砂と偽りのアルフライラ   作:しちご

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07-09 混戦の果て

 

拠点に迫るサンダルフォンに対し、総攻撃が行われていた。

 

早朝より行われた戦闘は既に昼を越え、いまだ目標は健在である。

軍議にて、拠点を廃棄しサンダルフォンを無視する案も存在はしていた。

 

しかし、砂漠の最奥での帝国含む合同軍の拠点である。

 

仮に拠点を捨て裁定の街を墜としたとして、その後はどうなるのか。

帰路に消費する資源量なら単純に、大神の権能で救えはするだろう。

 

そして、各神国と帝国の間の関係性はどれほどに拗れるか。

 

街は墜とす、拠点は守る。

 

合同軍は勝利条件を達成するために、サンダルフォンの撃破を試みた。

 

やがて昼に至る。

 

全ての機神が起動を果たし、巨大な質量を穿ち続ける。

 

―― リボルバアクラアァッシュですわあああぁッ

―― 引き千切れカイナン・カミンッ

 

山を掘削するが如くに装甲を削る機神を、妨害するように動く魔導甲冑。

 

―― ちぃ、鴨撃ちだが数が多過ぎる、左だアシュラーフッ

―― 想い出のトン・ファアアアアァァッ

 

遊撃に疾る白銀の悪鬼が、黄金と色彩を翻弄する。

 

―― 流石にお姉さまたちは隔離しておきませんとね

―― 無礼るな愚妹、燃えてッ

 

轟と回るハルマスの尖衝角が陽炎を揺らめかせながらデミウルゴスに迫り、

跳ねた白銀の眼前で砂漠に突き立ち、大量の砂を溶解させながら撒き上げる。

 

―― 凍れッ

 

同時、放たれた膨大な熱量に釣り合いを取れるだけの冷却が砂を覆い。

空中の熱砂が大蛇へと姿を変え、凍り付いた砂にガリラが滑りこむ。

 

―― 必殺ぐるぐるアタックと言うか滑ってるだけよねこれええぇッ

 

横回転で突っ込む水神機と溶砂の大蛇を飛んで避けるデミウルゴスに、

間髪入れず飛び掛かるヤルダバオトの白刃が音だけを斬る。

 

―― はい残念

 

言葉と爆音だけを残し、暴力的な機動で宙を吹き飛び間合いを外す悪鬼。

 

僅かの間に音は消え。

 

そして、砂をまき散らし着地する白銀と、音も無く接地する黄金。

 

「流石は偽典とは言え、アイオーンを名乗るだけはある」

 

容易くは無いと、絞り出すような声でアハマルが呻いた。

 

大神の戦場は忙しなく動きつつも硬直し、時間だけが消費されていき。

その足元に在る人々の戦場は、休む事無く血肉を砂に吸わせる。

 

魔導甲冑を引き連れ襲い来る天羽楼の傭兵たちを叩く、人と小神。

 

傷病者を抱え、忙しなく動く白兎の衛生団。

槍を抱えた豚人たちが走る中、撤退し装備を整える法術兵。

血煙に毛皮を寝かす獣人たちと、様々な小神とその勢力。

 

【挿絵表示】

 

名の在る無しに関わらず、混沌とした戦場の坩堝。

 

【挿絵表示】

 

神国も、帝国も、只人も、獣人も、様々な理由でこの場に居る者が、

不完全な連携のままで死力を尽くし拠点の城壁を守っていた。

 

機動性を活かし、拠点の周囲を様々な角度から襲う魔導甲冑。

 

前陣の戦場を浸透で越えて来たそれら、防衛の後詰が受けるも、

単騎に集団であたらねばならない戦力差に、やがて防衛網に穴が開く。

 

終に全てを抜けて拠点へと迫った魔導甲冑の小隊に、矢弾が注がれる。

砂丘の奥より駱駝に乗る集団が姿を見せ、魔導甲冑に襲い掛かった。

 

甲冑の鋼は矢を弾くも、随伴の傭兵たちは悲鳴を上げ倒れ伏す。

 

「槍組突っ込めぃ、終わったらカミリアは防衛に回るのじゃッ」

 

外に住む者たちの複数氏族を率いた、戦装束の狐神が叫ぶ。

 

「ラーレはどうすんだいッ」

「遅参の詫びに前線ぶん殴ってくるのじゃッ」

 

そして狸神の隊を残し、陣形が噛み合う前線へと駱駝を走らせた。

 

それら全てを城壁から眺めながら、アルフライラは待っている。

 

高貴なる赤が降臨する、そのための瞬間を。

 

手元に大きな鉄の筒を抱えながら。

 

その鉄の筒には、円の面の中央に鉄の棒が貫通しており、

中には砂糖を入れて煮詰めた鳳梨の果実水が満たされていた。

 

そして外からと、貫通している棒を通し中心からも凍らせる。

 

やがて果実水は冷却された側から結晶を作りながら凍結していき、

内側と外側の結晶が繋がり、放射状の結晶を作りながら凍り付く。

 

そして出来上がった筒状の果汁氷を、スライスして齧る開拓者組。

 

「結晶が繊維状で、凍らせた鳳梨を齧っておるみたいじゃな」

「つか凍らせた鳳梨って言われたら信じるわよコレ」

 

待ち時間が手持無沙汰なので、氷菓を造っていた最終創世兵器神である。

 

大量に作った氷を白兎衛生兵が運搬していく中、

鳳梨氷を齧りながらアルフライラは静かに言った。

 

見える、と。

 

「目の前に七色に輝く不明瞭な物体が」

 

発言を受け、氷を食べ終え肉球を拭いていた黒い家猫敷布団が、

両の前足で神の頭をがっしと挟み、上下左右に捩じってみる。

 

