中、自室を訪れたジェフにクリスはそう告げられた。

「分かりました。ありがとうございます」

「それでは」

 一礼して去るジェフに会釈し、クリスはベッドに身を投げ出して天井を仰いだ。

「役職が無い方がありがたかったかもな……」

 あれから日が暮れるまでアーニーや、他の人にも意見を求めて考えを巡らせたが良案は一切浮かばなかった。こうなったら後は明日以降の「話し合い」の場で判断するしかないのだが、その時にクリスが何の役も持たない方が人狼候補を絞れて助かると考えていたのだ。

(役職に当たるなら、せめて占い師が欲しかった)

 等と考えはするが、なってしまったものは仕方ない。明日以降の行動方針に考えを伸ばした。

 部屋の中には窓に響く風音以外何もない。寝室は昨日とは別に割り振り直され、それぞれの部屋は孤立状態にある。物音や話し声を盗み聞きして材料を集めることは出来ないし、夜中のうちは出歩くことも禁じられている。

 これ以降はあくまでゲーム内でしか情報を得られない。

(しっかり判断出来るように、視野を広く持とう)

 その決意を胸に、クリスは眠りについた。

 

 

 各自部屋に分かれてからどれくらい経っただろうか。

サンドラは中々寝付けずにいた。

昨日は一人でも平気だった。でも、今は状況が全く違う。

今日は人狼も何も出来ない、とジェフさんは言っていた。何があっても、と。

信じていないわけではない。それでも安心して眠れるはしない。

そして、今日これが最後の夜かもしれない、という不安もある。疑われて処刑されてしまうかもしれないし、人狼に襲われるかもしれない。その対象が自分ではなかったとしても、ジェシカやソフィアがそうなる可能性だってあるのだ。

考えれば考えるほど不安と恐怖に苛まれ、目が冴えていく。

ジェシカとソフィアに会いたい。一緒に眠りたい。

そう願うサンドラの頬を涙が静かに伝った。

 

ハッ、と目が覚めた。

どんな状況下であれ、限界が来れば人間は眠れるようだ。

十分な睡眠とは言えないが、一応は眠れたおかげか昨日より不安感は拭えている。というより、これでジェシカたちに会えるという喜びの方が大きいのかもしれない。

急いでネグリジェを脱ぎ、ジェフに貸してもらった服に着替える。

(ドレス…いやメイド服?)

 黒地に白いレースで装飾が施されたメイド服のようなドレス。例え本当にメイド服だったとしても、こういった可愛い服を一度でいいから着てみたいと思っていたサンドラは、昨晩の憂鬱もどこへやら。ルンルンでグレートルームへ向かった。

 

部屋に着くと既にサンドラ以外は集まっていた。

 ただ、殆どが食事中のためそこまで遅くなったわけではなさそうだ。

「お姉ちゃんのねぼすけ」

「うるさい」

 憎まれ口を叩くジェシカに手で払う仕草をしながら、ジェシカとソフィアの間の空いていた席に座る。

 すぐにジェフがパンとスープを出してくれたので、礼を言って食べ始める。昨日も思ったことだが、村で食べるパンとは全く違い、ふわふわでしっとりとしていて口の中が乾かないのが最高だった。

「そういえばあなた達、貸して貰った服そっくりね」

 ソフィアにそう言われ、サンドラはジェシカの服を見る。確かに、ジェシカの方は黒ではなく薄い水色が基調となっているだけで、それ以外の装飾などはお揃いだった。

「ほんとだ。ジェフさんのチョイス最高だね」

「ふぁしかに」

「ほら、食べながら喋らないの」

「ううふぁい」

 いつも通りのやり取りをする双子を微笑ましそうに見守るソフィア。サンドラは、絶対この三人で村に帰りたいと強く思った。

 

 

「皆様お揃いですね、それでは一日目のゲームを開始致します」

 全員が食事を終え落ち着いた辺りで、ジェフが召集をかけ、ゲームの開始が宣言された。

「タイムリミットは日暮れまで。お昼の段階と、日暮れの少し前にまたお知らせに参ります。それでは」

 ジェフはそう言うと一礼して部屋を去った。

 が、誰も口を開こうとはしない。静かに目を伏せている者、きょろきょろと落ち着きなさそうに周りを伺っている者、険しい顔で特定の人物を睨んでいる者。

(まぁ、俺を含めて皆初めての経験だろうし、仕方ないか)

 クリスは手を挙げながら「いいでしょうか」と前置きし、アーニー・メアリー・ソフィアからどうぞというジェスチャーを受けて、話し始めた。

「とりあえず、役職を持っている方は名乗り出ませんか?」

「いいと思う」と真っ先に同意したのはアーニー。

 他の者も反対する素振りは無かった。

「私が占い師だよ。クリスは人間だ」

 バニラが手を挙げ発言する。それに続いてソフィアが手を挙げた。

「いや、違うよ。占い師は私。ローラさんが人間です」

 やはり、とクリスは心の中で目頭を押さえた。昨日の予測通り、占い師は確定しなかった。

 しかも片方は自分を占い。最悪だ。

「ソフィアって言ったっけね。アンタが狂人に選ばれちまったってことか」

「そっくりそのままお返しします」

「待った待った。二人とも落ち着け」

 バニラとソフィアの二人が言い合いになりそうだったため、クリスは急いでそれを制した。

「何故止めるんだいクリス。そもそもローラが人間だなんて、彼女が偽物である一番の証拠じゃないか。今日はローラ、明日メアリーを処刑するだけの簡単なことだろう」

「バニラ、落ち着け。まだその二人が人狼だと決まっていないだろう。どちらが本物かは一旦保留にしよう」

「クリス!何を呑気な……」

「あの……」

 バニラを何とか宥めようとしている中、ローラがか細い声をあげた。全員の視線が一斉に彼女に向き、ローラはたじろぐ。

「なんでしょう、ローラさん」

「すみません、私……」

 辛うじて聞き取れる音量でぼそぼそと話すローラに、また何か言いだしそうなバニラを先んじて止めながら、続きを促す。

「霊能者です、私」

「!!」

 驚きで口を半開きにするクリスの横で、バニラが「はぁ?」と素っ頓狂な声をあげた。

 

