砂と偽りのアルフライラ   作:しちご

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01-10 祀りの裏側

 

陽も高く天は広く、隊商も途絶えた灼熱の中に閑散とした夏の宿場。

 

使う者の居ない排水路に素足を浸し、軽く水飛沫を上げる少女が居る。

現在に、多くの開拓者は霊峰麓の交易村の夏祭に向かい人が居ない。

 

宿場を維持する人員は残っているが、それと若干名ぐらいである。

 

数日前より女性相互扶助の隊員達を、この日のために取り寄せたと言う

植物油の石鹸で丸洗いし、酢を垂らした水で髪を整えさせた排水路に座る。

 

サラサラの自分の髪に感動し、これで男を捕まえると意気軒高な肉食獣たちが

全員平に伏し拝み、どうか貴女は参加しないでくださいと頼まれたのが先日。

 

個人指名の依頼を出しアルフライラを宿場に縛り付けるほどの本気であった。

男捕まえて家庭に入るのが目標な娘も多いからね、とは頭首の談である。

 

これで村娘どもと互角以上に張り合えると涙を流しながら喜んでいた女性たちが

即座に手のひらを返してハブってくる様は実にらしいと、思い出し少女が苦笑した。

 

それはそれとして、暇である。

 

「陽光が、身を苛むー」

「いや、素直に日陰に居ろ」

 

人の居ない排水が綺麗な今と、下流で洗濯をしていた剣士が尤もな意見を出した。

それをたまには陽光を吸収せねばと返し、スルーする薄暗い場所に住む生き物。

 

それが溜息をつき、心の内を広場に零した。

 

「本当なら、屋台で盛大に稼いでいるはずだったのに」

「そっちか」

 

祭典と聞いて、ごく自然に売る側で参加する方を選ぶ神である。

 

「今度は一体、何を売る予定だったんだ」

 

洗い終わったローブをパンと開き水気を飛ばしながら、暇潰しの問い。

 

舎利別(シャルバート)かな」

 

出てきた名前は、長く傭兵業で生きてきた剣士でも知っている代物であった。

煮詰めた果実の甘露を水で割り、大量の細かく砕いた氷を入れた飲料。

 

スムージーと言うよりも、飲むかき氷と言った方が近い風情の冷菓であり、

先日に古代少女が店主とのレシピ交換で覚えた品目になる。

 

「まあ、売れそうではあるが」

 

そう言って問い手は少し考える。

 

須らく祭典は多分に男女の出会いの場と言う意味合いを持つ。

 

昼の熱気が殺人的となる季節、日暮れ時のいまだ身体の熱が冷めやらぬ中、

喧騒の中に妙に涼しい一角、貴重な冷菓を格安で提供する桁違いの美少女。

 

一目でわかる神族の美貌、気軽に氷を作る甲斐性、距離感のおかしい愛想。

 

状況の想定を終え、剣士は深く頷いて所見を披露した。

 

「戦になるな」

「いきなり何事かな」

 

しみじみと相互扶助小隊の判断の正しさが身に染みている声色であった。

 

そしてしばしの静寂に、水を蹴る足音と洗濯の音が響く。

 

「あの人たち、大丈夫かなー」

 

陽光に腕で陰を作り、目を守りながら零れた言葉。

主語の無いそれを、剣士は鋼の巨神に挑む獣人たちの事であろうと察した。

 

「まあ砂中に拠点を作るほどに準備万端らしいが、どうだろうな」

 

各地の獣人たちの支援があるらしく、始原の球体とイルドラードの中間に

柵とテントで臨時に拠点を作るところからはじめると語っていた。

 

容易く人の命を奪う夏の砂漠、だからこその準備とも言える。

 

「何故か六神国も動いているらしいし、望みが無いわけではない、のか」

 

カイナン・カミンの破壊。

 

それが目的かどうかはわからないが、球体周辺に様々な勢力が集まっている。

なればこそ何がどう動くかはわからないが、様々な機会の目が生じるだろうと。

 

「ハジャル ―― 博士たちも行っているし、逃げる算段ぐらいは付けるだろうさ」

 

そして不穏な情勢に偵察の依頼が在り、博士と姫が獣人に一時同行している。

逃げ足には定評が在ると、誰のためかわからない擁護の言葉。

 

わからないままな熊の不器用な気遣いに、水遊びをしている少女が頬を緩める。

 

無人の広場に、しばし水音だけが小さく響く。

 

「アビ ーー キッタビヤードに、何があったのかな」

 

少女の誰ともなく零れた風情の疑問へ、剣士が知る限りを言葉に乗せた。

 

「彼の神が居た球体が弾けた時には、既に言葉が通じなかったらしいが」

 

時の狭間から現世に戻って来た神に、幾柱からの大神が接したが、

支離滅裂でまともな会話も出来ず、暴れるだけでどうにもならなかったと。

 

聞き終え、少女は蒼天に遠くを見つめ、言った。

 

「あ、もう駄目」

「そぉいッ」

 

そして倒れ込み、予測可能回避不能な惨状をきっちり予測していた剣士が

首根っこを掴み、熱気に死にかけている神を浮遊板に放り込む。

 

凶悪な紫外線に因り、こんがりと焦げた女神から修復の蒸気が吹きあがった。

 

この神、実は直射日光にも弱い。

 

「のぎゃああああぁぁ……」

「悪は滅びたか」

 

紫外線殺菌と熱消毒的な意味で。

 

無駄に命を危険に曝す間抜けの断末魔に、剣士が疲れた声を出した。

 

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