板から降ろされ、砂の上に引き倒された少女は叫ぶ間も無く、
頭側に回り込み背後から羽交い絞めにされ、別の者に手足を拘束される。
周囲に集った恰幅の良い巨体が目の前に臭い物を出し、思わずと顔を背けるも
それを許さじと頭を掴まれ、むりやりに正面に見せつけられる。
口に含まされる。
そう意図を感じ硬く閉じた口を横から太い指が開き、即座に汚物が口腔を凌辱する。
並び木製の器具が足の狭間に差し込まれ、意識の外から突然の激痛が襲った。
叫ぶ音も口内の異物に塞がれ、開いた喉に汚らしい物体が捩じ込まれ、嚥下行動。
抑え込まれながらも抵抗を続けていた手足から力が抜け、絶望に至る。
気が付けば汚水が口元から溢れ服に染みを作り、悪臭は喧騒の空間を漂い続けた。
やがて満足した凌辱者たちは、糸を引く粘液に汚れたそれを高らかに掲げる。
そして爽やかにやり遂げた笑みを輝かせながら、恰幅の良い婦人方は去って行った。
井戸端を目指し、べとつく液体に汚れた食器の洗浄を果たすために。
あとにはピクリとも動かない神の屍が1体。
「アルやー、大丈夫かのぉ」
「返事がない」
ただのしかばねのようだ。
普段の死体の様相とは違い、僅かの痙攣すら見せる事も無い完全なる無の境地。
サフラが普段通りに放り投げず、思わずと優しく板に置いたほどの惨状である。
即座に煙が吹くも微動だにしない、メンタルダメージが限界を突破していた様だ。
港湾よりイルドラードへの帰還の道は、行きとは違い少し大回りをする事に成った。
さほど外との交流を持たない一部地域の巡回、このオアシスもそのひとつである。
別に排他的なわけでもなく、ただ単に交通の便が極めて悪いのと、
オアシス周辺でだいたいの物が賄える閉じた生態系故の孤立した集落。
このオアシスにて特筆すべき事例として、乳幼児死亡率がやたらと低い事が在る。
革命的な何かが在るわけではなく、単に女子供に食料を集中させているだけであり、
集落の子供たちはそれこそ球体の如くに丸々と太り、今も近くに転がっている。
子供とは太い物、そんな価値観が横行している中にアルフライラを放り込んだ場合。
息を呑むほどの美貌に月に比類して語られるべき髪、白砂よりも輝く傷一つ無い肌。
巷の美の化身ですら恥じ入り身を隠すが如き美貌の持ち主が ―― 痩せている。
その様な非道が許されるはずが無い。
例え天網を避け人倫を逃れる事があろうとも、かくの如き非道は許されるはず無しと。
集落の婦人方は義憤に燃えた。
なので普段通りに子供に食事を与えるが如くの、先程の凌辱風景である。
少し離れた井戸端に、日に灼けて黒い三連星が互いの健闘を称え合っていた。
子供を太らせるための文化として、
例えば駱駝肉を大量の山羊の脂身で焼き揚げ、そのまま水と香草を咥えて煮込む。
灰汁を溶かし込みながら煮詰め、香草でも消えぬ悪臭が漂う頃になれば。
非発酵のパンを千切り放り込み、ギトギトに脂汁を吸わせてから、最後。
追い脂。
爆誕してしまったカロリーモンスターは、口に含めばただでは済まないと思わせるに足り、
一律に嫌がる子供を羽交い絞めにし、閉じた口を無理やり開かせ流し込む代物。
そして両足を木の棒で捩じり激痛を与え、その絶叫の勢いでむりやり嚥下させる。
集落に住む者は誰もが通って来た道である。
気配を消していたマルジャーンが、遠い目をして感想を述べる。
「3日ぐらい滞在したら、アルちゃんも少しは健康的にプックリしそうよね」
視線の先には、球体と化した子供たちが砂丘を転がり落ちて遊んでいた。
言われた創世神は全身に鳥肌を立てて拒否の構えをとろうとする物の、
身体と精神は心に反して僅かの動作すら行おうとしない。
「ううむ、僅かの動きすら無い」
板を注視していたハジャル博士が、嫌がる気配を察しはしたがな感想を零した。
その足元には、全身の毛を寝かせた白猫獣神がハイライトの消えた瞳で転がっている。
アルフライラほどでは無いが、それでも肉付きが悪いのが許されなかったらしい。
「アビヤド様、おいたわしや」
「いやお主、ご婦人方の方に声援をおくっておったよの」
長毛のサヤラーンが流れもしていない涙を拭う動作を見せれば、素直に博士が言う。
「アビヤド様は人との関りが少なかった大神ですからな、機会は活かしませんと」
そして獣神の忠実なる犬狼従者はぬけしゃあと言い放ちながら、
砂の上の燃え差しに置いて焼いた平パンを配り出した。
降ろされた鍋には同様の食材を煮込んだ物、香草と香菜を肉と煮込み、
塩で味を調えた普通の料理が入っており、それをパンに乗せる。
「食材は同じなのに、比率と工程でここまで変わるものなのじゃなあ」
「まあ、これでもまだ肥える飯とか呼ばれますがな」
もそもそと食べながら遠い目をして語り合う2名と、黙食の剣士たち。
実のところ倒れたままの邪神とその妹神、人の善意に抗う術を持たない。
善意、そう善意を疑う余地は欠片も無いのだ。
そうでなくては貴重な食材を他所者に無造作に振舞う様な事はあるまい。
例え羽交い絞めにして無理やり流し込む様な有様であろうとも。
掛け値無しの善意、それが時折にどのような惨状を齎すのか、
その様な意味では確かに、貴重な体験ではある。
食べ終わり息を吐くひと時に、軽く物事を片付け出立は早朝にしようかなどと、
誰ともなく苦笑交じりに提案して予定が定まった頃合に、起き上がる神々。
「ひどいめにあったー」
「にゃー」
平たい文字と鳴き声になるほどに、まだ回復しきっていない声色である。
何となく脂が滲みテカっている様な気がする大神姉妹は茶を受け取り、
どことなく残っている様な気がする汚水の後味を、薄めるが如き勢いで飲み干す。
そして人心地をつきマッタリとしている2柱に対して、森羅万象を魂に受け入れ、
天地と合一しその存在を自然に溶け込ませ隠形しているマルジャーンが語った。
「まあ明日の夜明けに出るとして、けど、哀しいけど今ってまだ夕方なのよね」
音が、響く。
敢えて目を逸らしていた現実が、アルフライラとアビヤドに迫りくる。
大地を揺るがす轟音が、砂煙を立て、浮いているかの様に不自然に驀進する。
日に灼けて黒い三連星が夕食を持ち、其は高速噴流もかくやの如き進撃の巨人。
器の中には脂肉脂野菜脂の椰子砂糖漬け、汁、煮込み、1工程ごとに莫大な量の
砂糖をぶちまけた、飽和水溶液って何でしたっけと言わんばかりな砂糖砂糖砂糖。
そこへ当然の如くに加えられるのは、追い砂糖。
「いやああああああぁぁぁぁッ」
「にゃああああああぁぁぁぁッ」
夕食を前にした姉妹の叫びは、夜の色を纏い始めた砂に吸いこまれて消えた。