砂と偽りのアルフライラ   作:しちご

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Ex-19 北極の遺跡

 

やがて陽は傾き、山肌が凍り始めた。

 

長く伸びる影の中、機神は機能を止めた機械少女を抱き上げる。

各所の関節があらぬ方向に向き、廃物の如き無残な有様。

 

「誰がこんな酷い事を」

「惻隠の心、何ともむごい」

 

「迷い無く言い切りやがった」

 

ついに旅の果て、失踪したハディヤとの再会を果たしたにも関わらず、

今まさに、タサウブの目の前で彼女の生命は尽きようとしている。

 

「まあ仕方無い、当座はこれで持たせよう」

 

そう言葉を足した精霊は、自らの胸部装甲の隙間から配線を出し、

腕の中、小さく火花と煙を吹いている鉄の塊に接続する。

 

鈍い音がして視覚機器に光が灯り、ハディヤが再起動した。

 

「え、えエと……」

「言葉は発さなくて良い、無理をするな」

 

無駄に合成イケボで語り掛けた精霊機神に抱えられ、少女は軽く頷く。

そのまま目を背け身を預ければ、頬の排熱プレートが過熱した。

 

「待ってハディヤ、それ貴女の首をへし折った下手人」

 

幼馴染の言葉も耳に入らず、乱れる心に困惑する機械少女であった。

 

「はてさて、これからどうするべきですかね」

 

遺跡が死んでいるなら発掘ですかと口にしたジャマールに対し、

まだ気付いていなかったのかと、呆れた声色の機神の返答が在った。

 

「赤の神話で、古戦場について語っていただろう」

 

アイオーン模造品の残骸が転がる雪原と。

 

「それですが、以前に登った時も見つけられなかったんですよね」

「その扉の向こうだ」

 

雪にでも埋もれていたのかと語る神の言を、即座に否定する精霊。

 

あ、と何かに気付いた声が漏れる。

 

「えーと、そういう事ですか」

「研究施設、現代では終焉の聖域と呼ばれているのだったか」

 

その建材と同じ様に、情報生成しナノマシンで整えられた代物。

赤の大神が去った後に造られた、機械人類の本拠を守る防壁。

 

簡単な言葉の連なりから察し、タサウブが結論を口にした。

 

「つまりこの遺跡は、まだ生きている」

 

改めて鉄の扉が視線を集めた。

 

「そ、そレなら何で、何も反応シて」

「さてな」

 

困惑に言葉を漏らした少女に、真実を告げずはぐらかす言葉。

精霊機は周囲に転がる機械人の屍を眺め、すぐに視線を切った。

 

「さてジャマール・シャムス、預かっているのだろう」

「意馬心猿、まさかとは思っていましたが」

 

言われたジャマールが、懐から血印の記された札を取り出した。

途端に扉が反応し、表面に神代文字が表示される。

 

―― 研究員アルフライラからの要請を確認

 

ただ雪風が鳴る遺跡前に静寂が生まれ、詩人が静かな一言を告げる。

 

「旧神遺跡」

 

それも、生きていると。

 

無言のままで一同が近付けば、音も無くスライドする鋼鉄の扉。

中に踏み込めば、そこには鉄に覆われた巨大な空間が在った。

 

2柱1機1人の全てが内部に入れば、音も無く扉が閉まる。

 

次いで、照明が室内の全てをぼんやりと照らし出した。

さほどの光量ではなく、機器の凹凸に影が出来る程度の柔らかな光。

 

「目視確認、これがアハマルの語ったアイオーンの模造品ですか」

 

【挿絵表示】

 

そこかしこ、忘却のアイオーンに酷似した機械の破片が転がっている。

 

「片付けは苦手と見える」

 

言いながら歩を進める精霊と、札を掲げながら扉を開く詩神。

奥に行けば破片は無くなり、代わりに様々な機材や水槽が散見される。

 

「在ったぞ調整槽、これなら肉体の調整と再構成も」

 

そこで旧神の神機は言葉を切り、改めて言い直した。

 

「秘術、人間化身が可能な機材だ」

「ふぇッ」

 

驚きの声を上げたハディヤを一切気にせずに調整槽を開き、

スクラップを内部にシュゥゥゥーッ、超エキサイティン。

 

ガコガコとぶつかりまくる音が響き、蓋を閉めればそれも消える。

 

「しばらく待てば生体機械として再生されるだろう」

「一件落着、とは言え待つ間に陽は沈みますか」

 

