砂と偽りのアルフライラ   作:しちご

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07-13 偽典大図書館

 

魂魄が昇り、そして堕ちていく。

 

生命を構成していた霊素は拡散し、遥か天空を渡る風に遊び、

霊素の外殻を構成してた魄は地に沈み、惑星霊へと還り行く。

 

魂は天に昇り世界を循環し、魄は地に沈み星と共に眠りに就く。

 

などと言う事も無く、アルフライラは単純に落下していた。

 

惑星霊に同化する前、何某かの作用が在ったと理解は出来たが。

 

乗せられたベルトコンベアに手が伸びて取り出された様な、

指向性を持ったまま遊泳していたら投網で拿捕された様な、

浮遊し拡散している最中に押し込められ引き戻された様な。

 

主観的な感覚ではどうにも認識が不明瞭な、高次元干渉の痕跡。

 

そして落下と認識、理解が在った。

 

常日頃から肉体を蝕んでいた、積載権能の消耗が無い。

権能自体は健在で在り、ただ消耗が何処かに肩代わりされている。

 

と言うより、何か肉体を通り過ぎて何処かに行っていると。

そもそも肉体は存在しているのかと疑問を持ち、仮説を構築。

 

落下を知覚した瞬間に、身を切る風が生成された。

アルフライラが徐に脳内で方向を操作すれば、肉体の位置も動く。

 

物理法則を含め、認識が世界を生成している。

 

「想像が、そのまま世界に干渉し現象が具現している」

 

つまりは魂魄が、この謎空間へ直接に接続されているのだろうと。

 

結論に至った少女が周囲を見渡せば、同じように墜ちている末の妹。

天球に沿う異物が在る青空を背後にして、彫像の如く不変のままに。

 

赤金の長髪は風圧を知らない様に身体に沿い、服装に僅かも乱れが無い。

 

しばし無言であったアルフライラは、ゆっくりと横移動をはじめた。

前転宙返りの様に天地を逆しまにして、その途中で片足の膝を曲げる。

 

ナハースの首元にアルフライラの向こう脛が接続された。

 

途端、風圧を思い出した衝撃にハナースの意識は覚醒し、

状況を理解できないまま、困惑も露わに姉の膝を外そうとする。

 

だがしかし、姉妹が接続された事に因り質量は2倍となっており、

そのため重力に引かれる力も強く、落下速度も2倍へと加速していた。

 

当然の様に。

 

「は、えッ、何でッ」

 

ナハースの抱いた疑問が何に対する物で在ったのか、定かでは無い。

何はともあれと膝を外そうとする妹に、姉が対処する。

 

ナハースもまた大神、このままではいずれクラッチは解かれるだろう。

 

そのためアルフライラは身体を捻り、空いていた足を振り上げ、

ナハースの首に接続されている足の膝を全力で踏み抜いた。

 

同時、捻られた身体から振り下ろされた肘が上の膝に叩き込まれる。

 

アルフライラの拳からナハースの首までの力の流れが一直線と化し、

重力加速度は足を重ねることで2倍、さらに肘を入れることで2倍。

 

そして燃え滾る姉の心の中の浪漫で2倍と、計16倍にまで加速した。

 

「うっかり忘れていたけど私の分ッ」

 

―― 神威の断頭台

 

技の威力に腕を弾かれたナハースを下にして、アルフライラが着地する。

轟音と共に神型の穴が地面に造られ、技の掛け手は大地を踏みしめて。

 

「さて、ここは」

 

そして当然の様に無傷の完璧大神始祖は、気軽な雰囲気で辺りを見回した。

 

「ようこそ姉さん、神々の天獄楽、奈落の楽園タルタロスに」

「魔素ネットワークの集積仮想空間か」

 

掛けられた声を華麗にスルーして、周囲の考察を始める姉。

 

「惑星上の疑似アカシックレコード構想、名は確か ―― 偽典大図書館」

「いや姉さん、せっかくの思わせぶりな台詞を無視して考察しないで」

 

