砂と偽りのアルフライラ   作:しちご

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02-09 前夜の問答

 

晩夏も過ぎ、熱気に僅かな涼し気が踊る気配が見える黄昏の狭間。

 

隊商宿場の飯場で、平パンを汁に浸す板神の姿が在った。

塩漬け肉を野菜と共に数日煮込む北方の料理であり、商人が作った物だ。

 

板神や豚人、船団員が調理場に籠り料理を作っていた連日を受けて、

ご相伴に預かっていた他隊商の面子をかけた郷土料理返しである。

 

それに孤児院の少女が持ってきた売れ残り平パンを合わせた。

 

「いやー、あの娘は良い商人になるよきっと」

「大神を売れ残り処分に使うあの度胸は確かにのう」

 

同じ席に座る博士が受け答えし、剣士と姫はもそもそと食べている。

 

塩と脂で軽くとろみの在る汁に、和蘭芹(パセリ)薬用緋衣草(セージ)迷迭香(ローズマリー)立麝香草(タイム)

作り手が今回は羊肉を使ったが、故郷では豚肉を使うのが昔ながらだと語った。

 

「日毎に味の深みが増していったわねー」

「この手の料理は初日で食い尽くす事が多くて、知らなかったな」

 

食べ終わり、一息をついて麦酒の替えを頼んだ姫と剣士の感想。

 

やがて日が沈み、夜の色に染められた港町にちらほらと明かりが灯る。

飯場にも角灯がかけられ、光色は壁を強く染め、室内を柔らかく照らした。

 

帰還し報告をあげた豚人と獣人も部屋に移り、開拓者が静かに呑む宵の口。

 

「進捗はどんなものかのう」

 

博士が聞けば、現時点で港町の魔素を統べる大神が応える。

 

「そろそろ大詰めだね」

 

港町の薄い麦酒を傾けながら、そんな事を言う。

 

「ふむ、調査隊の方で何かわかったのかの」

「犯行の場所を確認し、経路を特定したみたいだけど」

 

縦横の水路の先に在った遺跡の別の入り口、そして何者かの遺体。

砕けた巨大な硝子筒と、さらに奥に続いているであろう開かない扉。

 

「汚れた硝子筒の破片がひとつ、そして風化して崩れ去ったそれと同じ物が複数」

 

それと、近くに食べ残しが転がっていたと続く。

 

「何か意味ありげじゃが、そこから何がわかるのじゃ」

「ナハースが現場まで来ていない事、今回の元凶は純血のオークで数は一人」

 

杯を傾けながら、調査の顛末が纏められた。

 

「あと、実行犯は美味しく頂かれて腹の中ってとこかな」

「食べ残しているあたり、あまり好みでは無かった様じゃな」

 

共犯は居ないのかと問いに、居るにしても実行犯では無いと返る。

それなりの貴重品、遺跡の扉を開くための鍵などが残されたままだったと。

 

「ナハースの発行できる権限で行ける場所まで開き、遺留品は置きっぱなし」

「ああ、本神が居ればそんな状況にはならんと言う事か」

 

たぶんもう少し先までは開くんじゃないかなと補足、本神が居ればと。

要は使い走りが外の扉を開け、そしてそこで終わった。

 

「割れていたのは何だろうか、オーク王の棺とでも名付けようか」

「ふむ、要はそこに純血のオークが眠っておったと」

 

会話を積み重ねる二人の有様に、残りの剣士と姫は無我の境地に至り、

何となく拝みながら内容を聞き流して杯を傾けている。

 

「そして封を解いたから、時間の流れに呑み込まれた」

「風化しておるのは、神話の時代に開いた過去の棺と言う事じゃな」

 

直面している問題には何の影響も無い話だねと、軽い声色。

だいたいの因果関係は到着時点で見当はついていたと続く。

 

「誰が、何のために、どのようにして、何故」

 

気の無い風、量の減った杯に氷を放り込み量増しながら言葉を繋げる。

 

「そんな疑問や可能性を潰していただけだし、調査と言っても」

 

大雑把に纏められた内容に、博士のみが首を捻り問いを積んだ。

 

「どれも大事そうな気がするのじゃが」

「何かが魔素を枯渇させている、ならばそれは何処に居るのか」

 

そう聞けば、理解の色を見せる。

 

「それがどんな名前で誰の企みか、などは問題解決に関わらぬ些事か」

「後に必要にはなるだろうけどねー」

 

そして麦酒のお代わりを飯場主に頼みながら、長女が軽く宣言した。

 

「そこらはアズラクが考える事だね」

「お主さては、妹に全部投げる気じゃな」

 

白い眼を向ける同僚に、私ただの通りすがりの水屋ですしとお道化る少女。

 

「残る問題は、いかにして姉の権限で船団の貴重食材を没収する口実を作るか」

「何か巻き込まれそうで聞きたくない企みが聞こえた気がするのう」

 

既に複数回の潜入を果たし、獲物の目星もつけていそうな山賊神の呟きは流される。

 

「何処に何が居るのかさえ把握できれば、問題はほぼ解決なわけじゃな」

「現時点で直面している大事は、それをどうやって除去するか、かな」

 

会話の内に、特に触れては無いが当然の事と流されている事柄が在る。

お代わりの麦酒を受け取っているアルフライラに、ハジャル博士は改めて尋ねた。

 

「純血のオークは、どこに居るのじゃ」

 

聞かれた少女は、麦酒に氷を放り込みながら気楽に言う。

 

「そこ」

 

軽く示した先は、海原。

 

「魔素が枯渇して回復しないって事は、要はずっと傍に居たって事だし」

「折々に海面を眺めていたのは、そのせいじゃったか」

 

答を聞いて暗闇の向こうへと視線を流しながら、聞き手たちは杯を傾ける。

 

「『()()』まで枯渇している以上、他の可能性は無い」

 

港の海底にずっと潜んでいたよと語る神に、剣士が抱いた疑問を問うた。

 

「何故、移動しないんだ」

 

語る通りならば、同じ場所にいつまでも留まる理由がわからないと。

魔素は枯渇し同胞も狩られ続け、それなのに何故居座っているのか。

 

そもそも何故、極上の餌をぶら下げても姿を見せないのか。

 

「純血は他と違ってたぶん、知能があるから」

 

感情の籠らない、淡々とした声色の返答が在る。

 

「離れたくなかったんじゃないかな、もう二度と受け入れられる事が無い世界でも」

 

遠くを見つめる瞳は、ただ暗闇の先へと向けられていた。

 

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