砂と偽りのアルフライラ   作:しちご

133 / 217
Ex-Ex 千夜探検隊

 

昼なお冥き密林を集団は歩む。

 

砂利が撒かれ整備された道のりは、打たれた枝の隙間からの陽光を受け、

2柱と4人の開拓探検隊は揃って鍔広な防暑帽を被り、前人未到の秘境を征く。

 

【挿絵表示】

 

「注意勧告、姉さん以外はなるべく枝の下を通らない様に」

 

砂利道の中央を歩む詩神ジャマールが警告を発せば、相方以外が頷いた。

 

「何か理由がわからないのは私だけみたいだけど、何でなの」

「一目瞭然、あんな感じになるんです」

 

そう言って示した先にタサウブが視線を向ければ、蛇行する浮遊板。

 

鍔広の帽子を弄って遊んでいる少女神は、板の操縦が微妙に疎かであり、

時折にふゆふゆと斜行しては、道の中央に戻る事を繰り返していた。

 

そして枝の下を通る度に、何かがぽとぽとと落ちて障壁に弾かれる。

 

「うげ」

 

警戒心皆無な板神結界に弾かれたそれを見て、少女は引き攣った声をあげた。

 

蛭である。

 

時間をかけて木に登り、枝の下を通る生き物目掛けて飛び降りる生態であった。

結構に頻度が高く、気が付かない内に吸い付かれている事も珍しくは無い。

 

「まあ、帽子が在るから大抵は弾かれはするがの」

 

なので鍔広じゃと、防暑帽を改めて被りなおしたハジャルが補足を入れる。

 

「ああ、あれはッ」

 

蛭を避けながら進んでいれば、、突然のマルジャーンの驚愕。

最前で斥候として、わざとらしく左右を伺っていた彼女が木の枝を示した。

 

矢印が書かれた木の板が、革紐で括りつけられている。

 

「ぬう、あのような精巧な作りは現代文明でも難しいぞよ」

「驚天動地、この様な前人未到の秘境に人の痕跡が在るなどと」

 

「いや普通に順路の指示を括りつけてるだけですよねッ」

 

謎に盛り上がる1人と1柱に、流れに乗れていない少女が叫ぶ。

 

「そして我々探検隊は、心を引き締めて道をきゃー」

 

ナレーションを入れていたアルフライラの発言は、途中で悲鳴と化した。

性懲りも無く枝の下を通った彼女に襲い掛かる、太く、長い影。

 

そう、大蛇だ!

 

剥製の大蛇が尻尾の側から降り注ぎ、障壁に弾かれ転がった。

 

突然の危機に一行の間に緊張が走る。

だが、蛇の猛攻は始まったばかりであった。

 

樹木の陰から、投げられた様にぽいぽいと飛んでくる数多の毒蛇たち。

集団を庇う様に前に出たサフラは、素手でそれらを叩き落とす。

 

「なんてことだ、ここは毒蛇の庭だったのかー」

 

道端に置かれた小道具を指し示し、少女神が驚愕の棒読みを叫んだ。

示された足元には、何かで磨いた様なピカピカの髑髏が転がっている。

 

「まんぐうすを放つのじゃッ」

 

ハジャルの言葉に、物陰に潜んでいたまんぐうす獣人のスタッフが姿を見せ、

その透明度の高い肉体に密林を映しながら、黄金の鉤爪を放つ。

 

同時、精神感応型の光線法術が樹木の影より放たれ、交差する。

 

―― ノックをするべきだったかな

―― いいさ、俺とお前の仲だ

 

そう、コブラとマングース、今まさに宿命の二人は相対した。

 

「今じゃ、まんぐうすが毒蛇を相手にしている隙に逃げるのじゃッ」

「すたこらさっさだぜー」

 

「いやまんぐうすって何なんですかッ」

 

慌ただしく砂利道を走り逃走する一行に、新たな危機が襲いかかる。

上り坂になっていた砂利の上から、製材された丸太が転がってきたのだ!

 

前人未到の秘境の奥地で、何故に製材された丸太が存在するのか。

実は製材された丸太と日本刀は、土地によっては自生している。

 

故に坂道を転がり落ちていても不思議ではないのだ。

 

そしてごろごろと転がる丸太は、石にひっかかり坂の途中で止まる。

身構えていた千夜探検隊の前に、物陰からスタッフが姿を見せた。

 

日に焼けた肌で全身に紋様をペイントした、長耳の女性である。

頭頂が隠れるほどの大きな羽飾りを被り、木弓を腰に下げている。

 

「じゃ、いきますよー」

「いつでもー」

 

丸太にとりついた森人の女性が声を掛け、アルフライラが返答する。

よいしょと小さな掛け声と共に、丸太が再び転がり落ち始めた。

 

「ぬうう、避けるのじゃッ」

 

ハジャルの叫びに応える様に、一行は道の左右に分かれ丸太をやり過ごし。

 

