砂と偽りのアルフライラ   作:しちご

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Extra 黒姫漫遊行路

 

街道に高笑いが響く。

 

鉄で飾られた木製の輿に乗せられているのは、黒く瀟洒な玉座。

担いでいるのは幾人かの穴居人と黒子であり、担がれているのはエミーラである。

 

黒いドレスに身を包み、黒髪を二つに括る美しき大神を祀る輿。

 

文字通りの神輿が謎のテンションで街道を練り歩き、同行している赤毛と黒一色、

ジャルニートと二十面相はそっと距離を取り他人のふりをしている。

 

穴居人自治区での戦いの後、機械天使を失った二十面相一味は、

存在自体が微妙に国際問題なため、捕虜と言う名の同行者と化していた。

 

それと護衛と従者を兼ねて穴居人が数名、輿の後ろには荷駄が引かれている。

 

過去にも巷の神族が郎党と派手に練り歩く事例は意外に多く、

それ故にそこまで奇異の目を引く事も無く、何となくスルーされ続けた道中であった。

 

そしてやがて、路傍の黄色く虚ろな目をした農奴の視線を集めながら旅路は進み、

岩砂漠と平野の境に位置する、国境沿いの交易都市へと辿り着く。

 

通行の払いなどの諸々の手続きをする間、集団は城壁外にて腰を置いた。

 

数多の小国が纏まり成立した帝国には、領土に数多の境界線が引かれており、

その中でも特に重要なのは、現在直面している選帝王間の国境である。

 

群雄割拠していた小国たちは、いつしか有力な大国の元に纏まり最終的に、

4帝国を統べた統一皇帝アルマーダ1世の名の下、度量衡が制定された。

 

そして4帝国の主はそれぞれが選帝王と成り、今に至っている。

 

そんな手続きの合間に、正面の交易都市が何やら騒がしいと窺っていれば、

同じく留まっていた商人と赤毛の踊り子が、祭があるんですよと気さくに話しかける。

 

「って、あああッ、ウチの荷駄隊の資金調達に売り浴びせかました悪徳商人んんッ」

「あれ、もしやカイナン・カミンの件に関わった方で」

 

そして気付いたジャルニートが涙目で叫べば、飄々と答える砂漠の商人。

 

「まあ、あの時は国外勢力を追い出すのが国是でしたからね」

 

見るからに大神関連の様な怪しい集団を見て、アルフライラの手管の件を伏せ、

さりげなく責任を帝国に擦り付ける感じに受け答えを選択する邪神の手先。

 

はたしてそれが正解であったのか、帝国に侵入していた立場だった自分を思い出し

ぐぬぬと固まる神殿戦士の有様に、何とも言えない微妙な空気が醸し出される。

 

「それはさておき、祭ですの」

 

そしてとりあえず話題を戻し、危なげな気配から距離を取る黒の姫。

 

「領民を集めて、都市内で行われる食欲の祭典があるんですよ」

「食欲と言われましても、どんなものなのかしら」

 

主の言葉に集団が同じ疑問を持ち、商人へと視線を集める。

そして商人は開いた大門の奥を示し、領民への振る舞いの一種だと語った。

 

「地位の高い方が飲食物を用意し、早い者勝ちで飲み食いさせるんですよ」

「ああ、だから交易路を使う余所者を中に入れないのですね」

 

あくまでも領民への振る舞いであるのかと、エミーラが納得の色を見せる。

 

そして大門の方を伺えば、飴で作られた屋台やパンで作られた屋台が並び、

屋台から伸びる串の先には色とりどりの菓子が刺され、空に浮いている。

 

肉や野菜の焼ける匂いが漂い、門の前に待機し開始を待つ領民が騒いでいた。

 

「ベタベタ触った肉で作った、焼き肉の小屋を、道に直置き、ですの」

「毎年、食あたりで結構死人が出るらしいですよ」

 

そんな祭典前の有様を見て、少しい引いた声色の姫の大神。

 