困った様な声色にアルフライラが振り向けば、気弱そうな美形が居た。

黒髪を肩にまで伸ばし、その肌は褐色肌の父親役とは違い輝度が高い。

 

「おやエミール、久しぶり」

 

言われた弟が軽ぅいと驚愕する一瞬で、姉は拳を握り腰を回した。

斜め下から弧を描き、掬い上げる様なショベルフックが脇腹に突き刺さる。

 

「よくも顔を出せたなこの隠れ破滅型がああぁッ」

「もげぁッ」

 

そしてエミールは縦に沈み、改めてアルフライラは周囲を伺った。

 

穏やかな風が遊ぶ草原、蒼天に光は満ち、どこかから川の潺が聴こえる。

およそ人が想像する、極めてありふれた平穏の世界。

 

しかしその視界の果てに造られる天球に、幾重もの線が在った。

鎖の様な何某かの人工物らしき物体が、縦横に空を走っている。

 

俯瞰して見れば鎖が造る巨大な半球であろう、しかし内部から見れば。

 

「まるで、空を縛っている様な」

 

そして、地面に空いた穴から這い出る音がする。

 

「あ、あの向こうは、惑星霊ですから、狭間の空間をげふッ」

「エミールッ、無理に喋らないでッ」

 

振り向いたアルフライラの視界には、妹に支えられ立っている弟の姿。

その足元は生まれたての小鹿の様にぷるぷると震えていた。

 

「それで、この空間は何なのかな」

「予想は付いているのでしょう、私たちの魂魄は追跡されていた」

 

大神の魂魄は惑星霊に還る前に、この空間に確保されていると。

 

「冥府と言うよりは煉獄だな」

 

タルタロス、神が堕とされる奈落の底。

 

「そしてそれが、貴女へと残された旧神の遺産」

 

エミールの声色に、剣呑な物が混ざった。

 

そして見る間にその腕は膨らみ、爪と牙は鋭利に尖り伸びていき、

それを支える土塗れのナハースも、同様に肉体が強化されていく。

 

「ナハースが戦う理由は無くなった気がするけど」

「大して状況は分からないけど、私はエミールの意思に沿うわ」

 

開き直ったのか迷い無く言い切った妹の有様に、姉が苦笑する。

 

「僕の分がまだなんですよ、せめて一矢は報いさせてくれませんか」

 

世界に意思を流し自らを強化した神々は、奈落の底でいまだ戦闘に臨み。

対してアルフライラは、静かに両腕を上げて頭の上で交差させる。

 

権能過積載の肉体は常に衰弱しており、それ故に五感の働きは弱い。

だが逆にそれが第六感覚、そしてその先の感覚を認識させていた。

 

「とりあえず星々が砕ける様でも見ておけ」

 

第七感覚に制御された小宇宙(コスモ)が、終に黄金の位階に至り光の速さを得る。

その集積した小宇宙が齎す破壊は、遥か大銀河を撃ち砕くほどに。

 

【挿絵表示】

 

―― 銀河爆砕

 

銀河系を消滅させるほどの威力の奔流を受けたナハースとエミールは、

全身をのけぞらせながら吹き飛び、頭から落ちて鮮血を撒き散らした。

 

「2千年以上の歴史のトンチキに、たかだか2名で抗おうとは」

 

保有知識内のある意味文化的成熟度の、桁が違っていた。

 

なお、突然に五感が弱いなどと言う設定が生えてきたが

これまで料理をどう作ってきたのかなどと言う疑問は無粋であろう。

 

どうせ次回には無かった事に成っている。

 

【挿絵表示】

 

そしてふと、アルフライラが視線を感じて振り向いた先に居た。

 

5本の触腕を持ち人間サイズの、宙に浮く巨大な単眼を持つ海星。

その色は赤く、その触腕は肉が詰まっているかの様に膨らんでいる。

 

