砂と偽りのアルフライラ   作:しちご

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04-12 竜神の戦場

 

翼が夜を裂く。

 

空は宵の色を忘れ勿忘草へと染まり、未だ昇らぬ旭日が東の地平を燃やし尽くす。

 

黎明の空に数多舞う竜影は、断熱膨張に因り生成された水蒸気の雲を引き。

質量に乱された争嵐の高空の先、大神住まう神都の城壁を視界に捉えた。

 

光、であったのか。

 

何の前触れもなく、古竜の首が破裂した。

 

首無しと化した竜は即座に失われた魔素を補填して、可愛らしい着ぐるみ状態から

ほっそりとした精悍な竜へとその姿を変え、改めて前を向けばまた破裂。

 

「御武運をー」

 

最終的に竜ぐるみを着込んだ少女の姿で墜落する古竜が、半泣きで健闘を祈った。

 

「狙われてんぞ、散れッ」

 

そして長が叫ぶ間にもまた1匹、ゆるキャラからイケメンへと変化させられる。

アルムピアエールに追随し固まっていた竜たちは横に広がり、そこでまた1匹。

 

僅かの間、誰からと言うわけでも無く顔を上げた視線の先。

 

絢爛豪華な城郭の最奥に在る、城壁に区切られた広大な空間。

どこまでも深く、底の見えない漆黒の堀に囲まれた巨大な黒い直方体。

 

深淵より生えた墓標が如き佇まいの、黒き大神の神殿。

 

魔弾の射手は神殿の正面、石畳に埋められた広大な広場に陣取っていた。

 

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帯電した空気の中、掲げられた砲が排煙を噴き出す。

 

右脇に抱えた1門の巨大な砲塔と、左肩に円状の観測機器。

甲殻が如き装甲を纏い、甲羅の如き脚部から細い上半身が生えている。

 

砲を抱えた巨神と言うよりは、巨砲に付属する部品が如く。

 

「ええそうですわね、それが残っていましたわね」

 

音を置き風を切る世界の中で、小さくエミーラが呟いた。

 

王の乗騎ハオートと王子の乗騎ヨーベールは赤銅に奪われデミウルゴスと化し、

姫の乗騎アルムピアエールは此処に在る、ならば残るは。

 

妃の大神の乗騎、第8のアルコーン ―― アビレッシア

 

竜影が弧を描く、鋭角を折る。

 

砲塔が上がり、また1匹イケメンドラゴンが着ぐるみ男と化し墜落していく。

 

「眼下にブレスですわッ」

 

竜っていい加減な生き物ですわねと言いたい衝動に耐えながら、姫神が叫んだ。

風切る騒音の中、かすかに届いた主の命を一切の躊躇なく実行する竜たち。

 

草原が燃える。

 

僅かに高度を下げ吐かれた竜の吐息は大地を焼き尽くし、世界を焔に染めた。

 

次射、竜の角が吹き飛ぶ。

 

見えざる光は僅かに竜の鱗を削ぎ、しかしこれまでの様には当たらない。

 

「いよっし、やはり観測用の小機をバラ撒いていやがりましたわねッ」

 

草原に散布されていたアビレッシアの観測機器は、範囲に在るものは焼き払われ、

残る物も焔と熱気に歪み荒れ狂う気流の中、その性能を封じられた。

 

とは言えそれは急場凌ぎでしか無い。

 

いや、その僅かの間さえ在れば。

 

「バットダアアアアァイブ、ですわあああぁッ」

 

加速したアルムピアエールがその光翼で身を包み、砲弾と化して突撃した。

 

常識外れの航空速度で突き進む巨大質量が、アビレッシア目掛け放たれる狭間、

突如に横から正面に顔の付いた四角い自走鉄車が挟まり、その威力を受け止める。

 

いや、受け止めきれずに吹き飛んでいた。

 

「ええい、猪口才 ―― ッ」

 

足が無い。

 

