砂と偽りのアルフライラ   作:しちご

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Ex-22 豚人国覚書

 

第一帝国時代、大地を抱く王たる初代豚人王の御代の豚人国。

ある時、国土に千夜神が降臨なされ幾つかの逸話が残された。

 

 

古王国時代の遺産

 

初代王時代、豚人国の土地に古くから残されていた古代文明遺跡より、

幾つかの遺産が確保され、現在も一部が国宝として保存されている。

 

千夜神と月光の賢者の鑑定により古代文明初期の物と判定され、

その折に一部が千夜神へと献上されたと言う。

 

 

王宮の物置部屋には、幾つかの巨大な鉄の箱が並んでいた。

見上げるほどに縦に長く色彩豊かで、上部に複数の押しボタンが見える。

 

「旧神遺物ではと疑われているのですが、どうなのでしょう」

 

縦横に丸い王太子が問えば、アルフライラとハジャルは揃って首を振った。

 

「露骨に大きさが違う、後世の模造品か何かじゃないかな」

「古代王国時代に神代仕立てが流行ったからの、その時のじゃろ」

 

先史極東に存在した自動販売機に見えるが、その大きさは倍以上。

当時の通貨を偽造し作業用ハンドで投入、ボタンを押せば品物が転げ出る。

 

「限定的とは言え情報生成か、さては生成機が入ってるな」

「機能まで再現となると、古代文明でも初期の代物じゃな」

 

観察しながら転がり出た巨大な缶飲料を王太子に渡せば、

普通に稼働していた事実に対する驚愕が全身を震わせていた。

 

しかしそんな事よりも、アルフライラの注意を引く事柄がそこに在る。

 

【挿絵表示】

 

猫がはまっていた。

 

取り出し口である、大きさからして猫人の類であろう。

もふもふの下半身がぶらぶらとして、上部のにゃん玉も揺れていた。

 

真顔で人差し指を伸ばして近付く神を、人が全力で引き留める。

 

「在るからには、押さねば無作法と言う物」

「人じゃから、乙女的な意味合いで押したらいかんヤツじゃからあああぁッ」

 

当時の宮廷猫人の魅惑には、かの千夜神も惑わされたと伝えられている。

 

 

 

次代国王への祝福

 

二代目豚人王はその巨体と温厚な人柄が伝えられている。

特に豚人族としても群を抜いた巨体は、王族の特徴として後に伝わるが、

それ故に通常の豚人族、その中でも小柄な豚人王に当初は疑惑が持たれた。

 

 

ぽよんぽよんと肉を揺らしながら都を案内する王太子に、板は続く。

道中に様々な人から声を掛けられている様を、後ろから眺めていた。

 

「困った事があれば言いなさい、君たちは大事な労働力なのだからね」

 

豚人の職工相手に、何か血を見たら豹変しそうな事を言い出している。

 

「父親似だねえ、たぶんきっとおそらく」

「どこらへんを見てそう思ったのじゃ」

 

問いに拳法殺しな脂肪と言い掛けたアルフライラは、改めて端的に答えた。

 

「体格」

「見るからに違うのじゃが」

 

前を行く王太子の肩が少し震え、しかしそれを気に留めず言葉は続く。

 

「豚人王は発育不良なだけだよ、幼少期に食えてたら巨体だったんじゃない」

「ほう、そう言えば食うに困らぬ様になったのは最近じゃったな」

 

骨が太いし水に入れたら沈むだろうな、とか適当な事を言う神と、

それでも普通の豚人並みの体格なあたり、恐ろしい血筋じゃのうと人。

 

「え、ええ、私は父親似なんです、よ」

 

前を歩く王太子の声は少し掠れ、軽く空を見上げたまま振り向かない。

 

後に二代の豚人王の御代、千夜神に心を救って貰えたと王は語ったと言う。

 

 

 

古きズムルド公の平パン

 

帝国初期に美食家として著名なズムルド3世は、平パンを好んだ。

後に豚人王の国となる土地でそれを食し、国元に持ち帰った後に、

上に乾酪を削るなどと、様々な変化をつけて味を楽しんだと言う。

 

 

窯を持つ酒屋、居酒の食事所で残り2名の開拓者組と合流した。

単に呑み喰いしていたところを捕捉されたとも言う。

 

「そんなズムルド公も好んだ逸品ですね」

 

王太子が店主に注文を出し、国のお薦めだと自信を持って語った。

 

「アルちゃんと王太子様のおかげで凄いの出てきたわね」

 

