砂と偽りのアルフライラ   作:しちご

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06-Ex 少女の道中

 

夜を抜け、ガタゴトと揺れながら軌道を行く。

 

蒸気機関から強烈に吹き上げる排煙は巻き込んだ灰に因り、

煙の色を黒く染め、後方車両を黒く包む様に流れ続ける。

 

乗務員と護衛が先頭車両に詰め、貴賓の客車が繋がれた後に、

貨物の車両が連なる形の、輸送を主体とした赤の蒸気大列車。

 

そして貴賓客車の硝子窓から見える物は、基本的に黒い煙だけ。

 

高価そうな絨毯が敷かれた箱の様な車両。

 

密閉はされているが完全では無く、車内に煤の混じる味と臭いが在る。

 

まあ板の障壁が防ぐので何の問題も無いのだけど。

 

しかし連れ合いの面々を見れば、自然と鼻に溜まる煤に難儀していた。

見れば幾度も噛み続けたせいで、全員の鼻の頭が赤くなっている。

 

ともあれ時折に軌道が大きく弧を描く、風向きが良ければ外が見える。

 

断片の様な道中の風景。

 

土地の郷士の若者だろうか、馬に乗り列車に併走して追い越していく。

河川の土手で止まり、通り過ぎる車両に向かい手を振っていた。

 

後方剥き出しの貨物車両から、荷物として積まれた商人たちの応声。

 

列車は遅く、そして速い。

 

その速度は馬が駆けるよりも遅く、人が走るよりも速い。

 

通常の荷馬車は人が歩く程度の速度である事を考えれば、

早馬に比する速度の貨物列車は、破格の速度ではあるのだろう。

 

ガタンゴトンと身体も揺れる。

 

またも軌道が弧を描き、黒煙が逸れて外の景色が見えた。

 

立ち枯れたままに放置された、枯草の草原。

 

【挿絵表示】

 

雪が積もらない土地、人の手の入らない土地だと枯草も放置され、

立ち枯れたまま春に若草が駆逐するまで、秋の景色を残している。

 

それもすぐ黒煙に遮られる。

 

列車は時折、人の手の入らない土地を直進していた。

 

鉄の道は神軍を投入して敷設され、神都と交易都市を直接繋いでいる。

水と集落に沿い曲がりくねった街道と違い、かなり直線に近い。

 

そこから生じる総距離の差もまた、鉄道の速さであるのだろう。

 

線路脇には兵士見回りのための街道が並列で引かれているが、

頻繁に兵が通る都合も在り、馬車などの乗り入れは禁じられている。

 

その禁令には、線路を盗む輩への防止策の意味も含まれている。

 

当然に道中の水回りも乏しく、完全に保線のための魅力が無い道で。

とは言え路線は長く、たまに街道や集落に近接する様な箇所も在った。

 

見回り兵の詰め所や厩なども置かれ、時折に宿場町も成立する。

 

だいたい中間あたりに造られた駅、それはその様な宿場の一種であり、

反対側から向かってくる、対抗車両と行き違うための土地でもあった。

 

警笛が鳴りガタゴトと揺れながらの減速。

 

停止と共に盛大に噴出する排気の音。

 

「おお、とりあえず着いたようじゃな」

 

揺れ続けた行程に、若干顔色を青くしていたハジャルが言う。

神国まではまだ長く、道中消耗品の補給を臨む宿場駅。

 

貴賓車両も箱の端、乗務員室や手洗いの補給や清掃も在り、

待ち時間の間にする事は多く、まあ何よりも。

 

混ぜ粥(キュケオーン)はもう飽きた」

 

とりあえず食材が欲しいと主張、きっと妹もそう言うはず。

 

「そうよね、せめて蜂蜜か葡萄酒を混ぜたいわ」

「いや粥を改良する方向じゃなくて」

 

何かベクトルが違った、まあ良いけど。

 

貴賓客車では食事が出たが、貴賓と言う割に食材は積まれず、

連日に大麦と乾酪を煮込んだ簡素な混ぜ粥三昧、飽きる。

 

粥と言う割に、餡子ぐらいの硬さが在る生地みたいなそれは、

初回は美味しく頂けたのだけど、後は何かもう、何かもう。

 

「何でこう、選択肢が無く延々と同じ物が繰り返されるの」

「ふふ、アルフライラ様も我が国の恐ろしさに気付いた様ですね」

 

思わず漏れた愚痴に、ビッラウラが優し気に受け答え。

 

だけど眼のハイライトが消えている。

 

「いやビッラウラ、何でそこまで絶望しきった顔」

「変えたかった、でも変わらなかった、変わらなかったんですよ」

 

闇が深い。

 

ふと不安を覚え振り向けば、3者1柱も沈痛な表情。

いやサフらん、その中で何の疑問も無い受け入れ顔しないで。

 

変化や進歩の概念すら無さげな赤の神国の食文化を哀れむべきか、

粗食に魂レベルで慣れ切っている感じの剣士を不安に思うべきか。

 

悩ましい思考の中で、客車の扉から鍵を開ける音がした。

 

貨物も含めた全ての車両は、乗り降りに関して制限されている。

扉や昇降口は外から鍵が掛けられ、乗務員が外から開錠する形式。

 

運行する側から見て、乗員は閉じ込めておきたい生き物だからか。

 

