砂と偽りのアルフライラ   作:しちご

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港湾都市ムダラアミーナを雑に

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山脈と海岸の間を閉じる関所の様な作り


04-09 天使の戦場

 

城壁の攻防は散発的に、しかし終わる事は無い。

 

尽きる事の無い石と矢が、いつの間にか造られていた外堀を埋める兵を襲う。

長梯子を掛け城壁を登る兵には、煮えた油と分厚い板が落とされた。

 

木製の板の片面には数多の刃が埋め込まれ、攻め手を巻き込み落ちた後には

取り付けられている鎖で城壁上に引き上げられ再度の機会を待つ。

 

怒号はやがて罵声に変わり、火矢が放たれ悲鳴に変わった。

 

ひとしきりの攻勢の後、後退し陣営に戻る黒の兵。

 

岩山と海岸の隙間を、閉じる様に造られた港湾都市ムダラアミーナの構造は、

黒の神国側に長く続く城壁と、帝国側に大き目の河川を持っている。

 

国境線であったときは関の役割も持っていた土地であり、砦としての質は高い。

 

「戦力の逐次投入か、どう見る」

「まあ、圧はかかっておりますな」

 

帝国側の将である領主が問えば、側近の老人が飄々と答える。

手抜きの返答に、問い手がジロリと睨めば白髭を撫でながら言葉が足される。

 

「物語のせいで兵が集まらず、一気呵成にとはいけないのでしょう」

「なら何故に悪戯に兵を削る」

 

攻城側は日毎に兵が集まり、その陣容を厚くしていた。

 

「功名心でしょうなあ」

 

本命が辿り着き参陣するまでに武功をあげたい、しかしその戦力は足りない。

何とも成らない状況で、黙って待機できるほどに出来た将ではないのだろうと。

 

「それで順次戦力を献上してくるわけか」

「本来ならば、こちらの備蓄を削る意味ぐらいはあったのでしょうが」

 

そして会話は途切れ、二人は後方の女神を盗み見る。

 

矢玉と投げ石、水と謎ペーストを生成し山積みにしている黒の姫。

一刻とかからず城壁外に堀を造り、壁面を漆喰で埋めた造物の大神。

 

「反則ですな」

「帝国は獣神を全力で保護すべきだな」

 

少しばかり遠い目をした主従は城壁の外に視線を移し、

快晴の空に幾つも棚引く煙の筋を眺める。

 

「黒い煙の本数が、減っているな」

「昨日は2本で今日は1本ですか、そろそろ到着なのですかな」

 

日毎に増える狼煙の煙は、様々な角度から集結する敵戦力に伴い、

色と数、その意味の全ては把握できずとも幾つかは判明していた。

 

「両端に赤と黄色か、これは初見だ」

「いちいち推察するのも馬鹿らしいほどに雑多でありますよ」

 

そのような会話が交わされて暫く、突然に鳴り響く敵襲を告げる鐘。

 

「また襲撃か」

 

将の変わらずな様相の問い掛けに、しかし伝令兵は急かされるよう言葉を紡いだ。

 

「はい、しかし方角が違いますッ」

 

言われて将は伝令兵の走って来た方角が、常とは違うと気付いた。

 

「帝国側河川先に、軍船2と巨神が3ッ」

 

は、と一息、受けた報告に呆けた隙は僅か表情を引き締め、帝国側を臨む。

視界の先、見間違えるはずも無い巨大な鉄塊が河川の向こうに聳えていた。

 

「岩山を、軍船を担いで機械天使で越えましたのね」

 

報告に合わせ、将へと歩み寄っていたエミーラが言葉を紡いだ。

 

四角い、簡素な鉄の箱を繋ぎ合わせた様な機械天使には様々な模様が刻まれ、

その向こうの海岸には既に軍船がその船体を浮かべている。

 

「功に焦る奴らを囮に使い、包囲してきたか」

「このままでは、海路の補給もままならなくなりますわ」

 

これは危ないと、将の顔色が変わっていた。

 

「城壁側敵勢力、攻城を再開しましたッ」

「現地各将、迎撃せよッ」

 

補給路の断絶はまだ良い、今回は城壁内に無尽蔵の補給神が存在して居る。

兵も良い、防ぐも攻めるも幾らかの差配を行い余地はあるだろう。

 

しかし、機械の巨神。

 

容易く千の兵を蹴散らす質量が行う渡河に、どのように対応できると言うのか。

 

「神代の頃、よく姉様と模擬戦で遊びましたの」

 

黒き姫の神威(アルコーン)を期待して視線を投げれば、ころころと楽しそうな声で思い出話。

今にして思えば、後の時代に必要な知識をとの姉心だったのだろうと語る。

 

「結局、一度も姉様には勝てませんでしたけどね」

「こんな風に、包囲されて潰されたりとかかね」

 

将が問い掛ければ、あらまあと意外そうな表情を見せる黒の姫。

そして、私は包囲する側でしたわねと懐かしむ様な声色で言葉を紡いだ。

 

