砂と偽りのアルフライラ   作:しちご

126 / 217
Ex-14 6099A.D.

 

中空の画面には大樹が示されていた。

 

アルフライラと管理局の爺は、施設中枢に干渉し今日も惑星環境を整えている。

荒廃した大地に聳え立つ、天を衝き雲を従えるほどの巨大な樹木。

 

その根は揺るぐ事無く大地を掴み、緑に彩られた枝は伸びやかに空を目指していた。

 

世界樹と仮称された、植物系の大気調整ユニット。

 

「とりあえずは、新人類が死なない程度の構成比率には成ったかな」

「ワシらが生きるに足るには、あと千年はかかりそうじゃがな」

 

かつて、森は酸素を作ると言う俗説が存在した。

 

樹木と言うものは光合成などで酸素を排出する物と思われがちだが、夜間など、

光の当たらない時間帯は普通に呼吸をして二酸化炭素を排出している。

 

通しの酸素と二酸化炭素の消費と排出はかなり釣り合っており、

緑化を果たしたからと言って、途端に惑星上の酸素濃度が増すと言うわけではない。

 

では何の意味もないのかと問われれば、そうでもないと言う回答が返ってくる。

 

酸素濃度が高ければ多めに消費し、二酸化炭素濃度が高ければ多めに光合成を行う。

つまり惑星上の大気を構成する、様々な要素の調整を行っているのが植物であった。

 

それらは生きるための性質でもあるが、恣意的な運用を行える世界樹は機能が極限まで高く。

 

延々と行われる生存と惑星改造、下に人が生きる世界があれば大惨事以外の何物でもない、

巨大な落葉は土と化し荒野を覆い、落ちた枯れ枝は岩を砕き砂と混ざりあう。

 

岩石より吸い上げた水は大気に放出され、雨雲を作り世界の循環に乗る。

やがて循環する水が地に渓に湖に満ち、生いし草木は深く土に根差した。

 

施設の権能をフルで活用した上での、僅かな年月での成果である。

惑星一個を書き換える手間に比べれば、こちらの方がコストが良いとの判断であった。

 

―― すると、私の役割もそろそろ終わりでしょうか

 

ふおんと音がして、画面に無機質な仮面が表示され合成音声が響く。

植物ユニット制御用の仮想人格、施設との接続がされているそれからの通信である。

 

そして製造者たちがそうだねと答えたあたりで、どたばたと足音が響いてきた。

 

「姉さま姉さま、何ですあの顔がいっぱいある新しいアイオーンッ」

 

肩口に切りそろえた黒髪をなびかせて、黒猫弟ことキットゥ・アスワドが駆け込んでくる。

その言葉に、先日に作ったAI内蔵の太陽のアイオーンの事であろうと姉は察して。

 

「実は内部に生命の樹と第四、第五の顔があるのだ」

「ふおおおおぉ、人間が抱くべき生命たる太陽とは内外に様々な側面が在るのですねッ」

 

「やだこの子、理解がハンパ無い」

 

置いてけぼりの長女と爺と仮面の前で、黒猫は着々と考察を発展させていく。

 

「すると外面の3つの顔が示す物は、もしや過去、現在、未来」

 

結論に至った少年は、キラキラとした瞳を姉に向けて問い掛けた。

 

「暗い過去を越え、情熱を胸に輝ける未来を目指すための象徴なのですねッ」

「えー、あー、うん、きっとそんな感じ」

 

無垢な瞳の圧に負け、目を逸らしながらアルフライラは適当な言葉を返した。

そのまま口から考察が零れ落ちる弟に、若干迷惑そうな気配で生成した物品を渡す。

 

両手で抱えるほどの大きさで不壊付与された、赤い陶器製の先端が丸まった短めの円柱。

その球状の部分には、ぎょろりとした二つの眼が作られていた。

 

「この椅子あげるから隅っこで座ってなさい」

 

「椅子、椅子なんですかこれッ」

「え、椅子なのそれ」

 

そしてアルフライラは、周囲の無理解を華麗にスルーしつつ画面に向き直った。

アスワドは隅っこで、そうか、瞳とは宇宙に繋がっているんだとか言い出している。

 

「で、世界樹を破棄するとしてどう始末つけるべきかな」

「とりあえず切り倒しておけば、その衝撃で勝手に砕けて土に変わるかの」

 

短い対話ののち、改めて画面の中の仮面に対し少女は宣言した。

 

「伐らせろ」

 

―― ッ、人類っていつもそうですね、植物の事を何だと思ってるんですかッ

 

的確な対応をした世界樹の反応を流し、施設中枢へと命令文を打ち込む。

 

「切り株が残るのはどうするのじゃ」

「石化させてエアーズロックと言い張るとか」

 

―― や、やめろおおお、貴様らに人の心は無いのかあああぁッ

 

言っている内に、画面の中の世界樹たちが奇麗に切り株を残し伐り倒される。

画面にノイズが走り、表示されている仮面が薄れて消えていく。

 

―― お、おのれえ、7度生まれ変わろうとも必ず恨み晴らさでおくべきかああぁ

 

「しまった、これじゃグランドキャニオンだ」

「古代語で言われてもどう違うのかさっぱりわからぬ」

 

「いやこれ無視していて本当に良いんですかッ」

 

末期の水を辣油にすり替えたかの如き世界樹の絶叫に、猫の良い弟が慌てて問う。

そんな少年を慰めるかのように、何もない画面の中に仮面が浮き出して言葉を紡いだ。

 

―― 哀しいけどこれって、生存競争なのよね

 

「って、普通に生きてるッ」

 

姉と爺は遊ばれている弟を放置して、倒れた世界樹の破片を変質させていく。

 

―― と言うわけで、新しい身体とか欲しいとこなんですが

 

「魔素ネットワークへの対話型端末にでも放り込んどこか、鏡とか」

「数が在るからのう、本体はネットワーク上に常駐させて株分けさせるのはどうじゃ」

 

―― おいやめろ、早速に新しい仕事を押し付けようとするな

 

お気楽な会話に、この人らに真面目に対応して損したと頭を抱える黒猫少年。

そんな有様に姉が振り返り、押し付けた怪しい物品について聞いた。

 

「で、椅子はもういいのかな」

「いや、この椅子凄く座りにくいんですけど」

 

身も蓋も無い感想に、アルフライラはしみじみと作品の名称を告げた。

 

「座る事を拒否する椅子だからねえ」

 

その言葉に、はたと何かに気付いた風情のキットゥ・アスワド。

 

目を輝かして考察を語る弟に、眩し気と目を細める姉が居た神代の日であった。

 




椅子の行方

【挿絵表示】
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。