当然、事故などが起これば大惨事一直線の危険極まり無い形式だが、

これに関してはもう、大惨事が起きるまでは改善が難しいだろう。

 

先史でもそうだった。

 

仮に神の強権で急ぎ改善しても多分、問題の先送りにしかならない、

将来的な発展のどこかの時点で、誰かがきっと迷案を思いつく。

 

結局は、痛くなければ覚えない。

 

制度、安全に関わるそれは血肉の上にしか生まれないのだから。

 

ともあれ扉を開けて、そして閉める。

 

何だろう、駅の向こうにギッシリと売り子が詰まっていたのだけど。

 

「せ、先行して道を確保して参ります」

「頑張れー、他の客と売り子の迷惑にならない範囲で」

 

善処致しますと硬く誓い、頼れる赤臣アキークが客車から降りていった。

加齢と共に、負担が胃壁か頭皮に掛かっていきそうな性が少し心配。

 

しばし後、常備兵が整理した道を辿り宿へと向かった。

 

「それで、この地にはどれだけ逗留するのじゃ」

「対抗の列車が来て、その翌朝に出る感じですね」

 

道中に頭脳担当が予定を問えば、結構適当な内容が返る。

 

そして路傍の木賃宿とは、見るからに格の違う高価そうな建物に。

石造りの宿場に酒場の側から入り、上段へと案内される。

 

荷物を預け、買い物は後で御用聞きが来るらしい。

 

「どうしようアズラク、何かお金持ちみたいな待遇」

「油断したら駄目よ姉さん、絶対に裏が在るわ」

 

「待ちやがれそこの大神姉妹」

 

ひしと姉妹で怯えていると、水晶ゴリラの塩対応。

 

「何はともあれ、まずは厨房よね」

「調味料は微妙だけど、醸造酒の使い方が気に成るかな」

 

「だから大人しくしていろと、この最上位賓客どもが」

 

次いで、いと尊き大神2柱の首根っこを掴む不遜な従神。

 

そして席に着けば、相も変わらず氷に埋められた葡萄酒(カラーヌ)が出る。

硝子瓶から杯に注がれ、3柱4人に回される酒精。

 

「あ、不思議と呑み易い」

「麦酒は壺に葡萄酒は瓶に、だったかしら」

 

先日のねっとりとは違い、意外に水分が多かった。

 

「そうですね、神都の方は壺で置かないので水気が消えないのです」

 

「それだけで説明が付く水気では無いのう」

「これは、絞る時に水を加えているわね」

 

などとビッラウラの説明を、補足する呑酒妖怪2匹。

ふむり、水割りが規制されているから作成時に加水しているのか。

 

「上に命在り、下に手管在りかな」

 

赤の民も、随分と逞しくて好感が持てる。

 

ともあれ適当な会話を積み重ねていれば、その内に大皿の料理。

窯で焼かれた生地は熱気を持ち、軽く大蒜の香りを漂わせている。

 

山鳩の包み焼き(アムルサーヌ)です」

 

聞けば大蒜と魚醤を練り込んだ生地で、山鳩を包んでいるらしい。

 

「山鳩ってどんな食材なのかな」

「野生味が強く鳩より胸肉が厚くて、総じて弾力があるわ」

 

疑問を持てば、即座に頼れる美食妹。

 

火を入れ過ぎると水気が消え、肝の様な臭みが強くなると言う。

包み焼きで蒸しているのも、加熱を緩やかにする工夫かな。

 

ともあれ切り分けた物を食めば、歯に掛かる弾力と舌に踊る脂。

鶏と言うよりは牛に近い、それでいて鶏の様に軽い。

 

「山鳩は久々じゃが、好く脂が乗っておるのう」

「冬の鳩だからね、身体に脂を蓄えているのよ」

 

呑酒妖怪にも好評の様で、食みながら杯が空き注ぎ直す風情。

 

しかし若干素材の味勝負の様な淡白さが在り、試しに付属のたれ。

葡萄酒で溶いた蜂蜜に、大蒜と香草が混ぜ込まれている。

 

悪くないけど、あれだね。

 

「塩が欲しい」

「本当に、赤の料理よね」

 

「この岩塩を削ってお使いください」

 

しみじみ姉妹の愚痴に、恐縮仕切りのアキークからの供物。

姉妹揃って五月蠅くて御免ねと、謝れば恐縮が酷くなった。

 

「さて、これからの事ですが」

 

何だかんだ舌鼓を打っていれば、ビッラウラが口を開いた。

 

「私は銅との国境線を回りますので、神都に向かうのは遅れます」

 

赤将アキークだけが、鉄道で神都に向かうと。

 

「だからアルフライラ様が到着するのも、同様に遅れます」

 

ほうと聞いていれば、将の緊張した頷き。

 

「で、その時間差に何をやれと」

 

問い掛ければ、従神筆頭の悪い笑み。

 

「別に駄目でも、既に大勢は決しているので問題は無いのですが」

 

ただその時に出る被害の桁が、間違いなく変わってくると。

そんな言葉に顔を青くするアキークに、同行する謎の猫弾き神への依頼。

 

「手段は問いません、武神ロカームの調略を」

 

赤の神国を人質にとるか。

 

「アルフライラ様以外の皆様にお願い致します」

「アズラクこれを抑えて、口に大蒜捻じ込むから」

 

とりあえずぬけぬけと宣言しやがった従神に懲罰を試みた。

 

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