砂と偽りのアルフライラ   作:しちご

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03-09 まだらの山

 

旭光が脂身の様に積層した岩肌を照らす。

 

【挿絵表示】

 

連なる岩山は進む内にやがて風雪に削られた岩の大地へと変わり、

散見する緑は世代を重ね、土と化して方々に溜まっていた。

 

「南部開拓も進んでいますし、百年もすれば草原になるでしょう」

 

サヤラーンが言う。

 

魔素循環の正常化が果たされ、今まさに新しい生命が芽吹いている土地だと。

 

そして時折にカイナン・カミンが岩などを動かし道を整え、

その後を馬獣人に牽かれた幾台かの馬車と板が追走する。

 

そして岩中のオアシスを囲む様に生まれた狭間の土地に、畑と建物が見えた。

 

煮炊きの煙と兵団のテントが並ぶ、白兎と家猫の集落。

 

カイナン・カミンの巨体に気が付いた故か、俄かの活気が一団に伝わって来る。

 

「お姉さまああああぁぁッ」

 

巨神に集まる獣人たちを脇に、むくつけき半裸の男たちの担ぐ神輿に乗った

黒い玉座と姫の大神が何とも言い難い速度で驀進してきて。

 

板の上に生成されている巨大な毛玉の前に急停止。

 

慣性の法則に従い投げ出されたエミーラが障壁にべたんと張り付き、落ちる。

そのまま板の障壁をぺたぺたと軽く叩くも、微動だにしない営業終了障壁。

 

その毛玉山の下から、薄金の髪の端が少しだけはみ出す様に覗いていた。

 

「お姉さまああああぁぁッ」

 

言葉こそ同じだが、声色に込められた感情は随分と違っている。

 

如何にしてかの如き有様に至ったのか、少し前の時点から観察してみよう。

 

ふゆふゆと動く板の上に、黒い毛玉にもたれかかる少女は板。

集落に近付くにつれ、通りすがる家猫族が作業用ハンドに捕獲される。

 

かくして三毛猫が上に乗せられた。

 

障壁を通過する時に瞬間的に煮沸消毒され、猫が何とも言えない顔に成る。

侵入を許可されていない蚤や虱は障壁に弾かれ、地面に落ちる。

 

しばし驚いた顔をしていた家猫は、やがて空調が効いた板上の空間に気が付き、

深く考えない感じのまったり顔で、そのまま少女の上で丸くなった。

 

その次に雉猫が上に乗せられた。

 

やはり同じ様な反応と同じ様な行動で、同じ様に丸くなる。

 

鉢割れが上に乗せられた。

 

丸くなる。

 

三毛猫が上に乗せられた。

雉虎が上に乗せられた。

 

白猫が、鯖が、茶虎が、グレーが、飛び三毛が、茶白が、パステル三毛が。

 

気が付けば聳え立つ毛玉の山である。

 

創世の女神は、妹の侵入は拒むが猫を拒む障壁を持たないらしい。

 

しかし家猫族は饅頭の様な毛玉でこそあるが、巨大である。

言わば人間サイズの猫科であり、その肉体は筋肉の塊であった。

 

つまり、重い。

 

隙間から見えるアルフライラだった物は既に微動だにしない。

 

「お姉さまああああぁぁッ」

 

さらに違う声色の叫びの横で、マルジャーンの耳が隙間から漏れる音を拾った。

そっと障壁に耳を近付けて、埋もれている少女の様子を窺う。

 

か細い、声が聞こえた。

 

―― 願わくば 毛皮の下にて 春死なん

 そのもふもふの もふもふもふもふ 千夜法師

 

聞き終え、軽く溜息を吐いては青空を見上げ、涙を堪える仕草で語る開拓の姫。

 

「大往生だったわね」

「いやそこで即座に諦めないでくださいましッ」

 

そして気が付けば、猫山盛りの反対側でぺしぺしと障壁を叩く白い獣神。

 

「1割ですか、私が1割猫だから混ぜてもらえないのですかあああぁッ」

 

大神2柱の攻撃にも微動だにしない板は猫を守り続け、失意の体前屈な妹2名、

幾らかの時が過ぎ、猫が欠伸を幾度か繰り返したあたりで気を取り直した。

 

ふと、気が付いた風情でエミーラが疲労の滲む声で問う。

 

「と言いますか、家猫族は猫ではなく獣人ですわよね」

 

人である。

 

しかも全裸だ。

 

それは全身の触毛に触れるため服を着たがらないと言う、

全身毛玉型獣人によくある生態ではあるのだが。

 

問いかけに改め、冷静に板を見直す大神と人間。

 

鍛え抜かれた全裸の筋肉男たちの下敷きにされている可憐な美少女の図。

 

「にゃああああぁぁーッ」

「お姉さまが破廉恥ですわあああぁッ」

 

「いや落ち着きなさい、ほらそこを見て」

 

マルジャーンが毛玉を指し示し、周囲の視線が集まった。

 

股の間に、ふさふさとした毛玉に覆われた球体がふたつ付いている。

そしてよく見れば、付いていない家猫族も結構混ざっている。

 

「雌も混ざっているから大丈夫よ」

「よりいっそう邪神の儀式感が強まりましたわよッ」

 

もはや奢灞都であった。

 

そんな混乱の巷を脇に、遠い目をしたサフラが板に寄り沿った。

そして猫の首を掴み、ぽいぽいと放り捨てる。

 

砂漠を踏破した黒猫まで放り捨てられ、板の上がきれいに掃除された。

 

残るのは、急な猫ロス状態に倒れ伏したまま手だけを伸ばす少女。

嘆きと切望を滲ませた女神の哀れな姿に、しかし猫は一顧だににしない。

 

哀しみに暮れたアルフライラは、しみじみとした声色で呟いた。

 

「むしろそれでこそ猫だね」

 

いろいろな意味で手遅れである。

 

サフラは次いでに獣神の首根っこを掴み、空いた手に姫神を抱え、

兵団に合流していた男爵たち一行へと足を向ける不敬極まる姿を見せる。

 

雑な扱いに、フレーメン反応でも起こしたかの様な変顔で運ばれる姉妹と、

その後ろにふゆふゆと憑いていく板に、いつもの面々と無神の神輿。

 

「しかしアルや、どうやら人の戦の様じゃが攻められておるのは獣神」

 

どうすると博士が聞けば、こてんと可愛らしく首を傾げながら少女は口を開いた。

 

「苦と惨と悲を絡め生まれて来た事を後悔させながら嬲り殺すべきかな」

 

猫ロス状態だと女神は暴走モードに入り邪神覚醒するらしい。

 

そして止める間もなく、突然に現れた黒子衆が板を掴み移動させる。

 

「よし、この邪神は厨屋に持っていけ」

「創世の邪神は竈前に封印しておきますね」

 

押し込み移動させる集団の中で、黒子5号が軽く振り向いて言葉を付け足した。

 

「あ、私らはとりあえず不参加で様子見です」

 

滞在費用分の雑用程度は行いますが、などと言いながら板を押していく。

 

かくして黒子たちに、的確に封印処理される神型大量破壊兵器。

なーぜーとか細く嘆きの声を響かせながら、遠ざかる姿を眺める一同。

 

追随しようと暴れる大神2柱を、お前らはこっちだと持ち運びを止めないサフラ。

そんな姉妹の別れの場を後にして、軽く嘆息したハジャルが感を零した。

 

「さて、相手が人の領域で止まってくれるのならばアルも楽なのじゃろうが」

 

調理場に封印したままで済んで欲しいのうと、誰ともない声が集落に消えた。

 

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