砂と偽りのアルフライラ   作:しちご

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01-04 外に住む者

 

狂神の土地より離れ砂に幾らかの礫が混ざる様になった頃。

陽も中天を過ぎ、二つ折りの即席テントを畳み一行は歩みを進める。

 

日除けの布を身に纏う3人と、駱駝に繋がれて引きずられている板。

 

「そういえば、砂漠をズンズン進んでいるけど何か目印とかあるのかな」

「とりあえず今は、あのあたりの砂丘を目指しておるの」

 

迷い無き足取りに抱いた今更の疑問を少女が問えば、

特に気負う事も無くさらりと返答が在った。

 

「風で砂丘が変化し続けている様なんだけど」

「うむ、砂丘は風で消えるが、それでも数日は残るものじゃからな」

 

特に目的も無く進めば長距離を歩くうちに方角が歪んでいく。

なのでまずは進む方角を決め、その先に在る砂丘を目指すものだと。

 

「理屈はわかるけど、似た様な砂丘ばかりで見失いそうになるなー」

 

目を細めて遠くを見ながらの言葉に、先頭の剣士が言葉少なに答えた。

 

「慣れれば見分けがつく様になる」

 

「実感も無いし想像もつかない」

「いやー、1年ぐらいで結構わかる様になるものよ」

 

そんな益体も無い会話の合間、時折に刃物を振る音が混ざる。

 

口元の肥大した異様な風体のネズミ。

変形した角が数え切れないほどに生えたガゼル。

 

しばしば現れる異形を先頭の剣士が無言で斬り倒しながら、一行は進む。

 

「何か見るからに変な生き物が時折あらわれる様になってきたんだけど」

「うむ、魔素に侵され過ぎた動物、一般に魔物と言われるモノよ」

 

この手の異形を駆除するのも、辺境開拓者の職務と語る。

 

「球体の周りは狂神のおかげか、この手のは居らんかったからのう」

 

離れたからか餌を求めてうろつく逸れが出る様になったと。

 

「肉は放置するんだね」

「食えん事も無いが、砂漠の生き物は基本的に食えたものでないからのう」

 

臭みの強い猫科が多く、ネズミは結構イケるが病が怖いと。

 

駱駝の魔物とかなら大喜びで解体するのじゃが、などと嘯けば、

何故か駱駝がそっと距離を取ったように見えた。

 

「駱駝、美味しいの」

「脂の塊の瘤を薄切りにして、カリカリに焼き上げたらもう堪らんのう」

 

駱駝がさらに距離を取った。

 

「酒が進む」

「酒が進むー」

 

「何やら駄目な方向に意見が一致している」

 

他二名の駄目な大人っぷりまで見せつけられ、呆れ混じりの感想。

そんな時折に血生臭くも呑気な道中、視界の先に現れた者が在る。

 

幾頭かの、人を乗せた駱駝の一団。

 

皆、頭に布を巻き、土色の衣服を纏い、腰には湾曲した剣を挿している。

それが砂埃をあげながら、適度な速度で砂丘を下っていた。

 

外に住む者(バディヤ)か」

 

足を止めた剣士が言う。

 

「砂漠の遊牧民じゃな、一部は街に居るがまあ大多数は外じゃ」

 

問われる前に説明を始めるあたり、少女の扱いに慣れが見える。

 

「宿場の開拓者か、見た顔だな」

「調査の帰りじゃ」

 

「ああ、始原の球体か」

 

やがて互いが合流し、駱駝の上からの問いに気負いなく答える。

符丁の様な会話を幾らか繋いだ後、一団を纏めている人間の視線が少女に向いた。

 

「何と麗しき真珠か、叶うならば俺が鏨を入れたいものだが」

「ウチの娘を口説かない」

 

何と返すべきかと迷う対象を、後ろから姫が視線から守るかのように抱き寄せる。

さり気に板の上に乗り込んでいるあたり、涼む機会を逃さない狩人の本能が光っている。

 

そう聞き、どこか楽し気な雰囲気を纏う壮年は、苦笑して肩を竦めた。

 

「朝採りの駱駝の乳、銀1枚でどうだ」

「妥当なとこじゃな」

 

そのままに荷物から革袋を取り出し、博士の財布の中身と交換を果たす。

 

「さて、何処を目指している」

「あの砂丘じゃな」

 

「ここから宿場ならばひとつ右の砂丘だな、まあさほどの差では無いが」

「これは有難い」

 

礼を返せば一同が駱駝の首を外に向けた。

 

「ではな、無事の道中を」

「うむ、道中の無事を」

 

別れの言葉に、単語を入れ替えて返す。

 

そして別れ、互いの姿が砂丘に隠れ、見えなくなってから少女が感想を零した。

 

「微妙にボッタクリ」

「通行料込みじゃよ」

 

こうして開拓者と良い関係を築いておるから、何かと便宜が在ると。

 

「道中の魔物狩り、治安維持の他に村などの放牧も請け負って居るな」

「共存している同業他社って感じかー」

 

何もかも同じでは無いがのと、苦笑交じりに言葉を足す。

 

「身近なとこじゃと、普段使いの乾酪なども彼らから仕入れておる」

「ああ、あの暑い土地特有な塩すっぱの化身」

 

今は羊を使っているが、山羊や駱駝なども選べるなどと会話を繋げていれば、

気が付けば砂丘に至り、砂壁を登り遠景を臨む。

 

「見えてきた」

 

砂砂漠を抜け、砂丘の連なりも消える乾いた大地に礫が転がる礫砂漠。

その遠景、落ちて影を伸ばす陽に照らされ、黄金に輝く建造物がそこに在った。

 

【挿絵表示】

 

「アレが我らが拠点、黄金の宿場(サライ)、イルドラードよ」

「まあ、金色に輝いているのは日干し煉瓦だけどね」

 

礫砂漠の果てには岩山が連なり、岩砂漠との境が地平に見える。

即ち砂漠の果て、おそらくはその向こうに緑が広がっているのだろう。

 

「さて、期待の新人を紹介するにしても ――」

 

言葉が途中で切られ、三人の視線が板に集中する。

 

「目立つの」

「目立たない要素が無いわね」

「上から下まで隙が無い」

 

なんせ浮いている。

 

「お、降りた方が良いかなー」

 

引き気味の問いに、少しばかり考えた博士が苦渋の決断の如く口を開いた。

 

「逆じゃ、全力で目立て」

「何故に」

 

「うかつに引くと絡まれる」

「周りを引かせている内にウチの子だと既成事実を作るわよ」

 

水使い放題荷物載せ放題なんて生活を知ったらもう手放せないと、

周囲や厄ネタを完全無視で囲い込み全力な一行であった。

 

 

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