そして領民に視線を移せば、あからさまに飢えている様相が見て取れて、

薄汚れ、手足の先が黒ずんでいる者、不安定にふらつき終には倒れる者。

 

顔を赤くした者たちの怒号が門の前に響き渡り、騒めきは大きくなる。

 

「関わり合いに、なりたくありませんわねえ」

「ですね、余所者はせいぜい待合の小売り相手で楽しむべきかと」

 

そして商人が振り向き示すのは、待合の場に立つ小市場。

 

食べる者、呑む者、軽く荷物の商品で露店市を開く交易商人たち。

 

何やら巡業の劇団が一幕を演じており、喝采と歓声が楽し気に市に響く。

何時の間にか穴居人や黒子たちも観客に混ざり、小銭を投げていた。

 

簡素な演壇には意外に豪華な大道具が置かれ、俳優が舞台を作る。

 

【挿絵表示】

 

「黄金の神話ですね、帝国でも結構人気の演目なんですよ」

「ええと、何でお父兄、もといマリクとザハブが骸骨なんですの」

 

思わず少し漏れた姫の親愛の呼び名に、商人は軽く視線だけを動かす。

 

「まあ、対立している国家が奉じる神話ですからねえ」

「黄金が善神っぽく、黒は敵役ですか」

 

まさに帝国から見た物語ですわねと、エミーラが静かに呟く。

 

「でもまあ良さげな劇団ですわね、せっかくですし観にいきましょうか」

 

そしてすぐに切り替え、明るく言えば商人は揉み手で追随した。

 

「お供しますよ、貴賓席の交渉は任せてください」

「いやそこの悪徳商人、何でお抱え面してしれっと混ざってんのッ」

 

ジャルニートが叫び、騒がしく劇団へと向かえば残されたのは黒子が1柱。

 

「黒子3号、どうした」

 

ぽつねんと残った部下の姿に気付き、二十面相が戻り声を掛けた。

 

「ここの人たち、私の故郷と同じです」

 

民衆の方から視線を動かさない黒布の下から、心細げな女性の声が返る。

 

「黄色い眼球、黒ずんだ手足、制御できない感情、おぼつかない足元」

「忘れろ、気付くな」

 

すぱこんと上司が頭を叩き、そのまま手を引き演劇へと連れて行く。

 

「お前はもう相喰みの邪神では無い、黒子3号だ」

 

言葉を受け、少し俯き繋がれた手へと顔を向ける黒子の女神。

自分にしか届かないほどの小声でずるいひとと呟き、連れられるままに任せる。

 

立ち去る後ろに、幾つもの刃物を括り付けた牛が運び込まれ歓声が上がった。

 

そして演劇の場も盛り上がり、寄席のお代の徴収係が客席を回る。

 

黄金髑髏に下半身を切り落とされた黒髑髏は鴟鵂の仮面をかぶり、

赤銅星人から与えられた円盤玉座に設置され復讐を誓い、一旦の幕。

 

幕に隠された舞台の上に大道具が交換され、最後の決戦の場が整えられている。

 

固唾を飲んで待ち構える黒姫と騎士と怪盗、穴居人と黒子たち。

 

やがて幕が開き、舞台の上で滔々と台詞を謳う演者たちの姿に、

観客は固まり即座、思わずとエミーラは絶叫していた。

 

【挿絵表示】

 

「何か突然クオリティが下がりましたわあああぁぁッ」

 

物凄く適当な舞台装置、適当に形だけ整えた雑な衣装。

金さえ貰えば後はどうでも良いと言わんばかりの行いである。

 

大神の絶叫に観衆から笑いが響き、劇団の座長がしてやったりと破顔する。

周囲の観客に混ざる古参客の言に曰く、定番のネタであるらしい。

 

本来なら観客席に混ざった劇団員が叫ぶところだったのだが、

諮らずも良いツッコミであったと、終劇後に礼を言われた姫の大神であった。

 

 

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