砂と偽りのアルフライラ   作:しちご

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07-10 誓約の久遠

 

赤き不死鳥(スーパーロボット)が空を征く。

 

空から紐で吊るされた模型の様に、物理法則を無視した等速直線運動で。

足裏には高貴なる焔(バロンファイヤー)が揺らめいているが、それだけである。

 

砂の大地に在る人々は、神々は、ただ空を仰ぎ動きを止める。

 

黄金と白銀こそ未だに動きを止めず、砂の上に刃を交えているが、

機械大天使に向かっていた機神たちは須らく動作を止め。

 

砂に座り込んだ忘却のアイオーンからは3柱の操手が表に出て、

遠く宵闇の滲む空に向かう紅玉を、軽く嘆息しながら見送っている。

 

戦場は停滞を以て終結に向かい、神話の終結を静寂で迎えようとしていた。

 

僅かと抵抗は在る。

 

しかし矢弾は届かず、投石も言うに及ばず。

 

貴き神の空。

 

そこに、突然の闖入者が在った。

 

2枚の巨大な円盤。

 

紅の円周に磨き抜かれた赤銅の如き深き黄金の棘。

 

未確認、飛行、物体。

 

「プセウドテイ、UFOッ!」

 

届いた若き叫びに応える様に、腕を交差させ受けた紅玉から削音が響く。

いかなる動力、法則に因る物か、回転する円盤は食らい付き回り続けた。

 

「これはまさか、『高位次元干渉機構(アイオーン・システム)』ッ」

 

その違いは武装の有無だけでは無い。

 

アルコーンとアイオーンを分ける決定的な技術格差、次元干渉。

 

3次元空間に実在しあらゆる物理法則に従うアルコーンに対し、

高次元に存在させ、3次元上の物理法則を無効化させるアイオーン。

 

2次元の面に立体を通過させても、切り取られた面しか出力されない様に。

空に浮かび、形態が変化するそれは切り取られた面が違うだけ。

 

物理的に不可能な事象を成立させる、空想特撮科学大魔號再現計画。

 

「半刻しか持たぬ紛い物じゃがなあッ」

 

地上から今度は老人の機械音声が響くと同時、高い音が空に鳴った。

弾かれる様に距離を開き、地上へと墜ちる紅玉と円盤。

 

足裏からの焔を散らしながら砂の上に着地する紅玉のアイオーンと、

飛来する2枚の円盤を、横に回転させた腕で受け止める機械の神像。

 

2枚の棘を持つ円盤を両腕に備える、

白き素体に赤き装甲を纏い、深い黄金が各所を彩っている。

 

「機体の名は偽りの神(プセウドテイ)、我らの辿り着いた末よ」

 

そして機体は赤き拳を握り、反攻の意思を示した。

 

【挿絵表示】

 

戦るかと紅玉の剣士が短く問い、板の上の少女は応える。

 

「受けよう」

 

紅玉の名を持つ神機がその拳を構えた。

 

「在り難しッ」

 

若者と老穴居人の叫びが響くや否や、プセウドテイが前進する。

砂を崩さず滑る様な移動からの、拳撃2連。

 

掌で受けたレッドバロンが拳を握り潰そうとするその時。

 

「プセウドテイUFOブゥメランッ」

 

ハジャル・トルキが高らかと叫び、円盤が射出される。

高速回転する円盤が紅玉の肩に食い付いた。

 

衝撃に押される様に下がったバロンに、両腕を突き出したままの機神。

肘から先が縦に回転し、拳側が肘に装着された。

 

「プセウドテイ噴進弾ッ」

 

老人の叫びに合わせ、腕から連続発射される噴進弾。

 

「えっぐぅッ」

 

全弾直撃した紅玉の中から、少女の叫びが響いた。

 

時間軸が消去されているアイオーンの装甲には僅かの傷も無いが、

3次元上に存在を確定させるための霊素消費は激増している。

 

爆炎の中を突き進み、掴み掛かるバロン。

 

しかしプセウドテイは軽く後ろに下がり、身を翻した。

そのまま足が高く上がり、軽やかに上段後ろ回し蹴り。

 

受けた紅玉の腕に、蹴り足踵の黄金拍車が火花を散らす。

 

「道理でデミウルゴスの性能が洒落に成らないわけだよッ」

 

アルコーン相手なら瞬殺していそうな偽りの神の速攻に、

治金の旧神ロボブーの名を持つ創世神が絶叫させられる。

 

勢いのままに向きを正面に戻した偽神と、再度掴み掛かる紅玉。

 

伸ばされた手を避ける様にプセウドテイは跳ね飛んで、

その後方宙返りの頂点で、慣性を無視して不自然に静止した。

 

折り曲げられた足の、爪先が開き射出される。

 

「喰らえッ、空中大型魚雷ッ」

 

【挿絵表示】

 

鮫を模した空中大型魚雷がバロンを中心に巨大な爆炎を生み。

 

「プセウドテイ火焔ッ」

 

着地と同時に腰部から吹き上がる火炎放射が重ねられた。

 

「ばろんぱんちッ」

 

焔が散る。

 

焔の中に生成された古代文字の陣が砕けると共に赤い拳が飛び、

それを避ける様に飛び上がったプセウドテイが、両腕を掲げた。

 