「ふう、あぶないところだったー」

「いや今の女性何なんですかッ」

 

流れもしない額の汗を拭う少女神に、問い掛け叫ぶ開拓少女。

 

「そんな些事に拘っておる場合では無いぞッ」

「囲まれてるわね」

 

しかしそんな疑問に答える隙すらも、密林は与えてくれない。

 

ハジャルとマルジャーンの警句に周囲を伺えば、一行を囲む様に、

樹木の影から、岩の上に、砂利道を塞ぐように、数多の半裸の人影が在った。

 

【挿絵表示】

 

森人(エルフ)である。

 

泥を塗られた肌は白く乾き、粘土で造られた被り物を被っている。

 

誰ともなく泥の人影は、片足を斜め前に出す。

そして身体を引き寄せる様に前に進んでから、逆の足を出す。

 

ゆっくりと、左右にゆらゆらと揺れながら段々と距離を詰めてきた。

 

―― 大いなる仮面は森の中に在る

―― 誰もそれを造った者は居ない

 

いつしか泥の集団は謳う様に呪文を唱え。

 

―― 大いなる者はアルアルドの岩を打つ

―― 岩は3つに裂け血を流す

 

「く、何をするのじゃ」

「何をするだー」

 

気が付けば一行は担架の様な物の上に乗せられて、

落ちない様にと編み紐で固定されていた。

 

―― 血は固まって神と人となる

 

そしてえっさほいさと坂道を登り運ばれた先には、河を挟む形の集落。

河川程度の流れは小規模な渓谷であり、弧を描く橋が幾つか架かっている

 

渓谷の両岸には道が在り、道沿いに木造の建築が軒を連ねており。

そして時折、土産物とか茶屋などと書かれた布が垂れ下がっていた。

 

やがて辿り着いた先で男女に分かれ、身ぐるみを剥がれた後に湯衣を着せられ、

その後は衝立で区切られた人茹で釜で、のんびりと全員が個別に茹でられる。

 

「湯加減どうですかー」

「よいかんじー」

 

釜の下で火を焚く泥人の問いに、溶けた様な脱力声で応える千夜神。

やがて良い茹でだったと湯上りに、浴衣に着替え宿の部屋へと案内されて。

 

草を編み板の様にした敷物が敷き詰められた、平屋な木造建築の一室は、

木枠に紙を貼った簡素な造りの扉で区切られ、2柱4人が浴衣で揃った。

 

軒下の風鈴の音が鳴る中、一同は団扇でぱたぱたと身体を扇ぐ。

視線の先には庭が在り、その中で土の小山を掘り返す泥人の集団。

 

土の下には熱に炙られ黒く成った枝と葉が積まれ、その下に包み。

 

大き目の葉で包まれ、蔦で縛られた幾つかの物体が次々と姿を見せ、

その横に積まれていた芋や大きめの豆の莢などを取り出していく。

 

大地の鍋(パチャマンカ)と言います、私たちの郷土料理ですね」

 

いつの間にか先ほど丸太を転がしていた羽根飾りの女性が控えており、

泥人たちが食器の上に並べている何かの説明を始めた。

 

石を積んで作った窯で火を焚き、燃え差しに野菜や葉で包んだ肉や魚を置き、

その上に葉の付いた枝を乗せ、土を被せ土中で蒸し焼きにすると。

 

説明を聞きながら一同は、ほくほくと蒸された芋を齧り。

解かれ開かれた葉の中から出てきた、肉と魚に目を見張る。

 

全てが緑色であった。

 

「サッパリとしていながら辛い、臭みも無い」

 

ノー躊躇で齧ったサフラが語った。

 

「何か薄荷に似てるけど、辛みが少し表に強いね」

黒薄荷(ワカタイ)を刻んだ物です、野菜に付けるのも良いですよ」

 

次いで川魚を齧ったアルフライラに、全身紋様女性が解説を付ける。

 

「それでは衣服の方は洗濯に回しましたので、翌日にお届け致します」

 

冷やした麦酒片手に蒸し料理を楽しんでいる一行に、

静かにエキセントリックな外見の中居は暇を告げて、席を外した。

 

「えーと、何だったの結局」

 

蒸し肉を齧りながら、座った眼でタサウブが問う。

 

「森林のダニは軽く洗った程度じゃとれないから、専門にまかせないと」

「そうじゃねえ」

 

のほほんと答えた創世神に、短く不敬極まる人類の嘆き。

 

そして、先日に一泊銀貨4枚の森人村探検隊ツアー申し込みに同行していたのに、

何で知らないのかと問い返された少女は、頭を抱えて畳の上を転がり回った。

 

「ジャマアアアアァルさあああぁぁん」

 

けらけらと嗤う悪神の有様を、邪神は溜息を吐いて半目で眺める。

 

少女に料理を持ち寄り慰める集団が出来る頃に、改めて風鈴がちりんと鳴った。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。