壁の向こうは6千年たっている。
何か面倒見てた子供に家族ごっこに虫唾が走ってたんだよぉとか叫ばれて
ラボごと時間軸追放的な弾丸を叩き込まれてからもうすぐ2年。
けど放逐された空間の境界面の向こう側は6千年ぐらいたっている。
時間軸から追放された空間は、割れた惑星がやがて互いの引力に引かれ
いつしか球体に戻っていく様に、元の時間軸に戻ろうとするらしいが、6千年。
何かこの空間はそれぐらい吹き飛ばされたらしい。
ぶっちゃけ違うチームの産物だから何がどうなってんのか私にはわからん。
遺書と一緒に検証結果だけ送ってきてくれた同僚の爺婆に感謝だ。
ふ、近日中に外の世界を一人で何百年も放浪開始する予定だったから
各種装備が整っていて九死に一生を得たぜ、具体的に言えば餓死回避。
何も無い荒野のど真ん中で衣食住確保の予定を組んでいて本当に良かった。
そんなわけで気を取り直し、餓鬼どもの教育に悪いからとあえて生成していなかった
20世紀日本のジャンキー食文化祭りで最高な2年間の監禁生活でした。
つか私を殺したいなら生命維持装置をそっと外すだけでパタQと倒れると言うに。
13人の餓鬼どもの12番目、銀はそんな感じに考えの足りないとこがあった。
まあどうでもいい、もう6千年前の話、と言う事になるのか。
うんどうでもいい、殴りたかったがどうでもいい、シバキたかったがどうでもいい
墓とか無いかな、壊しに行くのに、でもまあ6千年じゃ無理だろうな。
末裔とか居ないかな、殴りに、いやどうでもいいんですよ、本当ですよ、本当だよ。
誰に言い訳しているのだか。
閑話休題、黒い、球状に隔離された空間を隔てる壁に向かい思いを馳せる。
今から私は出ていく。
まあ内部的に2年近くたって元の時間軸にだいたい合流しかかっている現在なら
送られてきたデータと設備で、境界面の同期をはかってスルリと抜け出すって寸法よ。
ふよふよと浮かぶ私専用板型権能強化式万能生命維持装置に座りこみ、
周囲に人一人が入れる程度の大きさで球状の境界を作り出す。
境界を越える時に問題に成るのは外と内の時間の流れる速さの違いだ。
わかり易く言えば、黒く何か向こう側の見えない境界に勢いよく無策で突っ込めば
身体の後ろ半分は1秒なのに前半分は1年経過、なんて怖い状態に成る。
心臓と脳髄がとか考えるまでも無く、年月のシュレッダーで肉体をミンチにする感じか。
ので自分を境界に包んでこの隔離空間から脱出し、外で1ナノ秒ぐらいの一気で解除する。
手持ちの出力でそれが可能になるぐらいは元の時間軸に近づいただろう、計算上は。
行けるかな、いやまあ行くんだが。
ああ、思えば遠くに来たもんだ、私が作られて ―― さて何年だか
ちょい待て何年かなだ、ちょくちょく記憶消去されてたからわからんよ畜生。
今私何歳なんだ、肉体に老化機能ついてないから本気でわからん。
私を作った未来人どもに呪いあれ、いやまあ呪われまくっている様な有様だったが未来地球。
まあ正確には彼らが現代人で私が古代人なのだが、いや、今は仲良くどっちも古代人か。
オーケー落ち着こう、オーケーオーケー、古代英語でオーケー。
何か孤立空間サバイバル中にねじ込まれてきた同僚の遺書に因れば、
イー感じにやらかして研究チーム全員笑いながらくたばったぜイエーとか
何かやたらとファンキーな爺どもの叫びが、どんな顔すればいいんだか私。
一応くたばるまでの経緯もあり、何か私をこんな風に追放した黒幕が末っ子の銅だったとか。
ぶっちゃけ私を殺したいなら生命維持装置をリターンズ、天丼天丼。
残念ながら、と言うほどでもなく予定通りと言うか、旧人類は完全に絶滅したと。
私を作っていじり倒した言語道断な糞どももくたばったかと思えば実に清々しい。
つーか銀の馬鹿も死んだらすぃ、人をこんな目に合わせたくせに。
泣いて謝るまで殴り続けたかった、そこまでの運動したら私の方が死にそうだが。
息を吐く。
地球地球化計画が上手く回っていたら、境界の向こうは緑の楽園に成っているだろう。
