人狼ゲーム   作:マホ

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第5話

 現時点において唯一確定で人間であるローラに進行を任せる方針が固まり、やっと話し合いが始まる。

「さて、ちょっと荒れてはしまいましたが、気を取り直して行きましょう。時間も限られていますし」

「そう、ですね。すみません、私なんかが役職を引いてしまって……」

「大丈夫ですよ、こう言ってはなんですが、寧ろ引いて頂いて良かったと思いますよ。余計な疑いを持たずに済みますから」

 クリスは笑顔でそう言うが、半分は嘘である。

 モブが夜中に書斎に招いてもおかしくない人物、その一番の候補が無実だったという事実はクリスに焦りと失望を抱かせた。

「では、えっと……とりあえず……誰か、その、言いたいこと、いや、話したいこと?がある方はいますか……?」

 ローラがおそるおそるといった様子で切り出す。誰も動こうとしないのを確認してから、クリスは手を挙げた。

 ローラに、どうぞ、と促され、クリスは話し出した。

「私は昨日の昼間、色々と調べて回っていました。結果としてあまり成果は得られなかったのですが。一つ気にかかっていることがあります。それは、モブさんの殺さ……失礼、亡くなられていた状況が他の被害者の方々とまるっきり違うということです」

「そうなの?」

 と、クリスの説明に口を挟んだのはソフィア。

 それを聞いて、クリスはハッとする。モブの遺体の状況を知っているのは、クリスとアーニー、それからメアリーだけだ。

「大変失礼しました。まず、大半の被害者の方々はそれぞれの客室内、つまりは寝ているところを襲われたと見られます。しかし、モブさんは書斎で殺されていました」

「書斎…」

 ローラが呟く。クリスは一瞬迷い、正直に話しておくことにした。

「書斎、つまり起きている時に殺された、ということもですが、もう一点遺体がだいぶ綺麗であるということも差異としてあげておきます」

「綺麗…?」と首をかしげるサンドラに、メアリーが「食い荒らされていなかったということだ」とストレートに応える。

 また顔色を悪くするサンドラに、この子は人間だろうな、と半ば確信しながらクリスは続けた。

「抵抗したり、争った形跡がなかった、ってことですね。この二点から私は人狼達が、少なくとも片方はモブさんの知り合いなのではないかと考えました。それで昨日ローラさんには書斎に訪れたかどうかを訊ねたのですが、失礼なことをしました。申し訳ない」

「あ、いえ、そういう事情があったのでしたら、疑いを持たれても仕方ないかと」

「そう言って頂けて助かります」

「それで、他に候補は残っているのか?」

「いえ……現状手がかりは皆無です」

「そうか」

 メアリーの問いかけに、クリスはまた迷い、そしてまた正直に話した。

 バニラのように決めつけているわけではないが、ローラが潔白となった今でも、もう一人のよそ者でありローラとの接点もないメアリーは未だ最有力候補である。そんな存在にこちらの手札が空であることを明かすのはあまり良くないのではないかという懸念はあったが、それ以上にこの場では何かを隠したり嘘をつくことの方がリスクが高いとクリスは考えていた。

 話し合い、とは呼んでいるが結局は誰が怪しいと思うかの多数決となる。何をどう怪しいと考えるかは人それぞれだろうが、まず間違いなく何かを偽る行為はマイナスにしか働かない。

 死にたくない、というのは勿論大前提ではあるが、それ以上に最悪二回人間を処刑したら負けるゲームの、うち一回を自分が下手をうつことで消費したくなかった。

「何かこれについて心当たりがあったり、話しておきたいことがある者はいるか?」

 メアリーの問いに、少し時間をおいてアーニーが答えた。

「これはあくまでその可能性があるだけってことを念頭に置いて聞いて頂きたいんですが、この中でその条件に合う人は、僕はバニラだと思います」

「あ、あんた……」

 先ほどのメアリーとのやり取りからすっかり意気消沈し驚くほど静かになっていたバニラが、驚いたようにアーニーを見た。アーニーは慌てて両手を顔の前で振って否定する。

「違う、違うってバニラ。言ったでしょ、あくまで可能性の話だって。別に僕はバニラが人狼だなんて疑ってないよ」

「とりあえずどういうことか聞かせてくれ」

「あ、はい。モブさんは昔は麓の村によく顔を出されていたそうなんです。でもある時体を悪くしてからは、この屋敷に籠ることが多くなったそうで」

「確か俺が小さい頃にはもう来なくなっていた筈だから…」

 クリスの呟きに、メアリーが「大体30年くらい前か?」と訊ねると、クリスは戸惑いながら肯定した。

「あれ、私年齢の話しましたっけ」

「いや……外見での判断だ、気にしなくていい。しかし、そうなるとこの中の大半は彼とあまり面識はないということだな」

 今いる中で、最年長はバニラだがその次は一気にクリスまで落ちてくる。そのクリスの時点で既に会う機会が激減していたと考えれば、確かにモブと顔馴染みの候補というのはバニラに絞られる。

