砂と偽りのアルフライラ   作:しちご

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01-08 塩の砂漠

朝の光を受けて砂が赤茶けたその色を見せた。

石英を主体とした輝度の高い砂では無く、鉱物を含んだ赤い砂。

 

隊商が今回の目的としている塩の村の周辺を埋める砂であり、

遥か古代に海を区切るかの如く隆起した山塊の成れの果てである。

 

その様な赤茶けた砂地に、日干し煉瓦の群れが見える。

昇りきる前に村に着いたかと、隊商と3人と板が安堵の息を漏らした。

 

砂漠の中には、幾つかの塩の村が在る。

 

砂漠地帯にも平野と同じくそれなりに岩塩鉱と言う物が存在し、

当然の如く、その近くには製塩を生業とする集落が出来る。

 

交易の道は時折、塩の道とも呼ばれる。

 

交易路を回る隊商の目的の一つであり、仕入れた塩は

近隣の村々にも販売してそれなりの利益が出る事になる。

 

「闇塩ともぐりの商人は見つけ次第打ち首じゃがな」

「まあ、国営だろうしねー」

 

村の中にて荷物を降ろす駱駝の隊列を眺めながら、

護衛で雇われた一行がひと時の暇を憩う頃合。

 

「とは言え、開拓者が懐に忍ばせる程度は制度の内よ」

 

ぷらぷらと買い付けのため建物の間を抜け、塩鉱へと歩む一行。

 

【挿絵表示】

 

「家が半分埋まってるのだけどー」

「掘りだしてもまた埋まるからな」

 

踏みしめる砂に半ば埋まっている建物を見た少女の言葉に、

板から滑り落ちても拾える位置に居る剣士が、道理を語った。

 

そのうちに村の外れに出て、視界が開ける。

 

塩の砂漠。

 

赤い砂丘に囲まれる様な形に存在する、白い平原。

砂避けの柵の中に切り出しの穴が在り、人の往来が見える。

 

とは言え際限なく気温の上がる時間帯、そのうちに居なくなるだろう。

それよりも初見の少女にとって、気に成る光景がそこに在った。

 

【挿絵表示】

 

「塩の砂漠の枯れずの枯れ木ね」

 

視界の先を見て得心した姫が、砂漠の異物の名称を口にした。

言葉通り白い塩原に、黒く干乾びた枯れ木が幾本も立っている。

 

「何千年もそのままの姿を保っておると言い伝えられておるの」

 

博士の言葉に、黙考していた少女は察した風情で声を出す。

 

「ああ、『バクテリア』が居ない気候だから腐敗が始まらないのか」

「ふむ、わからぬが何かの道理が在ると言う事じゃな」

 

ともあれ地元の聖地故に余所者が近寄ってはならぬと、

微妙な距離のまま人を見つけ交渉の場に移った。

 

「まあこうして、売り物にならぬ二等三等の塩をな」

 

革袋に多少歪な色付き塩塊を得る頃には日も中天に在り、

割り当ての小屋で日差しを避けて戦果の確認をする。

 

「二等三等と言うが、正直変わりは無い」

「隊商で運ぶならと、白塩や結晶が好まれとるだけじゃからのう」

 

流石に酷いのは砂混じりではあるが、などと男二人が塩を語った。

 

「まあ馴染みじゃから譲って貰えたが、何でも最近は品薄じゃとか」

「隊商もやたらと売れ行きが良いと言っていたな」

 

見知らぬ人種の商人も見かけたし、繁盛しとるのうと所感を零す。

 

「ふむり」

 

何某かの言葉が気になったのか、黙考に入る少女。

 

「何ぞ気になる事でもあったかの」

 

「ああいや、塩の村はどこも鉱山なのかな」

「村によっては塩泉から水を汲み、塩田を作っておったりもするのう」

 

一人静かな姫は板の端に潜り込み、脱力のままに溶けている。

その様を見て苦笑した博士が、会話を切り袋から緑色を取り出した。

 

「早採りの胡瓜じゃ、朝から井戸に漬けておったそうでな」

「胡瓜ッ」

 

聞くや否や、板に溶けていた死体が蘇る。

 

「うー、生き返るわー」

 

パキパキと小気味良い音を響かせ、1本が手早く姫の胃に収まる。

早採りは緑に濃い色のイボが付く、皮の厚い品種である。

 

「これに塩を削ってじゃな、これが溶け難く野菜に合うのじゃ」

「胡瓜は果物よ」

 

時折、塩にも産地に因り何らかの違いが在るが、砂漠の塩は

総じて湿気に強く、野菜などにかければ溶け切らず結晶が残り易い。

 

「いや野菜じゃろ」

「果物よ」

 

削った岩塩を付けながら、黙々と胡瓜をしつつ益体の無い会話。

 

平野では総じて野菜として扱われがちな胡瓜ではあるが、

砂漠地帯など高温の地域では、胡瓜を果物に数える土地が多い。

 

「ええい強情な、そこな神は胡瓜を何と判断いたしますかじゃッ」

 

「野菜かなー」

 

「ほれ神託が下ったぞ、やはり胡瓜は野菜なのじゃッ」

「ここは帝国よ、神に頼らぬ人の国なんだから聞けない話ねッ」

 

上がり続ける気温に釣られたかのような熱気はひたすらに上がり、

熱を避けて横に成っていた剣士の顔に疲労感を添付した。

 

余談だが、帰還後に宿場で聞いてみれば結構果物派が居たと言う。

 

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