神殿で持て成されたアルフライラは妹の乳を叩き、
各所で豪商に貢がれつつも妹の乳を叩き。
やがて帝国に向かうべく神御座船に乗り妹の乳を叩き、
神国北方の同盟都市へと輸送されつつ妹の乳を叩き。
素知らぬ顔で同行しようとしていた妹の乳を叩き、
そのまま簀巻きにして船団事務長に引き渡した。
「何かやりきった気がする」
次女の分も叩いておく、妹思いの長女であった。
そして陸路で帝国を目指す。
黒の商人夫婦と別れ、高層連なる都市を後にした。
ふゆふゆと移動する板に普段の面々が連れ合いつつ、
何故か後ろに幾つかの荷馬車と護衛の開拓者の姿が在る。
青の豪商たちから貢がれた、鐘鼓饌玉の類である。
貴ぶに足らず、但だ長酔を願いて醒むるを用いぬ集団に、
貢いだ所で何の利が在るものかと面々が疑問を持つも。
千夜神への供物として、豚人の国に持ち込む事に利が在ると、
同行していた商家の者たちは悪びれずに語る。
とりあえずと豚人の国までは護衛付きの馬車が在り、
空になった馬車に買い付けして青の神国へ戻る予定だとも。
「神殿までは付き合わないのね」
「豚の人に売り捌いて縁付くのも狙ってるのかな」
女性陣が板の上でのほほんと察し、まあ貰えるなら貰っておこうと。
「辿り着いたら、アビヤドへのお土産を残して処分しておこうか」
神がさらりと自然に告げた内容に、是非ともと頭を下げる商家の人。
その俯いた顔の、唇の端が歪む様を察し創世神は苦笑した。
「何かアルちゃんが口先で豪商を転がして財を成しているわね」
「どこをどう見ても邪神の所業じゃな」
連れ合いの感想は華麗にスルーしておく。
やがて陽は中天を過ぎ、街道に春風が踊った。
がらごろと車輪が回る音を響かせ、緑萌える中を集団が行く。
田畑も絶え、遠く森に果樹の園が見え、放牧の丘を芝生が包む。
遠くに見える街道宿場を兼ねる神殿に、商家が先触れを送った。
「赤もだったけど、青も大きな城壁をあまり見ないね」
「城壁都市が多いのは銅じゃな」
赤も青も、神都や港湾都市などは流石に城壁に囲まれているが、
道中に見かけた田畑や集落などは、せいぜいが柵程度であった。
「銅は合衆の国な上に、他勢力に囲まれておるからのう」
帝国として纏まった隣接諸属国のみならず、国内勢力にも不安が残る。
その様な状況だからこそ、畑ごと壁で囲む形式の都市が主流であった。
「そして交易が主流じゃな、何せ隣接国が多いからの」
「ああ、隣接国が少なくて中央集権の赤とは何もかも違うと」
対し赤の神国は、都市、集落に関して城壁の必要性は低い。
どこまでも続く、神軍に守られた広大な耕作地を保有する国である。
「青は単純に、人が都市に入りきらんだけじゃ」
一応は、気休め程度の城壁なども存在はしている。
「赤は農業大国だったか、黒が必死に縁を繋ごうとするわけだ」
「青からしたら、切っておけば利ザヤで稼ぎ放題じゃな」
天水農業に、或いは多少の灌漑を組み合わせた他神国とは違い、
氾濫農耕を灌漑で制御している赤は、極めて安定した穀物倉と言える。
そして会話の内に先触れが戻り、宿舎へと足を運んだ。
「このあたりはエルトラの土地ですから」
言いながら宿舎の神官は葡萄酒の瓶を掲げる。
青の北方にエルトラと呼ばれる民族が在り、過去に敵対していたが、
現在は同盟都市として、青の神国の一角を担っている勢力である。
「エルトラと言えば葡萄酒よね」
「ほっほう、遠くに葡萄棚も見えおるし期待が高まるのう」
即座に食い付く呑酒妖怪たち。
そのまま宴席に案内される後ろで、護衛の開拓者たちなどは、
馬車の横に天幕を造り、路傍に夕餉の準備を進めていた。
場を後にする前にアルフライラが軽く指示を出し、神官が頷く。
やがて肉と葡萄酒が届けられた天幕に、高らかに賛美の声が響いた。
対して屋根の下で眠れる立場の集団は、宴席へと導かれる。
まずは厨房の石窯から鉄皿が取り出され、食卓の上に置かれた。
皿に沿い丸く焼かれた穀物の平パンに、胡椒が掛けられる。
それを果実油を豪快に注いだ鉄皿に広げ、揚げ焼きした品である。
表面がサクサクで内部はほっこりとしている。
果実油の香りは爽快に鼻を抜け、口にした開拓者たちの頬が緩んだ。
そして間髪入れず、どんと出された大皿料理。
途端に満ちる暴力的な香り。
肉であった。
それはもう大きな、炙り肉であった。
T字に切り取られた、牛の腰の脊椎骨が付いたままの肉であった。
骨を境にロースとヒレが分けられている、その肉塊は厚かった。
その厚さに神が目を丸くしていれば、神官がタフな笑顔で告げる。
「エルトラでは指三本より薄い肉を、
言いながらヒレの側に果実油を回し掛ける。
ロースの側は何も掛けず、下味と肉汁で味わう物だと。
言いながら切り分ければ、濃く色を変えた外側と薄く桃色のままの内。
「良い感じの油と脂が、葡萄酒の酸味で洗い流されるー」
歯切れの良いヒレは、果実油の香りが乗ってその重さも増している。
ロースは噛み締める度に牛脂が口中に広がり、肉食の歓びを主張する。
肉の味付けは、ごくシンプルに塩と胡椒だけであった。
薪窯から炭を手前に引き出し、金網を被せて焼いた肉であり。
炭の熱と遠赤外線が内側を、奥の薪からあがる炎が表面を焼き焦がす。
「味が濃いから、塩味が無くて微妙だったチェチーナが良い感じ」
「エルトラ料理は味が濃いからね、主食に塩を使わないのよ」
エルトラはごはんとおかず的な食卓を造る土地であり、
そのため、パンなどの主食にあたる食物には基本塩が使われない。
「これが青の食用牛か、普段食いとは完全に別物じゃな」
対し肉を味わい感嘆する妖怪の片割れと、持て成しの神官の言葉。
「その中でエルトラの渓谷牛です、太らせず痩せさせず育てる肉ですね」
「ふむり、道理で葡萄酒に合うわけよ」
そしてハジャルはしみじみと舌鼓を打ち、サフラは一心不乱に食べ続けた。
神殿宿舎の宴は、角灯に果実油が燃える頃合いまで続けられたと言う。