砂と偽りのアルフライラ   作:しちご

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02 Prologue

 

神代の終焉に至る僅かに前の時代。

 

惑星の自転に隷属していた大気は季節の風を思い出し、

運ばれる雲はその厚みの軽重を刻一刻と変え続ける。

 

まれに見える雲の切れ間からは、光が階段と成り大地を照らし。

岩陰に身を隠すナハースにも、その光は届いていた。

 

満身の、創痍。

 

保有する玉座上で欠損した肉体を修復し、薄闇の中で天を仰ぐ。

 

腕が、動かない。

 

幾度かの戦火を経て、先だってヤルダバオトに吹き飛ばされた腕が戻らない。

肉体の修復はされてはいるが、霊的な欠損の修復には時間がかかる。

 

見つめ、動かない。

 

ただ静かに、周囲の魔素を取り込み霊素の循環を加速させ、霊魂の修復を待つ。

 

僅かにその身が、揺らぐ。

 

最後のアイオーン、アルフライラの遺産、ヤルダバオト。

その武装は須らく、魂魄を喰らう。

 

設計思想に込められた、敵対者への容赦の無い殺意がその心胆を凍えさせている。

 

歯を食い縛る。

 

折れぬ、曲がらぬ、決して頭を下げぬ。

 

「そうでないと、エミールは何のために」

 

涙など流れればよい、反吐を吐き捨てても構いはしない。

 

だがしかし、魂の奥底が叫び続けている。

 

「姉さんならば、こんなものに屈しはしないのでしょうね」

 

私には無理だと、疲労の滲む自嘲が口元に浮かんだ。

 

いつからかこの身を染めていた憤怒にも似た絶望は、

刃折れ矢の尽き果てた今ですら、絶えずこの魂を灼き続けている。

 

きっと、灰すら残さぬ終焉の果てに至るその時まで、焔が消える事は無い。

 

そして黒暗淵を睨み付ける視界に、ふと、おかしい物が在る事に気が付いた。

 

岩陰の隙間に、人の手に因る構造物。

 

「何かの、入り口か」

 

知らない、少なくとも新人類の物では無い。

 

かつての施設に於いても認識された事が無い、不明な代物。

恐らくは、未知の旧人類に由来する何らかの施設なのだろう。

 

「まだ、生きている」

 

試みに玉座に接続した端末から、入り口のロックを外し中に入った。

幾重にも連なった隔壁の向こう、地下に造られた巨大な空間。

 

視界が開ける。

 

「何とまあ、おぞましい」

 

隠す気の無い侮蔑が滲む声色、そして視線には嫌悪が溢れる。

 

そのままに接続した端末から記録を読み、漁る。

施設を封鎖した旧人類からの、未来へと残した文面を得る。

 

気が付けば表情には呆れの色が混ざり。

 

「あらあら、まあまあ」

 

読み進めるほどに、嘲りの色合いが増した声色の感を零れた。

 

「姉様姉様、見てますか、ここに在りますわよ」

 

愉しそうに、自らが時間の果てに吹き飛ばした姉に語り掛ける。

 

「私や貴女のそれなど足元にも及ばない、本物の悪意と言う物が」

 

施設を掌握する、様々な機材が立ち上がり、地下の暗闇に明かりが灯る。

 

「これが旧人類だと言うのなら、クソ爺どもは何と高潔であった事でしょうか」

 

空間に声を塗りつぶすかの如く音が響き、施設が起動した。

ナハースの動く方の腕は魔素を纏い、指先は忙しなく端末を操作している。

 

その聴覚に繰り返し響き続けていたのは、旧人類の遺言。

 

「願いですか、そうですね、叶えてあげましょう」

 

そして神は、旧世界の祈りを聞き届けた。

施設の機能を正しく使い、望みの通りの行いを果たす。

 

「くれてやる、この世界で飽食の魔神に相応しき名と身体を」

 

深き地の底に赤銅の宣言が響く。

 

「その魂に相応しき、悪霊の躯(オーク)を」

 

 

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