「スタアアァックッ」

 

回転を続けた円盤が帰還し両腕に装着され、腕の横で回り続ける。

そして螺旋を描き空を飛ぶ拳が近付く中、紅玉に向け落下した。

 

「ちい、やはり傷ひとつ付いておらんなッ」

「煤ぐらい付いとけよってのッ」

 

落下するプセウドテイ肘先が横に回り、回転する円盤が正面に合体する。

棘が食い込み合う様に合わさった円盤が回転を増し、背後に赤き拳が迫る。

 

「これで、仕舞いじゃあああぁッ」

「何もかもがなああああぁッ」

 

高速回転する円盤が紅玉の胴体を縦に滑り、擦過音が轟いた。

砂を揺らし、大気を震えさせ、撒き散らされる火花が砂の上に影を造る。

 

ゴギンと、鈍い音が響く。

 

腕の無い紅玉の正面に、膝を屈する様に沈み込む偽神。

 

そして、全てが静止した。

 

機体の中で、禿鷹の腕輪を中枢に据えた高位次元干渉機構が暴走停止する。

魔素と霊素が荒れ狂い、急速に操手たちの肉体を蝕み鮮血が散る。

 

「届か、なんだか」

 

血涙を滴らせながら、老いた穴居人が俯いたまま呟いた。

 

プセウドテイの背中とバロンの顔面に直撃していた高貴なる拳打が、

ゆっくりと空中を彷徨い紅玉の両腕へと帰還していく。

 

「いや、指先ぐらいは掛かった様だぜ」

 

全身の穴から鮮血を垂らしながら、トルキが老人の頭を上げさせた。

 

「見事だね」

 

紅玉の神像から、神の称賛が在る。

 

赤い巨神の胴には縦一本の筋が走り、腰の飾り板が割れて落下した。

 

足元に、砂が舞う。

 

不壊のはずの神威を失わせた、人の意思。

 

「はッ、ざまあ無えな創世神」

 

血を吐きながら哂い、機体内で肩を組み沈み込む老人と若者。

違いないと、傷跡の後ろで苦笑する千夜の少女神。

 

「まあでも、ここまでじゃな」

 

礼を言うと、壊れかけた偽神から老人の言葉が伝えられた。

改めて、名前を聞いておこうかとアルフライラが告げる。

 

咄嗟に何も言えず老人は口籠り、肩を組んだ若者が返す。

 

「そこのお気楽野郎と一緒だ、ただの路傍の石さ」

 

名乗るべき物など持ち合わせが無いと告げ、老穴居人の口元も歪む。

 

「だがな、いつかその路傍の石が積み上がり、必ずだ」

 

鮮血に塗れ、歪む視界の中で、それでも笑いながら告げた。

 

「誰かが、神の御許に辿り着くだろうよ」

 

我らがその証だと。

 

震えて眠れと遺言が在り、楽しみにしていると千夜神が応える。

甲斐が無いと人が笑い、神もまた楽し気に笑った。

 

「ロボ部の魂を継ぐ者たちよ、介錯は要るか」

 

宣言に、遥か遠く拠点で見守っている穴居人たちが崩れ落ちた。

 

「是非」

「せっかくだ、ど派手に頼むぜ」

 

後は汚染されて苦しみぬいて死ぬだけじゃからなと老人がお道化、

老人と怨念塗れの箱だけが共連れかよと、若者が嘆いた。

 

紅玉が手を伸ばす。

 

「はッ、ワシは思う存分に我が儘であったぞッ」

「名無しのハジャルッ、ムカつくから足の小指を何かにぶつけろ」

 

俄かに騒がしく、我が生涯は悔いだらけだと明るく叫ぶ男たち。

 

笑い過ぎて涙まで零れてきた少女が、最後の言葉を宣言した。

 

「『次元震圧縮振動破砕(プラズマビーム)』」

 

刹那、世界の全ての色が失われ、すぐに戻った。

 

「土は土に、灰は灰に、塵は塵に」

 

突然に偽神の名を持つ巨人の姿が崩れ、砂と化して風に乗る。

 

「魂は機械油の臭いと共に」

 

崩れ出来上がった砂山に、禿鷹の腕輪が落ちて音を鳴らした。

 

そして砂漠に残るは、紅の巨神だけ。

 

吹き抜ける風が、宵を受け取り始めた砂を叩く。

 

そこに、白銀の悪鬼が滑り込んで来た。

 

「お疲れ様ですね」

 

まだ動けますかと、デミウルゴスから神が哂う。

 

軽く見渡せば、ヤルダバオトは砂漠に大剣を突き立てて、

しかしその全身の光輝は陰り、僅かの動きも見せず静止している。

 

「ザハブも限界か」

「継戦能力、アイオーンの唯一の弱点ですわ」

 

だよねーと紅玉の中で遠い目をした製作神と、しみじみ頷く人間たち。

 

「これは、詰んだかな」

 

イルカーディアから零れ落ちる霊素の暴走はもはや視認できるほど、

宵闇の中に様々な色彩を持ち輝き立つ光の柱として、顕現している。

 

もはや完全に封印は解けているだろう。

 

消耗こそ在れど、いまだ健在の白銀の悪鬼の前で。

限界を迎えた紅玉のアイオーンは、存在が薄れだしていた。

 

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