砂と偽りのアルフライラ   作:しちご

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06 Epilogue

 

回廊に足音が響き、止まる。

 

銅の神国、黄金の神殿。

その名に似ず、さしたる装飾も無い石造りの大神殿。

 

【挿絵表示】

 

最奥の中庭をぐるりと囲う形に在る、屋根の付いた回廊の中頃。

広場側にしか採光の隙間が無い、昼なお薄暗い場所に大神たちは居た。

 

短く荒い黄金の髪を持つザハブと、その姉にあたる赤毛のアハマル。

縁を結び嫁いだ形に成る赤の女神と、嫁がれた黄金。

 

件の騒動から暫く、互いに慌ただしい中で長姉も取り逃がし、

ああだこうだと互いの国の調整に忙殺されている内に時間が過ぎ。

 

互いに改めて向き合う機会が欲しいと思いつつも、顔すらも合わさず、

2柱が現実から逃げる様に仕事に没頭するも、終には終わってしまい。

 

あとはもう、初夜が待っているだけの状態に追い込まれた午後。

 

いやでもだってと、へたれ全開で逃げ出そうとしていた赤の女神を、

いいから犯ってこいやと蹴りだす様に主を送り出す従者たちと。

 

いやしかし姉だしと、これまた何とか現実から逃避を狙っていた黄金を、

いいから犯ってこいと、こちらは文字通り物理で蹴り出した銅の聖女。

 

そんな2柱が、寝所へと向かう回廊で鉢合わせてしまった。

 

固まる。

 

互いに顔を背けながらも、頬は火照っている。

 

長女、三女、四女が居れば、そっちの6千年熟成物はともかくとして、

下半身の節操を実装し忘れた混血製造機が、今更何で初心な反応をと。

 

そんな呆れをジト目で言葉にしそうな、初々しい雰囲気である。

 

「ま、まだ明るいし、まだ、まだだよな」

「ああ、ああそうだな、ええと、まずは、そうだ」

 

神代で幾度も関わり、時に力を合わせ兄弟姉妹を封印していた内にも、

時折に互いに性別を感じる事もあり、こういう事に成る可能性も。

 

薄く思ってはいたのだが、現実として突きつけられるのは話が違う。

 

そんな風に、突然の状況と関係性の変化に付いていけないまま、

寝室に向かって蹴り出された果ての、今の状況である。

 

「あああれだ、ウチから赤に向かって攻め込んだ連中」

「あ、ああ、あの幻覚剤を盛られていたとか言うのか」

 

お伽噺に幸せ草や、悦びの草などと呼ばれる植物から抽出される薬品。

 

勘気や頭痛、咳止め、下痢止めなどに古くから使われ、

土地によっては、疫病などにも効く万能薬などとも謳われる薬である。

 

帝国北部でも、酒精が高価な地域では酒よりも安い嗜好品であり、

呑んで騒がないだけ、安酒よりも性質が良い代物と喜ばれている。

 

流石にそこまでの状況になれば多少の中毒者は出るが、

神国内では規制も厳しく、問題と言うほどの案件では無かった。

 

どこかで造られ、細々と流通している限りでは。

 

「昔、神代で姉上が言ってはいたのだがな」

「言われたほど問題な代物では無いと、だが、今回のは」

 

そこで言葉が止まる。

 

銅の旗下に在る城壁都市で大規模に造られていた事実。

流通に、中毒者に、その産地に対する対応をどうするべきか。

 

経験の不足が行動の遅延を呼び、総じて後手に回っていた。

 

互いに等しく、先日の対話を思い返す。

 

改めて歴史の表に出てきた創世神と、その供に在る月長石の悪魔の言。

 

土地を殺してでも蔓延を防ぐべきと。

 

丸薬、液状などで接種する分には精度も低く、悪い酒程度の被害で済む。

常用したり子供や赤子に飲ませない限り、問題とは成り得なかった。

 

しかし、煙にして吸うのならば話は変わる。

 

悪魔が語った天羽楼のやり口に、創世神が裏付けを保証した。

気体吸引の形式をとれば、劇的な速度で中毒症状に至る代物であると。

 

「使い分けていたんだな」

「そして気が付けば蔓延している」

 

国に蔓延する手前、都市の周辺程度で発覚したのは幸運であったのか。

 

「いや、そもそも何故こんな雑な発覚の仕方を」

 

アハマルが疑問を口にして黙考に入り、ザハブもまた思考を巡らせる。

 

仮に、アルフライラが居なければ。

ビッラウラが陰謀を巡らせていなければ、どの様な形に落ち着いたのか。

 

「ヤルダバオトを、銅の神国に封じるためか」

「銅の国内を荒らし、更に赤の神国で蓋をする」

 

赤銅の大神ナハース。

 

その民の都である天羽楼都は、記録に他国と関わるたびにその位置を変え、

正確な位置もその内面も杳として知る事は出来ず、謎に包まれている。

 

「この状況では、赤に軍を送るわけにはいかないか」

 

停戦直後だと言うのに銅から赤の神国を越え、天羽楼の探索へと向かう。

そのような行動をとるのは不可能に近いかと、ザハブは頭を抱えた。

 

「いや、軍を出せ」

 

そして停滞する新夫に、新妻は嗾ける。

赤の大神として、赤の神国へと要望を通してみせると。

 

「きっとビッラウラなら、何とかしてくれるさ」

 

深い信頼の滲む、自信に満ちた言葉がそこに在った。

 

そして後世に歌劇などで人気となる、妻問いと呼ばれる演目が生まれる。

 

互いに想い合い結ばれようとしていた大神たちが、些細な行き違いで破綻。

国へと戻った赤の女神を迎えに、黄金の大神が赤の領土に訪れる話である。

 

第一帝国時代に起こった、銅の進駐までの経緯を元にした物語であり。

 

帰還したアハマル神を神都に迎えず大砦に留めていたビッラウラ神の意図、

そしてその場で編成された赤と銅の合同軍までの成り立ちには。

 

関係神の口は堅く、後々に様々な憶測を生む要因と成っており。

 

―― 神都に初夜から逃げてきたヘタレどもへ開く門は無い

 

渦中に問われたビッラウラの返答は、歴史の闇に消えていったと言う。

 

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