砂と偽りのアルフライラ   作:しちご

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Extra 黄金郷想記

 

草満ちる荒野を隊商が行く。

 

【挿絵表示】

 

雨季に生命を取り戻した大地は新たな緑を作り、枯れた色の草原を彩っていた。

道中は枯草色の多い草原、緑に溢れた草原、緑まばらな湿地と様々に移り変わり。

 

時折の樹木に続く街道、野生動物と混ざる魔物、全てを抜けて隊商は村へと至る。

草原を越えて岩砂漠に近い荒野、昼の日差しを避ける様に一行は荷を降ろす。

 

早速に商人たちは村長と語らいを始め、売り買いの算段を付けだしていた。

 

そして護衛に雇われた開拓者たちは離れ、神殿に寄り宿と酒を求める。

 

昼なお暗き神殿酒場は石造りで天井が高く、夏の日差しに世界が燃える南中の今も、

涼しげな空気を保ち幾人かの年老いた村人系酔っ払いが管を巻いていた。

 

神殿と酒造が同義の土地は多い。

 

個別に商う事が可能な人口を持たない小さい村などは、神殿は運営費のために酒造、

そこから転じて村の酒場、及び旅人などを持て成す宿場を兼任しがちである。

 

そんな場で、板娘の姿が消えたいつもの3人は銅貨を捧げ、酒と昼食を確保した。

 

塩漬け牛肉の煮込み、芥子菜種(カスー)と呼ばれたそれは赤の神国由来の汁物と神官が語り、

その名の通りに芥子菜種で味付けされ、強い辛みを汁にもたらしている。

 

「アルの奴が、まず厨房に向かっておった理由がしみじみとわかるのう」

 

水で割った葡萄酒で喉を潤しながら、汁を口にしたハジャルがしみじみと語った。

 

「塩辛ぁ」

 

眉を顰めたマルジャーンの言葉の通りに、出されたカスーは塩と芥子が強かった。

土地柄は岩砂漠も近い荒野の夏であり、塩分は必要だがそれでも少々度を越していると。

 

「まあ、肉が入っているから贅沢ではある」

 

特に深みもない塩の煮汁に、芥子菜種で味を付けた硬い牛肉汁。

顎が鍛えられそうだと呟きながらも、サフラが短く感想を締めた。

 

周囲を見れば銅貨ではなく銅片を捧げた駆け出しの開拓者組は、

玉葱と豆の煮物、それに発酵乳を絡ませた物を食べている。

 

あれは何かと神官に問えば、玉葱豆(スムグ)と応え赤の料理だと追補。

 

「こうも赤尽くしと言う事は、此処は赤の神殿じゃったのかの」

 

神官はそうですねと朗らかに答え、習合はしているが赤の大神を主に祀っていると。

何でも村自体が、滅び去った旧き銅の神国から亡命してきた者が作ったのだと語った。

 

銅の聖女とは別口であったが故に、黄金ではなく赤を祀っているらしい。

 

「まあそのおかげで、多少は赤からの交易の口なども在りまして」

「料理なども伝わっておると、そう言う事じゃな」

 

聞きながら葡萄酒割りを傾け、追加の銅片を捧げ玉葱豆も頼む始末。

 

「山羊乳か、少し癖が在るがまあ良い口休めじゃな」

「塩辛さが野菜と発酵乳で癒されるわあ」

 

などと癒されながらも、どこか味が足りないと納得のいかない表情の2人。

次いで突撃厨房の昼ご飯系特級調理神の存在感に気付き、愕然とする。

 

かくしてもはや酒、呑まずにはいられないと呷る酔っ払いたちを眺めながら、

ふと思いついた疑問を、疲れた表情のサフラが言の葉に乗せた。

 

「思えばアレと張り合えるイルドラードの店主は、何者なんだろうな」

 

答えの無い疑問は石畳に吸われ、神殿酒場の音の中に消えていった。

 

そんな疑問を抱かれた宿場酒場店主は、今日も砂漠で陽除けに飯を出している。

娘が砂の上で大神2柱に挟まれ悲鳴を上げているなど、想到出来るはずもなく。

 

夏に入り隊商も減り、開拓者だけが屯する酒場の暗がり。

 

「肉、頼まずにはいられないッ」

「そんなわけで、今日は3人分お願いします」

 

「えと、お願いします」

 

そこでいつもの様に元気な少女と落ち着いた太い青年、難民あがりの幼女の3人組、

通称幼女ハーレム組が席を取り、珍しく賄い以外の飯を注文した。

 

間引きと素材売りが好調で、肉を頼める程度には小銭を稼いだらしい。

 

「ほれよ、本日の肉料理」

 

どんどんどんと、器に入った肉の汁を3人の前に並べる店主。

日替わりの肉料理は安価で提供されており、駆け出しが賄いの次に頼む品目である。

 

本日は塩漬け牛肉と玉葱の芥子菜種煮込み。

 

塩漬け牛肉が入ってきたので、赤の神国風に煮込んでみたと語った。

 

「辛ッ、旨ッ、肉柔らかッ」

「これは牛の塩漬けだけの辛さじゃない、『マスタードシード』かな」

 

即座に口に運び、それぞれに騒がしい横で幼女は一心不乱に食べ続けている。

 

「ますたあどしいどが何処の言葉かは知らんが、それはカスーだな」

 

芥子菜の種を赤の神国ではカスーと呼び、その料理の名でもあると説明が入る。

 

「でも、塩と芥子菜種だけじゃこの汁の深みは出ませんよね」

「玉葱と牛の出汁(フォン)じゃないの」

 

「お、わかるか」

 

太目青年の疑問に、店主は破顔して料理の肝を簡単に語った。

 

「牛肉を刻んだ玉葱と一緒に麦酒に漬け込んで、氷室に置いておいたんだ」

 

そして肉の筋が解けて脂に変わるまで、じっくりと長時間煮込んだと告げる。

 

「そうか、麦酒が汁の奥深さを、肉の繊維に染みた酒精が味の豊かさを保つのか」

「玉葱の酵素で肉を柔らかくしているのも見逃せないね、肉自体も熟成が進んでいる」

 

「いやお前ら、料理出来ないのに何で無駄に詳しく理解できるんだよ」

 

話に加わっていない幼女は、小さい両手で器を持ち全力で汁を飲み干していた。

 

そんな騒がしい席に横から、女性相互扶助党首が姿を見せて店主に話しかける。

その表情が苦悶に満ち、ふらついているのは二日酔いに耐えているからである。

 

「店主ー、今日の賄いは何よおおおぅ」

 

自分の声の反響にやられ頭を抱え、ハーレムの横の席に突っ伏す様に座る。

 

「肉が赤由来だからな、賄いも赤で玉葱豆(スムグ)にしてみたぜ」

 

出された皿には瑞々しい玉葱と煮豆、香辛料の香りが漂う発酵乳が和えられていた。

 

「うあああぁ、染みるううぅ」

 

匙で口の中に運び、水で流し込んだ党首が断末魔の嬌声を上げる。

そしてせっかくだからと追加で出された皿に青年が口を付け。

 

「発酵乳に馬芹(クミン)が混ぜられていますね」

「ああ、道理でサッパリしているのに料理に食べ応えの強さが」

 

ちなみに幼女は一心不乱に匙を動かしている。

 

「お前らって、実は青の神国の生まれだったりすんの」

 

無駄に確か過ぎる料理評に呆れ半分な店主の疑問と、何とも言えない苦笑いの2人。

 

今日もイルドラードの陽除けは、そこそこに騒がしく奏でられていた。

 

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