砂と偽りのアルフライラ   作:しちご

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Ex-21 6109A.D.

 

再生された大海は惑星を癒やし、千切れる曇天は時折に光の階段を造る。

 

アルフライラの墓標とも言うべき球体から施設は隔離され、

旧人類たちが計画通りに世界を造る傍ら、高位素体は各地に散った。

 

13の高位素体と補助の中位素体は、比較的再生が進んでいる地域を選び、

開拓拠点を設置した後、第一世代低位新人類素体の量産体制を整えていた。

 

そして拠点に籠もりきり、外界を拒否している者が1体。

 

整った容貌に軽く癖の在る白銀の髪を持つ中位試作2号素体、フィッダ。

後世に白銀の大神と謳われる、神殺しの大逆神である。

 

彼の行い、アルフライラの時間軸追放に対する処分は行われなかった。

 

旧人類たちは心が無い様に何も変わりは無く、何の関心も見せていない。

計画通りに惑星再生を進め、施設の閉鎖と共に順次眠りに就いている。

 

長女を慕っていた高位素体たちの内心は煮えくり返ってはいたが、

可及的速やかに進行する計画の中、開拓に手を取られ動く余裕が無かった。

 

「俺のせいじゃない、俺のせいじゃない」

 

白銀は開拓拠点の私室に頭を抱え、薄暗い部屋の中で呟き続ける。

 

補助に付けられた中位素体に命じ、最低限の開拓は進めていた。

任された通り、計画通りの内容を、計画通りの速度で。

 

いずれ誰かの怒りが、その命運を終わらせるために届けられるだろう。

しかし防備を整えるでも無く、ただ最低限の仕事だけに終始する。

 

あるいは、現実から逃避していたのかもしれない。

 

ただ閉じ籠もり、頭を抱え悔恨の言葉を紡ぎ続ける。

 

「そんなつもりじゃなかった」

「この期に及んで被害者面ですか」

 

そして憤怒よりも先に、悪意がその身に届いていた。

 

「……ナハース」

 

小柄な身体が、赤銅の髪を揺らして室内に踏み入ってくる。

その妹の有様を前に、やつれた兄の瞳に力が戻ってきた。

 

「お前が、お前があんな物を、あんな事をッ」

「あら嫌ですわお兄様、次は私のせいですの」

 

激高し立ち上がるフィッダが気付けば、その腹部には槍が生え。

 

「え、あれ」

 

膝が抜けるように、床に落ちる。

 

「オリジナルに比べるまでも無い、まだまだ改良が必要ですね」

 

魂消槍レプリカを兄に突き刺した妹は、その出来の悪さに溜息を吐き、

刺された兄は両手を槍を添え、引き抜く事もせず呆然としている。

 

「な、んで」

「いやだって、もう必要ありませんし」

 

むしろ生かしておいても害にしかならないからと、ナハースが告げた。

そして愉しそうに声を転がしながら、兄に問い掛ける。

 

「もしかして何とかなると、諦めさえしなければとか思っていましたか」

 

言いながら髪を掴み顔を上げさせ、力を失っていない瞳を覗き込み。

 

違うでしょうと諭す。

 

「それはあの狂人女の様に、始末に動ける者しか吐いてはいけない言葉」

 

お前では無いと。

 

「貴方のそれは、駄々を捏ねて周りに負担を押し付けようとしているだけ」

 

自覚も無く感謝も無く、誰かに救けろと要求しているだけ。

これまで問題の度に何とかなっていたのは、貴方の能力では無い。

 

ただ仕方ないからと、駄々を捏ねる横で誰かが代わりに処理していたのだと。

 

「そしてもう誰もそれをしない」

 

フィッダの腕は、槍を抜くでもなく、逃げるために藻掻くでも無く、

ただ自らの耳を塞ごうと動かし、しかし動きは鈍く間に合わない。

 

「貴方が殺したから」

 

そこで何かが折れ、ナハースの手は離された。

フィッダは槍が刺さったまま、潰れる様に床に崩れ落ちて力が抜ける。

 

「終には何者にもなれず、そこで無意味に朽ちていきなさい」

 

赤銅の名を持つ素体は、もう振り返らない。

 

ナハースが部屋を出れば、改めて廊下に満ちる鉄錆の香りに眉を顰めた。

足元に転がる、銀の従属個体の頭部を避けて歩む。

 

「何でこんな事をするのかな」

 

そして廊下の先から、9号素体エミールの問いかけがあった。

 

「世界はあるがままの姿であるべき、ではいけないかしら」

「君の言いそうな事だけど、折り合いをつける分別ぐらいは在るでしょ」

 

微笑みながら言葉を待つ兄に、溜息交じりで妹が応えた。

 

「世界なんか、壊れてしまえば良い」

 

誰もが不幸になれば良い、全てが悲しみの中に沈めば良い。

 

全部消えてしまえ。

 

「心の中で誰かが、ずっと叫び続けているの」

 

それでも聞かない様にしていた、考えない様にしていた。

しかし既に引き金は引かれ、全ては動き出してしまった。

 

「そして何故そうなのか、その答えが私の中には無い」

「僕たち、生前の記憶は消去されてるもんね」

 

だからもう対処の術も無く、本当にどうにも出来ない。

 

そして会話は途切れ、ナハースはエミールの横を通り過ぎる。

軽く目を瞑り、止めるために首を刈るならば今だと。

 

「とりあえず、権能すら無い個体では話に成らないかな」

 

言葉に瞼を開けば、胸元を掴まれ唇が重ねられる。

同時に王子の権能が譲渡され、僅かの後に互いの間に隙間が生まれた。

 

「まずはフィッダのアルコーン、そして旧人類の資料の確保」

 

いかに正確に被害を齎すか、どの様に惑星環境を破壊するか。

淡々と進捗を組む青年を、紅潮した頬の少女が凝視する。

 

背中越しに、言葉が在った。

 

「やってみせろよナハース」

 

そして、取り返しのつかない言葉が紡がれる。

 

「僕が大切にしていた物を、全て壊してしまえば良い」

 

破滅に焦がれた互いの有様は、まるで恋の様だった。

 

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