姿勢の制御と追撃を臨む姫神の言葉は途中で途切れ、間を置かず権能を起動させる。

分解された脚部を再度に生成し、神殿広場の石畳を踏みしめた。

 

僅かの静寂に、土煙が吹き抜ける。

 

「そちらの方に乗っておられましたのね」

 

吹き飛ばされた四角い鉄車は、細切れの如くに分解され人型の機械に再構成された。

そのエミーラの、見覚えのない機体に対する訝し気な声に、応える様な王の言葉。

 

「まあ、一方的に奪われるだけでは無かったと言う事だ」

 

青と赤の鮮やかな色彩に、黒の紋様と金の差し色が在るやや小柄な巨神。

かつてのデミウルゴス強奪事件の時に、ナハースが乗り捨てて行った機体。

 

「最初期の偽典アルコーン、コンフェッサーズ」

 

静かに名乗りをあげれば、相対する魔神竜は軽く返す。

 

「インフェデレスの間違いではありません事」

 

刹那、踏み込み打ち込まれるアルムピアエールの黒い拳は、両者の権能に曝され、

分解と生成を拮抗させながらコンフェッサーズの掌に逸らされる。

 

回転させられた身体に、追随する尻尾が偽典アルコーンを吹き飛ばす。

 

開いた間合いに、何に憚る事も無く転身した魔神竜の拳が再度に繰り出された。

 

打ち込む。

 

受ける。

 

互いの権能は相殺され、致命の速度で双神の霊素が浪費され続ける。

 

「魔弾1発ッ」

 

輪転式蓄魔弾倉が回転し薬莢が排出された。

 

受け止められた拳に魔素が纏われ、衝撃が巨神を貫く。

しかしその威力に乗る様に、後ろへと飛び退る王の乗騎。

 

偽典アルコーン、しかも最初期とあればその出力はアルコーンに比べるべくも無い。

だがそれは、通常の神族が乗っていた場合の計算である。

 

現在の操手は、王の大神マリク。

 

対し魔素の瞬間的強化が必要なほどの、航空機故の脆弱を抱えるアルムピアエール。

こと近接に於いてならば、コンフェッサーズは及ばずともに迫る性能を見せていた。

 

ならばこそ、有利な戦場を求め魔神竜は石畳を蹴る。

 

視界の端、古竜に纏わりつかれ動けぬアビレッシアを視認しながら。

もはや邪魔は無く、この空こそが我が領分と光の翼を広げ黎明の空へと翔け昇った。

 

しかし王の大神が、それを予想できていないはずも無い。

 

近くの建物からの異なる鉄車が2台、地を駆け、片や低空に飛ぶ鋼の翼。

それらは機動の中で全てが細かく分割され、小柄な巨神に纏いつき姿を肥大させる。

 

後背に接続された機体が噴煙を吐き、その脚を仕舞う様に接続された鉄の箱。

翼持つ箱から上半身が生えている様な異形の姿、露わになる武装は巨大な回転鋸。

 

「チョウッ」

 

機体内部で負荷に血を吐きながら、マリクが古き失われた時代の言葉を叫んだ。

 

「ジョウッ」

 

そう、これぞ千夜文書に記されたコンフェッサーズの真の姿。

 

「スマッシュ!」

 

【挿絵表示】

 

超合体魔術ロボ、ギンガイザーッ!

 

完成した機体は噴煙を残し空に翔け上がり、先行する魔神竜へと肉薄する。

腕部に備わる、神鉄の巨大な回転鋸が高速に回転し甲高い音を立てた。

 

「さ、殺意が高すぎますわあああぁッ」

 

神竜が腕の装甲で、弾く様に逸らせばその装甲が砕け割れる。

 

身を裂き、砕き、歪む。

 

互いの機体を崩壊させながら、天空の舞踏は猶も続いている。

 

「尋常の出力じゃありませんわねッ」

 

僅かの間が墜落へと直結する世界で、エミーラの思考が声と成って漏れた。

 

回転鋸の刃は神鉄で造られ、複数のアルコーンを分解していた現場だから

さぞかし素材は豊富でしたでしょうね、不足、刃に権能が乗っていますのね。

 