「騙されんじゃないよ。こいつが人間なわけあるか」

 何度説得しようとしても聞き入れないバニラに、クリスも段々と苛立ちが募ってくる。

「いい加減にしろバニラ。彼女以外に霊能者を名乗る人物が居ない以上、彼女が本物だ。間違いなく人間だよ」

「本物が脅されてるんだろう!そうに決まってる!」

「決まっていない!それはルール違反だ。人狼はルールを破れない」

「何故わかる?ジェフがそう言っただけだろう!」

 肩を掴み説得するクリスの手を払いのけ、バニラは立ち上がってローラを指差す。

「今日の処刑はこいつだ。こいつ以外認めない」

 そして全員を睨み回し、怒鳴る。

「本物の霊能者、出て来な!化け物の言いなりなんかになるんじゃないよ!」

 だが、誰も名乗り出ない。

 もういいだろう、とクリスはバニラを座らせようとした。

が、その前にメアリーが口を開いた

「いつまでこの無駄な時間を過ごすつもりなんだ?」

 バニラの目がローラからメアリーに移る。細すぎて見えないが、その目が怒りに染まっていることは容易に想像できた。

「化け物が、何を無駄だと……」

「無駄でしかないだろう。本気でローラを偽物だと考えているのか?」

「当たり前だ、お前とローラだよ、人狼は。それ以外あり得ない」

「何故?」

「お前ら以外は皆昔から周りの村で暮らしている。そして、昨日まで人狼騒ぎなんて起きたこともなかった。どの村でもだ。なのにお前ら二人が現れた途端にこれだ。お前らが人狼じゃないなら、一体誰が人狼で何故このタイミングで人を襲い始めたんだ?説明してみろ」

「こうして私たちに濡れ衣を着せられるから」

 どうせ答えられないだろ、というように勝ち誇った顔で問うたバニラは、しかしメアリーの即答によって一気に真顔に戻った。

「人狼共の狙い通りだろうな。被害者達の食い荒らされ様からして、ずっと我慢していたんだろう」

 食い荒らされ、という言葉を聞いて、サンドラがうっ、と吐きそうな声をあげる。メアリーはそれを一瞥し、失礼、と一言声をかけてから続けた。

「抑えていた食欲を発散出来て、その罪を押し付けるのに丁度いい身代わりもいる。奴らは今内心ほくそ笑んでいるんだろうな。反吐が出る」

「そ、そんなのお前の想像でしか」

「バニラ、アンタのも想像、いや妄想でしかないだろう」

「なっ」

「人狼共がルールを守る保証がないと言ったな。なら昨晩のうちに私たちを食い殺していないのは何故だ?」

「それは……」

「そもそもこのゲームを人狼共が受けること自体が不思議だろうが。さっさと全員食い殺した方が自分たちの死ぬリスクもなく安全」

 それはそうだ。昨日説明を受けた時から頭にあった話をされ、クリスは無意識に深く頷いていた。

「それをしない、ということは、人狼共にもこのゲームに参加する意味、理由があるということだ。もしくは、()()()()()()()()()()()、のかもしれないがな」

「……」

「そしてもう一つ、本物の霊能者が別に居てそいつが脅しを受けている、このバニラの妄想が仮に本当だったとしよう」

「お前……」

 妄想、という言葉に反応しまたも食って掛かろうとするバニラを、クリスはアーニーと協力して椅子に座らせた。

「では、いつ脅されたんだろうか?昨日の昼間?無理だな。役職が知らされたのは昨晩、自由行動を禁じられてからだ。昼間のうちにはジェフ以外には霊能者が誰か分からない。では夜中のうちに?なるほど、人狼がルールを破って出歩いたと?」

「その可能性は十分にあるだろうが」

「確かに、ゼロではない。しかし、ではバニラ。仮に君が人狼だったとして想像してみてくれ。()()()()()()()?」

「……!」

 メアリーの問いかけに、バニラはハッとしたように口を開ける。

「そうだ。昨晩仮に人狼が出歩いていたとしても、誰を脅しに行けばいいのかなんて分かりようがないんだよ」

「……」

「僅かな可能性として、昨日の昼間のうちに誰かに、霊能者を引いたら黙っていろ、さもないと食い殺す、という脅しをしておいたら本当に霊能者に当たってしまったとか、偶々夜中に訪れた部屋の人間が霊能者を引き当てた人間だった、なんてことも万が一には無いとは言い切れないが……」

 ここでメアリーは一度言葉を止め、全員の顔を見回した。

「そんな可能性を追う者はいるか?」

 誰からも返答はなかったが、反感を持ってそうな者はバニラ以外居なかった。そのバニラも、メアリーの論を聞いてからは先ほどまでの暴れが嘘のように大人しくなっている。

「では、ローラが本物の霊能者である。これで進めて大丈夫だな」

 ほぼ全員から賛同の返事を受け、メアリーは静かに席に戻った。

 

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