砂と偽りのアルフライラ   作:しちご

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01-15 駱駝の箱

 

物事を駱駝に例えるには、どのような事例が相応しいであろうか。

 

砂の上で駱駝は足を身体の下に折り畳み、箱の様な形に身体を休める。

寒暖差の激しい砂の世界で、表面積を減らし体温の変化を防ぐためである。

 

そして、一度座り込むと中々立ち上がらない。

 

熟練の駱駝使いでも苦労する点であり、それ故に夜間の旅路は

駱駝が座り込む様な機会を無くすために、休み無しでひたすら歩き続ける。

 

動き出した物事が止まらない様か、動かすべき物事が始まらない様か。

どちらかと問えば、現状は物事が決まりながらも動かない後者であろう。

 

カイナン・カミンの破壊を決めたとしても、準備期間と言う物は必要に成る。

 

資材と共に先遣隊として旅立った女性相互扶助小隊戦闘班は、

同行する獣人と共に、獣人勢力拠点に留まり魔物の間引きを担当する。

 

毛皮もいいかなと肉食獣が呟いていたのは、誰もが聞かなかった事にした。

 

それ以外は未だ宿場に残り、様々な調整を続けている。

 

「権限だけあっても、人も金も物も無いんですよッ」

 

姫と相互扶助頭首に挟まれ、王都から来た女性従者が嘆いていた。

 

何でも主家は騎士隊長格の騎士爵であったが、少し前に準男爵に昇爵。

慌てて格に見合う規模にと増員している最中にお家騒動が在ったと。

 

放たれる刺客と甘い罠、どこからか掛けられた賞金に群がるならず者。

散々な有様の末に、唯一生き残った庶子が家を継ぐ羽目に成った。

 

「私ただの名主の娘なんですよー、アイツもただの養子だったんですよー」

 

嘆いている有様にはかなりの酒精が入り、口に出してはいけない事柄まで

漏れ出している様に見えた、ところにさらに杯が満ちる。

 

話題の準男爵の若様は、少し離れた所で開拓者に混ざって呑んでいた。

 

「お貴族様は葡萄酒じゃないと呑めねえんじゃなかったのかい」

「呑めねえんだよ、だから酸っぱい安物を毎日我慢して飲んでんだよッ」

 

切実な絶叫が酒場に響く。

 

あくまでも中央貴族の話であり、副王都の貴族は普通に麦酒も飲んでいる。

 

「何で砂漠の開拓者の方が良いもん飲み食いしてんだよ畜生ーッ」

 

貴族的な意味で、人目が無いから麦酒が呑めると準男爵一行は

ただひたすら開拓者の麦酒を空け、杯を重ね出来上がっていた。

 

気が付けばすっかりと馴染んでいるその様を、眺めながら博士と剣士が言う。

 

「王太子の覚え目出度いとは言うが」

「要は、中央の王族から見て使い勝手の良い軍事力じゃな」

 

男二人が杯を空けながら、聞き耳を立てた内容を語っていれば、

隣に浮かぶアルフライラが羊肉の包み蒸し発酵乳掛けを食べながら言う。

 

「しかし、何かどこかで聞いた様なやり口だねー」

「いやあ、すこぶる覚えがあるのう」

 

全力でやらかしていた天羽楼の元外交官が清々しく答えた。

 

「本国も前王太子が散々に騒動起こしていたせいで大混乱だそうだ」

「ああ、それで新王太子が手持ちの軍事力で軍功稼ごうと」

 

その功績で男爵に昇爵予定、さらに使い勝手を良くってとこかな。

剣士の言葉に、少女が聞いた話を纏めて結論を述べる。

 

そんな二人のやり取りを流しながら、博士がふむと頷いて問いを発した。

 

「天羽楼の連中が仕掛けているとするなら、その意図は」

「13柱の13番目、銅の大神ナハース」

 

少女から短く、天羽楼都が奉じる大神の名が返る。

 

「知っておったのか」

 

僅かな驚きの声に、首を捻りそうでもないと返答の言葉。

 

「ただ何となく、あの娘の作りそうな国だなって」

 

ありえざる国(ウ・トポス)理想郷(ユートピア)、そして実在すれば地獄。

悪意しか無いそれは、誰かと問えば間違いなくあの娘だと断言が在った。

 

