貫かれた衝撃に、違和感が在った。
赤銅に輝く、飾りひとつ無い無骨な槍。
それを操るは末の娘、赤銅のナハース。
王と、黄金、そして赤銅の乱戦の中の隙を突かれた。
「完全な複製は無理でしたが、幾度か使ったデバイスですからね」
貫かれ、倒れ、周囲に名を呼ぶ声が響き、玉座が寄る。
だがしかしおかしい、肉体は再生されていくのだが意識が霞み。
崩壊していく。
「それでも、壊すだけなら何とかなりましたわ」
ころころと楽し気に哂う声。
夫の叫び声、弟、息子の、あれ、何で私にそんなものが。
肉体からちからが消える、たましいがくずれていく。
何故、玉座は作動しているはずとみみから音がする。
意味を考える余力も無く、ただ薄影に溶ける様に、けどなを呼ばれる。
なまえ、そうだ名前だ、私の名だ。
瞼を開く、いや既に開いていたのか、僅かに焦点が戻る。
倒れた私を支えるのはザハブ、おい旦那、お前は何してる、視界の端。
それだから肝心なところでヘタレとか言われるんだ、ああ畜生。
旦那の権能を息子の権能が防ぐ、音と声。
ナハースを相手しているのか、そうじゃないだろ、残りは僅か。
ああ畜生、本当に畜生。
やるべき事はわかる、他の手段を模索する時間も余力も無い。
かつて姉に言った、愛はいつも私の前に在って手が届かない。
当然だ、きっと記憶に無い生前の私も同じ様に生きたのだろう。
それよりも優先する事柄が在れば、私はそれを優先してしまう。
他の物を抱え込むから、届かせるための手が無くなるんだ。
「ザハブ、キミにはいろいろと背負わせることになる」
すまないと内心の言葉は漏れる事も無く、ただ死力を尽くし彼の頭を抱え。
唇を重ねる。
妃の権能の継承、妃の玉座の譲渡、確認。
ついでに舌も入れた。
童貞が固まっている、まあコイツもヘタレだからな。
とはいえまあ旦那同様のヘタレ極か、そのうち誰かに奪われるだろうさ。
さて、旦那は怒り狂うか。
まあ権能の代金だ、甘んじて恨まれろ。
騒々しい音が、していたような気がするがもう理解できない。
情熱的に食い散らかしていれば、心は伝わったのだろうか。
乱暴だが、姉の言は正しかったのだな。
闇の中に消える私の意識は最後にそんな事を思った。
―― 思い返した
自分の脳髄に残っていた、妃の大神マリカの最後の記憶。
我が主、マリクに伝える事も無い。
私を造ったのも彼なのだから、この内容も知っているだろう。
理解は出来るのだろう、だが、理解したくは無かったのだろう。
誰が彼女を殺したのか。
誰が彼女が無念の底に堕ちるまでの道筋を作ってしまったのか。
誰を仇と恨めば良いのか。
自責と他責の交錯は王の大神の血涙へと姿を変え。
幼稚な嫉妬から来た黄金への敵対は、現在ではもはや仇への憎悪と化し、
混乱の果てに真の仇である赤銅との協調すら果たし、義娘は逃げた。
いや、私が義母と名乗っても良いのだろうか。
何と無しに虚空を見上げ、思考が止まる。
「終わりが、近いのかもしれない」
突然に、無意識からそんな言葉が零れた。
何故ならば、千の夜が私を捉えた。
全てが破綻し、裁かれるべき時は近いと。
そして大神の父と娘は、どのような結論を世界に齎すのだろう。
私は ――
黒の神国、高位従属神ハラムは神殿の奥でただ瞳を伏せた。