「しかし、それでもまだ足りません」

 

アルコーンたるアルムピアエールに追随、時として凌駕するほどの性能。

様々な技術と偶然が重なって猶不足、まだ何かの要因が残されているはずと。

 

刹那、コンフェッサーズの装甲が砕け全ての理由が露わと成った。

 

「……ナハース」

 

黒き姫神は、静かな声で呟く。

 

「ナハアアアアァスッ」

 

操手たるマリクは様々な機器に杭を打たれたが如き有様で、血に染まり、

顔色を失いながらも歯を食い縛り操縦を続けている。

 

かつてのアイオーンを踏まえた、魂魄消費型と言う狂気。

 

もはや黒の王は機体に取り込まれ、その命運を終えようとしていた。

 

「ふざける、ふざけるんじゃありませんわッ」

 

過去に幾度も牢たる楼閣を抜け出し、反旗を翻す機会ならば在った。

むしろそれを望んでいるかの様な、不自然なそれを無視し続けた。

 

ただひたすらにいつか訪れる唯一の好機を、全てを覆す機会を待ち望んだ。

 

「私が何のために6千年、何のために堪えたと思っていらっしゃるのッ」

 

あらゆる憎しみを背負った王神は討たれ、偉大なる姫神が全てを受け継ぐ。

 

その様な未来は嫌だと、姫は言った。

 

その様な未来よ在れと、赤銅が嘲る。

 

鋸が砕け、竜機が胴に亀裂が走り、その腕は敵を握り、力は途切れる。

 

音は消え、重力に引かれ2体の巨神は大地へと降り注いだ。

 

接地の前、僅かの間に、互いに魔素を消費し機体を浮かせ足から着地する。

魔神竜の全身に亀裂が走り、偽典の箱が砕け細い足が萎える様にへし折れる。

 

露出する王神は新たに血を吐き、そのまま力無く項垂れた。

 

「……ようやく」

 

その瞳は何も見ず、ただ静かに最後の時を待っていた。

 

対し全身から紫電を漏らし、壊れた玩具の様にぎこちなく動く魔神竜。

 

手を伸ばす、届かない、止まる。

 

もはやエミーラに生成を成す霊素は無い。

 

「詰めが甘かったな」

 

自らに向かい伸びたアルコーンの指を眺め、王は死相の浮かぶ顔で軽く哂った。

 

コンフェッサーズは、今この時も操手の生命を吸っている。

 

声に合わせた様に、城壁が崩れ数体の機械天使が姿を見せた。

付き従う巨竜たちはアビレッシアに相対し続け、状況に気が付く者も居るが。

 

誰かが駆け付けるかもしれない、僅かの間で回復した霊素がアルムピアエールを

機械天使程度なら相手できるほどに修復するかもしれない。

 

だが、マリクの命運は確実に尽きる。

 

「それは、お父兄様の事ですわ」

 

しかしそんな父の言葉に、娘は軽く笑って言葉を返した。

宝珠が如き両の手に収まる操縦桿に全てを叩きつけながら、天に向かい吠える。

 

「今この時、間に合わなければ許しませんわよザハブウウウゥッ」

 

刹那、叩きつけられた音に神殿を揺るがされる。

 

音すらも遥か後方に置き去りにして、黎明の空を飛翔する黄金の神鳥。

並大抵の神族では全ての権能を封じられる黒の世界を、唯一踏破出来る大機神。

 

大神が駆るアイオーン、ヤルダバオト。

 

大気を打ち壊しながら変形し、轟音と共に石畳に接地した黄金の巨神は、

黒の父娘と機械天使の狭間、物言わず即座に刃を振るい鉄屑を切り捨てる。

 

「動け、動け、動け、動けえッ」

 

もはや邪魔する者の居ない父と娘の狭間に、声だけが響き渡る。

 

「お願いですわ、アルムピアエールッ」

 

指が、動く。

 

涙が散る。

 