焼き上がりを待つ間、呑酒妖怪の元には新たな割材が運ばれる。

透き通った水で、よく見れば時折に小さな泡が浮かんでは消えた。

 

「麦酒樽上で、固定空気の中に置かれた水です」

 

炭酸水である。

 

麦酒の製造工程で二酸化炭素、巷で固定空気と呼ばれるそれが発生する。

そのため水の入った器を上に吊るしておくと、炭酸水が出来上がる。

 

これで割る蒸留酒(アラック)は葡萄を発酵させ、八角と共に蒸留した物であり、

清涼感の在る八角由来のオイルが水に反応し乳化、白濁する。

 

また、アルコールと水分の反応は熱を呼ぶので神製の氷を放り込む。

 

そして出来上がる、結露するほどよく冷えた白い蒸留酒の炭酸割り。

 

「豚人麦酒と言い、豚人の国は洒落になんないわ」

「帝国で貴重な、青の神国と張り合えそうな国じゃな」

 

王太子が妖怪たちの称賛を面映ゆく受ける内に、平パンが窯から出された。

同時に入れていた鉄皿も引き出され、切り分けナイフと共に席に供される。

 

どちらも見栄えは等しく、細かく刻んだ肉の層の上に輪切りの赤茄子(トマト)

下に敷かれたのが平パンか、芋を敷き詰めた鉄皿かの違いが在る。

 

ラハム・ビ・アジーン(肉とパン)、そしてラハム・ビ・サハン(肉と皿)

 

細かく刻んだ肉と香菜に、肉荳蒄(ナツメグ)馬芹(クミン)などの各種香辛料を入れて捏ね、

敷き詰めた後にスライスした赤茄子を並べて窯で焼いた物。

 

そして豚人国では、捏ねる時に煮詰めた柘榴の果汁を混ぜ込んでいた。

 

「意外にサッパリとした酸味」

「酒の方も清涼感があるだけに、合うわね」

 

近隣諸国にも同様の料理が在るが、酸味を強くするのが豚人の流儀であった。

 

 

 

失われし秘宝 ドライラ・アメン

 

初代豚人王が千夜神より授けられたと言う秘宝である。

しかしそれはいつしか紛失され、ただ伝説だけが残されている。

 

半球状の杯の様な形で、黄金拵えの装飾が施されていたと伝説に在る。

豚人王はそれを受け、ドライラ・アメンこそが我が歓びと語ったと言う。

 

 

豚人王は膝を屈していた。

 

「『ひゃくにじゅっせいき、ですかああぁぁ……』」

 

千夜神から齎された言葉が衝撃を与え、かの王は膝を屈したと。

そう伝わっているが、その内容までは後世に伝えられていない。

 

記録に拠れば、その時の会話は先史古代語で交わされたと言う。

故に内容を理解出来る者は居らず、ただ神と王の心の中に留められた。

 

「と、ともあれ、古代遺物に貴重そうな物が在りましたので」

 

しばし後に気を取り直した王が、神へと宝物を貢ぐ。

 

赤銅色の結晶。

 

「壊れた自動販売機の中に在って、穴居人は真なる銅(オレイカルコス)と呼んでいました」

 

真なる銅、遥か西の鉱脈から掘り出されると言われる希少金属。

鉄より軽く頑丈で、古代遺物の内部より時折発見される。

 

「え、霊素結晶、あ、ああ、生成機はこれで稼働させていたのか」

 

渡された神は困惑の表情を見せ、とりあえずと受け取る。

 

一部の神族や穴居人にしか扱う事は出来ないと言われる希少素材。

ぶちゃけ死蔵していましたと語る王に、いやまあ使うけどねとは神。

 

「とりあえずお礼に青のゴミ飯セットでも」

「うわ懐かし」

 

ぽこぽこと生成され、豚人王へと譲られる様々な即席麺。

 

「過去に油揚げ麺も試行しましたが、意味無かったんですよねえ」

「まあ乾麺は普通に流通しているしねえ」

 

保存食、乾燥食品の類は普通に携行食として旅人に重宝されている。

わざわざ高価な油を使ってまで保存食を作る意味は、あまり無かった。

 

「火を使えないなら春雨で良いですしね」

「まあ青で何かやってそうだから、期待して待つが良いかな」

 

言っている間にカップ麺を積み重ねる神と、目を輝かせる豚人王。

 

「あ、これ好きだったんですよ、うわぁ、うわあぁ」

 

そして持ち上げる、半球状の物体。

 

【挿絵表示】

 

マルチャン金色のどらいラーメン、カレー味であった。

 

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