砂と偽りのアルフライラ   作:しちご

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03-01 狼神の後継

 

旭日が砂丘の纏う薄闇を剥ぎ、紅が凍てついた砂漠を溶かしはじめる。

 

剣士は無言のまま荒縄を肩で牽き、砂丘を越えた。

後ろに牽かれる板の上には、微笑む様に安らかな顔の少女が横たわっており。

 

その目は、開かない。

 

「綺麗な顔してるわね」

「嘘みたいじゃろ、生きているんじゃぞ、それで」

 

「何か変な雰囲気に持っていこうとするな」

 

いつもの面々である。

 

季節も冬に近付けば、砂漠の夜は人を許さぬ極寒の地に変わる。

夜間は容易く氷点下を割り、それに応える様に昼の炎天は鳴りを潜めた。

 

とは言え南中は相変わらずの灼熱であり、陽除けが要るのには変わらない。

 

防寒具、外に住む者などは真冬の極寒でも毛布を増やす程度で済ませるが、

開拓者や隊商にはそこまでの雑さは無く、しっかりとしたテントや服装で対応していた。

 

服装、砂漠の衣服は一般に濃い色で裾の開いたものが好まれている。

 

陽光を集める濃い色の衣服は、単純な考えでは避けるべきものに思えるが、

熱砂と言う極限世界では少しばかり平野と扱いが異なる事に成る。

 

濃い色は、熱を集めると共に放射が強い事も特徴としてあげられる。

 

そのためやや大きめのだぶつく衣服で、裾を大きく開いた衣服を身に纏えば、

肉体と布の間の空間の空気が対流し、薄色よりも活発に換気が行われる。

 

意外に過ごし易い。

 

白いワンピースでボケラッとしている板神は、空調完備だから許されているのである。

そして冬が近づき寒さが身を苛む時期に至り、板神以外の面々は裾を絞った。

 

要は換気を発生させなければ、ただの暖かい衣服となる、それだけの話。

 

そのような備えと無縁のアルフライラは昨夜、相も変わらず不用心に板から降り、

軽く夜の凍てついた空気を呼吸して、激しく咳き込んだ。

 

温度差が呼吸器を直撃したらしい。

 

そしてその横隔膜から発生した衝撃は全身を駆け巡り、臓腑を激しく揺らし、

不整脈を発生させ、急激な血圧低下から寝込む事と成る。

 

臓腑が弱っていると、咳を数度繰り返しただけで死にかける事が往々にして在る。

 

何にせよこの創造神、呼吸するだけで死にかける境地に至っていた。

 

そして横たわる少女が安らかにしかばねる板を、黙々と運ぶサフラが居る。

隊商の護衛も兼ねているので、魔物が出たらそこらに放り出すのは言うまでも無い。

 

そうこうしている内に茜の空が蒼天へと変わり、砂地に礫が混ざり始める。

境界に僅かに残る砂丘を越えれば、地平の先にイルドラードの輝きが見えて。

 

何か、居る。

 

隊商宿場として囲われているイルドラードの城壁の前に、巨大な人型が2体。

遠目にわかるのは色合い位で、それぞれ全身を緑色と白黒に染めていた。

 

隊商の人間は首を捻り、開拓者組と獣神組は揃って嫌な予感が顔に混ざる。

 

黙々と進む中、サフラが板を引き寄せアルフライラの首根っこを引っ掴んだ。

 

上半身を起こされた少女の膝をハジャルが曲げ、マルジャーンが裾を整える。

血圧低下を緩和するため、足を心臓に近い高さに持っていく工夫である。

 

「いや何ですか、その無駄に息の合った姉さま活用法は」

「気が付けばできる様になっていたのう」

 

獣神の呆れに、遠い目をした博士が棒読み口調で応えた。

 

「で、何か心当たりは無いか」

「ぬおお、視界が七色で何も見えない」

 

貧血が視神経の働きを阻害していたらしい。

 

