砂と偽りのアルフライラ   作:しちご

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Extra 砂に浮かぶ国

 

春秋の砂漠は交易の季節であり、路を行く人も増える。

 

アルフライラ一行も行き交う隊商の護衛に混ざり、飲食の提供を受け、

道中の魔物を狩るなり給水や調理に手を掛けるなりと忙しく動いていた。

 

正式な契約では無く臨時の物であり、出来高制で実入りは少ない。

 

それでも夜番や斥候など、頭数の恩恵を受ける機会は多く、

小遣い銭を稼ぎながら目的地を目指す分には、相応の案件である。

 

そして陽除けの時間を抜け、契約の終わりが見えてきた。

 

視界の先に在るイルドラードは、相も変わらず礫砂漠に浮かぶ船の如く、

季節柄とその周囲には天幕が張られ、人が行き交い簡素な市と化している。

 

隊商と別れ、知人と手を振り合い宿場に向かう。

 

木賃宿の天幕を張る最寄りの村の者、交易の権を持つ馴染みの商人、

備蓄の仕入れと売却に訪れる遠方の村、楽を鳴らし小銭を稼ぐ芸人たち。

 

日没を待つ篝火の用意を過ぎ、城壁の門を潜った。

 

「アルちゃん様の帰還なのだー」

「丁度良い水屋、手伝え」

 

そして店主に捕獲され、作業台に拉致られていく創世神。

 

煮沸消毒した作業用ハンドで細かく刻んだ肉と小麦を混ぜて捏ね、

その横では店主が包丁を振るい、肉と香菜を細かく刻む宿場広場。

 

「当然の様に連れていかれ当然の様に作業に入っておるの」

「相変わらず店主、アルちゃんの扱いに長けているわね」

 

何か帰ってきた感じがすると頷く2人の横で、眉間を揉む剣士。

言いながら陽を避け酒場に入った3人は、席へと腰を落ち着けた。

 

何故か厨房に入っていた幼女ハーレム組から開拓麦酒を受け取り、

代金を払いつつ軽く呷り、影の中から広場の作業を眺めている。

 

何か摘まむ物は無いかと問えば、幼女が必死に器から皿に盛り、

太めの青年と平たい少女が席へと運んできた軽食の類は。

 

練り豆(ホムス)と、小振りな平焼きパン。

 

昼夜水に漬けたひよこ豆を煮て、胡麻、塩、檸檬を混ぜて練った物。

サックリと焼きあがった小麦に合う、簡素ながら手頃な肴である。

 

「しかし何で店主、広場でやってんだろね」

 

小遣い入るから良いけどと、臨時給仕の遊撃娘が話のネタを振れば、

潤った喉に焼き生地を放り込みながら、ハジャルが推理を返した。

 

「中身が見てわからん料理でも作る気で無いかの」

 

変な物を入れていないアピールのため、衆人環視の中で作業していると。

 

「ああ、餃子とか城壁外の人たちに凄く受けが悪いもんね」

「初見勢が店主の為人を知るはずも無いしのう」

 

会話している内に広場では、刻んだ肉菜に木の実を入れて炒める店主、

その横で捏ねた肉入り生地を、小さな団子状に丸めて並べる調理神。

 

用意が整えば1人1柱で団子を指で凹ませて、炒め物を放り込み包んだ。

 

向き合った互いが次から次、超高速で包む様はそれなりに見応えが在り、

完成品を放り込んだ籠が山盛りに成る頃には、観衆が歓声を上げていた。

 

その頃には空も茜に染まり、店主と神が酒場に戻り厨房に入る。

 

そして火に掛けた鍋に満々と食用油が張られ、肉饅頭が放り込まれた。

揚げ音が酒場に響き、次々と小麦色に揚がった饅頭が引き上げられる。

 

球包み(クッバ)、炒めた肉菜を肉を混ぜ込んだ生地で包んだ料理。

揚げるにしろ煮るにしろ、とにかく大量に作るのが調理の定番である。

 

「これぐらい一気に作るなら、食用油も気にせず使えるな」

 

次々に揚がる小麦色は鉄網に乗せられて、油が切られつつ即座に売れる。

幼女ハーレム組が売り捌く横で、油に時折米を放り込み掃除する神。

 

なお汚れを吸い取った米や麦は、後で駆け出しが賄いの嵩増しに使う。

 

やがて揚げ尽くし、最後の方に揚げた売り物として微妙な球揚げを、

皿に盛って手間賃として、受け取ったアルフライラが席に合流した。

 

練り豆を雑に厚く塗り、発酵乳を掛ける。

 

「アルちゃんアルちゃん、店主側から戻ってきて」

「これはいかんのう、手が止まらんぞい」

 

全力で開拓者麦酒を売り捌くスイッチが入りっぱなしの調理神の威光に、

人に抗う術など在るはずも無く、3人の杯が超絶に加速する。

 

その有様にそこかしこで醗酵乳の追加が注文され。

 

宵に入り、篝火の横で店主と神が冷水を売り捌く頃には、

宿場の広場には酔い潰れた死体が並べられ、何かの市場の様であった。

 

やがて水も売り終わり、神が呻く死体に作業用ハンドで水を飲ませた後、

3人をそれぞれの個室に運んで冠水瓶を置いて、2階の自室に向かう。

 

そして魔素を固め薄明を造り、窓を開けた。

 

春に至り氷が剝がれた夜の風が、滞留していた部屋の空気を揺らす。

板に寝転んだ少女が、満天の星を仰ぎ見て力を抜いた。

 

「さてこれから、どうした物か」

 

ペル・アビヤドに向かい最後の答え合わせをする。

 

「そして準備を整え西に向かい、ナハースの物語を終わらせる」

 

旅の中で見えてしまった構造は、少女に頭痛を呼び眉間が揉まれる。

やるべき事、やらざるを得ない、責任が残されていた事。

 

しかしそれは、あくまでもアルフライラ個神の問題であった。

今を生きる、3人の人間には付き合う義理は無い。

 

「世界の危機なのだー、とか言ってしまえばどうだろ」

 

嘘では無い、ともあれと少し悩み、瞼を閉じる。

 

朝に成れば旅の終わりを皆に問い掛けようと、夜の底で少女が決めた。

 

そしてアルフライラが少しばかりの怯えを隠しながら問い掛けた朝、

3人はもう少し詳しくと席を移り、同じ会話を店主の横で繰り返して。

 

「わかったてんだよ、依頼とってくりゃ良いんだよなッ」

 

そう叫ばせるまでチラチラと視線を投げ続けた。

 

「うむ、アルや、ただ働きはいかんぞ」

「英雄的な思考なんて、歌の中だけで良いのよ」

 

言いながら朝から麦酒を傾ける呑酒妖怪たちの横で、

無言のままで少女の頭をがしがしと撫でる大柄な剣士。

 

神は引きつった笑いのまま泣きそうな、そんな複雑な表情をしていた。

 

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