ビックバン・ガブリエル、その神威 ―― ダイナマイト。
落陽に染まる薄明光芒よりもなお紅く、城壁を背に威風を流す。
黒鉄の骨格、赤光の装甲、眼光は電子を纏い光輪と化し場を見据えた。
「ビックバン・ガブリエル、だと」
量産型機械天使を駆る神族兵が、脳裏に書き込まれたその名を呟く。
「呑まれるなッ、所詮は旧型の機械天使1機」
あからさまな異質、その気配を振り払う様に叫んだ隊長機の声に、
応える様に、しかし不揃いに、数多の量産型機械天使が前進を再開した。
迫る驚異の軍団に対し、ビックバン・ガブリエルは短い腕を掲げる。
「兵装展開ッ」
二十面相の声に合わせ、後背より爆音を響かせ射出された物が在る。
アルコーンとアイオーンを分かつ物、焔を纏い天空より降下する2本の棒。
その棒の先端よりも多少内に入った箇所に在るは、垂直に突き出た持ち手。
即ち、兵装。
色は赤紅か、違う、黄金か、それも違う、ならば白銀か。
その色合いを敢えて語るのならば、7柱の操手の魂を表したが如き七色の虹。
「あ、あれはもしや神話に謳われたッ」
城壁の上から臨んでいた将が、記憶に刻まれた神話の神器を想到し叫んだ。
そう、アルフライラが板に保存していた神代の神造兵装、その名は。
「ゲーミング・トン・ファーッ!」
爆炎を引きガブリエルの持ち手へと接続されたそれは、高速回転で威を示す。
「こ、虚仮威しだッ」
構わずに吶喊した機械天使を、ガブリエルは鮮やかに躱した。
気持ち悪いほどに滑らかに動く6本の脚は、かつての機械天使とは次元が違う。
これまでは操手の気合のみで動かしていた駆動系は、創世神の手に因り機体に
法陣が直接造り込まれ、劣化版とは言えアイオーンに連なる代物と化していた。
特筆すべきはその動作、重量バランスの制御が明らかに別物であり、
接地する脚がたとえ一本と成っても、僅かの狂いも無く安定した動作を果たす。
それは即ち。
「トン・ファー・キイイイィック!」
5本の蹴撃、ガブリエルキックに比べ ―― その数、実に5倍ッ!
地団太を踏む様に蠢く脚が機械天使を踏み砕き、そのままに踏み潰し、踏み躙り、
身を翻し次の標的へと相対すれば、その両手のトン・ファーを天高く放り投げた。
「トン・ファー・パアアアァンチッ!」
ガブリエルの鉤爪の如き両腕の前に三角の紋様が現れ、貫く様に前に伸びるッ。
腕と鉤爪の間に、銀色のパイプが伸び、そのパイプが鱗が逆立つ様に変形、
即座に鱗が閉じ改めて棒状へと戻る過程を見せながらどこまでも長く伸びていく。
―― システム無限拳
かつて旧神と創世神が苦心の末に組み上げた、執念の浪漫機構である。
過たず両の爪は機械天使を貫き、そのメカ次元の戦士が如き抜き手が引き抜かれ、
爪に囚われた神族操手をポイ捨てする先で、貫かれた機体が無駄に爆散した。
「な、何だその出鱈目な性能はッ」
驚愕の叫びをあげる隊長機に、しかし応える事無く突撃するガブリエル。
従来とは違い過ぎる出力、如何なる工夫が在ればその様な事が可能と成るのか。
機体頭部では、各所の操縦に集中する6柱の上部、新たな隊員である黒子6号が
機械天使時代に存在していた謎の空間に、新たに設置された装備を制御していた。
機体の追加燃料として捕獲された生贄とも言う。
手乗りサイズであった元々の知育玩具には、電池ボックスが存在していた空間。
しかし今そこに在るのは、先端に突起の在る4本の巨大な円柱。
「残量8割を切りましたッ」
「よし、まだ余裕だなッ」
かつてアイオーンシリーズに在り、アルフライラが板に記録を残していた部品。
後に小型劣化版が輪転式弾倉と共にアルムピアエールに実装された、蓄霊素機構。
名は ―― ハイパー電童電池
これまでの旅路で7柱が逆さ吊りにされながら搾り取られ続け、ひたすらに貯蓄。
その貯蓄魔素量と霊素量由来の出力は、瞬間的にはアルコーンすらも凌駕する。
そして鮮やかに、残像すら残して隊長機の背後へと回り込んだガブリエルは、
両腕に戻っていたトン・ファーを大地へと突き刺し、伸びる手で天使を抱えた。
「投げっ放しトン・ファアアアァァッ!」
胴体部前面の継ぎ目が蛇腹状に伸び、綺麗な機械天使橋が作られる。
天地逆の姿勢で大地に突き刺さった隊長機を尻目に、改めて城壁前に戻り、
しかし後続の機械天使軍団は、崩れる事も無く無機質に前進を続けている。
「きりが無いな」