つまりはと。

 

「私程度が思いつく策の破り方など、嫌と言うほど叩き込まれましたの」

 

言葉に轟音が重なった。

 

両断された機械天使が地面に倒れ、その質量が音と化して周囲に響く。

 

刃、赤熱した斧を振り切った緑の巨神。

 

―― 神殿戦士ジャルニートが名に於いて、銅の神国より支援仕るッ

 

単眼のアイオーンより、高らかに女性の名乗りが響いた。

同時、随伴の兵が機械天使の側の黒の兵力に法撃を開始する。

 

「銅の、神国だと」

 

巨神の争いの下、帝国と銅の法術兵に黒が挟撃を受けた。

 

「籠城したお姉さまを包囲して、今度こそ勝てたと確信した瞬間」

 

驚愕の視線を受けた姫神は、しかしまるで平素のままに思い出話を続け。

 

―― 隊長、刃を赤熱させたら3人倒れましたッ

―― うあああああ、あと何人残ってるッ

 

外部音声を切り忘れたボルジャーンから、何か酷い会話が零れ落ちる。

 

「いつの間にか引き込んでいた他勢力に囲まれ、袋叩きにされましたわ」

 

それら全てを聞かなかった事にした笑顔で、楽しそうに言葉が締められた。

 

同時、攻城の勢力にも雨の如くに法撃が降り注いだ。

 

黒の陣営に駆け付けた戦力、かと思われていた一団。

しかしその集団は今、高らかに旗を掲げ黒の神国への攻撃を仕掛けている。

 

翻る旗は、赤。

 

―― 赤の女神が命により、これより赤の神国はエミーラ様に協調するッ

 

こんな風にと笑う姫の大神に、帝国領主は溜息を吐き頭を掻いた。

 

「我らは、神国を誘う餌であったか」

「お父兄様には無くて、私に在るもの」

 

そして言葉を受けて胸を張り、高笑いをあげながらエミーラが断言した。

 

「つまり、泣き付ける姉と無理を言える弟の存在ですわああああッ」

「そこはもう少し言葉を選んで欲しいのだがあッ」

 

戦場の思惑を一蹴した結論に、もう少し外聞をと望む領主の悲鳴。

 

「アルフライラお姉さま曰く、最後に物を言うのは数の暴力ッ」

 

一切聞かず、指先で天を衝き宣言する姫の大神。

 

「畜生、女神は厄介者しか居ないのかッ」

 

悲嘆にくれる人の叫びに、真顔になった女神が静かに反論する。

 

「マリ母様はまともでしたわよ」

「つまり現存女神は根こそぎ駄目って事なのか」

 

戦場の空の上で何故か青の女神と緑の女神がバチコーンと決め顔をして、

その横で赤の女神が、私もかッと言いたげな驚愕の表情をする幻影が浮かんだ。

 

様な気がする。

 

次いでエミーラの脳裏に、獣神必殺で諸々を殴り飛ばす猫姉、邪悪すぎる末妹、

尊敬はともかく存在として考えるとアレな虚弱長女の姿が浮かんでは消えた。

 

「反論の余地がありませんわねッ」

 

明後日を向き、冷や汗を流しながらの宣言。

 

神告に帝国の未来を愁い顔を覆う辺境領主と、誤魔化し高笑いの女神。

そんな些事で首脳陣が遊んでいる間も、戦況は刻一刻と変わっていく。

 

攻城側、その後ろに巨大な影が並んだ。

 

地平の先より街道に沿い進軍してきたのは、数多の巨神。

 

「量産型機械天使、完成していたのか」

 

主神に駆け寄り添っていた二十面相が、深刻な声色で呟いた。

 

千夜文書に記されていた、四角い鉄の箱に手足を付けた様な簡素な機体。

その前面には様々な色彩の文様と、古代文字が記されている。

 

それがずらりと、軍団を形成し戦場へと辿り着いた。

 

「量産型と言われても、どう違うのです」

「少数の神族でも起動可能な、簡素な機体です」

 

ただの巨大質量、しかし人を蹴散らすだけならばそれで構わないと。

 

赤の陣よりの法術が飛ぶ、しかしその巨体は僅かに傷付くも微動だにしない。

じりじりと、轟音を立て地面を踏みしめ前進を続けている。

 

「城壁に辿り着かれたら、終わるか」

 

後背のボルジャーノンを伺うも、渡河勢力を蹴散らしこそすれ、

響き渡る内部音声からは副長までも倒れもう限界と、酷い内面が伺われる。

 

「まあ、大神でなくとも動かせるのは流石のボルジャーノンですけれど」

 

まあ仕方無しと、巨神には巨神、エミーラが前へ進もうとしたその時に、

手を翳し押し留める黒尽くめの古代神が在った。

 

「二十面相、何か問題でも」

「ご命令を」

 

その覆面を外し、神族、それも古代神特有の整い過ぎた顔立ちが露わになる。

 

「機械天使も無いのに、どうするつもりですの」

「幾許かなら、時間は稼げます」

 

