今日も今日とて末世感が超エキサイティンな60世紀。
「制式版には私の様に生前の記憶はサルベージされないんだっけ」
「ああ、これまでの記録で面倒な事にしかならないと結論が出ての」
「するとまあ、見た目通りの子供かー」
Q:アルフライラは人間的にちょっとアレなのに何で弟妹に慕われているんですか
A:他が酷過ぎるからです
アルフライラは再生局の爺と、新造された高位新人類の視察に向かっていた。
初期に1体、少し間を空けて3体、計4体の教育課程が一段落したとの連絡である。
そして少女は研究室に入りながら、努めて明るく口を開く。
「やー、私はアルフライラ、キミたちのおねーさんだー」
室内には褐色肌に黒髪の少年、赤、青、緑の髪色に白い肌の三人の少女が座っていた。
背筋を伸ばし椅子に腰かけ、無表情なまま前を向き、微動だにしない。
そして全員、目が死んでいた。
「………なんでや」
室内に居た長身にオールバックな開発局の婆も、付き合いの長い白髪の再生局爺も、
何に疑問に思っているのか理解できないとばかり、不思議そうな顔をしている。
「ああ、自己紹介をさせなければな」
そして考える内に思い付いた開発局婆が、4体の実験動物に対話を促した。
「わたしは1号素体、人類文化の継承をにんむとします」
「わたしは2号素体、熱力学の調整をにんむとします」
「わたしは3号素体、流体力学の調整をにんむとします」
「わたしは4号素体、自然科学の調整をにんむとします」
「教育課程のカリキュラムを確認させろおおおぉッ!」
絶叫であった。
Q:つまりアルフライラは良いおねーさんなんですね
A:いえ、これはこれで大概ヒドイです
資料片手に情操教育の必要性を強く訴える長女と、一応の納得を見せる開発婆。
死んだ目をした素体を放置して話を続けていた二人に、同行していた再生爺が声を掛けた。
「とりあえず、取り急ぎ名前が1号2号と言う所から直すべきでないかの」
言われて弟妹を放置していた事に気付いた長女が、きまり悪そうに振り向いて答えた。
「んじゃ王、あとは赤、青、緑で」
「おい待てコラ」
何がおかしいのかと、不思議そうな顔で首を捻る長女と婆。
こいつらに任せてはおけないと、再生局の爺は首後ろのコネクターを触り目を閉じる。
「一応は付けた名じゃからな、あとはアルフライラと同じ地域の古代語に変える感じで」
王の個体、マリク
赤の個体、アハマル
青の個体、アズラク
緑の個体、アフダル
「おお、それっぽい」
名付けられた4人は、不思議そうな顔で自分の名を口にする。
その様は何処か人間味を感じさせる、いまだ瞳のハイライトは消えたままではあったが
Q:再生局の爺はけっこうまともなんですか
A:そんなわけないじゃないですか
「そう言えば補給の時間だな」
「何でこの婆は単語ひとつに至るまで非人道的なのか」
「まあ開発局は、人間性が在ると壊れるからのう」
そして新型4名が座っている席の前に、栄養剤が入ったチューブが生成された。
「って、またんかーい」
反射的に止めた少女に、開発局婆はまだ何かあるのかと不満そうな顔。
アルフライラは振り向き同僚の再生局爺に確認をとる。
「食文化再生レポート出したよね、何で教育課程に回ってないのかな」
「各種資料が揃い最終結論が出るまで保留にしてあるぞ」
「その無駄な完璧主義やめろお」
とりあえず少女は引き攣り顔で鉄板を生成、脂を敷き熱した上で、
4人に謎の栄養ペーストを焼かせてみる、ついでに爺婆自分の分も。
塩化ナトリウムを振って、口にした少女は言った。
「安くてクソ不味いレバーに極限まで火を通したみたいな」
発言したアルフライラの眉は顰められて、目は座っている。
しかし他の6名は少しばかり反応が違った様であり。
「まだ数えるほどしか経験しておらんが、この料理と言う文化は素晴らしいのう」
「料理か、確かにこの文化は素晴らしいものだ」
「何かな、この60世紀なのに原始人に棍棒の使い方を教えている気分」
そして座っていた4人は、泣いていた。
涙と共に目に貼られていたハイライト消しの鱗がポロポロと零れていく。
「あごが、たのしい、これが、しょくじ」
「姉上様、わたしは、わたしはッ」
「おねーさん、すごいよわたしにもできるこれッ」
「ふしぎ、たのしい、すてき」
「やめて、謎ペースト焼いただけの代物でそこまで感動しないで、心が痛いから」
後の時代で神話に語られた内容に、黒の王は自らの名を授かった事を第一に記し、
青の女王は素晴らしき神の食に関して語り、他二名は親愛に付いて述べていた。
Q:何か暇そうですね
A:いえ、環境再生局はデスマーチ中です
新人類教育を完全に開発局に丸投げせざるを得ないほどに、再生局は忙殺の極である。
視察を終えて場を外したアルフライラと再生爺は、当然の如くに職場に戻り各種作業。
