砂と偽りのアルフライラ   作:しちご

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01-03 狂える大神

 

陽が昇り、凍てついた砂の大地が熱に灼けはじめる。

 

日除けの布をかぶり、黙々と歩を進める3人と1枚が砂に影を落とす。

背後から響く轟音が聞こえないかの様に、ただひたすらに前を見続ける。

 

「アルちゃんアルちゃん」

 

息の上がった声色で、板に並ぶように歩みを緩めた姫の声。

 

「もしかしてその板、結構重い物でも置ける?」

 

かなり本気の目であった。

 

「……駱駝を乗せてもだいじょうぶー」

 

そして涙目で頼み込まれ、荷物を引き取り乗せていく浮遊板。

 

「もしやコヤツが居れば、駱駝が要らんのではないか」

 

ついでとばかりの野郎2名分、そして駱駝の上の重荷も引き受け

軽く成ったせいか一行の歩む速度が若干に上がった。

 

轟音は響き続け、後ろの方から砂丘が崩れた様な音がする。

 

「周期を読んで避けていたはずなのじゃがなあ」

 

小走りのままに一行がちらりと後ろ振り向けば、

そこには鉄色の四肢を引きずる様に動かす巨大な物体。

 

「何故に巨大『ロボット』」

「ろばっとが何かは知らんが、アレはアルコーンと呼ばれておる」

 

太い手足と不均衡な左右、どこか獣じみた造形の鉄の塊は

全身がひび割れ、幾らかの装甲版が欠落している有様。

 

「……あの不格好な鉄の塊が」

「神の威を示す鋼の神像じゃな」

 

足を引きずる様に ―― 壊れている

 

「銅の王のアイオーン、ヤルダバオトを模して造られた12体のアルコーン」

 

砂丘の谷間を小走りで抜ける。

 

「狂える獣の王が駆る7のアルコーン、カイナン・カミンじゃ」

 

砂が崩れる、轟音、砂が崩れる。

 

「なにさらしとんのざはぶー」

 

走る抜ける足元が揺れ始める。

 

「サフラよ、いつぞやの小神の様に斬り倒せんか」

「あんだけデカい鉄の塊はどうにもならん」

 

距離が詰まる。

 

「大きさと言うのは暴力じゃな」

 

刃金に反射した陽光が、足元の影をふらふらと不安定な物に変える。

 

「何か魔法的な秘策は」

「一応は姿隠しをかけ、認識し辛くさせておるのじゃがな」

 

息も絶え絶えな姫は板に倒れ込み、そのまま引き上げられる。

 

「んしょ、一直線にコッチに向かっているねー」

「完全に捕捉されている」

 

「まあ、あの高さからじゃ、どうやっても、丸見えよねー、うげふ」

 

砂が跳ねる、音に合わせて足元が揺れる。

 

「大きさと言うのは本当に暴力じゃなッ」

 

此処事に至っては逃げられぬと、足を止め相対する。

 

「ここはもう、期待の新人に希望をかけるしか残っておらんのじゃが」

「いかすぜー、ちなみに何も無かった場合は」

 

アルコーンが足を止める。

僅かな間隙に、それぞれの視線が交差した様な錯覚。

 

「全力で吹き飛ばされつつ砂の中に潜り、後は祈るぐらいか」

「つまり、一撃は耐えろと」

 

剣士は大剣を抜き払い、博士は周囲を光らせる。

板から起き上がった姫が荷物から弓矢を取り出した頃合。

 

「まあ、玩具には玩具だよね」

 

一言。

 

板の上の少女が天に向けその腕を振り上げる。

中空に半透明の陣形が満ち、そこに巨大な古代語が幾つか表示された。

 

叫ぶ。

 

カイナン・カミンが、機械で出来た歪な獣が。

歯車を擦切る様な、鉄の重なる不快な音声で、叫ぶ。

 

聞かず、言葉に応える様に、頭上に現れたのは二つの巨大な拳。

 

「……もしや」

 

博士の呟きは轟音に消える。

 

―― 紅玉の、アイオーン

 

鋼の如く硬質のそれは強く握り込まれ、その指先に至るまで

ただ一色、まるで太陽をその身に宿すが如く、紅い。

 

「でかッ」

 

真下に位置する板から見上げて、姫が口にすれど、少女は意にも介さず。

 

「『―― ぱーんち』」

 

中空の古代語を散らすかの様に空を飛んだそれは、過たずカイナン・カミンに激突した。

 

轟音。

 

吹き飛ばされた巨体が周囲の砂丘を崩し、崩落した砂が一帯を荒れ狂う。

 

倒れ込んだ機神は、そのままに壊れた手足を振り回し。

高く舞い上がった砂が世界を隠し、日を遮り一旦の闇をもたらす。

 

やがて何もかもの音が消え、あたりは一面の砂の世界。

谷間を走っていた一行は、もはやどこにも見当たらず。

 

遠くに逃げる駱駝の姿のみ。

 

やがてカイナン・カミンは立ち上がる。

 

足を引きずる様に、砂の上に跡を残しながら。

鳴き声の様な音を響かせ、砂の上を去って行った。

 

そして暫く、砂の一角が崩れ下から空間が姿を見せる。

 

「本当に便利じゃな、この板」

「自慢の装備さー」

 

浮上した空間の、布と障壁から砂が滑り落ちる。

 

「ひんやり涼しい、私もうここの子になる」

 

板の上に寝そべる姫の首筋を摘まみ、ポイと放り捨てる剣士。

 

「あにすんだーッ」

「まあ何だ」

 

陽は既に中天に在りて、灼熱が肌を刺す。

 

「何はともあれ、まずは日除けじゃな」

 

砂を払い、布を取り出し、二つ折りにして棒を立てる。

出来た隙間に潜り込む様に挟まっていく3人。

 

そんな有様を横目に、戻ってきた駱駝と相対しながら

空調完備な板の上で、誰ともなく少女が問い掛けた。

 

「泣き喚いていたのかなー」

 

聞きとがめた剣士が問う。

 

「何がだ」

「何でも無いー」

 

それだけの話。

 

「泣いていたのかな」

 

次いでの呟きは、誰にも聞かれず砂に消えた。

 

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