神代の終焉に至る僅かに前の時代。
惑星の自転に隷属していた大気は季節の風を思い出し、
運ばれる雲はその厚みの軽重を刻一刻と変え続ける。
まれに見える雲の切れ間からは、光が階段と成り大地を照らし。
岩陰に身を隠すナハースにも、その光は届いていた。
満身の、創痍。
保有する玉座上で欠損した肉体を修復し、薄闇の中で天を仰ぐ。
腕が、動かない。
幾度かの戦火を経て、先だってヤルダバオトに吹き飛ばされた腕が戻らない。
肉体の修復はされてはいるが、霊的な欠損の修復には時間がかかる。
見つめ、動かない。
ただ静かに、周囲の魔素を取り込み霊素の循環を加速させ、霊魂の修復を待つ。
僅かにその身が、揺らぐ。
最後のアイオーン、アルフライラの遺産、ヤルダバオト。
その武装は須らく、魂魄を喰らう。
設計思想に込められた、敵対者への容赦の無い殺意がその心胆を凍えさせている。
歯を食い縛る。
折れぬ、曲がらぬ、決して頭を下げぬ。
「そうでないと、エミールは何のために」
涙など流れればよい、反吐を吐き捨てても構いはしない。
だがしかし、魂の奥底が叫び続けている。
「姉さんならば、こんなものに屈しはしないのでしょうね」
私には無理だと、疲労の滲む自嘲が口元に浮かんだ。
いつからかこの身を染めていた憤怒にも似た絶望は、
刃折れ矢の尽き果てた今ですら、絶えずこの魂を灼き続けている。
きっと、灰すら残さぬ終焉の果てに至るその時まで、焔が消える事は無い。
そして黒暗淵を睨み付ける視界に、ふと、おかしい物が在る事に気が付いた。
岩陰の隙間に、人の手に因る構造物。
「何かの、入り口か」
知らない、少なくとも新人類の物では無い。
かつての施設に於いても認識された事が無い、不明な代物。
恐らくは、未知の旧人類に由来する何らかの施設なのだろう。
「まだ、生きている」
試みに玉座に接続した端末から、入り口のロックを外し中に入った。
幾重にも連なった隔壁の向こう、地下に造られた巨大な空間。
視界が開ける。
「何とまあ、おぞましい」
隠す気の無い侮蔑が滲む声色、そして視線には嫌悪が溢れる。
そのままに接続した端末から記録を読み、漁る。
施設を封鎖した旧人類からの、未来へと残した文面を得る。
気が付けば表情には呆れの色が混ざり。
「あらあら、まあまあ」
読み進めるほどに、嘲りの色合いが増した声色の感を零れた。
「姉様姉様、見てますか、ここに在りますわよ」
愉しそうに、自らが時間の果てに吹き飛ばした姉に語り掛ける。
「私や貴女のそれなど足元にも及ばない、本物の悪意と言う物が」
施設を掌握する、様々な機材が立ち上がり、地下の暗闇に明かりが灯る。
「これが旧人類だと言うのなら、クソ爺どもは何と高潔であった事でしょうか」
空間に声を塗りつぶすかの如く音が響き、施設が起動した。
ナハースの動く方の腕は魔素を纏い、指先は忙しなく端末を操作している。
その聴覚に繰り返し響き続けていたのは、旧人類の遺言。
「願いですか、そうですね、叶えてあげましょう」
そして神は、旧世界の祈りを聞き届けた。
施設の機能を正しく使い、望みの通りの行いを果たす。
「くれてやる、この世界で飽食の魔神に相応しき名と身体を」
深き地の底に赤銅の宣言が響く。
「その魂に相応しき、