砂と偽りのアルフライラ   作:しちご

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06 Prologue

 

山肌を渡る風が雪を舞い上げる。

 

【挿絵表示】

 

雪風に巻かれ視界が白く染まり、吹き抜けても見える物は雪。

霊峰の山頂近く、人の侵入を拒む白い世界に赤の大神は居る。

 

白銀の中に見える色は2つ。

 

深い色合いのコートとズボン、後の帝国式で判断すれば男装に含まれる衣服を纏う。

肩口まで伸ばした赤い髪の大神と、白銀の髪を背中に流す従属神。

 

2柱は球体から解放され人に逢い、国を興すと決めた。

 

小規模な集団で各地に散っている人々を纏め、土地を定め、法を敷く。

その途上である現在に、並行して行っている事柄が在った。

 

古代技術の回収。

 

時として主神自らが足を延ばし、各地でそれは行われていた。

 

穴蔵に住む倭人(ドワーフ)の霊峰。

 

山裾こそ温暖な土地ではあるが、標高が上がるにつれ気温は下がり、

やがて山を万年雪が隠し、色彩を拒むかの如く世界は白く染まる。

 

赤の権能は自らと従神の周囲を生存可能な温度に保ち、

その反動は周囲に撒かれ、通り過ぎた跡の雪肌は氷に変わっていた。

 

ひと時に風は止み、霊峰の傷跡が露わに成る。

 

雪に埋もれ、その輪郭と僅かな鋼の色を見せる破壊された機神群。

神話伝承に残された、忘却のアイオーン最後の決戦の地。

 

「機械生命とやらが造った、アイオーンの模造品か」

 

景色を端的に認識した言葉を、同行していた白銀の従神が評価した。

 

「生体機関が内部に格納されているだけで、目新しくはありませんね」

 

これはハズレですかねえとビッラウラが告げ、アハマルは肩を落とした。

 

付近に設置された各種調査機器も、これと言った反応を示してはいない。

 

「意外にここも、北風の系譜の可能性があると思っていたのだがな」

「いやいや、極北と言うには位置が大陸の内部過ぎるでしょうよ」

 

球体の外に残った人々の伝承に、北風の彼方と言う単語が在った。

極北に在り山脈に守られた常春の国、夜が無く幸福に満ち溢れた土地。

 

「神族製造関連も大陸の北端でしたし、どう考えても北でしょうに」

「しかしだな、北では他に何も見つかっていないだろう」

 

なので伝承に言う極北が、北の極点を指していない可能性が在ると。

 

「古代大戦時代、正常化された魔素循環の北端がこの霊峰だった」

 

吹き抜ける風が雪風と成り、再び互いの視界を奪う。

 

「マリク様や追い出された獣人たちが、あんなにも開拓しているのに」

「いや本当に、大戦当時はここより北が無かったらしいんだ」

 

訝し気な従神の言葉を、主神が少し必死な声色で改めた。

 

「機械生命とやらが、何かしていた可能性も在るのでしょう」

「ああ、むしろそれが解釈では主流になっているな」

 

ここより北の魔素の循環が果たされなかった理由。

そして、機械生命体が滅びた後に正常化が果たされた理由。

 

状況を見れば、あきらかに機械生命体のせいである。

 

「わざわざ黒の目を盗んでまで、調査に来るべき価値が在るのですか」

 

風が収まり、雪に埋もれる破片を観察しながらビッラウラが問う。

 

霊峰には、先だって建国した黒の神国の勢力地を抜けて訪れていた。

建国を間近に控え、やるべき事が累積している中での主神の行動かと。

 

それに対しアハマルは、そっと目を逸らして弱々しい声で答えた。

 

「いやだって、貴女、マウジュと、仲良かったし」

 

建国したらしばらく自由に動けないだろうしと呟き、顔を背ける。

振り向いた従神は咄嗟に何も言えず、視線を合わせない主を注視して。

 

零下の世界の中で、軽く深呼吸。

 

「この馬鹿ッ、ほんとおおぉにお馬鹿ッ」

「ば、馬鹿って、馬鹿馬鹿言う方が馬鹿なんだからなッ」

 

気持ちは充分受け取りましたから撤収しますよと、叫ぶ従神の頬は熱く、

しかし赤の大神はそれに気付けず、ただ涙目で指示に従う。

 

そして荷物を纏め直すために、調査機器を回収しはじめた2柱の姿が在り、

とは言えせっかくだからと、形見代わりの物でもとビッラウラは視線を回した。

 

雪に埋もれた、古代の戦闘の痕跡。

 

「本当にこんな感じで、赤の神国はやっていけるのでしょうか」

 

機器の回収ついでにと破片をひっくり返し、手頃なものを探しつつ、

従神は軽い愚痴を零せば、主神はちゃんと理解しているから大丈夫と応える。

 

「ええと、まずは王は国のための歯車、それは神も同じと思うべき」

「誰ですか、そんな血も涙もない解釈を押し付けた阿呆は」

 

旧神の老婆の名を挙げるアハマルに、そいつだけは信じるなと返す従神。

 

「他に、神は人であってはいけないとか」

「アズラク様やアフダル様を見習ってください」

 

お二方とも聞き流していたでしょうと続き、それは良いのかと驚愕する主。

しばしそんな会話を続け、時間的に最後とひっくり返した装甲片の下から。

 

「奇跡ですか」

 

覚えの在る、神鉄で造られた髪飾りが見付かる。

 

「本当に、貴女はここに居たのですね」

 

遥かな過去に、2柱で揃いに造った装身具を拾った。

零下に冷やされたそれは、掌の上で痛みを伴い現実を主張する。

 

僅かな無言、やがて飾りを懐に仕舞いビッラウラは振り返った。

 

アハマルに帰還を促し、荷物を背負って下山のために歩を進める。

雪の上の足跡は氷で象られ、やがてそれも風に運ばれる雪に埋もれる。

 

いくらかに歩いて、一度だけビッラウラは後ろに視線を飛ばした。

 

遠ざかる古戦場跡を視界に入れ、ふと疑問が湧く。

 

機械生命体が全てを行っていたとしても、そもそも機械生命はどのように。

何故発生したのかではなく、何故発生が可能であったのか。

 

何故アルフライラよりも前の世代、廃棄された高位試作体が存在できていたのか。

 

データ自体は、誰かが施設の記録よりサルベージしておく事は可能であっただろう。

しかしその肉体、高位新人類に比する素体はどの様にして造られたのか。

 

いずれかの大神の細胞を培養したにしても。

 

当時は球体に封じられていたナハース神に、本当にそこまでの事が出来たのであろうか。

 

一度疑問を覚えれば、数珠繋ぎに次々と疑問が湧き上がってくる。

 

しかし真実は遥かな過去に埋もれ、ただこの戦場で全てが終わったと伝わるだけ。

 

「マウジュ、貴女は本当は何と戦っていたのですか」

 

友への問い掛けに返事は無く、ただ雪風だけが山肌を走り抜けていた。

 

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