砂と偽りのアルフライラ   作:しちご

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03-Ex 獣人の狂宴

 

炎天に動かない程度の知恵は在るのだなと、誰かが言った。

 

岩砂漠の中、白兎族の集落の外に陽除けの陣幕が張られ、

人間、獣人、豚人、様々なヒトがそこに集っている。

 

そしてそこからかなりの距離が在るにも関わらず、視認できる物が在る。

 

鉄の巨人。

 

円柱を組み合わせて人型にしたような、不格好な大質量。

 

近年に白兎族が受け入れた難民の開拓地が在った場所であり、

現在進行系の略奪から逃れた生き残りは、雑多と共に陣幕の中に居た。

 

「陽が陰れば、集落まで届くな」

 

拠点の中では水瓜が雑に割られ、兵士たちが貪る様に飲み干している。

 

砂漠には幾つかの水瓜が在り、その中でよく食べられるものは夏の物、

かつての極東にて西瓜とも呼ばれた縞模様の物がひとつ。

 

外観はそのままで小さくなった毒水瓜、腹を下し脱水で死に至る。

これは下剤として薬用に収穫され流通している。

 

そして今、兵士たちが口にしている模様の無い巨大な瓜。

 

先史にてカラハリ西瓜と呼ばれた代物であり、通常の西瓜が水分含有率90%で

水の甜瓜と呼ばれたのに対し、この瓜は97%と言う驚異の数値を叩き出している。

 

そして何よりも特筆すべき点は、極めて長期に渡る保存可能期間。

冷暗所に保管すれば軽く4年は耐え、常に確保され続けている砂漠の水瓶であった。

 

「黒猫は、今頃はイルドラードに着いた頃かねえ」

 

そして集落は今日陥ちる。

 

絶望的な状況に、もはや笑いしか出ないと兵士の長が零した。

 

「んで、元の軍に戻るなら今のうちだぜ」

 

そして集団の中で、高価な衣服を身に付けた青年に水を向けた。

隣国の者であり、早々に寝返って来た陪臣騎士である。

 

言われた彼は肩を竦め、気楽な口調で答えた。

 

「もう付き合ってられませんよ、あいつらには」

 

侵略側の内情を伝え、国境から此処までに点在する難民村に多少の食料を残し

遅延戦闘に努める様にと進言した、過去に隣国国王の側近のひとりでもあった若者。

 

「あいつも昔は、周りの言葉を聞く度量があったんですけどねえ」

 

若かりし王子は時折に特異な事を思い付き、周りの人間を巻き込み騒動を起こし、

幾度も折れ、様々な試行錯誤の末に結果を出してきたと語った。

 

それがいつのまにか、自信に満ち溢れた暴君と化していたと。

 

裏付けのわからない絶対の成功を確信しての行動の結果が、現状である。

あとまあ、最近は見るに堪えないほどに気持ち悪かったのでと続けた。

 

「気持ち悪いって、何か酷い評価だな」

「今回の侵攻の前に、何て言ったと思います」

 

まるで自分に責任は無いかの様な言動で、あくまでも不幸な巡り合わせで、

可哀想だが自分たちが生き延びるためには、獣人集落を接収せねばならないと。

 

まるで、被害者の自分が仕方なく行う許されるべき侵略だと言わんばかりに。

 

「しかし獣で良かった、人相手と違って罪悪感が無い」

 

隣国王の最後の言葉を語り終え、聞いた周囲の獣人は怒りよりも呆れの色が強い。

そして周りの連中も発言を諫めずに慰めたり、被害者ぶったりしていてと締めた。

 

「気持ち悪いな」

「気持ち悪いでしょう」

 

ちなみに私の言葉は届きませんでしたと、あっけらかんと笑いながら付け足した。

 

「んじゃ元騎士さんは、まあウチは人手不足だから後日にぜひ仕官して貰うとして」

「おや、就職先確保ですね」

 

そして次に、難民兵たちにどうだいと問い掛けた。

 

「まあ私らは元は隣国の者ですけどね」

「獣人さんたちに援助もらいまくっていますから、もう気分は猿獣人ですよ」

 

なら血を流すのも仕方のない事でしょうよと、一団が誰からともなく笑いあった。

 

「あとまあどうせ死ぬのなら、アレに混ざったりせず人として死にたいですね」

 

片耳が千切れ布を巻く自称猿獣人が、敵勢力を軽く示して付け足した。

 

