砂と偽りのアルフライラ   作:しちご

3 / 217
01-01 白い砂

 

陽も中天に向かい砂丘から姿を見せるほどに昇る。

朝の静謐も姿を消し、昼の灼熱へと至る狭間の時間。

 

まあ何はともあれと異常事態に小隊は報告のためと帰還を定め、

異常事態の原因そのものの少女を連れて場を引き払う事になる。

 

球体を遠く後ろに臨む砂漠の最中で、砂丘に挟まれた谷間を歩む3人と1枚、駱駝。

先行していた剣士が立ち止まり、ふよふよと背後霊の様に憑いていた板娘がぶつかった。

 

「白い砂?」

 

中空の板の上で転げたままに器用に首を傾げた少女が聞き返す。

 

「掘ると水が出る」

「何で」

 

手持ちのスコップで掘りながらの言葉に、疑問が返れば黙考。

 

「出る」

「出るのかー」

 

説明を諦めた端的な解答が在った。

 

「その下に川が流れておるのじゃ」

 

息も絶え絶えな姫を抜き、後から追いついてきた博士が補足を入れる。

 

二つの砂丘の谷間、砂丘の底とも言うべき場所に見える白い砂を指し

砂漠の川は上に砂が積もり外から見えなくなっていると。

 

「川の中の水が砂を通り蒸発する際、水の中の成分が砂に残るのでな」

 

かくして川の上に在る砂は様々なミネラルを纏い白くなる。

通常は砂に埋もれているが、風にさらわれ砂丘の底になる時に姿を見せる。

 

「湧いた」

「めっさ濁ってる」

「まあ砂の下じゃからのお」

 

そんな事を言いながら掘り進め、湧き出てきた泥水を容器に移す。

布を通し砂を濾し、濁った水を確保してから休息の場を整え始めた。

 

隣の谷間に手早く穴を掘り、駱駝から降ろした大き目の布を敷く。

谷間を吹く砂を防ぐように布を二つ折りにし、つっかえ棒を立て空間を確保する。

 

ごく単純な話として、砂漠の昼間は熱が在り過ぎて動くのは自殺行為に近い。

 

そのため軽く穴を掘り、表層に比べ温度変化の少ない砂中へと居を構え、

陽と砂を避けるように布を張り、時間をやり過ごす必要が在る。

 

「のだが、お主は大丈夫なのか」

 

一通りに準備を終えた後、影に潜り込みながら博士が板に問うた。

 

浮いている板は強まる直射日光をものともせず、座り込む少女は呑気に構える。

余談だが、駱駝は既に砂丘の影に横たわり休息の姿勢をとっている。

 

「防塵防水『ゆーぶい』カット機能付き空調完備」

「ゆーぶいが何かは知らんが大丈夫そうじゃな」

 

「よくわからないけどすごくうらやましいわー」

 

即席テントに死人の如く横たわっている美女が遺言を吐いた。

 

そして灼熱の中、ただひたすらに身体を休めると言う難度の高い苦行を経て、

天の灯も中天も過ぎて暫く、些かに気温も落ち着いた頃合に鍋が出た。

 

「飯だ」

「ご飯かー」

 

巨漢の端的な言葉に涼し気な少女が相槌を打つ。

 

「日暮れ前に出て夜半は星を見て進む、食事を今の内にじゃな」

 

簡単な説明をしながら取り置きの泥水の上澄みを鍋に入れる。

簡素な携帯竈の上で火にかけ、中央に穴の開いた中蓋をはめ込む。

 

「この中蓋に炒り麦を入れ乾酪を刻む」

 

そして油脂で固めた干し肉を放り込み、蓋をした。

 

「泥水でも蒸気にしてしまえば関係無いと言う寸法よ」

「海賊料理みたいな感じかなー」

 

確かに砂漠の鍋は一重で、二重底は海の方から伝わってきたのうと

言いながら顔を上げた料理人の動きが固まる。

 

視線の先、板の上の少女が硝子の容器で氷水を鳴らしていた。

口をつけたそれに注がれる視線に気付き、動きが止まる。

 

何とも言えない緊張感漂う静寂がそこに在った。

 

「水、出せる」

 

そっと静寂を破った一言に、指先をくるくると回せばそこに水球が生じふよりと漂う。

水の属性の魔法か、魔法?魔法かー、うん魔法だね、そんな益体も無いやり取り。

 

「料理を作る前に言うて欲しかったのう」

「ごめん、砂漠の料理に興味あったから」

 

疲れた声でいろいろと語るうちに鍋が湧く音がする。

 

かくして食事の前にと板から降りて氷水を配る水屋が居れば、

頬を緩める大男の横で半死人になっていた姫が不死人の如くと蘇生を果たす。

 

「しかし砂漠の真ん中で水術とは凄まじい話じゃが、どれくらい作れるのじゃ」

 

博士が鍋の蓋を開きながら聞けば、魔法使いは首を捻りながら黙考した。

 

「一晩頑張れば溜め池作れるぐらい?」

「無職じゃったな、今からお主は期待の新人じゃ」

 

言葉を受け拳の親指を立て賛意を示す剣士。

両手を広げ笑顔ですべてを物語る姫。

 

実に遣り甲斐のありそうなアットホームな職場である。

 

住所不定無職の就職が決まった瞬間であった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。