ここで夜明かしですかねと零す詩人に、外よりはマシかなと開拓少女。

会話の後に絨毯を降ろし床に広げ、荷物を置き宿の場を整えだす。

 

そしてジャマールは、五弦を軽く鳴らし壁に問い掛けた。

 

「暗送なれど、何か語りたい事でも在るのですかね」

 

言葉に精霊とタサウブが壁を向けば、鉄のそれに変化が在った。

表面に浮かび上がる様に、幾つもの画面が表示される。

 

まず表示されたのは、様々な機械兵器。

 

様々な形、様々な音、旧世界の言葉を垂れ流しながら進軍する鋼。

 

継ぎ目の無い建物を崩し、様々な衣装の人々を鏖殺していく。

屍山血河が生まれ、壊れ果てる様々な文明と、回収される自動人形。

 

四角い箱の前で、鉄製の人形が作られていく。

 

それらはやがてオークと関わり、その肉の加工技術を習得する。

 

【挿絵表示】

 

機械の巨人が剥き出しの肉を纏い、生体機関として活用された。

人もまたオークの肉を束ね、鋼を被せて身を守る鎧と化す。

 

箱の前の人形に、肉が被せられた。

 

そして突然に現れる、鋼鉄の巨神。

 

各地で転戦する3機の飛行機械、忘却のアイオーン。

数多の戦場が映され、そして終には最後の決戦に至る。

 

箱の前の人形は、いつしか人と変わり無い姿に。

 

地を埋め尽くすほどの模造アイオーンの中で、孤軍奮闘する巨神。

いつしか刃は砕け、その身に幾つもの罅が走り火花が散る。

 

「疑問、何故アイオーンを傷付ける事が出来たのか」

「所詮は玩具でしか無いからな」

 

造られた大神が、不壊装甲が破壊される不自然に疑問を述べれば、

旧神の技術を識る世界樹の精霊が、単純な事実を答えた。

 

「旧神にとって兵器と呼べるアイオーンなど、紅玉ぐらいだ」

 

最初のアイオーン、それは加減も何もわからない状態で造られた。

故に保有する軍事技術を基準として、設計され完成している。

 

以降には、その過剰性能を抑える方向で設計される事になった。

 

「追想比較、それほどの差が在るようには思えないのですが」

「それは単に創造主が、兵装をまともに使っていないからだろう」

 

仮にこれが紅玉であれば、とうに全て粉砕して施設も潰していると。

 

会話の内に画面が代わり、終に膝をつく忘却のアイオーン。

しかしそこに装甲を砕きながら突入する鋼が在った。

 

魔導鉄車カハフ・シャヒナ。

 

射出された魔導機関が、暴走爆発し模造アイオーンを吹き飛ばす。

同時に放たれた弾丸が忘却を穿ち、その全身を光の繭で覆った。

 

「コフィンか、残っていたのだな」

「何です、あれ」

 

精霊は一言で語る、アイオーンシリーズの限定解除ユニットだと。

 

繭の中から刃が生え、両腕が付き出され引き千切るように外に出る。

肥大する肩、膨れ上がる装甲、各所に増設された発光パネル。

 

全身に疾る甲羅の如き亀裂からは光が漏れ、その刃は鋭く大きく。

 

【挿絵表示】

 

忘却のアイオーン真化形態 ―― 真プロトゲッター

 

後は嵐の如く。

 

撒き散らされる模造アイオーンの破片の中で、突き進む機神が居た。

 

画面が切り替わる。

 

箱の前、動かない人の肉を纏った機械人類。

微動だにせず、やがてその肉は腐り落ち、骨格が剥き出しになる。

 

切り替わる。

 

何も無い、箱だけが在る。

 

「お墓みたい」

 

タサウブが呟けば、それに応える言葉が在った。

 

―― 墓標に、見えますか

 

そして壁に線が引かれ、左右に分かれはじめる。

 

奥には広い空間が在り、黒い巨大な箱が置かれていた。

手前には横たわる破損した巨神、忘却のアイオーン。

 

その空間の真ん中に、給仕服を着た女性の姿が在った。

硬質の肌は白く、背中に流れる白銀の髪はどこか配線染みている。

 

「はじめまして造られた方、私はこの施設を統括する自動人形」

 

スカートの裾を持ち、軽く従者の礼をとる。

 

「グリュプスと呼称されておりました」

 

袖から球体の関節を覗かせる機械は、柔らかな声でそう述べた。

 

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