砂と偽りのアルフライラ   作:しちご

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Extra 古代文明の話

 

大神が球体に眠り、未だ魔素に乏しい世界に人々は生き続けていた。

 

それぞれの奉ずる神の名の下に集い、複数の都市国家を作り世界の再生を待つ。

 

しかし経緯無く与えられた文化と技術の歪みは発展と開発への軽視を招き、

極端な管理社会の中で、気が付けば種族や立場の断絶は深刻化していく。

 

破綻の時は、想定外に早かった。

 

神代妄信の名の下に全ての発展が阻害され、緩やかな衰退の中に在った人類に、

しかしそれを破綻させたのは自業では無く、外敵の侵略である。

 

機械人類と、濃血オーク。

 

何処の誰が作り上げたのか、鋼の骨格と回路の血管を持つ鋼鉄の知性体と、

繁殖と混血を繰り返し知恵在る猛毒と化した、オーク族。

 

安全地帯より命を下す高位と、無造作に消耗され続ける低位の人類。

戦果は一瞬、被害の場所は運任せ、燃え尽きるまでには僅かに5秒。

 

短い期間に敵対者を破壊するために発展した、様々な技術で互いに踊り、

そして残された文化も燃え崩れ、技術も段々と遺失されていく。

 

協力などの可能性は無く、防衛の中で徒に紛争を起こす各国と数多の内乱。

 

気が付けば世界は麻の如く乱れ、滅亡戦争が始まっていた。

 

滅びに向かう明日無き戦場で、ただひたすらに人命が消費され続けていき、

いつしか聖女と名乗る赤金の髪を持つ女たちが現れ、人々に囁きを齎す。

 

歌い、踊り、楽しそうに唆す。

 

新天地への、大脱出を。

 

終には声に踊らされ、国を捨て世界の果てを目指し旅立つ数多の者たち。

結果として、後に古代文明と呼ばれる神代の後継文明は衰退し滅亡した。

 

そしてそんな大脱出を試みた集団のひとつが、荒野を驀進している。

連結した四角い箱の様な造りに多数の移民を抱え、神鉄の車輪が荒野を削る。

 

神鋼無敵魔導大列車 ―― カハフ・シャヒナ

 

土石を蹴り散らし、限界機動に爆音を響かせる魔導機関の悲鳴が大地に響いた。

それを高速に追い立てるのは、列車の全高より僅かに高い、多数の鋼の巨人たち。

 

金属の骨格に絡む剥き出しの生体機関が、蒸気を上げ伸縮を繰り返している。

 

戦いの中で機械人類たちは、いつしかオークの肉をその身に纏う形に変化し、

剥き出しの筋肉組織で飾られた異形の姿で、人を襲う様に成った。

 

そして伸ばされる手を打ち払い、時折に火砲で反撃する戦力が在る。

人よりも大きな身体に鋼を纏い、生物染みた動きで車体の上を駆け回るそれ。

 

巨人に比すれば小さいながら、操手の肉体の延長に沿う人工骨格を人工筋肉で覆い、

金属繊維で編んだ装甲を被せた汎用強化服、通称は影人機。

 

その内の一機が、煙を吹いて車体天井の発着口に転げ落ちた。

 

整備の倭人(ドワーフ)たちの視界の中で、煙を吹き冷却されていく人工筋肉。

やがてそれは内に抱えていた全ての魔素を使い果たし、置物と化した。

 

中から操手が這い出て、替えの筋肉を請うも在庫は無い。

 

「こないだ野良オークどもを狩っただろうッ」

「あんな粗悪な肉、とうに使い切ったってのッ」

 

幾度も繰り返される襲撃に耐え続けた末、もはや資材は尽き果てていた。

格納車に絶望と諦観を誤魔化す様な、荒々しい声色でのやり取り。

 

刹那、内部の照明が消え闇と化し、点滅の末に薄明かりまで戻る。

そして先ほどまで猛々しく響いていた、機関の駆動音が消えていた。

 

「魔導機関が、止まった」

 

突然の静寂に、誰かの声が大きく響く。

 

機関が限界駆動の果てに停止して、列車の進行が目に見えて鈍る。

駆け寄る機械巨人たちとの距離は詰まり、その指が届くまでは僅か。

 

「聖女に、騙されていたのかもしれんな」

 

車掌室で、頭首が諦観を込めた声色で呟いた。

 

僅かの時間、機関の駆動音が消え不思議と静かな室内で、

副党首が言葉の意味を問えば、淡々と感情の籠らない声で続ける。

 

「賢行愚行、何をするにしても前提として必要とする物が在る」

 

吐き出すように想到を吐露。

 

「折れていない、心だ」

 

賢政も愚政も、争乱も平穏も、それを受け止める心が無くては始まらない。

生きた死人に善悪何を与えても、僅かの反応も返さないだろうと。

 

そう、折れた。

 

諦観が、絶望が、全ての未来の在り様を、可能性を閉じていく。

 

