目が醒めたら身体が軽くて健康で、肩回りに羽根でも生えたみたい。
きっと寝る前に乳酸菌飲料を摂取したからだね、腸内細菌を排出した後に
善玉菌をこれでもかと投入して就寝するのだから、そりゃ寝起きも良くなるよって。
ヤクルト1000が有名だけど効能には個人差が大きいから、幾つか試してみて
自分の身体に合った就寝前用乳酸菌飲料を見つけるのが健康への近道かな。
ああ、まるで夢の様。
夢だった。
そんな虚しい超古代営業語りが内心に響く板の上、砂の道。
剣士さんの荷物に板から生やした鉤爪を引っ掛けて、自動操縦モードに入れてから、
後は運ばれる死体の如く板の上でゴロゴロしていた転寝の朝方なわけで。
「そろそろ陽除けの時間帯が近付いてきたのう」
「おーいえーすぅはぁん」
博士の言を適当に返しつつ、後部に増設しておいた荷物置き場に包まれている、
各種荷物の山から仕舞っておいた布とつっかえ棒を引っ張り出す。
「ううむ、今更じゃが阿呆みたいに便利じゃ」
駱駝の様に、適宜様子を窺う必要が無いあたりが特にと言われる。
そのまま陽除けのテントを張っている一行を眺めながら、
生成した冠水瓶に大量の氷と乾燥檸檬を放り込んで、水で満たしておいた。
「姉様ー、水ー」
「はいはい、あまり飲み過ぎないようにね」
早速に水分が消耗されてしまい、空いた冠水瓶に水を足す。
獣神組は毛皮が在る分、熱に弱いのかもしれないとか適当な考察が頭を過ぎる。
青の女神ことアズラクが待ち受ける港町に近付く仕事は無いかと聞けば、
とっとと顔を出して追い返してこいと領主側から要望が入ったとかで。
まあ路銀と小遣い程度には成る依頼料で、砂漠に乗り出したのが先日。
ついでに港に向かう隊商も捕まえて、同行しつつ小遣い程度の護衛料も加算。
博士が、総計すればそう悪いものでは無いとか言っていた。
そして何故かアビヤドもついてくる、いやまあこの娘も姉妹だしおかしくはないか。
おまけの獣人組も後ろでテントを張りつつ、間に商人が駱駝を休ませている。
神殿が出来る頃には姉離れが出来る様になるからとか言っていたが、
本当にこの娘は大丈夫だろうか、今日も私の肋骨ヘシ折られたぞコラ。
まあそんなわけで、海岸線の砂漠の交易港を目指している次第。
「目的の港は地下に遺跡が在り、魚醤の村が隣接しとったのう」
陽除けのついでに、目的地について聞いてみればそんな言葉が在った。
「イルドラードもだけど、遺跡の上に住むの流行ってるのかな」
「と言うか、人が住める場所を探すとどうしても被ってしまうのじゃな」
「あと、開拓時に水回りの整備が楽に成りがちだ」
「古代も今も、水が無いと生きていけないのは変わらないからねー」
なので古代遺跡の上に造られた町や村は、あんまり珍しくないと言う。
大抵は地下に水没していて、大掛かりな整備には水術師が必須だとか。
「そう言えば港では、開拓団ではなく隊商宿場の方に宿をとるぞい」
今のうちに伝えるが、決して開拓団に近付くでないぞと念を押される。
「開拓者なのに開拓団をスルーするとはこれ如何に」
「港には弱った漕ぎ手を捨てていくし、脱走者も多い」
「だからガラ悪いのが多いのよ、砂漠には珍しく」
剣士と姫の談を受け、住み込むわけでも無いし接触は最小限にすると博士。
「どんどんと酷いのが吹き溜まっていく土地なのかな」
「いや、船が折々に漕ぎ手を拉致っていくからそこまで溜まりはしない」
聞いた話から考察を出せば、剣士さんが酷い補足を入れてきた。
「開拓団側に居ると、船乗りに誘拐されかねないのよねー」
男は船倉に放り込まれ、女は共有部屋に叩き込まれるらしい。
けどまあ最近は帆船が主流で、諸王国時代よりは幾らかマシになっているとか。
「青の神国あたりには、魔導船や神御座船など凄い船も多いがの」
それも結局は一部の話で、全体で見ればいまだに漕ぎ手の需要は高いと言う。
などと会話して暇を潰していれば、何か砂の向こうに変な物が見えた。
地表に霧、と言うよりは雲が這っている様な、と言うかよく見たら砂色っぽい。
「砂嵐じゃな」
「おお、あれが噂の」
途端に一行が騒がしくなる。
普段の面々は麻袋を取り出し頭から被り、商人は頭部を覆う布を顔まで下げる。
獣人組も顔を布で巻き、全員がつっかえ棒を外しテントの布を砂上に敷き詰める。
そして全員が、布の上に座り込んだ。
「過ぎるまで座り込むからの、アルも動くでないぞ」
「こんな感じかなー」
言われ素直に板を接地する。
見ればアビヤドが何か自分の玉座を見て固まっている。
まあ仕方なしと手招きして、板の上に引っ張り上げて確保。
ついでに獣神の玉座にも鉤爪でワイヤーを引っ掛けておく。
瞬間、砂に襲われた。
速い。
地平の向こうに在ったのに、もうここまで。
まあ冷静に考えて見ればそんなものか、砂が風に乗っているわけなのだから、
要は移動速度が風の速度そのままになるわけで、そりゃ速いわ。
板の障壁が摺り硝子に成った様に、砂色で朧な風景に変わる。
その中で人型っぽい色が、荷物っぽい物を抱え直したり布を抑えたり。
「意外と動けるのかなーッ」
「まあ慣れると普通に歩けるのーッ」
喧しい砂の音も、会話を遮ると言うほどの轟音では無い。
「けど良く見えないから逸れるのじゃーッ」
ああ、道理で全員座り込んだわけで。
とりあえず板を寄せると、3人が気が付き顔を寄せてくる。
砂色の障壁から生えた、麻袋に包まれた生首が3つ。
「おお、目に砂が入らない、これは良い」
「どうやっても入るものねー」
麻袋から博士と姫の声が響き、余った一つが静かに言った。
「飲食もできそうだな」
何か麻袋間に電撃が走ったような気がする。
「嵐が過ぎなければ、飲食はこのままで行うからのう」
「砂まみれのパンを、砂入りの水で流し込む事に成る」
聞いてみれば、凄い事を言われた。
そんな感じの生首との会話は暫く続き。
そのまま過ぎる気配の見えない砂嵐に、やがて一行は無理やりに仮眠をとる。
砂に埋もれながらの休息が終わる頃、陽は沈みようやくに風も収まり。
砂嵐一過の肌寒い夜の空気に、バサバサと音を立てて落ちる砂の塊。
吹き続けた砂は身体に積もり、水分を奪いヒトを型取りする様に固まっていた。
布を顔に撒いた商人などは、砂で作られた帽子を被った様な有様で、
軽く首を振れば頭の形そのままを写し取った砂塊が、ぼとりと足元に落ちる。
「まあ意外に、長い足止めでは無かったの」
砂から荷物を掘り出しながら運が良かったと笑い合う面々に、
人間の強靭さをしみじみと感じる砂の旅路だったとか。