合流した家猫族を補給する創世神が居る。
イルガルブ軍は、太守パルセィームに率いられ前線拠点に向かい、
開拓者たちは、以前にも訪れた赤の国境砦に逗留し後続を待った。
やがて獣人勢力が到着し、存分に猫を吸うアルフライラである。
「うなー」
風通しの良い表の広場の端、建物の日陰に屯する毛玉たちの中。
板の上で嫌そうな顔をしている黒猫を吸いつつ、全身の脱力。
砦に逗留しつつ、連日に権能を行使し疲労の極みに在る神であった。
かくして倉からは資材が溢れ、糧食の余裕は数える意味が無いほどに。
ザハブ、エミーラなどであれば片手間の作業ではあったのだろうが、
権能の出力が最低値のアルフライラにとっては苦行でしか無い。
肉体的な疲労は板に修復されるので、主に精神的な物である。
なので猫を吸う。
黒猫敷布団勇士フル・アスワドも、経緯を知る故か吸われるままに。
ただ、普段から座り気味の目はより一層に座り込んでいる有様。
「ほらアルちゃん、昼食が届いたわよ」
そこに、配給所から食事を受け取ってきたマルジャーンが声を掛け。
板の上に皿を置けば、ようやくに身体を起こす限界突破疲労神。
「ぬあー」
「もはや言葉を連ねる気力すら残って無いのね」
黒猫毛皮に凭れながら、丸く巻かれた生地を食む。
柔らか目の生地には無数の穴が開き、蜂蜜が巻かれていた。
暫し放置し気泡が出る程度に醗酵させた後、鉄板で焼いた生地。
「めふー」
「そうね、人が多いから配食は鉄板焼き主体みたいよ」
無駄に磨かれた意思疎通能力を発揮させるマルジャーン。
それはそれとして、流石に言葉で会話しろと神の頬を摘まんで伸ばす。
伸ばされた頬を抑えながら、姿勢を正した神に渡される薄荷の茶。
「前から思ってたけど、赤の薄荷茶って妙に甘口」
「薄荷茶って、何故か西に行くほど甘くなるのよねえ」
そして美女と美少女がのんびりと猫に囲まれ茶を啜っていれば、
折りたたまれた生地を齧りながらの、男性陣が合流を果たした。
「現状はこんな感じじゃな」
食べながらハジャルが、簡素に描かれた地図っぽいものを板の上に置く。
西の最果ての砂砂漠、岩の山脈に隣接する神都イルカーディアに対し、
赤より西に向かう銅と赤、そして北から岩山沿いに侵攻する青と黒。
2勢力それぞれが砂砂漠と礫の境あたりに補給拠点を設立しており、
そのまま侵攻を続け、イルカーディア手前で合流する予定らしい。
「既に戦端は開かれているのに、決戦は結構先に成りそうだね」
「総じて戦など、9割は移動と待機で占められる物じゃからなあ」
そして帝国勢力、各地のそれは既に両勢力に身を寄せ前線に血路を開き、
獣神率いる獣人戦力は、現在に赤と銅への拠点を目指し進軍していた。
なお、通りすがりにアルフライラがへし折られたのは言うまでも無い。
そして後方拠点として使われている国境砦には、現在は一部の白兎族、
及びその護衛と千夜神付きとして抽出された家猫族勇士が残っており。
忙しなく働く兎を眺めながら涼んでいる神と猫である。
「とりあえず少し待って、最終的な前線予定地を目指すかな」
「白兎族は途中の拠点に置いておく感じじゃな」
言いながら互い、追加の千穴パンに以前受け取った
もそもそと食み薄荷茶で流し込みながら、アルフライラが問い掛けた。
「で、ジャマールはどうするのかな」
背後で猫に寄生していた祟り神に向かって。
良く見れば白兎族に混ざり、タサウブとハディヤも走り回っている。
精霊は既に世界に戻っており、その姿こそ無いが偏在している。
「因果応報、物凄く顔を合わせ辛いですね」
そして精霊は、ついでとばかり遠く密林にて森人へ託宣を下していた。
全ての大神が集う大戦、故に大神アフダルは暫く留守にすると。
存在がバレたら大神アフダルは世界樹に成ったよ設定が揺らぐため、
念のためとの情報操作ではあったが、そこからの展開は当然ながら。
森人の戦士団と山猫族の率いる密林同盟が、全力で紅玉平野を渡った。
そして彼らは帝国からの派兵に混ざり、現在に砂漠の縁に居る。
ジャマールが姉と一緒に後方砦に隠れていた理由である。
「後悔噬臍、攪乱用にマウジュ連れてくるべきでしたか」
従神マウジュは、臨時のペル・アビヤド防衛戦力として留守役である。
「イアベールも森人の聖地に置きっぱだし」
あれ、こいつもしかして戦力外なのではと首を捻る姉に、
作物、作物を大量に納入したでしょうと有用性を主張する妹。
「もうここに置いて行って後方支援させとけば良い気がする」
「勘弁です、前線すっぽかすと姉妹に千年は愚痴られそうなので」
なら仕方無いかと諦める創世神と、毛皮吸いに戻る祟り神。
やがて陽も傾く頃、暑を避けて砦より出陣する幾つかの小規模勢力。
帝国からの武装した人々と、血縁が見て取れる獣人たちの集団。
神と人は麦ベースの
「帝国は軍だけど、獣人は一族って感じかな」
「親兄弟で参陣するあたり、本気なのじゃなあ」
流石に非戦闘員など故郷に幾らかの親族を残しているのだろうが、
親子、兄弟と血縁を複数に出しているあたりに覚悟が見て取れた。
「決戦戦力こそ大神や機神群とは言え、兵は必要じゃからな」
「惜しみ無く全戦力投入か、ナハースも恨まれたものだね」
そして開拓者頭脳労働担当組が、地図に視線を戻し語り直す。
「ある程度迂回して岩山に寄るとして、砂砂漠を突っ切るのは何で」
「礫砂漠側を直進すると、道中に厄介な部族が居ってのう」
多少遠回りになるルートにアルフライラが疑問を零せば、
ハジャルが天羽楼時代の経験から近隣部族の知識を述べる。
「水を毒と認識しておってな、水回りの価値観が違い過ぎるのじゃ」
水分は水瓜や樹液などで補給するものであり、水が忌み嫌われている。
水を操る神など邪神以外の何者でも無く、討伐対象に成ると。
「何でそんな妙な価値観に」
「その地域の水質が極端に悪かったせいらしいが」
そしてしみじみと思い出話を語るハジャル。
「昔に井戸を掘った時など、部族への攻撃と見なされ襲われたのう」
軍勢ならば近寄って来ないだろうが、少数移動だと危険だと。
「厄介事の気配しかしない」
「じゃから迂回じゃな、結局はそれが一番早い」
簡素な手書き地図の中、前線への道筋が決められていった。
その後ろで酔い薬を傾ける物理担当組の横、家猫族が軽く欠伸をする。
空の色に僅かと宵が混ざり、拠点の慌ただしさも収まっていった。