―― キミが訪れる世界が、いつか語った翡翠の園である事を願う
生命の枯渇した惑星の成れの果てからの遺言を思い起こす。
いや待て6千年だ。
起源から数えて人類が宇宙に進出するまで2千年、それが3セットだ。
と言うか生前は昭和生まれの私だが、作られたのは西暦で言えば6千年。
霊素発見から魂魄改造を含む惑星上を循環する生命の浪費で人類滅亡が6千年。
元年から数えて生命の失われた死後の世界が6千年。
嫌な数字の一致だな。
人が頑張って惑星を修復したのに、閉じ込められている間にもう1サイクルとか回って
こうなる前と同じような暴風吹き荒れる荒野が広がっていたりしたら、泣くぞ本気で。
こう、未来都市とか、密林とか、そんな感じでお願いします、どうか。
てやー。
そんな事を考えながら突破して見れば、見渡す限りの ―― 砂
…………いや、これは想像の斜めだった。
文化は、文明は、人類はどうなったの、砂ってキミ …… 砂って。
そう言えば生前の記憶に砂の惑星とか何かのタイトルがあったな、やかましいわ。
「――――」
突然の音に釣られて振り向けば、おおう、原住民発見。
砂だぞ、砂漠だぞここ、まさかコレでも街中ですとか言わないだろうな。
そして互いに固まっている。
へいへーい、何かびびってるー、私はけっこうびびてーる。
では無いな、とりあえずワタシ、テキイ、ナイ、ヨロシとコミュるべき。
「へろー」
通じてなさそう。
「ぐーてんだーく?」
首を捻る。
「さばーひるへいる」
コンニチハとは、意地でも言わない心意気。
まあ通じるわけが無い、同一言語ですら200年ぐらいで解読不能に変化するものだ。
わかりきった事ではあると、生命維持浮遊板上にゾリっと洗濯ばさみ状のアレを生成する。
目を見開く3体の原住民をスルーしつつ。
開いてー、髪を挟んでー、接続ー。
身体のどこでもよいのだけど、過負荷時に焼け落ちる可能性を考えると髪が無難だなと。
んでギュインと地球化計画で惑星上にバラ撒いたはずの魔素のネットワークサーバーから
現代に使用されている言語をダウンロードしてー、いんすとーおおぉ、痛い痛い、慣れない。
西暦2千年ごろを生きた古代人にさせる操作じゃないっての本当に。
「あー、えーと、これで通じるかなー」
少し舌足らずな感じ、まあネイティブでないしこんなもんか。
「こ、言葉がわかるのか」
何か二人の男性のうち細い方が言ってきた、わかる、わかるぜー。
んでデカいのと色気が溢れてるおねーさんは固まったまま。
「ワシは――、こやつらは――と――」
は、はじゃーる? さふらぁ? まるじゃーん?
名乗られたみたいだが聞き取れない、つか発音できる気がしねえ。
私のベースは古代日本人だぞ、日本語しか話せない喉なんだぞ。
つか帝国って何、砂漠の真ん中で開拓者ってどういう事。
うん、とりあえず固有名詞は諦め半分で聞き取りつつ、少し考える。
あからさまに頭脳労働担当な青瓢箪と、大剣背負った熊みたいな大男、
やたら色気が在るがどことなく品の在る立ち振る舞いの妙齢な美人。
「じゃあ博士と剣士と姫で」
「う、うむ、それでお主は何と呼べばよい」
よし、通った。
満足気な表情を見せない様に気をつけつつ、名前かあ。
本名、誰も発音できなかったんだよなあ。
古代日本語を説明してみたら誰もが途中で発狂するし。
何が悪かったのか、漢字仮名カナ英文字絵文字混ざりパリピ文。
まあともあれ、死後4千年から経過してたし、さらに6千追加だし。
1万の大台に達した以上はもう言語に関しては諦めが肝心だろう。
考える、とりあえず研究所で呼ばれていた様に。
「私はアルフライラ」
アルさんとでも呼ぶが良いと言うと、おねーさんがアルちゃんとか言ってくる。
ちゃんかー、地球上の生命体でたぶん一番年上なんだろうけど、ちゃんかぁ。
まあ良い、とりあえず簡単な自己紹介もつけておこう、返礼だし。
「住所不定無職だー」
何か空気が凍った。