クリエイティブな仕事と言う物は大体は、後半は単純作業の積み重ねに成りがちである。
創造を発揮して決めた最終形を、現実にするためのひたすらに地味で長い作業。
地球環境再生などと言うクリエイティブの極みは、当然惑星1個分の環境設定
などと言う桁違いに膨大な単純作業がセットになっているわけであり、単純に過酷だ。
「ニチアサのかがやきをー、むぅねぇにぃひーめー」
疲れ果てた雰囲気のアルフライラが空いている研究室に潜り込み倒れていた。
自分に与えられた研究室だと、何か休む間も無く次々に仕事が飛び込んでくると。
「おれのからーだがおれのからーだが、萌ーえーてぇいーるぅ」
癒しが足りない、絶対的に足りない。
肉体の疲労などは脊髄にはっ付いているヘッドフォンもどきのせいで即座に解消されるが、
心の疲労はもう完全にどうにもならない、それはもはや魂の問題であるからだ。
「多々買えー、多々買えー、浪費の果てーに消ーえるとーもー」
特に理由も無く意識が、課金に輝く銀河を駆け巡り口から零れ落ちるほどの限界。
「そうだ、メカだ」
そして少女は、無駄に京都に向かいそうなほどに唐突な天啓を受けた。
入力端末を虚空から引きずり出し、各種計算が重ねられる。
「駄目だ、そもそも人型ロボットの時点で無理が在る」
素材を吟味し、動力を確保し、骨格を設定し、各種装甲や機能を盛り込む。
60世紀科学ならば一応は可能であったが、そのフォルムは希望からかけ離れていた。
昭和ロボを作りたいのに、外観が令和の実写版みたいに成ってしまうと。
「発想を変えよう、力場を発生させ装甲と言う名のハリボテを外に貼る」
ロボを造るのではなく1/1フィギュアをどうにかして動かそう、そんな方向性に切り替えた。
ある種、リムーバブルシステムの様な物かと頷きながら再計算に入る。
「何か面白そうな事やってんな」
そして熱中する内、兵器廠の管理を受け持っている小柄な爺に見つかった。
「兵器廠は暇なの」
「まあ暇だな、それなりに仕事は在るが」
新世界を考えるに、保管に高度な技術が必要な兵器を残すのは無理が在ると。
故に現在は兵器の選別と安全な廃棄が主な業務になっており、微妙に手隙である。
「開拓のための重機とかは作っておく予定だけどよ」
魔素が散布されて新しく作られた人類が生き延びれる世界に成ったとしても、
頭数を増やすためには霊素の循環待ちであり絶対数がどうしても足りない。
どうやってもある程度の知識は消え、技能は失われる。
「下手すりゃ中世あたりで文化が止まるかもな」
「一応は過去の遺産あるんだし高位新人類も居るし、それなりまでは余裕じゃない」
技術レベルが後退するにしても30世紀ぐらいまでで止まるんじゃないと言う少女に、
兵器廠爺は、まあたしかに一旦はそんな感じになるだろうがと言い、言葉を繋いだ。
「ぶっちゃけ崩壊するだろ、そんな歪な文明」
そしてまたはじめからやりなおすのが、自然ってヤツかもなと笑う。
そんな事より何造ってんだと、話題を打ち切り最初の興味に話を移動した。
「動く原寸大フィギュアー」
「人型ってまたピーキーな、いや、重機としては在りか」
そこに映されていたのはスーパーロボット、名はレッドバロン。
Q:どうして紅玉なんですか
A:プロジェクト名称決定は兵器廠爺だったのです
「ある、びぃ、るびいか、21世紀の言語で紅玉って意味だったよな」
「うーん、説明が面倒くさいと言うか説明できる気がしねえ」
少女は頭文字から細かく古代英語に関して説明するよりも、ぶん投げる方を選んだ。
古代と現代では発音が完全に違っており、そこらへんの説明が複雑怪奇に成るので。
「手が飛ぶってどうしてだよ、あと何だ突然表示されたこの古代文字」
まずはバロンパンチの映像にツッコミが入った。
「と言うか何だこりゃ、腕が開いてミサイルって指どうなってんだ」
「何かもう説明面倒だから観れ」
重なる疑問に少女はポイとデータを、惑星霊と呼ばれる霊素層からサルベージした
スーパーロボットレッドバロン全39話、現代語訳字幕付きを押し付ける。
爺視聴中。
アルフライラ連行されデスマーチ中。
帰還。
再度連行。
―― 紅博士は 機械じかけの明日を拒否なされた 自分の意思でな
そして
「ミサイル撃つのに無駄に頭が回転、いいよね」
「いい……」
そこに生まれたのは、言葉少なくも完全な相互理解。
要するに、馬鹿が増えていた。
かくして原寸大の動く、暴れる、光るレッドバロン人形は兵器廠の全面協力を受け、
気が付いたら玩具や重機どころか兵器に両足突っ込む恐ろしい代物に仕上がる。
サルベージした知識に由来しアイオーンと名付けられた空想特撮科学大魔號再現計画。
紅玉のコードネームで記録されたそれは、後の時代に一部の神話にて謳われたのだが。
それはまた別の話である。