中天より打ち付ける衝撃が大地を揺らした。
岩石層に結合していた膨大な量の海水が、衝撃に分離し地表へと噴出して、
数多の巨大な噴水はやがて低きに流れ、果て無き荒野を海と陸に分ける。
施設権能を最大限に使用して環境を安定させるにしても、多少の待ち時間が、
予定されている生態系の再生を開始するまでは、余暇が生じる事になる。
つまりはそう、ロボ部のお時間である。
「何か忘れている様な気がする」
「まあ長時間作業の後には、よくある感覚じゃね」
兵器廠爺の意見に、それもそうかとアルフライラは納得する。
「いや、忘れてたわ」
しかし即座に否定の意見を出したのも同じ爺。
「3機合体アイオーンの、操手が足りねえッ」
「しまった、それかッ」
部室の中空に浮かぶ大画面に表示されているのは、昭和の合体変形ロボ。
熱血、ニヒル、デブの3人を操手とするダイナミックプロな系譜の人気作。
そう、若い命が深紅に燃えて、ソラ高く合体するダイナミックな大巨神。
終にと3つの心が1つになれば、1つの正義は今、ジャストナウ。
―― Xボンバー
から出撃する特撮3機合体変形巨大ロボ、ビッグダイエックス。
ロボ時の3人の操縦担当箇所はそれぞれ火器管制、腕、足である。
「姿勢制御が酷過ぎて、どうやっても操縦には頭数が要るんだよな」
「原作再現とは言え、膝関節を動かない様にしたのはやりすぎだったか」
相も変わらず、実用の事など微塵も考えていないロボ部であった。
足首を輪ゴムで止めていた模型版の様に、可動域をそこで確保するべきか、
いっそ電童の操作系を流用して、上下分割に改変するべきかなどと話し合う内。
研究室のドアを開け、駆け込んできた人影が2つ在る。
「救援要請、姉さんかくまってくださ ――」
「はわわわわわわッ」
緑の髪を靡かせ飛び込んできたのは4号素体アフダル。
そして豊かな膨らみの在る身体と髪質を持つ、専用中位素体マウジュ・カビール。
栗毛の彼女は、高位素体の補佐役として先行して造られた個体である。
「致命的失策、一難去ってまた一難とはこの事ですか」
「あわわ、何か関わってはいけない雰囲気がッ」
闖入者に振り向いた馬鹿2匹の眼は、明らかに餌を前にした捕食者の物であり。
「銘肌鏤骨、貴女の犠牲は忘れませんよマウジュッ」
「えええええぇッ、アフダル様ああああぁぁッ」
即座に身を翻し、生贄を置いて部室から逃亡する高位素体4女。
置いていかれたマウジュの視界で、無情にも扉は閉まり、
背後からがっしりとその両肩が掴まれ、振り向く事も出来ず冷や汗を流す。
生贄が発する哀れな悲鳴が、施設の一部に響いて暫く。
再びロボ部が部室として占拠している研究室の扉が開いた。
壁を掴み俯きがち、深紅の髪の高位素体が震える声で姉に問い掛ける。
「姉上、アフダルの馬鹿が何処に行ったか知りませんか」
ぷるぷると震えているのは怒りであろうか。
その顔は紅潮し、そして衣服は赤を基調とする普段と違い鮮やかな桃色。
各所にレースを縫い付けたその有様は、端的に言って乙女趣味。
感情を抑えきれないのか権能が漏れて足元は凍り、手元は熱に揺らぐ。
唇を強く閉じ、軽く涙目でぷるぷると震えている。
怒りでは無く羞恥の方が強かった様だ。
「さっき駆け抜けていったよ」
「ありがとうございますッ」
聞くが早いが脱兎の如く、熱と冷気を残して駆け去って行く高位2号素体。
そして空いた扉の向こうから、やる気無さげな顔の少女が入れ違いに姿を見せた。
「アハマル様はー、今のですかね」
「何があったのかな」
癖の無い長い銀髪を背中に流す、アハマル専用先行中位素体ビッラウラ。
「いや、アフダル様がアハマル様の衣服を全部乙女に入れ替えまして」
内心喜んでそうだけどと姉が言えば、触れないでおいてあげてくださいと従者。
「と言いますか、アルフライラ様」
そして彼女は問いに答えても立ち去らず、抱いた疑問を口にする。
「マウジュのやつ、何やらかしたんですか」
指し示した先には、温もりの欠片も無いディストピア風味な鉄製の椅子。
その椅子に座らされている従者は、椅子から生えた鉄製の拘束具で固定されており。
頭の上半分を覆う鉄製の兜には、謎に点滅する電球などが装飾されて目に喧しい。
腹の底から開きっぱなしの口から、腹式呼吸で悲鳴が零れ続けて痙攣していて、
豊かな膨らみが、痙攣に合わせてぶるんぶるんと揺れていた。
「マウジュは選ばれたのだー」
「そして生まれ変わるのだ、この電撃で」
「あ、すいません、見なかった事にしますんでそれじゃッ」
躊躇無く同期を見捨てて駆け出したビッラウラの後ろから、響く悲鳴と電撃音。
少し時間は過ぎる。
かくして脳髄に操縦系を書き込まれ、生まれてしまった改造中位新人類マウジュは、
当然のお約束と言うべきか改造主に叛き、つまりは全力の逃亡を決行した。
「それはそれでッ」
「浪漫だねッ」
別角度からの浪漫を達成できてしまい、意外にもご満悦のロボ部であり。
「とは言え操手不足のまま、何かもうAIでも組むか」
「じゃあとりあえず、次は大魔神あたりかな」
そのまま約束された大惨事へと突き進む事に成る。
後日談になるが、やはり当然の如く造りまくっていたゲッターのアイオーン群は、
これまた当然の如く全てが廃棄品目として指定され、施設閉鎖前に処分されたが。
1台、処分漏れをしていた。
性能も極端に低く、合体失敗で即爆散する設計なので危険度があまり無い。
そのため後回しにされたまま、防衛計画などに忙殺されたせいで手が回らず。
どうせ勝手に自爆するだろうと放置されたアイオーン、プロトゲッター。
そう、3機合体のノウハウを徹底的に仕込んだ中位素体なんて者が、
存在すると言う事実をすっかりと忘れていた兵器廠爺である。
かくして神代から大神の眠る時代、古代文明の世界大戦に於いてまで、
人の世を守るためにその身を捧げた、真偽不明な忘却のアイオーンの神話が生まれる。
球体から解放されたアフダルは、記録に残された友の活躍に苦笑いをしていたと言う。