この機械天使ラジエルがぐわー
この機械天使ジェレミエルぐあー
この機械天使ザドキエぬわー
「猫姉さまが居ると対応が楽ですわー」
南方砂漠も冬に入り、秋口に増えた隊商も減りつつある季節の境。
定期的に行われる黒の神国の襲撃を、物理で撃退する獣神の威名は砂漠に轟き。
気が付けば、顔部分に下っ端と描かれた黒子の捕虜が量産されていたイルドラード。
当初は緊迫していた開拓者たちも今ではもう慣れた物で、越冬のための毛布の調達、
またある者は近隣の村に冬季限定で移住、店主は冬場の糧食を買い込み仕舞い。
巨神が歪み折れ朽ちる横で日常が淡々と経過していく。
玉座の中で、カイナン・カミンとアルムピアエールが嘆く気配がした。
そして酒場を見渡せば、隅で酒瓶を抱え転がっているジャルニートが居る。
銅の神国からの連絡に、姉たちに全面的な協力をと記されていたらしい。
慰めつつ次々に酒を薦め有り金巻き上げた板娘が居た気もするが、無実である。
そんな疑惑の長女は、賽銭箱を挟んで件の商人と笑いあっていた。
独特の空気の漂う場を、踊り子は守銭奴空間と呼んで距離を取る。
「まあそんなわけで、使い道ありますかね」
「何かなあ、突然に割れたお米を渡されてもなのだよ」
先史に於いて、様々な利点がありながらも一部地域での主食に留まった米と違い、
麦が連作障害などのデメリットを抱えながらも世界を席捲したのには、
生育の容易さ、丁度良い雑さ、様々なそうなるべき要因があったからであり、
特にその運搬に関しては比べるのもおこがましいほどの差が存在していた。
具体的に言えば、米は馬や駱駝で運ぶと割れるのだ。
割れたまま運び続ければ、袋の中でこすれ合って最終的に粉になる。
先史にて、米俵などで粒が動かない様に締めあげて運ばれたのはそのせいである。
そして南部密林から運ばれてきた米が入った革袋を、帝国銅貨の賽銭と共に渡し、
作業用ハンドを厨房で酷使している最中の会話であった。
「まあ粉は水入れて捏ねて、今回は砂糖を入れて汁にしたけどこんな感じ」
酒と砂糖で作った汁に、米粉を捏ねた団子を入れた物を作業用ハンドが運んできた。
「良い感じに菓子ですね、ああ、汁物の具としてもいけるのか」
「割れただけの米はこんなかな」
次いで運ばれて来たのは、蒸しあがった長粒米。
「炒り麦とだいたい使い方が同じですね」
「しかしここに、賄い仕様の具の無い汁が存在する」
普段は駆け出しが、雑穀混じりのパン類などを浸すために使われている。
割れて小さくなった蒸し米が、骨を煮出し肉野菜の端切れが浮かぶ汁を吸い、
何やら良い感じに食欲を誘う複雑な香りの粥と化した。
「粥と言うよりは『洋風雑炊』、『出汁湯漬け』、雑な汁掛け飯と言う所かな」
「ほほう、これは宴明けなどに重宝しそうな」
そして板は米を割って食べやすくした粥を作る土地もあったなどと、補足をいれる。
「良さげだな、捨て値で良いなら買い込むぜその割れた米」
横から摘まんだ店主が声を掛ければ、明るく毎度と受け応える商人。
あっさりと取引が結ばれ、せっかくの米が捨て値とは災難だったなと言えば、
イルドラードへと割れた米を持ち込んだ商人は手を振りながら明るく答えた。
「仕入れた時点で割れていましたから」
要は、道中で買い叩いたゴミを再利用できないかと言う相談であった。
朗らかな守銭奴の笑顔に、輸送費と賽銭ぐらいは賄える利益が見て取れた。
「茶で軽く煮込むのも在りだな」
してやられたと頭を掻きながら店主が、雑炊を口に運びながら思索に入る。
「隣国を幾度か通りましたが、随分と聞いた話と違う有様でしたよ」
そして相対したままの、守銭奴な神と人へと渡された開拓者麦酒の杯に氷が入り、
氷のお代とばかりに、道中に見て来た物に関しての雑談がはじまる。
「ここの領主嫡男の話では、代替わりした王は中々の傑物だそうですが」
くぴくぴと麦酒の杯を傾けながら、アルフライラは静かに聞いていた。
「不義を憎み平和を尊び、文武に優れた傑物と名高い美丈夫だそうで」
「聞くだけなら立派な人みたいだねー」
結構いろんな所で同様の話を聞くから、信憑性は高そうだと語る。
「けど、領地は酷い有様なんですよ」
「単純に、実力が足りないんじゃないかな」
軽く問われた言葉に、商人は隣国の王の政策の美点を次々と挙げていく。
税制の改革、福祉の充実、私腹を肥やす貴族を抑え、巨悪を討ち果たす。
「汚職官吏とかも一掃されたそうなんですけどね」
「それらがやっていた仕事は誰がやるのかな」
可愛く首を傾げる美貌の神の前で、思い当たり顔を覆う話し手が居た。
「自分以外の義を認められない者は、人の上に立つべきじゃないね」
「すごく神っぽい発言ですね」
その内に弾圧と粛清で破滅にまっしぐらしそうと軽く言って、言葉を続ける。
「使われている分には、優秀な人だったんだろうね」
「まあ確かに、聞くからに悪徳商人と邪神は嫌悪しそうな方でしたか」
そして杯が空き、軽く考えた風情の神がこき使われている下っ端に声を掛けた。
「下っ端ども集合ー」
魂魄に書き込まれた制約に従い、命令に即座に従い列に並ぶ捕虜の神族。
一様に黒子衣装に身を包み、顔部分に掛かれた下っ端の文字がズラリと並ぶ。
そんな一列に並ぶ神奴隷に対し、次々と作業の様に無感動に魂消槍を刺した。
「解放するよ、黒の神国に帰れば制約は全部解ける様にしておいた」
発言だけでは本当か嘘かはわからない、そんなあやふやな状況でありながらも
下っ端黒子たちは涙を流さんばかりの歓喜を以て、互いに抱き合い喜びを表した。
もうこれで駱駝糞の乾燥作業をしなくて済むとか、切実な言葉も交わされる。
「ああ、ついでに伝言お願いできるかな、私からマリクに」
わからせられた神族が朗らかな気配のまま、何でしょうと明るく問い返した。
「貴様の首は柱に吊るされるのがお似合いだ」
酒場の空気が凍った。
じゃあよろしくと手を振る長女と、足が勝手にいぃと叫びながら外に出る神族の群れ。
言葉を聞いてしまったアビヤドとエミーラは固まっている。
止めるべきか、しかし止めに入ったら自分も無事では済まない気がする。
そっと7と10の妹たちは、長男の冥福を心の中で祈った。
「して、黒の神国に向かうのかの」
そんな中で常日頃と変わらぬ声色でハジャルが問えば、アルフライラは首を傾げた。
「行くと言った覚えは無いかな」
「ただの嫌がらせかい」
半目の博士の言葉に苦笑を零しながら、戯言の邪神は軽く言う。
「冬が明けたら、獣神神殿予定地の様子は見に行きたいな」
それぐらいだけど、どうかなと上目遣いで尋ねるいたいけな少女。
受けたハジャルは、大神の名の元に国を挙げて迎撃と歓迎の準備を整え、
綺麗にすっぽかされるであろう黒の大神に軽く同情の念を贈った。