「あ、アタシは知らんよ!一昨日のパーティ中に話はしたが、それが最後だ!書斎なんて場所も知らないよ!」

 バニラが声を震わせながら叫ぶ。

「落ち着け。誰もそれだけでアンタを人狼と決めつけたりはしない。今は話し合いの場だからな」

「……ふん」

 メアリーの嫌味に、バニラは不満そうに鼻を鳴らすがそれ以上何も言わなかった。

(……)

 クリスは無言で、この二人が人狼である可能性について考えを巡らせた。

 先ほどの言い争いからしてあまり二人が味方同士である気はしない。が、逆に周りにそう思わせることで結果的に都合のいい方向、例えば人間側に疑いを向けるような作戦を取らないとも限らないのではないか?あくまでメアリーが人狼の一人であるという考えが軸にはなってはいるが。

 周囲の会話にチラと意識を向けると、モブが誰かの恨みを買っていなかったかどうかが議題となっているようだ。

 犯人が人狼である以上、その線を考えてもあまり意味がなさそうに思えたので、クリスは再度自分の思考に戻る。

 そしてハッとする。今のこの場で一番疑われるべきメアリーが、議題の中心から外れているのだ。

 ひょっとすると、とクリスは考えた。先ほどのバニラの暴れはこのためだったのではないか。

 クリスの住む村はバニラとは違うが、昔からそれなりに交流はあったので、性格などはある程度知っている。確かに感情的になりやすく豪快で男勝りなところもあったが、あそこまで道理が通じないというか、決めつけで人を責めるような人物ではなかったように思う。

 理不尽な暴論を振りかざして、それをメアリーが諫め、それによって周囲のメアリーへの印象を良くする。これが狙いだった、とする方が納得がいく。

 更に、メアリーはバニラの村に滞在していたという話だ。よそ者のメアリーが知らないはずのパーティに来れたのも、たまたま通りがかったよりバニラが招いたと考える方が自然。

(バニラメアリーの二人が人狼だという前提で、話を聞いておくか……)

 そうしてクリスは話し合いに意識を戻した。

 

(何もわかんないな……)

 サンドラは静かにため息をつきながら、話し合いを眺めていた。

 彼女はモブについてほぼ何も知らない。顔すらよく思い出せないほどだ。

 ただ、大人たちからとても優しい領主だと聞かされていたし、幼い頃に両親を亡くしたサンドラ達双子のために使用人だったソフィアを世話役として村に派遣してくれた上に、定期的に食糧などを送ってくれていたことは知っているので、彼が誰かから恨みを買うような人間だとは思えなかった。

「あの……」

 話が停滞したようなので、手を挙げ、その考えを伝える。

「なるほどな。だが、それはあくまで君個人の考えだろう。人間はいつどこで誰の恨みを買うか分からない。逆恨みをされることだってある。だから絶対にその可能性がないとは言えないんだ」

 メアリーにそう言われ、そういうものか、とサンドラは納得する。

「ちょっといいですか」

 そこに口をはさんだのはクリスだった。

「メアリーさんは、これで本当に犯人を特定、もしくは候補を絞れると考えていますか?」

「手がかりが無いなら色々な角度から考えるしかないだろう」

「確かにそれはそうですが、しかし今回の犯人は人間ではなく人狼なんです。怨恨から追って正解に辿り着けるとは到底思えない」

「それはそうだ」

「それが分かっているなら何故……」

「ふむ、まぁこれを言えるならクリスは人間と考えていいだろうな。人狼であれば自らに辿り着く可能性のない話し合いは寧ろ歓迎だ。しかも占い候補の一人から人間と言われており、更に欠片も疑いを向けられていない。ここでこの話題を切り上げようとするのは限りなく人間に見える」

「……」

 クリスは何か思うところがあるような顔をしているが、何も言わなかった。

「この結果を得られただけでも、この話し合いは全くの無意味では無かっただろうな。で、だ。私も別に無意味だと分かっていながら徒に今の話し合いを続けていたわけではない」

 そう言いながら、メアリーはアンナに視線を向けた。

「アンナ。君は何か言っておくことがあるのではないか?」

「えっ!?」

 アンナは、ビクッと背筋を伸ばし、そしてあわあわと口を震わせた。目も見開かれ、サンドラにも察せられるほど明らかに動揺していた。

「な、なんで私に……?」

「話を振られた上でしらを切るか。ならば私はアンナが人狼だと思う」

 メアリーはキッパリと言い切った。周囲が何故と問うより先に続ける。

「君はあの夜、書斎でモブと会っているだろう?」

 

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