「かかか顔の向きに追随してくくくるる」

「おそらくそれが居るのは、目の前では無く眼球の中では無かろうか」

 

ただの眼底出血であった。

 

とりあえず目を回した創世神を板の中央に配置し、乗っていた家猫族たちが

のそのそと板から降りた途端、アルフライラの身体から白煙が噴出する。

 

「いやアルちゃん、何で突然にッ」

「さては衰弱が自然過ぎて、アルも板も気付いておらんかったな」

 

マルジャーンが驚き、ハジャルが気付き、サフラが呆れる。

 

そしてアルフライラは全快した。

 

「いや姉さん、少しは真剣味を醸し出しませんか」

 

5弦を爪弾きながら訪れたジャマール・シャムスが呆れ声で告げれば、

お前に言われるほどかと衝撃を受けた姉が素直に反省した。

 

「疑問です、この状況どうするんですか」

 

城壁の外に未だ聳え立つ巨大な機神を眺めながら、妹が問う。

裁定の街からの霊素漏出量は増加しつつあり、猶予はさほど無いのにと。

 

「適当な神族を弾頭に加工して撃ち込むとか」

「後悔噬臍、いとも容易く行われようとするえげつない行い」

 

さらりと対処法を挙げる邪神の言に、顔を覆い嘆く稀代の悪神。

 

「でもアビヤドかアズラクなら、平気な顔で生還しそうだよ」

「以湯止沸、否定し辛い例を持ち出して実行の敷居を下げないでください」

 

姉妹で生贄を選定の是非を語る内、サンダルフォンの周囲に変化が在った。

 

―― どっせえええぇいッ

 

緑色の単眼の巨神が、光の斧を振り回し装甲を引き裂いている。

 

知名度の低い機体に、緑色だから悪神アフダルの乗騎ではと周囲に疑いが走り、

すかさずエミーラが外部音声で宣言して誤解を解消する。

 

―― 流石は我が騎士ジャルニート、ここぞに頼れますわねッ

―― いやエミーラ姉さん、どさくさに移籍を既成事実化しないでください

 

そして即座にザハブが訂正した。

 

「単眼か、一応はアイオーンだからイケるかな」

 

次いでイケるかな、無理かな、無理そう、まあちょっとは覚悟しておけと、

そんな風に悲観的な方向に転がる創世神が、真摯な瞳で妹の肩を叩いた。

 

「じゃまーる、お前の事は忘れないから」

「待って、適当な神族って私ですかッ」

 

哀しみを越えて妹を弾頭に改造しようと覚悟したアルフライラは、

逃走を試みたジャマールを生やした鉄鋼無敵神速電磁触手で捕獲する。

 

そして魂消槍が持ち出されたあたりで、轟音が戦場に響いた。

 

サンダルフォンの肩口に、巨大な斧が突き立っている。

 

投擲した機神は、遥か天空より戦場を俯瞰していた。

鋼の色を宿す装甲が、陽光を反射し大地の光と影を乱す。

 

「忘却か、なら弾頭は要らないか」

「マウジュ、来るなと言ったのにッ」

 

姉妹神の言は僅か、間も無く鋼が戦場に落下した。

 

機械大天使目掛け高速で、すれ違いざまに斧の柄を握り大きく切り裂く。

装甲内部の液体金属が噴出し、銀色の幕の如き雨を降らせた。

 

砂を吹き飛ばしながら着地した機神を、噴進弾が襲う。

サンダルフォンが、切り裂かれながらも両腕の弾丸を放っていた。

 

近距離を刹那に飛来した弾頭が爆裂し、白煙が膨れ上がる。

 

そこより飛び出すは、3機の飛行機械。

 

腕を振り回す大天使に、バラバラの螺旋を描く様に纏わり、天に昇った。

 

そして人々は見る。

 

灼熱の陽光の中に、古より謳われていた鋼の機神を。

 

巨大な神斧を振り回し、蒼天より落下するお伽噺の英雄たちを。

 

両断と、そうとしか表現できない。

 

唐竹に割られたサンダルフォンが左右に割れ、大地に倒れ伏した。

獲物を振り、纏わりついた液体金属を砂に散らす忘却のアイオーン。

 

遥か裁定の街を睨む様、振り向き動きを止めた機神に戦場の音が消えた。

 

「おいマウジュ、何かそれっぽい事言え」

「森人の立場も在りますしね、ここで名乗りを上げるべきでしょう」

 

「ほえッ」

 

その内部で為されている、無茶ぶりを聞く者は居ない。

 

「ししし仕方ないですぅ、こんな事もあろうかとアルフライラ様が」

 

前もって教えられていた文言が在ると言い、廃棄大神2柱が戸惑う。

 

「何だ、顔も知らねえのに突然不安になったぞ」

「信頼と実績の妹ですね」

 

僅か、掠れた様な機械の音が響き、外部音声が響く。

 

―― 遠からん者は音に聞け、近くば寄って目にも見よ

 

大斧を振られ、イルカーディアに突きつける様に止められた。

 

―― 偽大神ダウイ、カイカブと大神アフダルが従神マウジュ・カビール

 

大陸に住む誰もが知っている、忘却3神の名乗り。

 

―― 緑の神威を示すがため馳せ参じたッ

 

その宣言に、勝手に勢力争いに組み込まれた偽りの大神たちは吹き出し、

大神不在故に若干肩身の狭かった森人と密林同盟が沸き立った。

 

そして趨勢は決まる。

 

既に陽は傾き灼熱も収まる中。

 

神都へと押し込んでいく軍勢の遥か、茜に染まり始めた空の中。

 

掃討に移っていた忘却3神が、空を見上げて呟く。

 

ようやくのお出ましかと。

 

―― 最強最古のアイオーン

 

高貴なる赤(レッドバロン)が、天を駆けた。

 

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