機体内部で二十面相ことアシュラーフが呟き、次の瞬間に短く叫んだ。
「ファイナル・トン・ファー承認ッ!」
配下6柱の間に緊張が走り、黒子3号が凛々しい声で応答する。
「了解、ファイナル・トン・ファーッ」
そしてその手で安全カバーを叩き割り、操作盤の先のボタンを叩き潰した。
「プログラムドラアァァーイブッ」
刹那、ビックバン・ガブリエルがその全身に魔素を纏い輝きを増す。
いつの間にか両腕のトン・ファーは消え、鉤爪が前に突き出される。
「トン・ファーが無い、何故、いつのまにッ」
城壁の上で将が叫べば、横でエミーラが静かに応えた。
「彼らのトン・ファーはもはや天地と一つ、故に必ずしも必要では無いのですわ」
主が見守る城壁の前で、腕から、肩からとワイヤーが射出され地面に固定される。
全身の魔素の輝きはやがて光輪と化し、胴体部が開き巨大な砲塔が突き出された。
そんな巨大な質量何処に入っていたのかと聞きたくなるような、威容。
電池に蓄積された魔素が急激に消費され、瞬く間に枯渇する。
やがて光輪の中央に、光が灯った。
「トン・ファー・ビイイイイィィムゥッ」
世界の全てが。
「フルバアアアアアァストッ」
白く、染まる。
そして、極太の荷電粒子砲が全ての機械天使を薙ぎ払った。
電池の貯蓄を使い切り、急激に消費された霊素に顔を青くしながらも、
アシュラーフが巨神の一掃された大地を視認して宣言する。
「これが、トン・ファーの威力だッ」
まさに鎧袖一触。
全身から蒸気を吹き動作を停止したガブリエルの前に、もはや敵影は無い。
晩陽に照らされた巨神と鉄車の威風に、残る黒の軍勢は竦み静止していた。
城壁の中で怒号が響き、大門が開かれ、帝国兵が吶喊する。
大勢の決した光景を視界に記してから、アシュラーフは部下たちを伺った。
限界まで霊素を絞られた6柱は揃って白眼を剥き痙攣している。
生かさぬ様、殺さぬ様にと極限を見極めた創世神の匠の業が光っていた。
―― あの邪神、やはり封印しておくべきであったのでは
そんな内心に浮かんだ見識を流し、薄れる意識の中で静かに言葉を紡いだ。
「エミーラ様、御武運を」
届くはずも無い一言では在るが、同時に城壁の上で姫の大神が告げる。
「アシュラーフ、忠誠大儀ですわ」
必要な全ては、理想的な形での温存を果たした。
忠神の遺志を受け、エミーラは戦場に背を向ける。
振り向いた先の視界に在る物は、開戦を待つ手隙の時間に生成し続け、
今も積み上げられたままの各種物資と、昏睡し転がされているジャルニート隊。
「では、そろそろお暇の時間ですわね」
これだけ残し、戦局も決したのだから自分はもう要らないだろうと告げた。
告げられた辺境領主は、このままこの地を拠点とし攻め昇るのでは無かったのかと。
そう問い返そうとして、気が付いた。
今やこの戦場には、全てが集まっている。
黒も、銅も、赤も、帝国も。
「征きますわよ岩竜の衆、供をなさいッ」
声に応え、幾人もの男女が首元の宝玉を握りしめながら城壁を駆け登る。
「主、いつでも征けますよっと」
長である古竜ヤシュムの言に神は深く頷き、改めて戦場に振り返り臨んだ。
「エミーラ神、貴女はもしやッ」
帝国の将の疑問の叫びに、姫神は麗しき微笑みで楽し気に返す。
「次にお会いする時が在れば、その時は黒の大神としてですわね」
言うが早いか、玉座と共に城壁より中空へと飛び出した。
落下する僅かの間に、玉座を神鉄が覆い神威が形を成す。
生成された巨神は一度地面に触れ、そして軽やかに天を舞った。
頭部を覆う竜頭が引き上がり、肩口が前方に向かい格納され脚部が展開する。
魔神竜形態に移行したアルムピアエールは魔素を輝かせ加速して。
付き従うは、数多の古竜。
誰もが、空を仰いだ。
僅かに戦場の時が止まり、天を振り仰ぎ口を開け呆けた。
手の届かない場所、神の御座、竜の住処。
宵闇に染まる空を渡る、巨竜たちの影。
視界の先で、瞬く間に小さくなる姿に嘆息して将は呟いた。
「何とまあ、鮮やかに」
全てを突き放し向かわれるのだと。
此度に関わる全ての勢力は、この地に集まっている。
その全てが、置いて行かれた。
それは帝国の侵攻が此処で止められると言う意味でもあり、
横入りも終わり、現在に王の大神を守る勢力が居ないと言う意味でもある。
もはや戦は黒の神国では無く、ただの父と娘の争いに移行した。
神都強襲。
後の時代に様々な詩に謳われる、飛竜に因る神国縦断である。