「俺の耳は、今頃やつらの腹の中で糞に変わっているんでしょうなあ」

 

その言葉に、俺は指を喰われた、腕の肉がと次々に言葉が集まる。

 

「陥ちた村に少し飯を残しただけで、奪い合いで殺し合いしてますし」

「まあおかげで結構時間は稼げましたか」

 

そして難民兵たちは、かつての隣人の有様に遠い目をする。

 

「獣と呼べば、一緒にするなと怒るとこですかな」

 

ならまあ化物どもとでも言いますかねと、難民の纏め役が締めた。

 

「インテリな俺は知っている、ああいうのは餓鬼と言うのだぜ」

「飢えた鬼ですか、確かにそのままな有様ですな」

 

男爵の兵が軽く言えば、纏め役がしみじみと頷いて応える。

 

「んで、来たばっかの豚さんたちは流石に残る義理は無いだろ」

 

そして次に豚人たちに水を向ければ、老豚人は呵々と笑い否定した。

 

「我らは何処にも属せない外れ者でありましたからな」

 

全身に傷跡の残る老豚人は、遠く思い出す視線のままに言葉を紡ぐ。

 

「それをアルフライラ様が我らを人と認め、アビヤド様が受け入れてくださった」

 

そして敬愛する豚人の王から選ばれ、今ここに居るのだと。

 

「ならばここで死すのが、我らの務めでしょう」

「やべえ、何か俺たちが不真面目なんじゃないかと思えてきた」

 

陣幕の影に、誰からともなくの笑い声が響く。

 

「し、しかしそう言う貴方たちこそ、残る理由が、な、無いのでは」

 

笑い声の中で、水瓜を配っていた白兎がおっかなびっくりに話しかけた。

 

「おいおい、俺たちがここに居るのは帝国中央の肝入りだぜ」

 

問われた男爵兵の長は、肩を竦めて嘯く様に語る。

 

くたばったとしても、自分たちの命に対しては我らが領主様が

高い値段をつけて皇室から絞りとってくれるはずと。

 

「一族も安泰で、それに何よりだ」

 

そのまま振り向き、兵に向かって声を上げた。

 

「我ら帝国法術兵はッ」

「帝国最強ぉッ!」

 

打てば響き、問えば即にと言葉が返る。

 

「これで食ってんだ、逃げたりしたらお先真っ暗なのさ」

 

改めて兎に向かい、へらへらと笑いながら言う。

白兎族の若者は深く頭を下げ、両手に持つ水瓜を捧げ渡した。

 

「まあ大陸全獣人の庇護下の土地だ、飲食に苦労しないのは良いね」

 

そして水瓜を割りながら、良かった探しをする兵長。

 

「これで援軍も来てくれたら最高なんですがね」

「流石に高望みすぎるよなあ」

 

水瓜を啜り齧りながらの部下の言葉に、諦観の声色で応える長。

 

「通常なら半月、獣神のアルコーンで走り抜けても数日はかかるか」

 

せめて鉄巨人がどうにかなればなあと、少しばかり悔いの残る声で続ける。

 

「別勢力が何かの理由で駆け付けてくれるとか」

「また物語みたいな都合の良い話だな」

 

神話には時々あったでしょうと部下が言い、そういやあったわと長が笑う。

 

「やっぱ巨神の神話は男の子の憧れだよな、お前は何が好き」

 

俺はやはりヤルダバオトかなと続き、俺はデミウルゴスの方が、

カイナン・カミンこそ男の機神でしょう、乗ってるのアビちゃんだぞ。

 

次々に言葉が重なり、好き放題に軽く盛り上がる。

 

「んで、あんたは」

 

そして微笑ましく、少し寂しそうな元陪臣騎士に声を掛ける。

 

「私が好きなのは、やはり黄金神鳥との1戦ですかね」

 

気遣いに苦笑で返し、巷の吟遊に人気な神話の一説を挙げた。

その言葉に、ああわかるわかると推しを察し強く頷く兵団の長。

 

「あの1戦だけ異質だもんな、他は全部」

 

ごろろんと音が響いた。

 

誰もが口を噤み、視線を音に向ける。

 

【挿絵表示】

 

鉄巨人が動き始めていた。

 

気が付けば陽は中天を過ぎ、動ける程度に気温が落ち着いている。

巨人の後ろの拠点から、中身を貪り尽くした餓鬼たちも群れを成す。

 

