前史の何もかもが終わろうとしている神代の初期。
老人は、微睡の中で思い出していた。
今はもう球体の中に在り、探査データの隠蔽で死んだと思わせている少女の事を。
「反省会をはじめる」
その時も、何時もの様に唐突に議題が述べられた。
ロボ部と書かれた札が貼られている研究室、爺と少女が机に向かい合っている。
間に浮かんでいる映像は、少し太ましい人型ロボ。
「何故、魔神竜バリオンは打ち切られてしまったのか」
「ストーリーラインが腐ってたからじゃね」
魔神竜バリオン、昭和末期に少年ジャンプで11週連載されたロボット物である。
「まあ結局はそういう事なんだけど、そこに至るまでの諸要素があるよねと」
「ああ、スーパーロボットなのに不必要な感じにリアルロボットの影響があったりとかか」
兵器廠爺の発言に、リアルロボット全盛だったからねえとしみじみと頷くアルフライラ。
「そして生まれる最大の問題点、バリオン弱すぎ問題」
「無敵のスーパーロボットなのに、徹頭徹尾ひたすら苦戦だったからなあ」
「初戦ぐらいは無双状態で最強無敵って感じを出さないと悪手だよね」
「頭部破壊されて、主人公にバリオンが負けるのかと驚愕されてもな」
「驚愕する主人公に全く共感できない」
今までひたすらボコられていたんだから、最終的にそうなるのも当然だろうと。
「まあストーリーは良いや、4千年前だから今更過ぎる」
時代を越えた名作も迷作も、とうに冥作と化して失われた歴史の果て。
そんな事よりもロボだロボと、話を本題に戻す部活動がはじまった。
「作るにしてもだ」
そして兵器廠爺が、複数の機体を表示して根本的な問題を提起した。
「連載中どころか、単行本でもデザイン変わっているんだがどれで逝くんだ」
「うわあい」
連載前期、連載後期、単行本描きおろしで別物になっている主役機であった。
「しかし様々な過渡期だったせいもあって、バリオンのデザインって微妙」
「顔は美形じゃね」
昭和末期とはつまりムーバブルフレームと言う概念が出来たばかり、
ロボ界隈ではデザインに関して様々な試行錯誤が行われていた時期である。
「美形だけど首から上がサンライズ系で、下がダイナミック系」
「改めて見ると、凄まじく合ってないな」
そしてダイナミックプロに脳を焼かれた世代の描くロボによくあるパターン。
雨後の筍の如く生えては消えた、顔だけ流行りのロボ作品の典型であった。
「そして、関係無いけど作中のデザインが似たり寄ったり」
「僚機と並ばれると、一瞬どれがバリオンかわからなくなるよな」
勢力ごとにデザインのテーマを設定するスーパーロボット畑ではなく、
同系統の機体を敵味方関係無く使うリアルロボット畑の考え方である。
スーパーロボットでこれをやると本気で画面が駄目になる。
「なのでまず、肩をでかくして顔回りのでっぱりを伸ばします」
「単行本版準拠か」
画面の中から単行本書下ろし版を選び、そこからさらに手を加える。
「横見えないし顔が振り向けなくなってないか、これ」
「各所を無駄に細く伸ばして、そしてとにかく肩をデカくする時代だったんだ」
強化エピソードが入るとさらに肩が大きくなる、そんな流行である。
「んで胴体部はサンライズ系に合わせて絞る」
言いながら平成以降のサンライズ作品をテーマに二次創作まで拾って、
画面の機体の全体のフォルムが顔に合わせて修正されていった。
「このでびーるな羽根、微妙じゃね」
「ダイナミックプロの影響受けまくりって感じだなあ」
作業中に気付いた事を爺が言えば、ええいそこもサンライズ化だと板が直す。
「ガンダムシリーズから適当に引っ張ろう、光の羽根とか出す感じで」
「この際元ネタはどうでもいいか、羽根っぽいの付けてそれらしく光らせよう」
あからさまに機械と言った感じに羽根を背負わせ、無駄に光の翼が発生する。
背中側はもうそれで良いかと、後背を見ながら微調整をしてれば。
「竜剣フォルシオンは無かった事に」
「引き抜いた後の尻尾とか無駄に気になるしな」
尻尾に仕込まれ、引き抜いて使うバリオンの主武装な片刃剣である。
「何より、仕込みが在ると尻尾を使ったアクションに使いにくい」
修正の内、バリオン光幻斬の封印が決まった。
「と言うか頭部が竜の頭の意匠で、爪と尻尾と羽根が在る」
そして全体を纏めて、改めてアルフライラが想到する。
「連載が続いていたら変形しそうな感じだな」
「変形させよう」
即決である。
「じゃあこう、肩のあたりを可変にして前から胴体に」
「足回りは意匠が変形しノズルに成る感じでいいな」
このあたりの設計が後にヤルダバオトの神鳥形態、足回りに流用されている。
「不壊装甲に頼らず空力も考えておこうか」
「航空機だと距離食うからな、施設の範囲外で消耗したら致命傷過ぎる」
「どうしても駄目な部分は、魔素のフィールドで覆う感じで」
「まあ結構いい加減でも良いか」
施設中枢の割り当てを無駄遣いし、シミュレータで魔神竜が空を飛び、
そしてふたりが見ている前で段々と高度が落ちて機体が着地した。
「通常の動力だと重いかな」
骨格を抜いて軽量化は不壊装甲が前提の設計である。
「専用ジェネレータでも組んでおくか」
「じゃあせっかくだし名称はバリオンシステムで」
ああでもないこうでもないと、組み込みつつもあと1歩足りない。
「発想を変えよう、惑星霊に対して斥力を発生させる」
そして脳が煮詰まって、何か変な事を言い出す発狂少女。
「惑星上なら、ある程度の高度まで浮き上がっているのが通常状態なわけだな」
「これなら横方向の加減速だけ考えれば良い」
「揚力を得ても重量に負けるから、基準の高度まで落ちていくのか」
画面の中に映し出される、斥力との釣り合いがとれる高度をぽよんぽよんと
水切りの石の様に跳ねながら前へと進んでいく、魔神竜の微妙な雄姿。
それはそれとして加速は優秀、音の壁を破り大気を荒らしまくる巨大ロボ。
空中変形シークエンスに至っては全てが一か所に叩き込まれ、実に荒々しく。
これぞまさに天空の覇者、騒嵐と歩む者、その名は魔神竜 ――
「これもう、バリオンじゃなくね」
そんな画面を見ていた少女が、身も蓋も無い感想を出す。
神竜のアイオーンの
そして目が醒める。
夢かと、作業途中の画面の前で転寝をしていた老人が苦笑した。
映し出されているのはアルコーンの骨格、特に軽量化を果たした1機。
航空輸送を主眼に置いたそれに対し、ふと悪戯心が起きた。
設計に使用する予定の技術では、どうやってもアイオーンには遠く及ばない。
しかし戦時機動にそこまでの注力をしなければ、そう、外側ぐらいは作れる。
「魔素の操作と斥力の維持、専用ジェネレータを積めば行けるか」
思うに、使い手は実物大ブンドドに興味を持たない残念な高位素体ではあるが、
まあアレに懐いていたし、関わる機会も多かったからと少しだけ気合を入れた。
流石に肩は小さく修正しようと。
などと細部の調整も終え、中枢が魔素を加工し機体を形作る様を眺め。
「魔素の操作は残り2機にも入れておくか、それで30世紀重機が全12体」
終わりの時が近付くのを感じながら、笑いながら完成した機体の名を登録する。
「アルムピアエール」
遥か新しき空を征く、第10のアルコーンはこうして完成した。