その球体は何時から存在したのか。
帝国南部、大神六国と境界を区切る様に存在する大砂漠。
古代文明の痕跡がそこかしこに残る砂の大海にそれは在る。
照りつける灼熱、極寒の暗闇、そのどちらにも染まらずただ存在する黒い球体。
文献に散見する同種の球体の記録、それが同一の物であるとするのならば、
それは世界の時間から切り離された空間、切り取られた過去の世界の一部。
神話に謳われる大神戦争に於いて幾つも発生し、現在の神国を運営する
数多の神族を遥か過去から現在へと運んだ時間の揺り篭であろうと推測されている。
その様な数多の事例とただ一つ異なる点があるとすれば。
その球体がいつの時代、どのようにして発生したのか記録に無いと言う点だ。
―― 始原の球体
故にそう呼ばれている。
その球体に異変が起こっている。
最初は取るに足らない、球体の色が薄くなっている気がすると言った
通りすがる隊商が何とは無しに話していた雑談でしかなかった。
いつしか話題が商路を巡り、大神六国がそれぞれ独自に動きだした事を契機に
帝国もまた南部開拓団に幾つかの予算をつけ依頼を出す事に成った。
とは言え砂漠の中央、何をする、何かできると言うわけでもなく
幾つか定期的に
故にその出会いは偶然であり、必然でもあったのだろう。
南部の礫砂漠
「歌姫と有害な二人組」の目の前で巨大な球体に異変が起こっていた。
膨らんでいる、一部が。
膨らみは球体と化し、大きな球体から小さな球体が生えて来た形。
巨大な、周回するのに小半時はかかるであろう巨大な球体の中央から
人が一人程度は入れるぐらいの小さな球体が生まれ、分離した。
3人の開拓者の目の前で、ふよふよと漂っていたそれは。
パチンと、弾けた。
中から出てきたのは、ただひたすらに美しい少女。
肩を見せる簡素なワンピースは白く、小柄な身を包む。
いかなる理屈に因る物か、空中に浮く板に座り込んで世界を見つめている。
砂の土地では中々に見ない透き通る様な白い肌は淡雪を思わせ、
長く、足にまでかかるほど長く伸びた髪の金は控えめな色合い、
太陽や黄金の強さは無く、月の光が如き淡い輝きを纏っている。
そしてその目鼻立ちは整っている、異様なほどに。
「……神族じゃな」
小隊の野郎二名の小柄な方、痩せぎすの男が言葉を漏らした。
声を聴いてそれが振り向く。
場の空気が固体と化したが如く張り詰めた。
目が合う。
3人の開拓者はそれだけで息を呑んだ。
少しばかりの静寂、そしてそれが口を開く。
「――――――」
言葉が通じなかった。