「さて、愁嘆場か」

「祈ってみますか、せっかくの神の御膝元ですし」

 

元騎士の冗句に、例え忙しくても遺言ぐらいは聞いて貰えるかねと、軽い応え。

 

「俺たちはいつも通り最前、引きつけたら槍が追い越してくれ」

 

「巨人は避けて化物退治の方向ですな」

「数を減らせば減らすだけ獣神に報いれますか」

 

ここ数日に何度も繰り返した行動を、口に出して確認を重ねる。

 

「よし逝くか、ああもう、都合の良い奇跡よ起これ」

 

愚痴に応える様に軽く、風が吹いた。

 

突然に轟音が響き影が戦場を覆い、そして消える。

 

急な事に誰もが口を閉じ、反射的に天を見上げた。

 

そこには空を舞う、翼持つ者が在る。

 

「竜」

 

虚を突かれ訪れた静寂の中、誰かが見たままの光景を口にした。

 

戦場の上に、竜が舞う。

 

「俺たちは、いつから神話の住人になったんだ」

 

兵長の呆れを混ぜた声が零れ、元騎士は空を仰ぎ震えを堪える。

 

その竜は、光の翼を広げ鋼の色を持つ。

 

見る間に中空で身体を上げ、全身で空を討ち嵐を巻き起こす。

 

顎先が割れ頭が下がり、割れた逆鱗より現れた顔に兜の如く重なる。

流線の肩口は風に逆らい外に広がり、格納されていた両腕を守る。

 

加速に使われていた焔放つ竜鱗が閉じ、双脚と化し中空を踏んだ。

太陽の如き紅と、親しき黄金を差し色に使う鋼の巨神。

 

天空の覇者、騒嵐と歩む者。

 

【挿絵表示】

 

即ち第10のアルコーン ―― 魔神竜アルムピアエール

 

「嘘だあ」

 

兵長の、力無い呟き。

 

図らずもそれに応える様に高笑いが響いた。

 

「アルフライラお姉さまのお願いに応え、助勢に参りましたわあああああぁッ」

 

え、黒の姫神、本物と地表で騒ぎが続く。

 

気が付けば羽根が前後斜めに構えられ、空力で回転しながら巨神が落ちている。

 

「ばっとだあああぁいぶ、ですわッ!」

 

そして落下地点にあった鉄巨人の装甲を、その爪の如き爪先で引き裂いた。

そのままに踏み砕く様に着地すれば、大地に轟音が響き世界が揺れる。

 

「そこな豚さん、細かい説明はまかせましたわよッ」

 

突然に名指しされた豚獣人が驚愕する間もあらず、

とりあえず鉄人を叩き壊しますわと続ける、問答無用な大神機。

 

「いよし、話は後だ、俺たちは漏れた餓鬼どもを削るぞッ」

「お、おおともよッ」

 

困惑が飛び交う空気の中で、浮足立ちながらも兵が動く。

そして動き迫る鉄巨人の前で、アルムピアエールは拳を引き絞った。

 

「全弾装填、全弾射出ッ」

 

言葉に応え、肩口内部、六連装の輪転式弾倉が音を立てて回転。

爆音と共に薬莢が排出され続け、その度に腕に帯びる魔素の濃度が上がる。

 

そのまま双角の如き特徴的なナックルガードが下がり、拳を包み衝角と化す。

甲高い音を立て、紫電を纏いながら肘先から高速回転をはじめた。

 

「りぼるばああああぁッ」

 

穿孔の一撃は過たず鉄の巨人を捉え。

 

「くらあああああぁっしゅですわあああああぁッ!」

 

微塵に引き千切りながらそのままに殴り抜けた。

 

破片が大地に撒き散らされ、拳を振り抜いた大巨神のみが大地に残る。

 

「一撃必倒、やっぱりアルムピアエールはやればできる子ッ」

 

操神の言葉に、応えるが如き歓喜の竜吼が響く。

 

神話では神鳥形態のヤルダバオトにボコられていたトラウマ持ちであった。

とは言え機神の戦場の逸話で唯一の、空中戦の担い手でもある。

 

そして神が動きを止め、戦場の只中に静止する。

 

逆光に陰る機神の威が、足元の人の行いを見守っているかの様であった。

 




謹んで新年のお慶びを申し上げます(辰年)
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