突然の爆発する芸術の威風を感じ、神は深く頷いて拳を握った。

銀河を爆砕するほどの強大な小宇宙が、握られた拳へと収束する。

 

そして

 

虹が砕けて ――

―― 銀河が泣いた

 

「ぎゃらくしあんふぁんとむッ」

「パイラッ」

 

掬い上げる様なショベルストレートがパイラ人の推定脇腹に突き刺さった。

 

「こ、この様な暴力的交渉は、宇宙道徳に鑑み、てもぉ」

「随分とご機嫌な姿だなあ、アスワド」

 

触腕で脇腹らしき箇所を抑えながら蹲り、ぷるぷるしている赤海星を、

捩じりこむ様に踏みつけながらアルフライラが言葉を掛ける。

 

「ね、姉さま、弟に厳しくありませんか」

「0割猫に掛ける情けなど無い」

 

キットゥ・アスワドがパイラの道を選んだ時点で、

アルフライラからの手加減が消滅していた。

 

「それでマリカとラマディ、ついでのフィッダは居るのかな」

「言いにくいけどね、残念ながら居ないんです」

 

何故と聞くと、それら3柱は死亡では無く魂魄を破壊されたからと。

 

「……いや、それなら何でお前は居るの」

「太陽が、芸術的な意味で眩しかったから」

 

ぬけぬけと言い切った奇獣神を創世神が念入りに踏みつける。

魂魄の黒猫獣神としての部分が破壊されてますからと、泣き言が響いた。

 

「すると、ずっとパイラだったのか」

「いや、外観はどうとでもなりますけどね」

 

間髪入れず、右のギャラクシアンマグナムがパイラ脇に突き刺さる。

 

「ラマディも何かで洗脳しておくべきだったか」

「僕の生涯に彩りを与えた運命を洗脳扱いしないでええぇ……」

 

流石に口が過ぎたかと言いたい様な顔で、姉は踏みつけの力を緩め、

いやでもコイツが奇獣人造ったんだよなと、思い出して踏みなおす。

 

などと餡子が出ないかなとぐにぐに踏みしめる内。

 

「こ、ここでは心が折れない限り何度でも立ち上がれるんですよ、姉さん」

「これ、だけ、長い間暗躍した執念深さを、舐めないで欲しい、わね」

 

「鳳凰幻魔拳」

 

そして片手間で復活したエミールとナハースの心を折り。

 

「天魔降伏ッ、天空破邪魑魅魍魎ッ、天舞宝輪ッ」

「やめて、やめてあげてくださいいいいぃぃッ」

 

吹き飛ばし再度心を折り五感を剥奪したあたりで、涙目の海星が止めた。

 

「舐めるなと言われたから念入りに磨り潰しているだけなんだけど」

「姉さま、人の心を思い出してッ」

 

まだ幻朧魔皇拳を叩き込んでないのにと言うアルフライラに、

意味は分からないけどやめてあげてくださいと、切に願うアスワド。

 

そして倒れ伏し痙攣している2柱を放置して、アルフライラは歩き出した。

 

「いや姉さま、何を目的とかわかってますか、と言うかあいつらは」

「どうせ空に見える鎖の中心あたりに何か在るんでしょ」

 

相変わらず、行動原理が結構適当である。

そしてエミールとナハースはと続け、僅かに言い淀む。

 

「どんな経緯でも、やらかした事が事だからね」

 

過去を生きた、そして未来を生きる者たちへの手向けのためにも、

せめて少しは無様を晒させておかないと、筋が通らないだろうと。

 

「具体的に言えばアビヤド」

「あ、はい」

 

誰の思惑であったとしても、2柱が世界に傷を付けた事実に変わりは無い。

 

「後で記録を夢枕にでも放り込めば、獣人の溜飲も多少は下がるだろうさ」

 

言葉は穏やかな風に乗る。

 

そして少女と巨大な単眼海星は、長閑な草原へと歩み出した。

 

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