数多いと言えど、複数回の襲撃で潰せる程度の移民団。

それが意味する事、聖女の言動が齎した結果にようやくと理解が及んだ。

 

人類を小分けにしてしまった現状は、間違い無く最悪の方向に向かっている。

 

機械人たちは執拗に狩り立てるだろう、1匹の例外も無く磨り潰し、

自分たちはただ処分されるのか、それとも肉として処理され鋼に纏われるのか。

 

終に、鋼の腕が車体に届く。

 

もはや嘆く間も無い。

 

そして、爆散した。

 

魔素を使い切り動けない影人機の、怯えながら外を伺っていた人々の、

その視界の中で爆炎を上げ飛散する機械巨人の姿。

 

「は?」

 

突然の事態に誰かの声が響き、その声色はただ困惑に彩られている。

 

次いで風を切る爆音が空から響き、鋼の色に輝く3機の戦闘機械が姿を見せた。

翼が異常に短く切り込まれたそれは、噴煙を引きながら天空を引き裂いている。

 

援軍か、いやそんなはずがと、困惑の言葉が繰り返される車内からの視界。

 

最後尾の機体が中央の機体に激突し、そのまま飲み込まれる様に接続される。

次いで先頭の機体を突き破るように激突し、その先端が貫通した。

 

重なり合った3機の先端は双角に割れ、甲羅の如き紋様を持つ顔と化す。

巨大な手足が飛び出る様に突き出され、機体が鋼の巨神へと姿を変えた。

 

鋼の色を剥き出しにした、装飾の少ない丸みのある双角の巨神。

 

轟音と共に大地に降り立ち、即座の打撃が機械巨人の1体を粉微塵に打ち砕いた。

殴る、蹴る、突き飛ばす、暴風の如き質量が群れ成す機械をねじ伏せる。

 

「何だ、あれは何なんだッ」

 

乗客が騒ぎ状況のわからぬまま、機人が砕け吹き飛ぶ度に車内から歓声が上がる。

その中の幾人かが、幼い頃の寝物語に聞かされたお伽噺を思い出していた。

 

「……アイオーン」

 

宵闇を灼き祓い、全ての大神を眠らせた真の神機。

 

瞬く間に打ち払われた至近の機械巨人たち、しかし後続はまだ続く。

接敵するまでの僅かな間に、謎の神機はその両肩から巨大な戦斧を引き出していた。

 

風を斬る。

 

両の手に無骨な刃を握り、嵐の如くと回転しながら突撃する。

 

音。

 

爆煙が切り裂かれ、その度に機械巨人たちが粉砕されていく。

 

破片が散る、爆発が響く、火焔が煙を巻き上げ世界を染める。

 

鋼の暴風は分け隔てなく、追撃する機械たちを薙ぎ倒していった。

 

「呆けている場合か、機関再起動だッ」

 

機関室の人々が正気を取り戻し、外からの轟音を聴きながら再起動を試みる。

 

やがて魔導機関が再びの駆動音を響かせた時には、闘争は終わっていた。

爆煙と火の粉の舞う赤褐色の世界に、煤塗れの鋼の巨神が立っている。

 

【挿絵表示】

 

そして訪れた時と同じ様に躊躇い無く。

 

全ての音が消えた戦場から、巨神は再び分離し3機の戦闘機と化した。

 

雑音が響き、車掌室の通信機械と正体不明機の接続が果たされる。

室内に押し寄せた人々が、通信機に向かい様々な心の内を叫ぶ。

 

礼を叫ぶ者、涙声で感謝を述べる者、興奮した声色で問い掛ける者。

 

「名を聞かせてくれ、あんたは何処の国の戦士様なんだッ」

 

押しかけた人々を車掌室の中の人間が押し戻す途中で、

問われた内容に関し、通信機から若い男の声で返答が在った。

 

―― 何処の国にも属していない

 

恩人の言葉を聞き逃すまいと、押し合いながらも誰しもが口を閉じた。

 

―― 敢えて言うなら、たった3機の独立国か

 

苦笑の混じる返答を受けた、この時が始まりと成る。

 

―― 北東に、大山脈まで行けば魔素の循環が正常化されています

 

今度は若い女の声で、告げる内容は希望。

 

喝采は絶叫の如く。

 

告げられた名は、混迷を極める大陸の全てに鳴り響いた。

突如として表れた救世主は、数多の場で語り継がれ様々な場で活躍を続ける。

 

記録に残されたそれらには、真偽の怪しい物も多分に含まれては居たが。

 

黒髪を持つ偽りの大神カイカブ、ダウイ、そして高位従属神マウジュ。

由来不明の大神もどきたちと、主無き世に残った緑の従神。

 

巨神を操る3柱の神々の物語は、様々な脚色と共に広く永く伝えられ、

遥か後の世で、アルフライラを発端とする偽神伝説の土台とも成った。

 

そして今も吟遊詩人などに、手頃な題材として謳われ続けている。

 

―― 忘却のアイオーン

 

古代大戦時代、人々の心を守り抜いた英雄たちの神話である。

 

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