若干の時間、隊商は進みアルフライラの視界も戻り、青い顔のまま注視する。

緑色で単眼で両肩にそれぞれ盾と棘が付いていて、何か妙に細長い。

 

「あれはボルジャーノン、しかもククルスドアン形態」

「意味は分からぬが、やはり大神案件か」

 

―― この機械天使アリエルは、ガブリエルなどとはモノが違いますよッ

 

【挿絵表示】

 

次いで白黒巨神から二人分の声が届い頃合を、少女が回復した視界に捉えた。

 

「白黒の方は知らな、な、しらないなあぁ」

「知っておるな」

 

眉を顰めた顔が、発言の途中で何かに気付き目を逸らした様相を、

博士は逃がさず無情に断言する。

 

「姉さまが昔に造ってくれた、手乗り人形に似ていますね」

「あの大きさは、知らない」

 

―― ふ、何故ならこれこそは、千夜文書に記されし12の魔神(マシン)が筆頭ッ

 

疑問の答えが、礫砂漠に朗々と響き渡る。

 

「何か残っていたらしいぞ」

 

サフラが振り向けば、アルフライラを顔を背けて現実逃避していた。

 

そんな機械天使アリエルは、宣言と同時に巨岩を顔面に受けひしゃげ、倒される。

同時に砂と礫が連なる交易世界に立つ緑色から、少女の高笑いが響き渡った。

 

―― このボルジャーノンC型、投擲と格闘に関して並ぶ物など在りません事よッ

 

「わあ何かすごくききおぼえのある声」

「聞かなかった事にして良いですか」

 

棒読み大神姉妹が揃って顔を背けて遠い目をしている姿に、何かを察する周囲。

近付くにつれ、イルドラードの中からエミーラの名を称える叫びが届く様になる。

 

その頃になるとアルフライラも、作業用ハンドからの紅玉ハンドに換装を終えて。

 

極大電圧放電風(えれくとりっがー)反物質砲、準備ー」

「待って、姉さま待って」

 

妹にしがみ付かれて止められていた。

 

「いや、イルドラードまで消し飛びそうな真似はやめておこうな」

 

「建物の前で組み合っているから、丁度良く消し飛ばせそうだけど」

「そもそも消し飛ばすな」

 

面々の反応に、エミーラならこれぐらいじゃ死なないから大丈夫など軽い言葉を出し、

でも消し炭にはなりますよねと妹が返し、そっと目を逸らす旧世界の神型破壊兵器。

 

そこに、何か聞き覚えのある嘆きの声も遠く届く。

 

「あ、ジャルニートも居るのか、じゃあやめておこうか」

 

残念そうにハンドを作業用に戻す板の邪神。

そして残念そうな表情のまま、板から革手袋を取り出して妹に渡した。

 

荒くれ者の銀(ヴォルフガングズィルバー)

 

甲に白銀のプレートが縫い付けられた、殴るための代物。

 

「そ、それはもしやラマディ様の神器であったと伝えられる、神聖銀の拳では」

 

サヤラーンが驚愕の叫びを漏らし、キッタ・アビヤドは真面目な顔でそれを受け取る。

そのまま拳にはめ軽く目を瞑り、刹那で開き覚悟の言葉を口にした。

 

「征ってきます」

 

途端、弾丸の如く飛び出しだ獣神は礫を弾き散らしながら疾駆する。

加速しながら集めた魔素がその身を輝かせ、砂漠を貫く光の槍と化す。

 

「ふむ、あの手袋はどのような物なのじゃ」

「光る不壊手袋」

 

光景を眺めながら問うた博士の言葉に、簡単に返す創世神の一言。

光るだけ、と重ねて問うと、光るだけ、と重ねて返る。

 

「他に機能は」

「何も無いかな」

 

「機巧の類には」

「何の意味も無いかな」

 

遠く視界で二体の巨神が、獣神の輝く拳に殴り倒されていた。

 

 

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