曇天に巨神の剣戟が響く。
黄金拵えの長剣を弾くは、白銀の双剣。
巨神ヤルダバオトに相対するは、捩じれた双角を持つ白銀の悪鬼。
偽典アイオーン、デミウルゴス。
幾度かもわからぬ剣閃の果てに、高く音が鳴り黄金の剣が弾き飛ばされた。
間を置かず踏み込む白銀に、空に舞い上がり距離を取る黄金。
追撃を空中に取り出した錫杖で受け、弾かれる様に互いの位置が離れる。
飛ばされるままに宙を舞い、軽やかに着地し錫杖を大地に突き立てる黄金巨神に、
周囲を巻き込み破壊を撒き散らしながら、制御される白銀巨神。
戦力に於いてこそ拮抗すれど、その性能差は歴然としていた。
機体の中でナハースは歯を食い縛る。
獣神機の出力、赤銅機の制御、白銀機の装甲、王神機の骨格。
全てを兼ね備えアイオーンに並ぶ戦力を得ても猶、ヤルダバオトに届かない。
機体の中でザハブは、空間に分割展開された妃の玉座に触れた。
黄金へと全てを託し、永遠に失われた姉である妃の大神を想う。
逡巡は僅か、最後の決戦は次なる段階に至る。
指先より光を引き、弓を引くかの如き様相で粒子を制御する黄金機。
双角に紫電が疾り、推進剤の形態を変えプラズマ化させ制御する白銀機。
巨大な球状のプラズマは轟音と共に大地を巻き込みながら発射され、
魔素に包まれた粒子の光線は、過たず眼前の錫杖を打ち抜いた。
曇天の中に輝く破壊の太陽を、錫杖が増幅し分裂した光線が受ける。
九閃の神弓に似た、旧世界にて太陽を射落としたとされる神話の再現が如く。
破壊は衝撃と化し大地を崩壊させ、遥か天に昇り曇天を祓う。
空は紅に染まっていた。
大気に浮遊している不純物が、黄昏の刻限に染まる空を鮮やかに彩っている。
かつて人類が活動していた頃よりも色鮮やかに、鮮血の如く。
音と破壊が収まれば、そこには互いに無骨な砲塔を突き付ける巨神たちが在る。
残照が場を照らし、白銀は赤銅に染まり、黄金は微塵も変わらない。
球体封印の砲弾。
この世界にて動く最後の2柱と成った大神が、互いを未来に送り合う結末。
そこに至る前の僅かな間に、少ない会話が在った。
「オークは絶滅していないのに、お兄様は彼らを見捨てる気なのかしら」
迫った未来を変えるための揺さぶりの様な言葉。
互いの後ろからは、少なくない数の低位、中位の新人類が見守っている。
「純血種は全て潰した、後はお前だけだオークの王」
「そこは女王と言って欲しいですわね、妹なのですから」
ころころと哂いながら、会話を続ける。
「血の濃い子供たちは、今もどこかで低位新人類を襲っていますわよ」
「そうだな、哀しいし腹立たしい、共に暮らした彼らの悲痛を思えば気が狂いそうだ」
疲れた様な声色で、絞り出す様に言葉が在った。
「だがまあ、お前さえ居なければ何とかなるだろう」
互いの砲塔は唸りを上げ、発動の時を待ち構えている。
「今は怨敵でしか無い彼らも、世代の果てにいつかは無害化される」
「それまでに、どれだけの涙が流されるのでしょうね」
サハブの無言に、ナハースはさらに言葉を積んだ。
「何より、樽のお酒に杯の泥水を混ぜたら、樽の泥水に成るものですのよ」
生き残ったそれは、果たして人類なのかと軽やかな声で問う。
それに対する答えは、不思議と落ち着いていた。
「あのひとなら、こう言うだろうな」
苦笑すら混じるほど、場違いに。
「ならば憶の樽を用意しようと」
場が静まる。
静寂の双神を、遠く見守る多数の人々が固唾を飲んで言葉を待った。
「泣き叫び、哀しみ、苦しみながら神話の果てに屍の山を積み上げよう」
黄金の神話の、最後を飾る詔が世界に響いた。
「そして人類は、いつか必ず
黄金の言葉に、赤銅は短く認めないとだけ返す。
「人は、必ず愚かに堕するわ」
「人類を、甘く見るな」
発動した弾丸は双神を巨神ごと、後ろの人類ごと巻き込んで遥か未来に送り、
物語が神話と化す時代まで、双極の球体と呼ばれ歴史を越えた。
範囲の外に在り、後に古代文明を築いた生き残りたちは膝を折り夕闇に祈る。
全ては永く記録に残し広く言い伝えられ、やがて変遷し現代に伝わる事に成る。
数多の解釈が在る神話の最後。
饕餮を討ち果たした黄金の物語が。