姫神とその従神は無言のままに視線を交わし、何処からか黄色い嬌声が上がる。

 

「大望のため、ここまで耐えたのです」

 

大袈裟に大神の力を振るう事も無く最低限、ただ目的のための霊素の温存を、

あるいは、黒の城の最奥に永く囚われ続けた日々の事であったのか。

 

「生命には使い時が在ると、かつてあの邪神は言っていました」

「だから僅かの時間、ただの可能性のために貴方を使い潰せとでも」

 

是と応え、大神は口を噤んだ。

 

僅かの間に、戦戟の音が響き渡る。

そして命を望まれた主は、従神へと言葉を託した。

 

「アシュラーフ、そして親衛黒子衆、時間を稼ぎ必ず生きて戻りなさい」

 

言葉に、似合わない鯰髭の美形は口元を綻ばして応えた。

 

「やはり、貴女はあの邪神とは違う」

 

そして身を翻し城壁を臨み、その後ろには6柱の黒子が連なる。

いや、黒子は皆が歩みながらその覆面を外し、男女の整った容貌を表にした。

 

周囲の視線を集める中で、アシュラーフが叫ぶ。

 

「黒が従神アシュラーフ、及び旗下親衛隊、出るぞッ」

 

一同は城壁の上に立ち、軍勢と天使、そして遥か先までと視線を飛ばした。

そして引き締まったその表情が、途端に喜色に溢れた物へと変わる。

 

「どうなる事かと思ったが、間に合ったか」

 

汽笛が鳴る。

 

地平の先、帝国から歩んできた街道に黒煙が棚引いていた。

 

轟音と共に鉄の車輪が回転し、街道の石畳を割り飛ばし疾駆する。

鉄色の車体に、陰り始めた太陽の光を反射し、その巨体が姿を見せる。

 

曲線の先端に、箱の如き車体が連なる異形の鋼鉄。

 

穴居人が古代より確保し、大陸の様々にその技術を残していた伝説の秘宝。

 

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自走式鉄鉱無敵蒸気大鉄車、名はカハフ・シャヒナ ―― ッ!

 

石炭の煙を天空に吹き上げながら、疾駆する鋼鉄の質量は高速で戦陣を割り、

数多の敵兵を弾き飛ばしながら、バランスを崩し斜めに歪み。

 

そのまま轟音を上げ城壁に激突した。

 

誰もが無言であった。

 

そっと惨劇の現場から視線を外し、聞こえてくる爆発音に耳を塞ぐ。

 

何かもう扱いに困る時間が幾らか経過する。

 

そして横倒しになり煙を吹いている自走鉄車から、鉄扉が内側から吹き飛び、

中から血まみれの穴居人が顔を出し指を立て乍ら城壁の神々へと叫んだ。

 

「二十面相の旦那ぁッ、現着したぜッ」

 

改めて言葉に応と叫び返し、城壁より天空に身を躍らせる黒の神々。

 

横倒しになった車体へと吸い込まれた7つの流星は、やがて轟音と共に、

貨物車の壁面を吹き飛ばしながら、遥か天空へと輝きを以て駆け昇る。

 

それは竜か、それとも流星か。

 

いやさ紅の爪が如き質量がまずは大地に突き刺さった。

 

「ガブリエル右いいいいいぃッ」

 

そして並び立ち、大地へと突き刺さる黒鉄仕掛けの脚。

 

「ガブリエル左いいいいいぃッ」

 

脚部を覆う様に、巨大な質量が上から降臨した。

 

「ガブリエル中央ッ」

 

これは機械天使ガブリエルなのか、だがしかし、その装甲は ―― 赤いッ!

 

「ガブリエルみぎがわあぁ……」

 

接続された腕部が、これまでとは段違いに軽やかに回り始めるッ。

 

「ガブリエル左側ッ」

 

四肢が揃い、終には最後に巨大な頭を抱えたアシュラーフが合神する ―― ッ!

 

「がぶりえるヘエエェーッドオオオォォッ」

 

電光面に表示された双眸が光り、中央に生えた紅の角に紫電が疾る。

 

そう、これこそは造り直された神成る力。

 

後輩の創作に触発された創世神が設計し、製作担当に穴居人を巻き込み、

あらゆる人の力が結集されて造り上げられた新世代の偽典アイオーン。

 

同時、起動と共に内蔵されたダイバロンシステムが周囲に毒電波を発し、

敵陣深くの指揮官の言語中枢を乗っ取り、知るはずの無い単語を口走らせる。

 

「七大、合神 ―― 」

 

これが、これこそが人の世代の黎明、新たなる神。

 

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名は、ビックバン・ガブリエル ―― ッ!

 

かくて紅の守護天使はアイオーンに至り、人の戦場へと今まさに降臨した。

 

 




量産型機械天使の威風

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6/5 骨折しました、ポッキリと肋骨1本
痛いので更新遅れるか療養で暇なので早まるか、意外と何も変わらなかったりする模様
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