ぎりぎりと、錻力の玩具の様な無様な音を響かせながら、腕を伸ばす。

操手は歯を食い縛り、自らの魔素と霊素を絞り尽くす様に機体に注ぐ。

 

手が、伸びる。

 

だがその指先には鉄で出来た触手が絡みつき、動きを止めた。

 

コンフェッサーズの装甲内部、自らの内に在る生贄を渡すまいとする様に、

鉄骨を切った様な雑な造りのマニュピレーターがアルムピアエールを止める。

 

止まる。

 

届かない。

 

「アルムピアエールッ」

 

赤銅の大神の笑い声が聞こえた様な気がする。

 

俯き、歯を食い縛り、それでもまだエミーラは操縦桿を前に押し続ける。

 

歯を食い縛り、顎部ジョイントが弾け飛ぶ。

 

祈り。

 

―― 主が祈り

 

アルムピアエールの砕けた足が、前に進む。

 

―― 我が拳が黒き意味、それを今知った

 

鋼の触手を押し込み、千切り飛ばしながらその掌が機体の内部に届く。

 

―― 赤銅よ、貴様の光に染まらぬためだ、黄昏に抗う意思を貫くためだ

 

押し込み、贄たる大神を呪いの機体から引き剝がしながら、操手たる姫が口を開いた。

 

「貴方、喋れましたのおおおおおおぉぉッ」

 

エミーラをして、6千年を経て初めて知った驚愕の事実で在った。

 

そして機体を貫き、大神を握る巨神の拳が生体粒子砲で切り落とされる。

ボトリと黒い拳が地面に落ちて、生体装甲を纏った誰かに神が攫われる。

 

「にゃああああぁッ、抗うための黒い拳とやらが早速にですわああああぁッ」

 

余りの展開の急激さについていけない姫神が、錯乱した叫びを上げた。

 

崩れ落ちるアビレッシアから離脱した操手は、一角鬼が如き生体装甲を纏い、

黒の王を回収して、玉座と共に墓所が如き黒き神殿へと飛び込んでいった。

 

気が付けば既に、機械天使も残っていない。

 

「逃がしませんわ、自決なんかさせずに捕縛して国中引き摺り回しなのですわッ」

 

血を吐き脂汗を流しながら、それでもエミーラは玉座と共に機体から飛び降り、

僅かな回復を綺麗に消費し、底の見えない深い堀に石橋を生成して追撃を掛ける。

 

後を追うは竜の長、そして黄金の大神と、肩車で運ばれる燃料担当こと銅の聖女。

 

全てが神殿内に駆け込んで、遅れ駆け付けた竜の着ぐるみな男女は立ち止まり振り向く。

視線の先には神都の戦力、石橋を渡ろうとする神都の騎士たちと従う兵。

 

主の邪魔はさせじと竜人は消耗した身体を奮い立たせ、そこへ老いた獣人たちが並んだ。

 

槍を構え、橋に向かい構える。

 

ぽかんと、竜の口が開いた。

 

「ここですな」

「うん、死守でお願い」

 

橋は、もう1本在った。

 

そして幻の様に消えていく後付けの橋たち。

 

短い別れを経たアルフライラはそのままに神殿に入り、開拓者たちも続く。

残された者たちの視界に堀に掛ける移動橋が見え、騒がしい兵たちの狂乱も見える。

 

今暫くは数えるも、いずれは落ち着き追撃の手は神殿に届くだろう。

 

「何と素晴らしき祝福か」

 

老人たちは槍を構える。

 

「我らの様な者にも、死に場所を与えてくださった」

 

寄せ来る者は多い。

 

王がためかも知れず、姫のためかも知れない。

だがその悉くをこの場に留め、大神たちが選ぶ未来の邪魔をさせない。

 

正しく、黒の神国の未来のために。

 

「我らが畏怖と敬愛の全てを、アルフライラ様がために」

 

疲労に座り込む竜たちの前で、老いた獣人たちは静かに宣言した。

 




墜落して戦線離脱していった竜

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