「古代に、大神と面識があったのか」

 

剣士の言葉に、苦笑を滲ませた神が言う。

 

「面識は、在るなあ」

「聞かない方が良い気配がヒシヒシとするのう」

 

故にこの話はここまでじゃと博士が切れば、そう言えばと少女が問う。

 

「何で金の大神ザハブが銅の神国なんて名乗ってんのかな」

「ああ、アレは元はナハースの民じゃったのじゃ」

 

黄金の名を持つ11番目のザハブ、彼が反逆した銅の聖女と出会い、

難民を受け入れて起こした国が銅の神国と呼ばれていると。

 

「言われてみれば面倒見、良かったなあ」

「そうなのか」

 

頼み込まれると断れない感じ、などと遠い目をした古代神が言えば、

偉大なる大神が急にそこらの青年な気がしてきたぞと、苦笑が在った。

 

そんな何とも言えない空気の酒場に、お久しぶりですと入って来た二人が居る。

 

「あ、砂漠の王女の商人だ」

「交易都市で大立ち回りしたそうだな」

「王女を袖にして踊り子に愛を誓ったって本当?」

「しかも衆人環視の中でじゃろ」

 

入った途端に4人の集中砲火を受けたいつぞやの商人は、

予想外の事情通に驚愕の絶叫を上げた。

 

「なんで近況把握されてんですかああああぁぁッ」

 

素直に神が託宣を下す。

 

「吟遊詩人が謳ってたよ」

「何故にッ」

 

返答の代わりにそっと置かれる賽銭箱。

 

「あ、僕と彼女の分です」

「よきにはからえー」

 

銅貨2枚が箱に入れられたら、引き換えに氷の入った杯が渡される。

 

受け取った商人が何かを言う前に、後ろから傭兵上りの頭首が肩を抱き、

お前も手伝えと言いながら元傭兵団の机の方に引っ張っていった。

 

取り残された踊り子が戸惑っている様を見て、溜息を吐いた少女が

板からそっと紫色の液体が湛えられた酒瓶を生成し、杯に注ぐ。

 

葡萄酒、貰って良いのと問う信者に、神はサービスサービスと軽く答える。

 

「甘ッ、赤なのに何これ、凄い葡萄酒じゃないのッ」

「神の酒と思うがいいさー」

 

驚嘆されているが、ただの超古代にコンビニで売っていた葡萄酒の葡萄割りである。

 

そして目の前に置かれていた羊肉の包み蒸し、餃子を中身が見えないのが嫌なら

開けばいいんじゃねとの店主の判断から作られた焼売もどきヨーグルトソース。

 

一目見た神が、冷や汗をかきながらアフガンマントゥと呼んだそれの皿を持ちあげ。

 

「あとこの羊肉の包み蒸しも」

「それは自分で食え」

 

そっと信者への御利益を偽装した企みが、隣の剣士のセメントで押し留められた。

固まった神が、ふるふると震えながら涙目で下から見上げる様に語る。

 

「羊肉、飽きた」

 

恐るべき破壊力の美貌も、セメントの精神力の剣士には微塵も効果が無い。

 

「これに懲りたら、依頼料は適正価格を徴収しろ」

 

近隣の村々の、爪に火を点すような生活の中で起こった水回りの異常を、

少額だがと必死に金をかき集めて開拓団に対して出した調査依頼に対して。

 

ふらりと訪れ井戸の詰まりを直し洗い毒を浄化し、水回りの整備をして去って行く神。

 

本神的には小手先の手間だが、人の世で見れば凄まじい大仕事である。

 

あきらかに値段に見合っていない仕事っぷりは、水神アルフライラを称える祠と、

物納と言う形で宿場に送り付けられる羊と化して顕在化してしまった。

 

振舞いにも限界が在り、おかげでこの神、最近は延々と羊肉尽くしである。

実際はある程度の換金などもされているが、反省を促すために。

 

ううと涙目で包み蒸しを片付ける少女に、苦笑する博士が言う。

 

「まあ、贅沢な悩みではあるわな」

 

灼熱に至る手前の時刻の酒場で、相変わらずねえと踊り子が笑った。

 

 

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